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ラグリアとの一夜が明けた翌日。朝の内に、スピカはラグリアにお礼を言って自分の部屋に戻ることにした。
本当はラグリアと一緒に謁見の間に行けばレグルスに確実に会えたのだろうが・・・・やはりこのような話はレグルスと2人っきりの時でなければならないような気がして、スピカは敢えて自分の部屋に戻る道を選んだ。
部屋に戻ってから椅子に座り込み、しばらくスピカは考え込んでしまった。まずはどうやってレグルスと2人きりの時間を作るかだが・・・・・
「あっ、そういえば・・初めて私がこのお城に来た夜は、レグルスさんのお部屋だったんですよね・・・・え〜っと・・レグルスさんのお部屋・・どこでしたっけ・・・・?」
こんな時に自分の方向音痴を実感すると、自分で自分を呪いたくなるような衝動に駆られてしまうのだが・・・・そうだ、頼りになる存在がいたじゃないか。スピカはそれを思い出し、スックと立ち上がった。
「そうですよね!アルビレオさんに聞いてみましょう!きっと、アルビレオさんなら力になって下さいますよね・・・・?」
アルビレオの部屋なら、以前アルビレオと廊下でバッタリ出くわした記憶があったので何となく覚えている。同じ3階の・・確か左側だった筈だ。
スピカはすぐに自分の部屋から左側の方に行ってみた。ここでいくつかドアがあり、スピカは「?」な状態になってしまったのだが・・・・ふと、誰かの声がどこかのドアから漏れ聞こえてきていた。
その声のしたドアに耳を近付けてみれば・・・・何やらその声の主は、聞き覚えのあるものだった。しかも目的の主の声も聞こえている。スピカは一瞬ためらったが、すぐにこの部屋のドアをコンコンとノックした。
「ん?は〜い〜?どうぞ〜。」
やはりそうだ。ノックに応じたのはアルビレオの声だった。
「あ、あの・・失礼します。」
スピカがカチャッとドアを開けて中に入った途端、もう1人部屋にいた人物がスピカの方に駆けてきて、スピカを思いっきり抱き締めた。
「キャッ!?マ・・マクリス様!?」
そう、スピカにそんなことをする人はただ1人・マクリスだった。スピカは更に驚いてしまった。
「うん、そうだね!こんにちはスピカ君!!イヤ〜、しかし・・これは聞いてなかったね〜。アハハッ!僕に会いに来てくれたの?」
「えっ?」
「いや、ぜっったい違うと思います。それより!!スピカちゃんから離れて下さいよマクリス様〜!!スピカちゃん驚いちゃってるじゃないですか〜!!」
「えぇっ?そんなことないよね〜?あっ、スピカ君!!今日のファーストキスを君に!」
そうしてマクリスはスピカの唇に軽くチュッと口付けをした。あまりに突然のことに、スピカの驚きは最高潮に達していた。
「あ・・マクリス、様・・・・」
「うん?どうしたの?そんなトロンとした顔しちゃって・・・・アハハッ!こんなキスだけでそんな顔しちゃうなんて、君は本当に可愛いよね!!う〜ん・・今日はこのままスピカ君に傍にいてもらおっかな〜?それじゃあ、もう1回キスしようね!スピカ君!」
そうして2回目の口付けを交わしたスピカとマクリスは、お互いに見つめ合った。
「う〜ん!今日はこんな早い時間から君に会えて僕は本当に嬉しいよ!アルビレオ君もいるし!2人の美女に囲まれて、僕ってば本当に幸せだな〜!!」
「スピカちゃんはともかく、あたしはそんなんじゃないですけどね。それよりスピカっちゃ〜ん!どうしたのさ〜。ほらほら、適当にそこにある椅子に座っていいよ〜?今スピカちゃんの分もお茶淹れるね!」
「あっ。す、すみませんアルビレオさん!そんな、お構いなく・・・・」
「アハハハッ!まぁそんなコト言わないで!!君がここに来た理由はよく分からないけれど、僕かアルビレオ君に用があったからなんだろう?時間を急がないなら、ティータイムを楽しむのが一番だよ!」
