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大食堂での夕食もあまり喉を通らず、スピカは気ばかりあせってしまっていた。
先ほどからフォークで食べ物を口に持っていくのだが食べようとする気力が湧かず、レグルスのことを考え込んでしまっては食べようとする・・という感じの繰り返しになってしまっていた。
結局満足にあまり物も食べることも出来ないままスピカは大食堂を後にし、そのままレグルスの部屋に直行した。ダメモトでもいい。どんなにレグルスに怒られても構わない・・・・スピカはもう覚悟を決めてレグルスの部屋に方に行った。
アルビレオに言われた通り、2階に着いたスピカはそのまままっすぐ行き、大き目のドアを探した。そして・・・・ついにたどり着いた。
ここが、レグルスの部屋の前。初めてこの城に来た時、レグルスと過ごしたあの場所・・・・・今何となく思い出した気がする。初めてここにきた日のこと・・・・・レグルスはずっと、スピカに優しくしてくれていた。
まだ大食堂には数多くの人達がいた。丁度今が盛りの時間帯だ。スピカは恐らくレグルスはここにいないだろうと思い、少しだけ緊張を解きほぐして、試しにとばかりにドアをノックした。
・・・案の定やはり反応はない。もう1度ドアをノックしてみたが、結果は同じだった。
スピカはどうしようか考えてしまったが・・・・自分の部屋に戻りたくはなかった。いや、むしろここでずっとレグルスが来るのを待ちたいと思った。
恐らくしばらくレグルスは帰って来ないであろう。そう思ったスピカはレグルスの部屋のドアの横の方にチョコンと座り込んだ。ここにいればきっとレグルスに会える。そう信じて待っていたのだが・・・・・・

待てども待てどもレグルスがやって来ることはなかった。途中兵士に出会ったり、この2階に部屋を置いている人達が自分の部屋に帰る所を見たりはしたのだが・・・肝心のレグルスは影も形も見せてはくれなかった。
・・・・・・もう随分長いことここで待っている気がする。何時間位経ったのか具体的には分からないが、もう用がない人にとっては、明日の為に寝ているだろうことは確かだった。
スピカは切なかった。レグルスにこんなに会いたいと思ってもレグルスは来てくれない。もうこのままずっと、レグルスと離れなければならないのだろうか・・・・それはスピカが嫌だった。
レグルスに会いたい気持ちと寂しさ、ずっとスピカに優しくしてくれたことを思い出すと・・スピカは涙がこぼれ落ちてしまっていた。泣いてはいけないと分かっていても、涙を抑えることが出来なかった。
スピカはあの時のことを後悔するばかりだった。どうして素直にレグルスの誘いに応じなかったのだろうか。あの時ただ一言「はい」と返事をしていれば、こんな風になることはなかったのに・・・・・
自分で自分が本当に嫌になってしまった。そんな自分に、本当の気持ちに気付かせてくれたラグリア。励ましてくれたアルビレオ・・・・2人のことを考えると、また目頭が熱くなってしまっていた。
本当にこの国の人は良い人達ばかりだと思う。自分もそんな皆に娼婦として尽くせられればいいのに・・・・その為にここに来たのに、かえって皆に助けられてばかりで・・・・自分の存在意義は何だろう?スピカは改めてそう考えると・・何もないような気がしてならなかった。
一体自分とは何なのだろう?いてもいなくても変わらないのではないか・・・・スピカの頭の中でマイナス思考ばかりが展開される。
スピカの、心の中に潜む魔物が囁いた。「このまま死ねば、楽になれるのではないか」と・・・・そうだ。こんな存在意義のない自分は死んだ方がいいのかもしれない。人を傷つけてばかりで、気を遣わせてばかりで・・・・そんな人間に生きる価値などないのではないか。

「死んだ方が・・いいんですか・・・・?」

スピカは小さくそう囁いた。頭を抱えて、目に涙を溜めて。誰もいないこの場で、このスピカの消え入りそうな囁きなど誰にも聞こえていない筈なのに・・・・そう、確かにスピカにはそれに対する返事が聞こえたのだ。

「死んだらいけません。あなたを知る人達が嘆き悲しむでしょう・・・・そう、特にレグルスが。」
「え・・っ・・・・!?」

スピカは驚いて目を見開いた。スピカの目の前に現れたのは・・・・見たこともない、とても美しく、それでいて愛らしい女性だった。
だが、どうしてだろう。なぜだかその人が、アルビレオの話していた・・そう、4年前レグルスと恋に落ちた占い師の女性だと・・スピカは直感で分かってしまった。

