第3話 毎日圭吾とは、休憩室で共にコンビニから買ったお弁当を持ち寄って食べるのだが、そういえば今朝、由依は巧斗とお弁当を一緒に食べる約束をしたような、してないような・・・・ 圭吾と共に管理本部の中から出た由依だったが、エレベーターの所に来た時点で、由依は気になって圭吾に声をかけた。 「あのね、圭吾君。」 「おう。改まってどうした?」 「うん。私ね、今日柏木さんのお弁当を食べる約束をしたんだけど・・・・」 「は?巧斗の弁当を?」 「うん。一杯作っちゃったから、食べて欲しいって。でも、柏木さんのお昼休み時間って・・・・」 「あぁ〜。確かあいつの昼休み時間は12時〜13時だと思ったぜ?」 「ウッ。やっぱり、そっか・・・私、柏木さんとの約束破っちゃった・・・・」 どんな約束であれ、破ってしまった自分自身を由依は許せなかった。そんな悲しそうな顔をしている由依を見て圭吾が放っておける筈がなく、すかさずフォローした。 「大丈夫だって。巧斗のコトだから、怒っちゃいねぇだろ。何てったって社内一のプレイボーイかつ、女にはとことん甘いヤツだからな。」 「うん・・・でも・・・」 由依が浮かない顔をしていた時だった。丁度エレベーターがここに到着したことで視線をエレベーターの方に向けて見れば、そこにいたのは・・・・! 「あぁ、いたいた。丁度良かったよ、由依ちゃん。」 「柏木さん!?」 「巧斗!?おまえ、どうして・・・!?」 そう。エレベーターから降りてやって来たのは、何と噂していた巧斗だった。その手には営業用のバッグを持っているのだが、恐らくこの中にお弁当も入っているのだと思われる。 「フフッ。今朝、由依ちゃんと約束したからね。俺の作ったお弁当を食べてもらわないと。」 「柏木さん・・・・!良かったです!私、柏木さんのお昼休み時間が12時からってお聞きしたものですから・・・」 「いつもはそうなんだけどね。今日は伊東部長に断って、この時間にしてもらったんだよ。ってことで、行こうか?由依ちゃん。」 「はい!」 「ちょっ〜と待ったーー!!2人して、俺の存在は無視か〜!?」 圭吾は既にコンビニからお弁当を買ってきていたものの、完全に2人に無視されたことで待ったをかけた。 「あ。圭吾君・・・・」 「おまえは邪魔だ。俺は、由依ちゃんと2人きりで昼休みを過ごしたい。」 「えぇっ!?かかか、柏木さん!?それはちょっと・・・・」 由依が巧斗の発言に驚いたことで、圭吾はチャンスとばかりに攻めた。 「ほら、由依が嫌がってるぜ?巧斗。ってコトで、俺も混ざって良いよな?」 「柏木さん・・・あの、圭吾君も一緒じゃダメですか?」 由依にそう言われると、巧斗としては否定するのが難しい。本当は由依と2人きりになりたいが、今回は腹を括るしかないようだ。 「仕方ない・・・由依ちゃんのお願いなら、聞くことにするよ。」 「はい!ありがとうございます、柏木さん!」 「巧斗〜。おまえは相っ変わらず女の子最優先だな。昔っから1つも変わんねぇ〜。」 「圭吾。それ以上言ったら、俺はおまえをひねり倒す。」 「ゲェ〜ッ。やめろよ、それ。おまえにんなコトされたら病院行きになっちまうだろうが。」 かくして3人で休憩室に行くことになった訳だが、男性同士の間でそのような会話が展開されると、思わず気になってしまう。由依は聞いてみることにした。 「えっ?あの。柏木さんって、何かスポーツをされてたんですか?」 「まぁね。サッカーをしてたよ。」 「わぁっ!圭吾君と同じですね!」 「あぁ、そうだね。」 「おいおい由依、違うぜ?巧斗は確かにサッカーもしてたが、柔道と空手もしてたんだよ。」 圭吾がすかさず突っ込みを入れたことで、巧斗は鋭い目線で圭吾をにらんだものの、由依はそれに気付かず、純粋に感動した。 「えぇ〜っ!?柔道と空手〜!?ホントに〜!?」 「おうよ!!