レグルスはスピカを胸に抱き寄せた。突然レグルスに抱き締められたことでスピカは驚いたようであったが、それと同時にスピカは我慢していた嗚咽を一気に漏らしてしまっていた。

「ウッ・・ウゥッ・・・ヒック・・・」
「スピカ・・・・」
「・・ウ・・ッ・・・レグルス、さん・・・!」
「・・・スピカ。私はね、貴女の存在を恐れている訳じゃないよ・・・・それは、誤解しないでね・・・・」
「!・・・レグルス・・さん・・・・!」
「言っただろう?私は、貴女に一目惚れしてしまったんだよ?貴女の存在を恐れてどうするんだい?むしろ・・貴女がいてくれて良かったよ。私の命の恩人でもあるしね。」
「!・・そん、な・・レグルスさん・・・・そんなこと、ないです・・・・!」
「フフッ、スピカ・・・・私はね。天に住む貴女達に、むしろ恐れられている悪の存在なんだよ・・・・」
「・・え・・っ・・・・!?」

スピカは驚いて、反射的に顔を上げてレグルスを見つめた。まだその瞳からは涙が流れ落ちてきているが・・・・泣きながら自分を見つめてくるスピカにレグルスの胸の鼓動がドクンと高鳴る。

「・・もう分かっていると思うけど、私は吸血鬼だよ・・・・それも、私の場合はただの吸血鬼じゃなくて・・地獄に堕ちて、泣き叫ぶ人間達の血を吸って始末する・・悪の親玉の1人、という所かな?貴女のような天界人が忌み恐れて嫌う部類だろうね。最も・・・今ではあまり地獄に降りないでこの世界で生活しているけど。」
「!!・・・そう、なのですか・・・・」
「フフッ・・でもね、私が本当に欲しいものは・・・貴女の血よりも、貴女自身なんだよ。」
「えっ・・・・!?あの、それは・・どういう、ことですか?」

スピカの目から大分涙は消えていたが・・・・いきなり泣いてしまったことで体が少し疲れてしまったようで、レグルスに自然と寄りかかりながらスピカはそう尋ねた。

「・・・私は女性が大好きでね。女性の血もいいんだけど、女性の体の方が好きなんだよ。最後まで食べつくしたいと思うから・・・・フフッ。結果的に、相手の女性が翌日息をしていなくてね。」

レグルスは微笑みながらそう言った。かなり遠回しなレグルスの表現であったが、おぼろげながらスピカにもその意味は伝わったようであるし、何より最後の言葉がとてもリアルすぎてスピカは恐怖を感じた。

「あ・・・え〜っと・・・それでは・・・・」
「・・だから、危険だと言っているんだよ、スピカ。フフッ・・私から離れた方がいいよ。」

レグルスはそう言って、それまでスピカを抱き締めていた手を離した。スピカは自然とレグルスから1歩後ずさりした。

「・・・え、え〜っと・・・・」
「フフッ、ちゃんと離れてくれたね。それでいいよ・・・・じゃあスピカ、私は行くよ。改めて、傷を治してくれてありがとう。」

レグルスはそう言って手を上げてスピカに背を向けて歩き出したのだが・・・・このまま終わらせるスピカではなかった。

「あっ、あの・・ま、待って下さい!レグルスさん!」
「ん・・・・?どうしたのかな?」
「!・・あ、その・・・・私、でよろしければ・・・・レグルスさんのお力になりたくて・・・・・」
「・・スピカ・・駄目だよ。それ以上、私にそんな優しい言葉をかけてしまったら・・・・私は貴女を殺してしまう・・・・」
「!!・・・・・」
「・・殺したくなくても、制御がきかなくてね・・・・結果的に、女性を死なせてしまうんだよ。いくら地獄で仕事をしているとは言え、私はこれ以上犠牲者を増やしたくないんだよ・・・・それこそ、地獄に堕ちて当たり前のような女性ならいくらでも手にかけるんだけど、ね・・・・・」
「・・・レグルス、さん・・・・」
「・・そんな悲しそうな顔をしないで、スピカ・・・・ずっと気になって、また抱き締めてしまいそうだよ・・・・」
「!・・レグルス、さん・・・・!」

スピカはレグルスの方に走り寄って、しっかりとレグルスを抱き締めた。突然スピカに抱き締められたことでレグルスは驚きながらも、自然にスピカの頭と腰に手を回した。

「・・スピカ・・・・貴女は・・・・」
「レグルスさん・・・・!その・・私も、レグルスさんに一目惚れしました・・・・!」
「!・・スピ、カ・・・・?」

まさかスピカがそのようなことを言ってくるとは思わず、レグルスは大いに驚いてしまった。

「その・・ですから、私は・・・・」
「・・スピカ。それだったら尚更、貴女を犠牲になんて出来ないよ。」
「!レグルスさん・・・・・」
「私と貴女の気持ちが一緒なら、分かってくれるね?・・・私は、愛する貴女を殺したくない・・・・それなら、私が死んだ方がいいさ。」
「!!そんな、レグルスさん!」
「・・スピカ。貴女は優しすぎる面があるね・・・・もう少し冷たくしてくれていいんだよ?フフッ・・その方が、男も燃え上がるよ。」
「!え・・っ・・・?」
「フフッ・・まぁ、でも・・貴女のその純粋な所が、一番の魅力だろうね。心から愛しているよ、スピカ・・・・」
「!・・レグルス、さん・・・・!」

初めて会った人の筈なのに、こんな風に愛の言葉を囁かれても不思議と違和感がない。なぜだろうか・・・・?スピカは少し考えてみたが・・・・よく分からなかった。
いや、そもそもこうして初めて出会ったのにお互いに「一目惚れした」なんて告げてる方が遙かにおかしい。それでもなぜだろう・・・レグルスに告白して良かったと思っている自分がいるし、レグルスに愛の言葉を言ってもらって素直に嬉しい自分がいるのだ。

「フフッ・・スピカ。このままこうして貴女を抱き締めていたい所だけど、私の理性が限界だよ・・・・行っていいかな?スピカ。」
「・・あの、レグルスさん。最後に1つだけ、約束して下さいませんか?」
「ん?何だい?」
「あの・・また、レグルスさんにお会いしたいんです。」
「・・・スピカ・・・それは・・・・」
「あの・・・お話するだけでも、ダメですか?」

スピカが上目遣いでそう懇願してきた。スピカとしては明らかに無意識なのだろうが・・・こんな風に上目で見つめられてしまうと、ただでさえ抑えているこの欲望が本当にはちきれてしまいそうだった。
だが何とか必死にレグルスはそれを抑えて、平常心を保った。

「・・・分かったよ。約束しよう。」
「わあっ!ありがとうございます!レグルスさん・・大好きです。」

スピカは満面笑顔でそう言った。実は人の理性が切れるのを待っていたりするのだろうか?スピカは・・・いや、それはあり得ないだろう。レグルスはすぐにこのバカな考えを捨ててスピカを見つめた。

「フフッ、こちらこそありがとう。それじゃあ、またね。」
「はい!またお会いしましょうね!レグルスさん!」

そうしてレグルスはスピカの家を出た。スピカはレグルスの姿が見えなくなるまでずっと見送ったのだった・・・・・・・・・・・・・・


  

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