「レグルスさん?一体、どうなさったんですか?どうして、そんな苦しそうなお顔をなさっていらっしゃるんですか?」
「・・・・スピカ・・・これ以上、貴女に会うことは出来なくなってしまったよ。」
「えっ!?」
「・・ごめんね・・・・欲望が、抑えきれなくて・・・キスしてしまったよ・・・・」
「!・・そんな。私はとっても嬉しいですよ?レグルスさん・・・・」
「スピカ・・・ありがとう。貴女のその一言で、私は十分救われたよ。」
「?レグルスさん・・・・?あの、どういうことですか?」
「・・・・スピカ。私は、もう貴女と会うことが出来ないんだよ。だから・・・これでお別れだよ。」
「!ま、待って下さいレグルスさん!!どうしてですか!?どうしてお別れなんですか・・・・!?」
「・・・・スピカ・・・・」

レグルスは複雑な表情をして、スピカの名前を呼ぶだけだった。スピカはレグルスを強く抱き締めた。

「私、レグルスさんとお別れなんてしたくないです!!どうしてなんですか!?私、レグルスさんに嫌われるようなことをしましたか・・・・?」

何が何だかスピカにはさっぱり分からなかった。嫌われるようなことをしたつもりはないし、たった今キスしたばかりなのに・・・・

「・・・もう、何も聞かないでスピカ・・・・私のことは、何もかも忘れてごらん。」
「!!・・そんな・・・どうしてですか・・・・?」

なぜレグルスがこんなに否定的な態度を取るのかスピカには分からなかった。確かに自分のことを愛していると言ってくれて、キスもしてくれたのに・・・・スピカの目から自然と涙が零れ落ちた。

「・・ごめんね、スピカ。貴女を泣かせるようなことをしてしまって・・・・私だって、貴女と別れたくないよ・・・・でも、これが定めだから・・・・」
「!・・定め・・・・?」

レグルスはスピカを強く抱き締めた。だがすぐにその手を離して、スピカが自分を抱き締めてくれている腕に手をかけてそっと下ろさせた。

「そう、定めなんだよ・・・・どうすることも出来ない、天の掟さ・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」

スピカは良い言葉が思いつかなかった。レグルスに何か言うべき筈なのに、レグルスの「定め」という言葉はスピカに強く響き渡った。

「・・・泣かせてしまって本当にごめんね、スピカ・・・・最悪な男だと見捨ててくれていいよ。」
「!・・そんな、レグルスさん・・・・」
「・・もう行くよ。スピカ・・・・いつまでも、貴女を愛しているよ。」
「!レグルスさん・・・・!」
「・・さようなら。スピカ・・・・・」
「レグルスさん!!」

まだレグルスを離すことなんて出来ない。一体どういうことなのかもっと詳しく聞きたかったが・・・・何とレグルスは空気と一体化して、その姿を消してしまっていた。

「・・・レグルス、さん・・・・!!どう、して・・・どうして・・・・!!!」

スピカはその場にうずくまって、ただ泣くことしか出来なかった。突然の愛する人との別れは、スピカにとても重くのしかかったのだった・・・・・・・・・・・

 

 

森の奥に佇む古城。沢山の蝙蝠達が空を飛び回り、この城の主が帰ってきたことを喜び合った。
それまで迷い込んでしまった野良猫と戯れていた妖精・プレセペも城の主人のご帰還を知り、すぐに主の元へと飛んで行った。

「ウワーイ!レグルスさんお帰り〜!!」
「・・・あぁ。ただいま・・・・」
「うわっ!!ちょっとちょっと〜、どうしたの〜!?レグルスさんってば〜!!この間から昨日までずっと大好物の女の人の血を啜ってたよね〜?」
「あぁ・・・それがどうかしたかい?」
「・・顔色がスッッゴク悪いよ〜?何か一気に1000歳位老け込んじゃったみたい!!」
「・・・・そうか・・・・」

