8
「えっ・・・・?」
「まぁ、皆命の危険は覚悟しているんだろうけど・・・・大体は私のことを愛してくれる女性が多いから、喜んで死んでくれる人が多いんじゃないかな。」
「!!・・・・・」
笑顔でそんなことを言うレグルスに、さすがにスピカは恐怖を感じた。自分を愛してくれる女性でもそんな簡単に殺してしまうなんて・・・・・
ただそうすると、なぜ自分に手をかけないのだろうか?ますます疑問である。
「フフッ・・スピカ。私を怖いと思っただろう?」
「!!え、えっと・・・・」
「・・・離れてごらん?スピカ・・・・私こそ、恐れられてしかるべき存在なんだからね。」
「あ・・・・・」
レグルスがスピカを抱き締める手をゆるめたので、自然とスピカはレグルスから離れた。レグルスはスピカを見つめて、フッと微笑を浮かべた。
「・・スピカ。これからは、私と会うことはお勧めしないよ・・・・私も、貴女を手にかけるようなことはしたくないからね。」
「レグルスさん・・・・その、どうしてですか?どうして私のことを、見逃して下さるんですか・・・・?」
「・・・・スピカ。本気で聞いているのかい?」
レグルスは驚きながらそう尋ねた。
「だって、そうじゃないですか・・・・!私だって、レグルスさんのことを愛しています・・・・!犠牲になった女の方達と変わらないです!」
「スピカ・・・・フフッ。困ってしまうね・・・・私が何の為に貴女に愛を告白したのか、分からなくなってしまうよ・・・・?」
「え・・っ・・・・?」
「・・誰よりも愛している女性だから・・・手にかけたくないし、殺したくないんだよ・・・・」
「・・・レグルスさん・・・どうして私、なんですか?」
「・・・・それは・・・・」
レグルスは間が悪そうに言葉を詰まらせた。複雑な表情でスピカを見つめていたが・・・間もなくレグルスはフッと余裕ある微笑を浮かべた。
「愛に、理由なんて関係ないだろう?」
「!・・レグルスさん・・・・」
「貴女を愛している・・・・それだけじゃあ、いけないのかな?」
「・・・・レグルスさん・・・その、私。疑いたくはないのですが・・・・何か、隠していませんか?」
「!・・・スピカ・・・・」
「レグルスさん。私の気のせいだと思うんですけれど・・・・私、なぜだかレグルスさんのことを、もっと前から好きだった気がするんです。あの・・・・以前、どこかでお会いしたことはありませんか?」
「・・・・スピカ。それは本当に、気のせいじゃないかい?フフッ。そこまで私のことを愛してくれているのかな?・・光栄だよ、スピカ。」
「!・・レグルス、さん・・・・」
「フフッ・・貴女のことを怖がらせた上に疑わせるようなこともしてしまったし・・・・退散した方が良さそうだね。」
そう言ってレグルスはクルッと後ろを向いて歩き出そうとしたのだが・・・すぐにスピカがレグルスに後ろから抱き着いた。
「やっ!嫌です!!行かないで下さい、レグルスさん!」
「!・・スピカ・・・・?」
「お願いです・・・・!もう少しだけ、お傍にいさせて下さい・・・・!私・・レグルスさんと、離れたくないです・・・・!」
「・・・スピカ・・・・あぁ。私も、貴女とずっと一緒にいたいよ・・・・」
「レグルスさん・・・・!!」
2人は再び抱き合った。スピカはレグルスの胸の中にいることが何より落ち着けたし、レグルスもスピカを抱き締めているこの時間が何よりも幸せだった。
スピカは、レグルスの抱き締めてくれる暖かさと優しさが嬉しかった。それと同時に、どこか懐かしさを感じている自分がいるのだ。それまではおぼろげに感じていたことだったが・・・・レグルスのあの歯切れの悪さは明らかに何か隠している様子だった。本当に以前会ったことがないのだろうか?