と軽く肩を叩かれてマクリスに爽やか笑顔で言われてしまって、スピカは反論することが出来なかった。確かに時間は急いでいないので、スピカはありがたくアルビレオとマクリスの言葉に甘えることにして、一番近くにある椅子に座った。
「うん、そうそう!!たまにはマクリス様もイイこと言うじゃないですか〜。」
「おや?アルビレオく〜ん。それは聞き捨てならないセリフだね〜?僕は常にイイことしか言わないよ?」
「あなた様の場合それって自分に対して、って意味でしょう・・・・」
「うっわ、アルビレオ君ってば相変わらず厳しいな〜。ジリジリと心が傷つけられていく感じだよ?アルビレオ君・・・」
「まぁ、ご自覚なさってるならあたしは構いませんけれど〜?あぁ〜っ!!それよりスピカちゃん、これどうぞ!」
「あっ、はい!ありがとうございます!すみません、アルビレオさん・・・・」
スピカはアルビレオからミルクティーを受け取った。
「いいのいいの、気にしな〜い!!それで?スピカちゅわ〜ん。ホントにどうしたの〜?まさかマジでマクリス様にご用とかだったりする〜?」
アルビレオもマクリスもそれぞれ椅子に座り、何とか場が落ち着いた所でアルビレオが自分のコーヒーに砂糖を入れながらスピカにそう尋ねた。
「あっ、その・・それより、アルビレオさんとマクリス様は・・・・?」
「ん?僕?僕はね、愛しいいとし〜〜いアルビレオ君の所に遊びに来てたんだよ!でも、スピカ君のことも僕は大好きだから、君が来てくれたことがとっても嬉しいんだ!」
「あ。は、はい・・・・」
「マクリス様。その「愛しい」とかゆーのいらないんですけど・・・・」
「おや!どうしてそんな悲しいことを言うのかな〜?アルビレオく〜ん。僕は本当に君のことが大好きなのに・・・・」
「あなた様の場合「うわべだけ」ってゆーのが丸分かりですから。んまぁそーゆーワケだから別にマクリス様のコトは気にしなくても大丈夫!んで改めてスピカちゃんのご用件は?」
とアルビレオに聞かれ、何だかマクリスが心なしか悲しそうな顔をしているのを見ながらスピカは答えた。
「あっ、はい。その・・アルビレオさんにお聞きしたいことがありまして・・・あ!えっと、すぐに終わる用事なんですけど・・・・」
「あぁ〜、ん〜。な〜に〜?」
「その・・レグルスさんのお部屋なんですけれど・・・どこにあるのでしょうか・・・・?」
「えぇっ?レグルス君に用があるの?スピカ君。そしたら今は1階の謁見の間に行けば会えるんじゃないかな?」
と、マクリスがきょとんとした顔をしながらスピカに言った。
「あっ、はい。そうなんですけれど・・・その・・どうしても、レグルスさんと2人っきりでお話しなければならないことがありまして・・・・」
「ふ〜ん、そうなんだ〜。んでもね〜、アイツ最近夜遊び激しいから、あんま自分の部屋に戻るコトしないんじゃないかな〜?それか女の子自分の部屋に連れ込む、とかはやってる気もするんだけど・・・・どっちにしろ今のレグルスと2人っきりの時間を作るってのは、難しいコトかもね〜。」
と、あっさりアルビレオがそんなことを言ってきたので、スピカは胸にチクンと痛みが走るのを覚えたが何とかアルビレオとマクリスに悟られないように耐えた。
「あ・・そ、そうなんですか・・・・?」
「そういや〜、最近アイツからスピカちゃんとのお話聞いてないと思ったら・・・・レグルスと何かあったの〜?スピカちゅわ〜ん。」
「!!・・・・・」
どうやらレグルスは、スピカとのことをアルビレオに何も言わずにいたようである。アルビレオのストレートな質問にスピカは心が痛んでしまって、どう答えれば良いか分からなかった。
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