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「!大変!!すぐに手当てしなきゃ!・・無事でいて下さいね・・・・?」
この女性は蝙蝠をそっと手で抱え上げて、そのまま森の入り口近くの方に走り出した。急がないとこの蝙蝠の命が危ない。何とかして助けてあげたいと思った。
程なくして一軒の家が見えてきた。この女性は、森の入り口近くのこの一軒家に住んでいるのである。
木の実が沢山入ったカゴを台所近くに置き、ぐったりとしている蝙蝠をテーブルの上に優しく寝かせた。すぐにこの女性は椅子に座り、テーブルの上に寝かせた蝙蝠の傷の様子を見た。
撃たれた所は右の羽の部分で、そこ以外は負傷していない。急所は免れたようであるが、それでも危険なことに変わりはない。
「大丈夫です、助かりますから。治ったら、無事に帰れるといいですね・・・・」
とこの女性が言いながら本格的に傷の手当てをしてあげようと思った時だった。突然蝙蝠がビクンと震えたかと思うと、そのままブルブルと痙攣をし始めた。
やはり苦しいのだろうか?もうもたないだろうか?そう思いながら様子を見ていた女性だったが、突如驚きがこの女性に襲い掛かった。何と、蝙蝠がどんどん人の姿になっていくのだ。それは男性の姿であった。
「うぅっ・・痛い、ね・・・・」
完全に人間の姿になったこの男性は何とか起き上がりながら、左手で負傷した右腕を庇ったが・・すぐ傍に1人の女性がいるのを見て驚いてしまった。
「!あぁ・・貴女は・・・・!ここは、一体・・・・」
「!!え、えぇ〜っと・・・わ、私は、スピカと申します・・・・え〜っと、あなたは・・・・?」
「・・・スピカ、か・・・・私はレグルスだよ・・・・それで、ここは?貴女の家なのかな?」
「!は、はい・・・・え〜っと、それより・・・・・」
「あぁ〜・・・ごめんね、驚かせてしまったね。見ての通り、私は人間じゃないんだよ・・・・・」
「!・・・・・・・・」
このレグルスという男性から発せられた一言にスピカは驚いてしまって少しの間沈黙があたりを支配したが・・・スピカは拳をギュッと握ってレグルスの目を見て口を開いた。
「あの・・私も、その・・・普通の人間ではないんです・・・・」
「!・・・・・・・」
「その・・レグルスさん、でしたよね?傷を見せていただけますか?」
「・・あぁ・・・・でも、あまり女性に見せるようなものではないと思うんだけどね〜・・・・」
「いえ、そんな・・・ご迷惑でなければ、手当てさせて下さい・・・・」
「・・ありがとう。」
そうしてレグルスは左手を離した。右腕からは血がダラダラと流れてきていて、肉も少し見えてしまっている。スピカはレグルスのその傷の様子を見ると、目を閉じて手を合わせた。
それから何か小さく囁きだした。あまりに小さい囁きでレグルスには何を言っているのかよく分からなかったが・・・・それまで手を合わせていたスピカがその手を離すと、そこには白い丸いオーラが出来ていた。
スピカはその白く丸いオーラを両手で浮かび上がらせるようにした。それは少しずつ移動して、レグルスの負傷した右腕に近寄ってくる。
レグルスは驚いたものの、決してスピカから、その丸いオーラから離れることはなかった。その丸いオーラはレグルスの負傷した右腕に触れた途端、一気に弾け飛んだ。と同時に白い光があたりを包み込んだ。
痛みなどは全くなかった。ただ白い光が収まって気が付くと、レグルスの右腕は何事もなかったかのように元通りに再生されていたのである。レグルスは少し驚くと同時に、複雑な眼差しでスピカを見つめた。
スピカはと言うと、少し不安そうな表情でレグルスを見ていた。
「あの・・お役に、立てましたでしょうか・・・・?その・・私のこと、恐れませんか・・・・?」
「・・どうしてだい?こうして傷を治してもらったというのに、恐れる必要がどこにあるんだい?・・・本当にありがとう。助かったよ。」
「あ・・はい。あの・・こちらこそ、ありがとうございます。」
レグルスがお礼の言葉を述べると、スピカは不安そうな表情から一転してパアッと明るい笑顔を見せた。その笑顔がとても愛らしくて、レグルスの胸の鼓動がいつになくドクンと高く跳ね上がった。
「フフッ・・ところで、貴女は・・・ここに住んでいるのかい?」
「えっ?あ、はい。そうです。」
「1人で、かい?」
「はい。ですけど、森の動物さんはお友達ですし、時々こちらに遊びに来て下さる方もいらっしゃるのでとても幸せです。レグルスさんとも、こうしてお会い出来てとても嬉しいです。」
「そうか・・・フフッ。なかなか嬉しいことを言ってくれるね、貴女は・・・・」
とレグルスは言って、スピカに近付いた。途端にスピカはビクンとして少し震えていた。レグルスは驚きながら、どこか寂しげな表情をしてスピカから離れた。
「ごめんね。怖がらせてしまったかな?」
「!あっ、いえ、その・・違います!す、すみません・・・!私、その・・・・お、男の方と、あまり接したことがないものですから・・・・」
そう言ったスピカの顔は真っ赤だった。レグルスはフッと微笑を浮かべると、もう1度スピカに近付いた。スピカは今度は震えずにレグルスを見つめた。
「そうか・・・・それじゃあ、私のような男には尚更気を付けた方が良いだろうね。貴女に何をしでかすか分かったものじゃないよ・・・・」
「えっ・・・・!?」
「フフッ・・あぁ、そうだ。お礼と言っては難だけど・・・・これを受け取ってくれるかい?」
そう言ってレグルスが懐から取り出したのは、赤い薔薇であった。
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