アルビレオに連れられ、スピカはこのフェルディナン城を案内され、回っていた。天井の高さや彫刻など、それまで絶対に見れない世界に足を踏み入れてしまったスピカは圧倒されてしまうばかりで・・・・・・そんなスピカが今の所気に入ったのは中庭だった。
中庭は咲き乱れる沢山の花々があまりにも美しかった。手入れもよく行き届いていて、上から見下ろした中庭の光景も、直接中庭に入って見た光景も格別に奇麗だった。
また、中庭の中にあるカフェテラスも・・・今日は見ただけだったが、アルビレオから「ケーキやら紅茶がおいしい」と言われてしまったので、いつか行ってみたいと密かに思ってしまったスピカなのだった。

「さ、スピカちゅわ〜ん。今から謁見の間に行っちゃうよ〜?ここの王様と〜、あの女バカがいるからちょっと心して入ってね!」
「あ、は、はい!」

いきなり王様と謁見、ということでスピカは驚いてしまっていた。そうだ、それに考えてみればレグルスもこの王国の大臣なのだ。王様の傍にいるのは当たり前のことで・・・・・
謁見の間の前の扉にいた兵士にアルビレオは軽く挨拶をして、扉を開けてもらった。そこに広がっていたのは長く赤いじゅうたん。中央の奥のほうに玉座が見えて、1人の男性が座っている。あの人こそがこの大王国を統べる王様なのだ・・・・スピカはゴクリと唾を飲み込んでゆっくりと先を行くアルビレオの後に着いて行った。
段々近くなる王様との距離。そして隣にはレグルスの姿も見受けられた。アルビレオが先に手をあげて挨拶をする。

「ヤッホ〜。しっかりスピカちゃん連れてきてあげたよ♪」
「あぁ、そうみたいだね。フフッ、スピカ。私のホームベースへようこそ。」

レグルスが微笑んでアルビレオとスピカを出迎えてくれた。

「あ、はい、レグルスさん・・・・お邪魔します。」

スピカはもう緊張を通り越して、なるようにしかならないと思いながら接した。

「・・その者か・・・例の、そなたが買った奴隷娼婦というのは・・・・」
「フフッ、そうですよ。どうです?とても愛らしいでしょう?」
「・・・・・愛らしい・・・か・・・・」

そう言って玉座に座る王はスピカを見つめた。スピカは思わずドキッとしてしまい、視線を下にした。
恐れ多すぎてまともに見ることが出来ない。だが・・・・・髪の色と瞳の色がレグルスと同じだからだろうか。何となくレグルスに似ているという印象をスピカは持った。
そういえばこの王様といいレグルスといいアルビレオといい、瞳の色が奇麗な青色の人が多いなとスピカは思った。このフェルディナンに住む人達は皆この瞳の色なのだろうか?港がある王国であるし・・・・皆あの奇麗に澄み渡った青い海を見て育っているのだろう。
ただレグルスとこの王様は決定的に違うものがあった。それは放っている雰囲気である。
レグルスはどこか飄々としていながら優しく暖かいオーラを放っているのだが、この王様は眼光が鋭い上に放っている雰囲気がとても冷たく、常人を近寄らせないオーラを放っているのだ。
眼差しがとても怖かった。ただ見られているだけなのに、どうしてこんなに身がすくむ思いがするのだろうか?スピカが「奴隷娼婦」という卑しい身分にあるから、というのもあるのだろうが、純粋に彼の放つ冷たい眼差しを感じてしまっているからだった。
だが彼もまたレグルス同様非常に美男だった。国民の人気もきっと高いに違いない。

「あの〜、もしもし〜?スピカちゃん怖がっちゃってるんですけど・・・・もう少しスマイルサービスしてくれないですかね〜?ラグリア様〜。」
「・・?・・怖い・・・・?私がか?」
「相変わらず自覚ゼロ人間ですね〜、あなた様は・・・・」
「・・すまぬ・・・・怖がらせるつもりはなかったのだが・・・・」
「あ、そ、そんな、その・・・す、すみません!!私は、大丈夫です・・・・」

スピカは慌てて謝罪した。アルビレオは「ハァ〜ッ」と盛大にため息をつく。

「スピカちゃ〜ん。こんな人でも、この王国の王様なのよ〜。ラグリア様って言ってね・・・多分、スピカちゃんも今後お相手するコトになるんじゃないかな〜?ねぇ〜?レグルス〜?」
「・・そうだね〜・・・・そういうことに・・なってしまうのかな・・・?」
「え・・・・・・?」

それを聞いてスピカが驚かない訳がなかった。確かにレグルスは昨日「私以外の男も相手にしなければいけないだろうね。」とは言っていたが・・・・・この大王国を統べる王様・ラグリアの相手をするとは思ってもいなかったスピカは純粋に驚いてしまっていた。

「・・・アトラス様の所から来る奴隷娼婦には、世話になっている・・・・いずれまたまみえることとなろう・・・・スピカ、といったか・・・・?これからよろしく頼む・・・・」
「あ、は、はい!こちらこそ!よろしくお願い致します!ラグリア様。」