「もう2度と、同じ過ちを繰り返してはいけないのです・・・・あなたが・・いえ。あなたしか、レグルスを救うことは出来ません。」
「・・・・え、えっと・・・・」
「ウフフッ・・申し遅れました。私はフローラと言います。この幸多きフェルディナンで占い師をさせていただきましたが・・それも昔の話。今はあなたを助ける為、ここに参りました。」
「え・・っ・・・?わ、私を・・・・!?」
「はい、そうです。あなたは・・スピカさんですよね?」
「!!わ、私の名前を・・どうして・・・・!?」
「この水晶が、私に全て教えてくれるんです。あなたのこと、レグルスのこと・・未来のこと、全てを・・・・」

そうしてフローラと名乗ったこの女性は、懐から水晶玉を取り出した。それがパアッと光り輝き、スピカとフローラを照らし出す。あたりの景色はそれまでよく分からなかったが、一気に花園へとその姿を変えた。

「スピカさん。あなたは、自分で自分を苦しめてしまっています・・・そしてそれは、レグルスも同様なのです。」
「!あ・・は、はい・・・・・」
「ですけど・・大丈夫ですよ。あなたは、レグルスにどんなことでも言われる覚悟をしているようですが・・・・レグルスはずっと、あなたの味方です。あの人はあなたに怒っている訳ではないんです。お互いに、ちょっと素直になれていないだけなんですから。」
「あ・・え、え〜っと・・・・」
「あら?どうしましたか?驚いてらっしゃるみたいですけど・・・・」

フローラは小首を傾げてスピカにそう言った。

「え、えっと、その・・・わ、私・・何だかよく分からなくて・・・」
「そうですね。あなたは今、全てのことにおいて驚かれてらっしゃるみたいですね・・ですけど大丈夫ですよ、ご安心下さい。私はただ、あなたとレグルスに結ばれて欲しいだけなんです。」
「えっ・・・?えぇっ!?あ、あの、それは・・・・」
「ウフフッ。「あり得ない」って仰りたいんでしょう?そんなことないですよ・・・すぐに、あなたとレグルスは愛という絆で結ばれます。」
「!え、え〜っと・・・・」

そんな風にはっきり断言されてもスピカは困ってしまう。フローラはまたクスッと微笑んで口を開いた。

「私には、あなたの心も・・レグルスの心も、全てお見通しです。そうですね・・・ですけど、まだあなたには迷いがあるように感じられます。それは・・あなたにとってお友達さん、のような・・先輩さんみたいな方の存在のようですね。」
「!!・・・・」

それは間違いなくプレアデスのことを指すのだろう。確かに図星だったのでスピカは驚くばかりだった。

「その方とは、もしかしたらちょっとしたトラブルになってしまうかもしれませんね・・・・」
「!!・・・わ、私・・私、それは嫌です・・・!それに私・・約束したんです。その方とレグルスさんのこと・・応援するって・・・・ですけど、私は・・・・!」
「・・では、あなたはその方とレグルスが結ばれることを・・本当に望んでいらっしゃいますか?」
「えっ・・・・!?」

突然、思ってもみなかったことを聞かれて、スピカは面食らってしまった。

「・・違いますでしょう?・・・その方とレグルスが仮に結ばれたとして・・あなたはそれで幸せですか?」
「!・・・・そ、それは・・・・ですけど、レグルスさんがそれを望まれたのなら・・・・」
「大丈夫です。それはレグルスが望んでいないことですから☆」

可愛い笑顔でサラッときついことを言うフローラにスピカはタジタジになってしまう。

「えっ?あ、は、はぁ・・・・・」
「ウフフッ。つまり・・私があなたに言いたいのは、レグルスと幸せになって欲しいということなんです。あなたなら、間違いなくレグルスを幸せにしてくれるでしょう。そして・・レグルスも、あなたを幸せにしたいと思っています。もっと自信を持って下さい!!あなたは生きなければならないんです。」
「!・・・えっ、と・・・・」
「あっ、いけない。あまりレグルスをお待たせするのもいけませんよね・・・スピカさん。あなたは今、現実では眠ってらっしゃる状態です。その目を開けば、レグルスがすぐ傍にいる筈ですよ。あなたに早く目覚めて欲しいと、手を握ってらっしゃいます。」
「!!えっ!?あの・・・・」
「ウフフッ。またあなたにお会いしたいです、スピカさん。同じレグルスを想う女同士、また話をしたいんです!今度はレグルスの魅力についてお話したいですね!」
「えっ!?あの・・フローラ様!?」
「『様』なんて付けないで下さい。そんな偉くないんですから!」
「あっ・・は、はい・・・フローラさん・・・・」
「ウフフッ。それでは、現実の世界にあなたを誘いましょう・・・・」

そうしてフローラは目を閉じた。すると水晶玉から眩しい光がパアァッと照らし出された。

「うっ・・・!!」

まともに光の洪水を見てしまったスピカは目がくらんでしまった。それからスピカは何も見えなくなってしまった・・・・・・・・・


  

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