レグルスと初めて出会ってから、今日で1週間だった。スピカは1人で紅茶を飲みながら、家の中でボーッと時を過ごしていた。

「レグルスさん・・・お会いしたいです・・・・もう、あの時のことが遠い昔のような気がします・・・・」

それまで全体的にボーッと景色を眺めていたスピカであったが、ふとレグルスからもらった赤い薔薇に目がいった。

「・・この薔薇、なかなか枯れないですよね〜。お花って、お水を毎日念入りに変えてもその内ダメになっちゃうんですけど・・・・不思議です。造花・・ではないですよね。」

そうしてスピカは薔薇の花に軽く手を触れてみたが、それは自然に根付く薔薇の花びらそのものであった。
今やレグルスのものとして唯一残っているのがこの薔薇である。スピカは赤い薔薇をもう1度見つめた。

「・・・赤い薔薇の花言葉って、「愛情」・・でしたよね・・・・レグルスさん・・・・・!」

確かにレグルスとの再会を約束したが・・・・レグルスが来てくれそうな気配はあれから何一つなかった。今日で丁度1週間・・・・スピカは心からレグルスに会いたいと強く願った。
スピカは両手を合わせて目を閉じた。祈ればレグルスが来てくれるかもしれない、と・・・・・スピカは心の中で強くレグルスのことを想った。
自分でもなぜこんなにレグルスのことを好きになってしまったのかよく分からない。スピカは決して見た目だけで人を選ぶようなことはしたくなかったし、実際見た目だけで人を判断することはしなかった。
レグルスのことなどよく知る訳もないのに、どうしてこんなにもレグルスのことを信じていられるのだろう。恋をしてしまうと、こんなに何事にも手に付かないものなのだろうか?「恋する女の子は無敵だ」とアルビレオも言っていたが・・・・1度恋に落ちてしまうとどうでも良くなってしまうのだろうか?
そんなことをスピカが考えていた、その時だった。コンコンと、誰かがスピカの家のドアをノックしてきたのである。

「あっ。は、はい!?」

向こうからの返事はない。誰だろうとスピカがドアを開けてみれば、そこにいたのは・・・・・・!!

「やぁ、スピカ。こんにちは。」
「!!!レ・・レグルスさん!?」

何と、本当に会いたかったレグルスその人が来てくれた。スピカの心は一気に舞い上がって、ハイテンションになった。

「フフッ・・今ここに来て良かったのかな?時間は大丈夫かい?」
「あっ、はい!!あっ、あの!どうぞ!そこにおかけになって下さい!え〜っと・・紅茶とコーヒーどちらが良いですか?」
「フフッ・・またその質問かい?」
「!!え、えっと・・・・・」

スピカが案内した所に腰掛けたレグルスはそう言って微笑みながらスピカを見つめた。スピカは一気にドキドキと心臓の鼓動が高く早くなるのを感じていた。

「私は、貴女がいてくれればそれで十分だよ。他には何もいらないさ。」
「あ・・えっと・・・レグルスさん・・・・・」
「・・そんなに顔を真っ赤にしてしまって・・・貴女は本当に可愛いね。」
「!・・・そ、そんな・・そんな、ことはないです、ハイ・・・・」
「フフッ・・ねぇ、スピカ。こっちに来てくれないかい?貴女を抱き締めたいよ。」
「レグルスさん・・・・はい!」

スピカは小走りしてレグルスに抱き着き、2人は強く抱き合った。

「・・愛しているよ、スピカ・・・・たった1週間離れていただけなのに、いつになく寂しい思いをしていたよ・・・・沢山の女性の生き血を蓄えた筈なのに、ね・・・・」
「!・・・レグルスさん・・・・・」

よく見てみれば、1週間前に初めて出会ったレグルスと今のレグルスは肌の色が違っていた。前の方がもう少し白かったような気がするのだ。そう考えると今のレグルスは健康的な肌色になったと言えるだろう・・・・どちらにしろ肌の色は普通の人間の男性と比べると白いが。
それによく考えてみると、レグルスはあの怪我を負った時、かなりの量の血を流していた。血が必要だっただろうに、レグルスは自ら「危険だ」と言ってスピカを見逃してくれたことになる。やはりレグルスは悪人などではなく、優しい人だとスピカは思った。
しばらく無言で2人は抱き合っていたのだが・・・・スピカはレグルスの顔を見つめながら尋ねた。

「あの、レグルスさん・・・・どうして、あの時私を見逃して下さったんですか・・・・?」
「ん・・・・?」
「・・あの時、レグルスさんは傷を負ってしまって・・・血が一杯出ていましたよね?・・実は危険な状態だったりしませんでした?」
「・・・・まぁ、でも・・あの時貴女がすぐに傷を治してくれたからね。命の危険性は薄れたよ。」
「!・・はぁ・・・ですけど・・・・」
「・・言っただろう?スピカ・・・・私は貴女を汚したくないし、殺したくないんだよ・・・・」
「あの、ですけど・・・・犠牲になった女の方は・・・どうなったんですか・・・・?」
「・・・まぁ、大体私がそういう時相手にするのは、地獄に近いような女性だからね。実際、この間久々に地獄に戻って仕事もしてきたし・・・・天の神が怒らない程度の人間の命しか奪わないように、極力努力しているつもりだよ。」
「・・レグルスさん・・・・」

だがそれでも、スピカとしてはどこか納得がいかなかった。レグルスが人を殺したとか殺さないとかではなくて・・・・レグルスの犠牲になった女性達のことである。

「どうしたんだい?そんな顔をしてしまって・・・・」
「・・あの。レグルスさんの犠牲になった女の方達は、どんな気持ちだったのだろうかと思ってしまって・・・・」
「・・・・考えたこともなかったね。」

レグルスはスピカの発言に驚きながら、一言そう言った。


  

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