30

それから3日後のことだった。
レグルスに会うことも出来ずにスピカはこの3日間を過ごしてしまっていた。レグルスに謝りたい気持ちがあるのに、確かめたいことがあるのに・・・・それが出来ないでいた。
もちろん執務中だと分かっていても「遊びに来てもいい」と言われていたスピカだったから、謁見の間に行ったりもした。だがたまたまその時仕事中だったりして結局会えずじまいだったのだ。
夕食の大食堂でも会えるチャンスを窺っていたのだが、大食堂ではむしろレグルスがスピカを発見してお喋りをして・・・・という感じだったから、スピカ自身がレグルスを探してみてもどこにもいなかったりして・・・・・スピカはレグルスに否定されているのではないかと思うと、胸が痛くて仕方なかった。
あんなに自分に優しくしてくれて、「愛している」とまで言ってくれて・・・・レグルスは本当に優しい人だとスピカは思った。それなのに自分がレグルスを裏切ってしまったような感じになってしまって・・・・スピカの心は晴れなかった。
思い浮かべるのはレグルスのことばかりだった。レグルスの暖かさと優しさが身にしみてしまって・・・・寂しかった。レグルスに会えないことが・・無性に寂しかった。
・・・・こんな風に考えてばかりいては、気分が憂鬱になってしまうばかりだった。思い悩んでばかりいても仕方ない。スピカはそれまで自分の部屋の椅子に座っていたのだが、スックと立ち上がった。

「何か気分転換でもしなきゃ・・・・そして、レグルスさんに会えれば謝りましょう・・・・」

スピカは胸に拳をグッと当てて自分自身を律した。そしてその決意を胸に秘めて部屋を出た。
行くあては特にないのだが・・・・何となくレグルスに会いたい気持ちがスピカにあった。だから自然と足が謁見の間の方に向いてしまう。スピカは無意識の内に階段を下りて、1階の謁見の間の方に向かった。
1階に下りたスピカはそのまま少し早足で謁見の間に向かった・・・・その時だった。

「ミャ〜ッ。」

と足元で声がしてスピカは慌てて歩くのをやめて下を見た。そしたらそこにチョコンと座っていたのは・・・・そう、ラグリアの飼い猫・ミャウであった。
ミャウは礼儀正しくその場に座っている。スピカはどうしていいか分からず、そのまま止まることしか出来なかった。

「ミャ〜ッ。」

もう1度ミャウは鳴いた。スピカに何か訴えたいことでもあるのだろうか?スピカは訳が分からずにミャウを見ていることしか出来なかったが・・・・前にミャウと対面した時、ミャウは確かに人語を解していた。となれば、スピカが何か話しかければミャウは答えてくれるかもしれない。ワラにもすがるような気持ちでスピカはしゃがみ込み、ミャウに話しかけてみた。

「あの、ミャウちゃん、こんにちは。その・・・・ラグリア様か、レグルスさんは・・謁見の間にいらっしゃるのでしょうか?」
「ミャ〜ッ。」

・・・・どういった返事なのかサッパリ分からない・・・・だがスピカの言ったことに関してこのように反応を示したということは・・・・つまり何なのだろうか?
スピカが困ってしまって思わず考えてしまったその時であった。

「あぁ、ミャウ・・・ここにいたか・・・・・」
「ミャ〜ッ!」

と、スピカの背後からその声が聞こえてきた。このような喋り方と声の持ち主をスピカは1人しか知らなかった。そう、それは・・・・このフェルディナンの若き国王・ラグリアその人であった。
ミャウはラグリアの姿を認めた途端にスピカの端を一気に通り抜け、ラグリアの元にピョンとジャンプして抱き着いた。ラグリアはそのミャウの頭を微笑みながらなでている。
スピカは驚いてしまったものの、すぐにラグリアの方に向き直って挨拶をした。

「あ、あの・・こんにちは、ラグリア様。」
「あぁ・・・元気そうで何よりだ、スピカ。」
「あ、はい・・・・あ、あの、その・・ラグリア様は・・・・」
「ん?あぁ・・珍しく仕事がなくてな・・・・ミャウとこうして、城内を歩いていた所だ。だが、ミャウが突然逃げ出したものでな・・・探していたらここに行き着いた。そして・・そなたがここにいた。」
「あ・・そうだったんですか。あの、それじゃあレグルスさんは・・・・」
「レグルス・・・・?あの者を探していたのか?そなたは。」
「え、えっと・・・探していた、というか・・・・う〜ん、そうですね・・そんな感じです。」
「・・あの者も今は休み時間の筈だが、どこにいるのかは私も分からぬ・・・・そなたの元ではないとなると・・他の女の元に行っているか、あるいはアルビレオと仕事の打ち合わせでもしているのだろう。」
「あ・・っ・・・は、はい・・・・・」

そのラグリアの言葉を聞いて、スピカは一気に胸がつぶれる思いがした。休み時間なのに、自分の所に来てくれなかった。それはもちろん、スピカ自身がレグルスとの亀裂を作った原因なのだから当然なのかもしれないが・・・・アルビレオとの仕事の打ち合わせだったとしても、スピカにとっては寂しかった。

「・・・あれから・・レグルスと会っていないのか・・・・?」
「!」

そうだった。そういえばラグリアは3日前のあの時の現場にいたのだ。そしてレグルスの過去の話をサラッとしてくれたのもこのラグリア張本人だった。
それにラグリアは常に鋭かった。スピカが何も言わなくても色んなことを解してくれて、スピカの話を聞いてくれたりもしてくれた。そんなラグリアのことだ、きっとスピカの今の気持ちも理解してくれたのかもしれない。

「・・・図星、か・・・・」
「・・はい・・・その・・ラグリア様。私・・・レグルスさんに、謝りたいのですけど・・・・レグルスさん、許して下さるでしょうか・・・・?」

スピカはいけないと思いながらも、目からこぼれる熱いものをおさえることが出来なかった。
あの日レグルスを傷つけたのは確かに自分以外の何者でもない。だがレグルスに無言の存在否定をされるのがつらくて・・・・寂しいのだ。
ラグリアはスピカに近寄り、そして・・・・・・泣いているスピカの頭をそっとなでてくれた。
その頭のなで方が・・・・前にレグルスがスピカにしてくれたのと同じ感じだった。とても暖かくて、優しくて・・・・改めてラグリアとレグルスが兄弟だと思う瞬間でもあった。


  

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