翌朝のことであった。
何か気だるさがあったものの、ふと目が覚めてしまったスピカは隣で寝ていた筈のレグルスの存在がいないことに驚いてしまい、余計に目が覚めてしまった。
慌てて反対側を振り返ってみたら、レグルスは昨日とは打って変わった高貴な衣装を身に纏い、身支度を整えていた。昨日は軽くまとめていた髪形も今はそのまま下ろしている。
スピカは声をかけようかどうしようか迷ってしまったが、その前にレグルスがスピカが起きたことに気付いた。

「あぁ、スピカ。もう起きてしまったのかい?あまり物音を立てたつもりはなかったんだけど・・・起こしてしまったかな?」
「あっ、いいえ、そんなことはないです・・・・その・・おはよう、ございます・・・」
「あぁ、おはよう。フフッ、いい朝だね・・・おまえのおかげだよ。ありがとう・・・」
「そ、そんな・・・・こちらこそ、ありがとうございます・・・・」

お互いに幸せを感じていた。それをまたお互いに感じる幸せ。スピカはとても嬉しかった。

「・・スピカ。私はね、これから仕事に行かなきゃならないんだよ・・・・まぁ、執務中でもおまえに会えるとは思うし、おまえさえ気が向けばいつでも遊びに来てくれて構わないよ。」
「えっ!?あ、は、はぁ・・・・」
「フフッ。本当は、私がおまえにこの城の案内をしたいんだけど・・・さすがにそれは無理だから、私の信頼出来る部下に頼んでおいたよ。フフッ・・昼過ぎに来るように頼んでおいたから、それまで寝てくれていて構わないよ。」
「あ、は、はい・・・・その・・すみません。ありがとうございます・・・」
「フフッ、そんな。礼を言うことの程のものではないよ?当然のことをしているだけだからね。慣れないこの王国に来て、更に昨日私と一緒に過ごして相当疲れてしまっているだろう?だから・・ゆっくりお休み。」
「あ、は、はい・・・ありがとう、ございます・・・・」

確かにスピカは目が覚めたとは言ってもだるさが残っていたし、今ならもう1回寝れそうな感じだった。

「・・おまえは本当にいい子だね、スピカ・・・その素直さが、おまえの最大の魅力だと思うよ・・・心から、愛しているよ・・スピカ・・・」

とレグルスは言ってスピカに顔を近づけた。そのままレグルスはスピカの頬にキスをして、それから唇にキスをした。

「ん・・っ・・・ぁ・・・」

2人の舌が絡み合う。スピカは自然とキスの甘さにとろけてしまいそうになったのだが、いきなりレグルスがスピカから離れてしまったのでスピカは少し気後れした感じになってしまった。

「悪いね・・このままいたら、間違いなくまたおまえを抱いてしまいそうだから・・これでやめておくよ・・・・フフッ。それじゃあスピカ、またね。」
「あ、は、はい・・・いって、らっしゃいませ・・・・」

レグルスは最後にスピカ手を挙げてウインクをしてから部屋を出て行ってしまった。1人になってから途端にスピカは物寂しさを感じてしまった。
・・・・アトラスと生活するようになってからも、1人で生活する時間が多い気がしたが・・・・・アトラスもレグルスも、前日に激しく愛し合ったのに・・こうして、翌日はケロッとして出かけて行ってしまうのだ。
男性なんてそんなものなのだろう。スピカはまだこんなに気だるさが残っているのに・・・・寂しいのに・・・隣にいてくれることはない。
いや、分かっているのだ。アトラスもレグルスも仕事で出かけてしまっていることは。単なる自分のワガママだと分かっていても・・・・何となく傍にいて欲しくて・・・・・駄目だ、このまま考えていたら本当に寂しさと孤独に包まれてしまう。スピカは再び目を閉じて、眠りにつくことにしたのだった・・・・・・・・・・



それからどの位眠ってしまっていたのだろう。再びスピカが目を覚ました時は、日の光が朝よりまぶしく強く感じられた。

「ん・・っ・・・」

まだ何となくまぶたが重い。スピカは目をこすって何とか本格的に起きようと思った。

「じーーーーーーーっ・・・・」

と、いきなり横から声が聞こえてきたのでスピカは驚いて声のした方を振り返った。そこにはいつの間にいたのやら、1人の女性が椅子を持ってきてスピカが寝ているベッドの目の前に座り込んでスピカをじっと見ていた。しかも口元に手を置いて妙にスピカのことをジロジロ見ている。

「キャッ!!!あ、あの・・えぇ〜っと・・・・どちら様・・でしょうか・・・・?」

スピカはとにかく驚いてしまって一気に目が覚めてしまった。

「ん?あら、あの女バカから話聞いてな〜い〜?」
「えっ!?え〜っと・・・・?」
「うわ、何アイツ。まさかあたしのコト言わずに出てきたワケじゃないでしょーね〜・・・・?朝っぱらから「しっかり伝えておいたからね。」とか余裕ぶっこいて話してたクセにさ〜。」

