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「・・・それは、そなた次第だな。私にはどうすることも出来ない・・・・フッ。だが、心配することはない・・・・あの者のそなたにかける情熱は、並みのものではない・・・・スピカ。恐らく、レグルスは・・・・そなた以上に苦しいのだと思う。」
「!!・・・・・」
「・・だが・・・今回の件は、あの者の心を育てる良い機会になっているのではないかと思う・・・・ただ・・スピカ。」
「・・はい。」
「・・・そなたはもう少し・・己の気持ちに素直になった方が良いだろうな・・・・このまま事が進めば、レグルスの精神を崩壊しかねない・・・・」
「!!・・そ、それは・・・えっと・・・」
「・・・あの時そなたは・・・プレアデスの話を、レグルスに持ち出していたな・・・・」
「!・・は、はい・・・・」
「・・あれは、やめた方が良いだろう・・・・あの時そなたは、レグルスと一緒にいたかったのであろう?違うか?」
「!!・・ラグリア、様・・・・わ、私・・・・!」
ラグリアには何もかも筒抜け状態だった。そして更にこぼれ落ちる涙。
そうだった。確かにあの時自分はレグルスと一緒にいたいと思った。しかし、プレアデスとの約束がどうしても頭に入ってきてしまって・・・・いや、これは言い訳でしかない。
そう、スピカは素直になれていないのだ。だからついプレアデスの話を持ち出したりして・・・・つまり、それは・・・・レグルスのことを・・・・・・
「・・気が付けば、それで良い・・・・・」
「ウ・・ッ・・・!ラ、ラグリア・・様・・ぁ・・・っ!!わた・・わた、し・・・・!」
涙が一気にこぼれ落ちる。本当に自分が嫌で嫌でしょうがなかった。最低な人間だと思いながらも、今はこうしてラグリアに縋って泣くことしか出来ない自分が本当にもどかしかった。
「ミャ〜ッ・・・」
ふと、ミャウがスピカの肩に飛び乗ってきて、ペロペロとこぼれてくる涙を舐めてくれていた。スピカはそれに驚きつつも、ミャウの優しさを感じて嬉しかった。
こんな自分にまだ優しくしてくれるミャウが・・・・そして自分の気持ちに気付かせてくれたラグリアに、スピカは感謝せずにはいられなかった。
「ラグリア様・・ミャウちゃん・・・ありがとうございます・・・・!こんな、こんな私に・・優しく、して下さって・・・・!私・・・!ウゥ・・・ッ・・・!」
「・・スピカ・・・・良い・・そなたの気持ちも、複雑であったのだろう・・・・そしてそれは、レグルスもよく分かっている。」
「・・・ラグリア、様・・・・!」
「・・・人というものは、なぜ不器用にしか泣けぬのだろうな・・・・・・だが、スピカ。人は泣いて成長するものだ・・・・恐らくそなたは、今までも沢山泣いてきたのであろう・・・・そのことを、そして今日のことを無駄にせぬよう・・・・」
「・・はい・・・・!はい・・ラグリア様・・・・!」
ラグリアの言葉が胸にジーンとしみた。ラグリアは一見厳しく怖い人に見えるが、誰よりも本当の優しさを兼ね備えた紛れもない国王なのだ。
このフェルディナン王国が世界中に大国として認められ、今尚発展しているのは・・・・このラグリアの優しい人柄にあるのだろう。その真の優しさがあるからこそ人望も厚くなる。
そしてこんな奴隷娼婦の自分にも優しくしてくれて・・・・ラグリアは本当に心の広い素晴らしき国王だと改めてスピカは思った。
「フッ、すまぬな・・・余計にそなたを泣かせてしまっているか?私は・・・・」
そう言ってスピカの頭をなでてくれるラグリアの微笑は・・・・この上なく優しく、とても魅力的なものであった。スピカはそんなラグリアの眼差しにドキンとしながらもブンブンと首を横に振った。
「すみません・・・・私が、ダメなだけなんです・・・・・」
「・・そのようなことはない・・・・案ずるな、スピカ・・・・」