スピカはそう言って深くお辞儀をした。
そしてスピカが驚いたのは、このフェルディナン王国でのアトラスの存在がこんなにも高く評価されていることだった。そんなこと、アトラス自身はまるで言っていなかった。
しかしアトラスはこの王国に行く際、「フェルディナンが俺は大好きだ!!イイ国だぞ〜。」とスピカに言ってはいたので、何となくスピカも希望を持ってここに来て・・・・そのアトラスの言葉が間違いではないことも既に分かった。
レグルスに買われてここに来て・・・・レグルスはとても優しいし、アルビレオも・・・・コロコロ表情が変わってスゴいと思ったが、親しみやすくとてもイイ人だと思ったし、このラグリアも・・・・・最初はとても怖かったが、今はそれほどでもなかった。

「さ!んじゃご挨拶終えた所で次行こーね〜。このままいたら〜、この貪欲な人達の餌食になっちゃうからねスピカちゃん!」
「えっ!?あ、え、え〜っと・・・・」
「おやおやアルビレオ〜、妙な気を遣わなくていいんだよ〜?私はこのままスピカにいてもらっても全然構わないんだから。いや・・むしろいて欲しいね。」
「ダ〜メ。あんたの傍にいさせると何しでかすか分かったモンじゃないし。ラグリア様も然りですね。」
「・・このような者と一緒にされる覚えはないのだが・・アルビレオ。」
「まぁまぁ〜、ラグリア様〜。そんじゃ、行こうね!スピカちゅわん!」
「あ、は、はい。その・・失礼致しました。」
「あぁ、また遊びにおいで。いつでも大歓迎だよ。」
「・・その前にレグルス。そなたにはこれから溜まっている雑務を・・・・」
「えぇ〜っ・・またですか〜?ラグリア様〜。もう私はご勘弁願いたいんですがね〜・・・・」

と言う2人のやりとりを聞きながらアルビレオとスピカは謁見の間を後にした。

「フゥ〜・・・・あーゆーヤツらの所にスピカちゃん連れてくのって大変なのよね〜。引き剥がすのが大変でさ〜。」
「あ、アハハハハ。そんな、アルビレオさん・・・・」
「いやも〜うマジで!!今回は強制終了かけたんだけど・・そーでもしないとあの人達どうしようも出来ないからね〜。さ!んじゃお次はね〜、書庫にでも行ってみよっか〜!」
「あ、はい!」

そうしてスピカはアルビレオに導かれるままにお城の案内を受けたのだった・・・・・・・・・・

 

 

さて、アルビレオとスピカがいなくなってからレグルスとラグリアはというと・・・・・・?

「フフッ、どうですか?ラグリア様。スピカは気に入っていただけましたか?」
「そうだな・・・・良い印象ではある・・・・」

とラグリアが言うのを見て、レグルスは苦笑する。

「そうですか、やはり・・・・・本当は、スピカだけは・・誰にも譲る気はないんです。それでもあなたに抱かせることを私は承諾しなければなりません・・・あなたが望む以上は・・・・」
「・・そうだな・・・・フッ、レグルス。そなたはあの者を気に入っているようだな。」
「もちろんですよ。彼女を一目見て私は気に入りました。」
「ほう・・・・それは・・そなたの本気の恋・・というものか?」
「フフッ、そういうことになりますね・・・・さすがラグリア様。お察しが鋭いです。」
「フッ、そうか・・・ならばレグルス。今宵は私が、スピカのもとに赴かせてもらおう・・・・部屋は決めさせたのか?」
「!・・・・アルビレオに、任せています・・・」
「そうか・・・・ならば問題はあらぬな。フッ・・・・・」

ラグリアは余裕の微笑を浮かべていた。ラグリアがなぜ突然こんなことを言い出したのかは分からなかった。レグルスとしては今日もスピカの元に行くつもりだったから。
だがこの王国で最も身分の高いラグリアに逆らうことは出来なかった。だからレグルスは眉をしかめてラグリアを見ていた。握り締めた両手は力のあまり少し震えている。

「今宵は良い日になりそうだ・・・・・」

とラグリアが言った所で、チリンと鈴の鳴る音が聞こえた。その音のした方を見れば、そこにいたのは1匹の子猫であった。

「フフッ、ミャウか。ご主人様はこちらだよ。」
「ミャ〜。」

レグルスはミャウと呼んだ子猫を抱きかかえ、ラグリアの方に渡した。
この子猫のミャウはラグリアのペットなのである。それまでは謁見の間の隣にあるラグリアの部屋にいた筈なのだが、ラグリアは自分の部屋に鍵をかけないので、このように謁見の間にミャウが来てしまうのはよくあることであった。

「あぁ、ミャウ・・・・今宵は良き日になりそうだ・・・・まるでそなたと出会った時のようにな・・・・」
「ミャ〜!」

ラグリアはミャウを抱きながら微笑んでそう言った。ご主人様が嬉しそうだとミャウも嬉しいのだろう。しっぽを振ってそれに答えている。
レグルスはそんなラグリアとミャウを苦笑して見ながら、上にある窓から見える空を見てため息をつき、スピカのことを考えてしまうのだった・・・・・・・・・・・


  

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