と言われてしまって、スピカは今日の朝1回起きた時のレグルスとの会話を思い出した。まさか・・・・

「あぁ〜っ!!も〜うアイツってば最悪なんだけど〜!!人をこき使うことだけ覚えちゃってさ〜。まぁいいけど?そんなのアイツの今に始まったコトじゃないし〜?あぁ〜っ!でも何かムカつく〜!!!今からでもアイツにケリ入れに行こうかしら・・・・」
「あ、あの〜・・・ちょっと、よろしいですか?」
「な〜んなのよ〜!!今あたしはアイツを倒す野望に燃えてて・・って、あぁ〜っ!!!何かご用かな〜?」

それまで怒っていたこの女性がいきなりニッコリ笑顔になったものだから、スピカはこの変わりように驚きつつ口を開いた。

「あ、その・・・朝に、レグルスさんからお話を伺っていたのですけど・・・」
「え?あ、マジ〜!?な〜んだ〜、それならイイのよ〜。ハァ〜、危うくアイツにケリ入れに行く所だったわ〜。んじゃ、話は早いわね!!さ、ほら早く起きて起きて〜、奇襲かけに行くわよ〜!」
「えっ!?あの、え〜っと・・・・」

何だかこの女性の話しているコトをかなりスピカは理解出来ないでいた。何となく分かるような、でも全然分からない・・・そんな感じだった。

「あぁ〜っ!!そういえば自己紹介がまだだったわね。ンッフフ〜、初めまして!あたしはアルビレオ!あなたのコトは女バカからしっかり聞いてるわよ〜、スピカちゅわ〜ん!これからよろしくね〜?」
「あっ、は、はい!!あの、初めまして、アルビレオ様!スピカと申します・・どうぞよろしくお願い致します。」

スピカは今まで横になっていたのだが、急いで起きてベッドの上で正座をしてそう自己紹介をした。

「えっ!?あたしなんかに「様」なんて付けなくたってイイって〜!!レグルスのコト「さん」付けしてたんだから、あたしは呼び捨てで十分よ〜?」
「あっ、そ、そんな!!私、呼び捨てはちょっと・・・・「さん」付けでは駄目ですか・・・・?」
「アハハハッ!ほ〜んと、スピカちゃんってば律儀で礼儀正しい子ね!アイツの言ってるコトもたまには信じてみるモンね〜。ン・・ま、スピカちゃんの好きなよーに呼んでくれて構わないわよ♪アイツからさんざん聞かされてるとは思うんだけど、アイツは身分なんてこれっぽっちも気にしないヤツだからね〜。だから、あたしも同じ!それにあたしはレグルスみたいなお偉いさんではないし、敬語も使わなくてイイから〜!」
「えっ!?あ、で、ですけど・・・・これは・・昔からそうなんです・・・・・」
「え?昔から!?・・・スピカちゃんってさ〜、実は超お嬢様だったりする〜?」
「あっ!い、いえ!そんな訳ではないです!ただ・・・物心ついた時からずっとこの口調でした・・・・」

とスピカは言った。アルビレオと名乗ったこの女性は「へぇ〜。」と感心して目を見開いていた。
よく見てみるとこのアルビレオはなかなかの美女だ。何だかいきなりヒステリックになったり態度がコロコロ変わっていて真顔になるコトがあまりないのだが、長いストレートのブロンドヘアーにスピカはつい目を奪われてしまったし、瞳の色も奇麗なスカイブルー。化粧も嫌味がなく、自分の美しさの見せ方をよく分かっている。
服装はブラウスとズボンというフォーマルな出で立ちなのだが、何より彼女はプロポーションが抜群に良かった。胸の大きさや腰のくびれ具合なんかはスピカより圧倒的に上をいっている。
それにレグルスは「信頼出来る部下」と言っていた。ということは、あるいは彼女とレグルスにも性的関係があるのではないだろうか?この通りの美女であるし、圧倒的にスピカよりナイスバディだ。自分のことをあれだけ褒めちぎって「愛している」なんて言ってくれたレグルスのことだ、きっとそうなのだろうとスピカは思ってしまった。
・・・・ここまで考えてしまうと気になってしまう。実の所はどうなのだろう?スピカは思い切って尋ねてみることにした。

「あ、あの、アルビレオさん・・・・」
「ん?な〜に〜?スピカちゅわ〜ん。」
「あ、えっと・・・・その・・レグルスさんとは・・・・・どういう、ご関係なんですか?」
「あ?アイツ〜?最悪な主。」

あっさり一言嫌そうにそう言い切られてしまうとスピカもどう対処して良いか少し困ってしまった。

「あ、は、はぁ・・・・」
「ん〜、「どういうご関係」って言われてもね〜、ただそんだけよ♪それ以上でもそれ以下でもないし・・ってもしかしてスピカちゅわ〜ん・・・まさかあたしとレグルスが、何か特別な関係持ってるとか思ったりしちゃった〜?」