スピカは自分の昔の記憶が一切ないことを、今更ながら呪いたくなってしまった。だがこの地上に落とされた時は、本当に何も覚えていなかったのだ。ただ自分が天空に住んでいたこと、そして何か悪いことをしてしまって落とされてしまったのだという漠然としたことしか覚えておらず、自分に特殊な力があることさえ知らなかった。
だが感触的に、何かレグルスといることに懐かしさを覚えている自分がいるのだ。スピカはやはり気になって仕方がなかったので、レグルスに再び尋ねてみた。
「あの、レグルスさん。本当に私とレグルスさんは、以前お会いしたことがないですか?私・・・その、とても変なお話なんですけれど・・・・レグルスさんとこうしていることが、とても嬉しくて、懐かしい気がするんです。」
「・・・・スピカ・・・・」
「レグルスさん・・・・私、あの・・・・」
「フフッ、スピカ・・・・考えすぎなんじゃないかな?」
「えっ?」
「誰でも抱き締められれば、その暖かさを嬉しく思うさ。懐かしい気持ちというのはよく分からないけれど・・・・きっとそれは、おまえの気のせいなんじゃないかと思うよ?」
「・・・・はい・・・・あの、レグルスさん・・・・・すみませんでした!!!」
「・・スピカ?」
スピカに突然謝られてしまって、レグルスは驚いてスピカを見つめた。
「レグルスさんは、私とこうしていても懐かしいというお気持ちはないんですよね?それなら、前にお会いしたことがないのも当然ですし・・・・その。本当に、勝手に誤解してしまってすみません!!私・・レグルスさんが素敵な方すぎて、夢見ちゃってたみたいです・・・・」
「・・・・スピカ・・・・」
「すみません!レグルスさんにとっては、本当にご迷惑なお話ですよね・・・・?」
「・・フフッ、そんなことはないさ。それだけ、私のことを想ってくれているんだろう?とても嬉しいよ。」
「・・レグルスさん・・・・」
レグルスはスピカの頬に軽く手を置いて、スピカを見つめた。スピカもまたレグルスを見つめて・・・ふと、レグルスとの顔の距離が何だか近くなっていくことに、スピカは少し驚いてしどろもどろになった。
「あっ、あの・・レグルスさん?」
「ん?どうしたんだい?スピカ。フフッ・・顔が真っ赤だね。」
こんなに間近で見つめられるとただでさえドキドキしていたのに余計に緊張してしまう。いや、むしろこんなに距離が近いと期待してしまいそうで怖い。スピカは慌てながら必死に頭を回転させた。
「!え、え〜っと・・・あっ、あの!!やっぱり!コーヒーか紅茶をお持ちしようかと!」
「フフッ・・貴女が欲しいって、さっきからオーダーしているよ・・・・?」
「あっ、あの・・・・!」
「・・・キスしてもいいかい?スピカ・・・・」
「!!・・・・・」
スピカの心臓の鼓動が、最大にドクンと跳ね上がった。スピカはレグルスのことを見つめることしか出来なかった。レグルスはフッと余裕の微笑を浮かべる。
「嫌がらないんだね・・・・肯定と受け取っていいのかな?」
「!・・・はい・・・・」
「でも、少し震えているね・・・・スピカ。怖いのかな?」
「!い、いえ!!そんなことは、ないです・・ハイ・・・・」
むしろ震えているのは嬉しさの為なのであるが・・・・こんな細かい所にまで気を遣ってくれるレグルスは本当に優しくて、スピカは幸せを感じた。
「フフッ。そうか・・・・スピカ。愛しているよ・・・・」
「!・・レグルス、さん・・・・!」
目の前に一番大好きな人がいて、自分にキスしようとしてくれている・・・・嬉しくて仕方がなくて、とてもドキドキしていた。
レグルスが更に顔を近付けてきたので、スピカは自然と目を閉じた。間もなくスピカの唇に、暖かなレグルスの唇が重なった。
時間にしてみればたった2、3秒のことなのだろうが、スピカにとってはとても長い時間であるような気がしてしまった。触れるだけのキスだったが・・・嬉しすぎて、胸が痛くてチクチクしている。
一方のレグルスはというと・・・・頭を抱えて、どこか苦悩に満ちた表情をしている。スピカはどうしたのかと驚いてしまった。
|