いつもは冗談でもこんなことを言えば、色気のある・・だが最高に冷たい流し目で見つめられて厳しい一言を言われるのに・・・・今日はそんなこともなく、ただ苦笑して一言「そうか」で終わらせられてしまった。明らかにレグルスの様子がおかしい。

「・・どうしたの〜?レグルスさぁ〜ん。本気で老け込んじゃってるね・・・・」
「・・・原因は、おまえが一番よく分かってるんじゃないかい?」
「えぇ〜っ!?何で〜!?どうして〜!?プレセペはただ〜、レグルスさんが新たに女の子血祭りにしたいって言ってたからターゲットの女の子探し出してきただけじゃな〜い!!それなのにこの間いきなり地獄に行くとか言い出すしさ〜。んも〜う!地獄への切符の手続きは大変なんだからね〜!!」
「・・・そんなことは、よく分かっているよ・・・・」

レグルスは少し不機嫌そうにそう言って、自分の部屋の真紅のソファに身を預けた。身も心も疲れてしまった・・・・このまま死に絶えるのだなとレグルスはぼんやり思った。
一方のプレセペも、ご主人のレグルスが何やら不機嫌そうなことに気付き、唇を尖らせて考え込んだ。まさかと思いながらプレセペは声をかけた。

「・・ねぇねぇレグルスさぁ〜ん。ひょっとして・・・・禁じられてたことしちゃったの?」
「ん・・・・?」
「確かレグルスさんは、天の神様からしてはいけないことを命じられたんだったよね!違った?」
「・・・フフッ。そうだね・・・・」
「具体的にその内容聞いたことなかったけど・・・・プレセペに教えてくれる?」
「・・・・どうして、そんなことを聞くのかな?」
「レグルスさんがとぉ〜っても老け込んじゃってるから!!!」
「・・・・・・・・・・・・」

即答で返されるとは思っておらず、レグルスは苦笑することしか出来なかった。

「おまえはさっきから「老け込んだ」とばかり言って・・・・ご主人様に対して失礼だとは思わないのかい?」
「ム〜ッ。だってプレセペには、本当にレグルスさんが老け込んでるようにしか見えないよ〜?それまでピッチピチのカッコ良い男盛りだったのに〜、何か急に老年時代に突入した感じ!!あっ!氷河期って言った方がイイかな〜?何かね、レグルスさんの魂がとてつもなく小さくなった感じなの。」
「・・・一番最後の言葉だけは、的を射てると思うよ。」
「あっ、コラコラ〜、レグルスさぁ〜ん!ダメだよ〜、自分が老け込んだコト認めなきゃ〜!!!だから魂も小さくなっちゃったんだよ〜!?」
「・・プレセペ。私は十分認めているさ・・・・生きる気力をなくしたんだからね・・・・」
「・・・レグルスさん・・・・」

レグルスの青い瞳は、いつものような冷たい輝きがなかった。代わりにあったのは哀愁あふれる悲しいもので・・・・レグルスはとても寂しそうな表情で窓から見える景色を眺めていた。
こんなレグルスは本当に珍しかった。レグルスとは長くも短くもない主従関係を結んでいるプレセペだったが、ここまで悲しそうなレグルスを見たことは初めてだった。

「・・・・プレセペ。私に架せられた天の定めは、それほど厳しいことなんだよ・・・・重苦しい話だけど、それでも聞きたいのかい?」
「うん、知りたい!!だって大事なご主人様だも〜ん!」
「ふ〜ん・・・・都合が悪い時は、随分私のことを立てるんだね〜・・・・?」
「エヘヘヘヘ〜ッ、バレた?でもでも!!レグルスさんのお話聞きたいのはホントだよ!ワクワク☆」
「・・・やれやれ、仕方ないね。そんなわくわくされるような話じゃないんだけど・・・・まぁ、いいか。話すよ・・・・」
「イヨッ!!待ってました〜!!」

プレセペはまるでとてつもなく楽しい話を待っているかのようにはやし立てた。レグルスはそのことに苦笑しながらも話を進めた。その話は、この城の中の者達しか知らないこと・・・・外の人間達が知る由もないことなのであった・・・・・・・・・・・・


  

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