ズバリその通りだったので、スピカは「は、はい。」と返事をした。

「マッジで〜!?ったくヤんなっちゃう・・・・んでも、そーゆー誤解よくされるのよね〜・・・な〜んでだろ・・・・」

とアルビレオは言って頬杖を付いてしまったので、スピカは少し困ってしまったが素直に返事をした。

「その・・・私、アルビレオさんのこと・・とっても素敵な方だなって思いましたから。」
「えっ、あたしが!?冗談でしょ〜!!そしたらスピカちゃんの方が何万倍も可愛いって!!んも〜うスピカちゃんったら〜、おだて上手なんだから〜!!スピカちゃんがおだてるのは愛に飢えてる男だけでイイのよ〜?」
「えっ!?あ、そ、そんな!私、アルビレオさんのこと、本当に素敵な方だと思いましたし・・・・その、プロポーションがとっても素敵だと思いました・・・・憧れちゃいます。」

とスピカは笑顔で言った。アルビレオは驚いているようだった。

「えぇっ、あたしが!?ち、ちょっとスピカちゃ〜ん、マジでそんなおだてないでよ〜。照れちゃうじゃない・・・・ンフフッ、ありがと!!でもそれならあたしも言わせてもらうけどね〜、スピカちゃんの方が間違いなく可愛いし、とっても純粋で素直な所がアイツにクリーンヒットしちゃったみたいよ♪愛されてるわね〜、スピカちゅわ〜ん!おかげであたしは、朝っぱらからさんっざんアイツのノロケ話聞かされたんだからさ☆」

とアルビレオがウインクしながら言うのでスピカは驚いてしまった。

「えぇっ!?そ、そんな!!の、のろけ話って・・・・」
「いやも〜うホント。あいつがあそこまで上機嫌になるコトってそうそんなにないわよ〜?スピカちゃんのコト、かなり気に入っちゃったみたいね、アイツ♪まぁ・・あの勢いだとスピカちゃんの為に本当に何でも尽くす気ね〜、アイツ・・・・怖いわよ〜、スピカちゃ〜ん。気を付けといた方がイイわよ〜?アイツ、本気になった女の子には妥協しないんだから♪」
「あ・・は、はぁ・・・・」

何だかそんなことをアルビレオに言われてしまうと嬉しかったり怖かったり・・・複雑である。

「あぁ〜それより!!ここでこのままお喋りしてるのもイイんだけどさ〜、取り敢えずアイツからの命令は、スピカちゃんにお城案内してってコトだったから・・早く行かなきゃね!あ、お洋服はコレね!さ、着替えたらレッツゴーよ!!」
「あ、は、はい!」

スピカはベッドから出て、アルビレオが差し出してくれた服に着替えた。
レースがふんだんに使われているピンク色の可愛いワンピースだ。後ろのスカート丈が長く、前は膝より短いミニスカートで洒落ている。誰が用意した服かは分からないが、見るからに良い素材とレースを使っているし洒落ているので高いお洋服だなぁ、とスピカは思ってしまった。

「ん〜っ、スピカちゃんかっわいーー!!ほらほら、鏡で見てごら〜ん?」

とアルビレオに言われ、姿見の鏡の所にスピカは連れられた。
スピカは何だか照れくさかったが、このような可愛い服はスピカも着れて嬉しかったし、鏡に映った自分とアルビレオを見て、何だかアルビレオがお姉さんっぽい雰囲気がして・・・スピカはお姉さんがいたらきっとこんな感じなのだろうな、なんて思ってしまった。

「これなら間違いなくレグルス以外の男もバッチリ落とせるわね、スピカちゅわ〜ん!ンフフフフ・・・・」
「そ、そんな、アルビレオさん・・・・」
「いやでもホント、スピカちゃんってば脚キレーなんだも〜ん!!そーゆー子には、やっぱりこーゆーミニスカートがお似合いよね〜。まだスピカちゃん若いしね!」
「ア、アハハ・・・・若い、んでしょうか・・・・」
「あらイヤね〜、スピカちゅわ〜ん。今いくつなの〜?」
「20になりました。」
「あぁ〜、んじゃまだまだこれからじゃな〜い!!若いわ!!ウンウン。」

そういえば・・・・レグルスやアルビレオは何歳なのだろうか?スピカは尋ねてみることにした。

「あの・・・失礼ですが・・レグルスさんや、アルビレオさんは・・おいくつなんですか?」
「えっ?アイツから聞いてないの?」
「あ、はい・・・・」
「ふ〜ん・・・アイツは22ね。んであたしは26。」
「えっ!?あ、そうなんですか!?」

レグルスとはやはりあまり年の差はないと思っていたが、いざ年齢を聞いてしまうとやはり驚いてしまう。アルビレオも見かけはもう少し若い感じだ。26歳には見えなかった。

「ン、そーなの♪さ、そんじゃいっきましょ〜、スピカちゅわ〜ん!お喋りは移動しながらでも出来るしね!」
「あ、は、はい!」

そうして2人はレグルスの部屋を出て歩き出したのだった・・・・・・・・・・・・


  

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