「・・ラグリア、様・・・・!」
「・・・スピカ・・・ここで泣いていても仕方がない・・・私の部屋に来るか?」
「え・・っ・・・?」
「・・そなたを大いに泣かせてしまった詫びだ・・・・それに、茶を飲めば心も落ち着くだろう・・・・歩けるか?」
「あ・・は、はい・・・大丈夫、です・・・・その・・すみません。ありがとう、ございます・・・・」
「・・・構わぬ・・・・」
そう言ってラグリアはスピカの肩を抱いて歩いた。
スピカはまだ少し泣いてしまっていて下を向いて、ただラグリアに導かれるがままに歩くことしか出来なかったが・・・・ラグリアに、感謝と敬愛の念を抱きながら歩いた。
どうやら謁見の間の近くからラグリアの部屋はすぐだったようで、歩いて30秒もしない内にドアの開く音がして、スピカは部屋の中に通された。
ラグリアの部屋は意外にも質素だった。謁見の間とは違い、きらびやかな雰囲気が感じられない。だがすっきりしていて広い奇麗な部屋であった。
「あぁ、そこのソファーに座ると良い・・・・ミャウ。そなたは少しだけ留守番だ・・・」
「ミャ〜ッ?ミャ〜ッ!」
ラグリアはミャウの頭やお腹をなでまわした後、部屋に入れずにそのまま廊下の通りにミャウをいさせて、そのまま部屋のドアを閉めてしまった。
それからラグリアは隣室のドアを開け、「紅茶を2つ頼む。」と言ってからスピカの隣に腰を下ろした。
スピカはようやく落ち着いたが、まだ少しだけ涙が止まらなかった。その間に隣室からメイドがやってきて、静かに紅茶を注ぎ出し、2人分淹れてから静かに退室していった。
「すみません、ラグリア様・・・その、お気遣い、いただきまして・・・・本当は、私がもっともっと、ラグリア様に尽くさなければならないのに・・・・」
「あぁ・・・・では、その紅茶を飲んだ後にな。」
「えっ・・・?」
「その紅茶は、そなたの為に淹れさせたものだ・・・まずは飲むが良い。その後に、そなたに仕事をしてもらえれば・・私はそれで構わぬ・・・」
と言ってラグリアは目を閉じ、淹れ立ての紅茶を飲んだ。スピカもありがたくその紅茶をいただくことにした。
暖かい紅茶はスピカの体だけではなく、その心をも暖かくしてくれる感じだった。スピカはホウッと一息つく。そうして再び紅茶を飲もうとしたその時・・・・すぐ隣のラグリアの視線に気付き、スピカはハッと身を竦ませてしまった。
「す、すみません私!!何だか、1人でボーッと和んでしまいまして・・・・その・・安心してしまったら、つい・・・・」
「フッ・・構わぬ。そなたが落ち着けば・・それで良い。」
とラグリアは微笑んで言って紅茶を飲んだ。ラグリアもレグルスも、そしてマクリスも・・・・皆スピカに関わっている男性は優しくしてくれる。本当は自分がもっともっとその男性達に満足してもらわなければならないのに、かえって自分ばかりが満足してばかりで・・・・改めてスピカは自分の力量不足を呪いながらも、自分の出来ることは何でもしたかった。それが娼婦としての自分の務めだから。
「・・はい、ありがとうございます・・・・あの、この紅茶・・とってもおいしいです。」
ラグリアの放つ独特の冷たいオーラも今はそんなに感じない。誰よりもラグリアが優しい人だと分かった今、スピカにとってラグリアは怖い人ではなく、誰よりも頼れる優しい人へとその評価を変えていた。
「・・そうか・・・・では後で、控えているメイドに言っておこう・・・・」
「あ、はい・・・・・あっ、えっと、ラグリア様。お聞きしたいことがあるのですけど・・よろしいですか?」
「・・そなたの質問の内容によるな・・・・」
何とか沈黙だけは避けたくて、それでスピカは話題作りと情報探りの為、ラグリアに質問をしてみた。
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