「!・・えっと、これは・・・・」
「私の傷を治してくれたお礼だよ。本当は、花束にして貴女にあげたい所なんだけど・・・今はその一輪しかなくてね。」
「!そっ、そんな・・・・あの、ありがとうございます。大切にします。」

スピカはそう言って、レグルスから赤い薔薇を受け取った。スピカは少し顔を赤く染めて、とても嬉しそうにもらった薔薇を見ている。そんなスピカを見ていてレグルスは危ない欲望に駆られたが・・・・今ここでそれをさらけ出す訳にはいかず、クルッと背を向けて歩き出した。

「!あっ。あの、レグルスさん!?その・・行ってしまうんですか・・・・?」
「ん?あぁ・・・・これ以上、女性1人が住む家にいるのは危ないだろうからね。」
「?・・・・え〜っと・・どういう、ことですか?」

スピカは目を見開いてそう尋ねた。演技ではなく、真剣に驚いている。どうやら本当に男性には疎いようである・・・・こんなに愛らしく美しい女性なのに。

「分からないかい?フフッ・・知らなくていいよ。」
「えぇっ・・・・?」
「・・傷を治してくれて本当にありがとう。それじゃあね。」
「えっ?その、待って下さい!!あの・・もう少し、レグルスさんとお話出来ないですか・・・・?」
「えっ・・・・?」

レグルスは思ってもみなかったことを言われて驚いてしまった。スピカは顔を赤くしながら口を開いた。

「その・・せっかくこうしてお会い出来たことですし・・・・レグルスさんも、本当の人間ではないのですよね・・・・?よろしければ・・お話を聞きたいなって思ってしまって・・・・」
「・・スピカ・・・・・」
「あっ!ですけど、ご用事か何かですか?それでしたら、無理にお引き止めしませんけど・・・・」
「・・いや。用事はないよ。」
「本当ですか!?それでしたら、是非!」
「フフッ・・ありがとう。それじゃあ、もう少しだけお邪魔させてもらうことにするかな。」
「わあっ!ありがとうございます!!どうぞ、そこにおかけになって下さい。今お飲み物持ってきますね!コーヒーと紅茶どちらが良いですか?」

スピカは満面笑顔でレグルスにそう尋ねてきた。スピカのその笑顔にレグルスは身も心も癒されながら、ニヤッと笑みを浮かべた。

「フフッ・・貴女という選択肢はないのかな?」
「えっ!?」
「貴女が欲しいよ・・・・こっちに来てもらえないかな?」
「えっ!?えぇ〜っと・・・・・」

さすがに男性に疎いスピカでもここまでハッキリ言われてしまうと、つい意識してしまう・・・いや、レグルスを見た瞬間からスピカは意識してしまっているのだ・・・・レグルスが、あまりにも魅力的な男性だったから。
銀色の肩ほどの長い髪は丁度レグルスに似合っているし、青い瞳も奇麗で整った目鼻立ち。更に彼には独特の色気があった。見ているだけでウットリしてしまうのである。純粋にとてもカッコ良い人だとスピカは思っていた。
更に自分と同じで、普通の人間ではないらしい。確かに最初は蝙蝠の姿をしていたから・・・・それでスピカは、一気にレグルスに興味を持ったのである。そんなレグルスに「こっちに来て欲しい」と言われて否定できる訳もなくて・・・・スピカは顔を赤く染めながらレグルスに近付いた。
レグルスの座っているすぐ目の前に来た。レグルスは余裕の微笑を浮かべてスピカを見つめている。その眼差しにスピカはドキドキしてしまうばかりだった。

「フフッ・・今、ドキドキしているのかな?」
「!!は、はい・・・・」
「そうか・・・・私もだよ。」
「えっ・・・・!?」

どこからどう見てもレグルスがドキドキして緊張しているようには見えない。その微笑はとても余裕を感じさせるものなのだが・・・・本当なのだろうか?

「・・・スピカ。」
「あっ。は、はい!?」
「そうだね・・・この際だから、はっきり言っておこうかな?私はね、貴女に一目惚れしてしまったようだよ。」
「えっ!?」

思ってもみなかったことを言われてスピカは驚くことしか出来なかった。レグルスはフッと微笑んだ。

「だから・・危険だと思わないかい?スピカ・・・・私は、貴女に手を出したくはないんだよ・・・・貴女に、汚れて欲しくないから。」
「?えっと・・・それは、どういうことですか?」

スピカは訳が分からなくてそう尋ねた。いきなり初めて出会ったレグルスに「一目惚れした」と言われて驚く一方でとても嬉しいのに・・・・「汚れて欲しくない」とはどういうことなのだろうか?

「・・貴女がさっき私の傷の治療に使った力は、法術だろう?それは・・・遙か天空に住む、神に近い者達が使い慣れている術だね・・・違うかな?」
「!・・・はい・・そうです・・・・」
「・・となると、やっぱり私は貴女の傍にいてはいけないね・・・・」

とレグルスは言って席を立ち上がった。突然そんな風に否定をされるとスピカは寂しくなってしまって、立ち上がったレグルスの服の袖を思いっきり掴んでしまった。

「あの、待って下さい!!その・・・やっぱり私は、レグルスさんにとっても・・・・恐るべき存在、ですか・・・・?」
「!・・スピカ・・・・・」
「・・・・すみ、ません・・・・!私、こんな・・・・!ウゥッ・・・・!」
「・・・スピカ・・・・・」

スピカの目から涙が零れ落ちていた。スピカはレグルスの傷を治療した際にも「私を恐れませんか?」と尋ねてきたが・・・・どうやら自分自身の存在を恐れられることにコンプレックスを感じているようである。
スピカが天空に住んでいたとなれば、慈悲深く優しい心を持っていることも納得がいく。そして全ての人と仲良くなりたいと心から思っているのだろう。だがスピカはその存在を恐れられているようである。
レグルス自身は人間とあまり仲良くしたいとも思わないし、取り分け人間の女性は勝手に自分に言い寄ってくるものだったから適当に相手をしていたりしたのだが・・・・スピカは本気で悩み、傷ついているように見える。
そんなスピカをレグルスが見過ごせる訳がなかった。スピカは泣きながらも必死に嗚咽を我慢しているようで非常に痛々しかった。


  

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