巧斗超強いぜ〜?殴られたら、マジで骨折れるって。」 「圭吾、言いすぎだ。俺だって加減位はする。」 「どうなんだか〜?でも、おまえが柔道部のヤツらとバトった時にはビックリしたな。おまえ、5戦5連勝だったモンなぁ〜。」 「あれはあいつらが弱すぎるだけだ。サークル活動で、あれしか出来ないのかと驚いた。」 などと話している間に、休憩室に到着した3人は空いている座席に座り込んだ。休憩室のテーブルは円卓で、男性陣はそれぞれ由依のすぐ隣をキープする。 「はい、由依ちゃん。お箸どうぞ。」 巧斗がそう言ってテーブルに広げたお弁当は、確かに男性1人でも余ってしまう量だった。しかしそれをパックごとに小分けしている為、取りやすくなっていたし、メニューも分かりやすい。 「ありがとうございます、柏木さん!わぁ〜っ。どれも美味しそうで可愛くて、目移りしそうです!」 由依が巧斗からお箸を受け取ると、巧斗はどんどんパックを並べてふたを取った。お弁当の定番とも言うべき白いご飯に梅干が乗った梅干ご飯、ふわふわの玉子焼き、タコの形をしたウインナー、マカロニサラダ、ナポリタンなどなど。デザートにはうさぎの形をしたリンゴと、フルーツポンチまである。 「フフッ・・さ、由依ちゃん。どれでも好きな物を食べてね。遠慮はいらないよ。」 「はい、ありがとうございます!それじゃあ、早速。いっただっきま〜す!」 「俺もた〜べよ。んでも巧斗の弁当も気になんなぁ〜。このタコウインナー、マジでおまえが作ったの?」 「文句があるか?」 「いや。ただ、おまえから想像が付かなくてさ。このタコウインナー、可愛いだろ?おまえがどんな顔して作ったのかと思うとさ〜、笑いが止まらないワケよ!ギャハハハハッ!!」 「圭吾君ったら〜、それは失礼だよ〜・・・って、あっ!柏木さん、このご飯美味しいです〜!炊きたてって感じで!」 「まぁね。俺はいつも炊いたご飯しか持って来ないから。」 「そうなんですか〜、すごいです!あっ、じゃあこのタコさんウインナー食べますね!」 「どうぞ。」 由依がタコ型ウインナーを口にしたことで、巧斗はもちろん、圭吾も少し気になったようで由依を見つめる。 由依は美男2人の視線を同時にまともに感じたことで恥ずかしくなったものの、ウインナーの美味しさが恥ずかしさより勝り、笑顔を見せた。 「柏木さ〜ん!このウインナーとってもおいしいです〜!」 「それは良かった。そのウインナーはマイナーなメーカーなんだけど、美味しいだろう?」 「はい!このジュワ〜ッて広がる肉汁がたまりません!!因みに、どこのメーカーなんですか?」 「そうだね。圭吾がいない時にでも教えてあげるよ。」 「ちょっと待った。何でそこで俺が出てくんだ?」 1人でコンビニ弁当を食べている圭吾がすかさず突っ込むと、巧斗は冷たい視線で一蹴した。 「おまえは、大して料理好きじゃないだろう?なら、おまえのいる前で言ったって無駄だ。」 「グッ。それはまぁ、な・・・・」 そう。圭吾が毎日コンビニ弁当なのは、料理が苦手だからだ。由依とはまた違う理由で、彼はコンビニ弁当とお友達なのだ。 毎日圭吾と一緒のお昼も楽しいが、巧斗も一緒だと新鮮だし、何より楽しさが膨れ上がったような気がする。由依はいつになくハイテンションで、巧斗のお弁当をありがたく食べながら話を切り出した。 「ねぇねぇ、圭吾君。確か柏木さんとは、大学の同級生・・なんだよね?」 「おうよ!でも、所属してた学科は違うんだぜ?サークルのサッカーで知り合って、それから仲良くなったんだ。」 「そうなんだ〜。」 「・・由依ちゃんと圭吾も、学校一緒だったんだろう?」 巧斗にそう言われたことで、由依は張り切って返事をした。 「はい!中学・高校と生徒会で圭吾君と一緒でした!」 「懐かしいなぁ〜。あの頃はよく一緒にバカしてたよな〜?由依〜。」 「うん!でも、楽しかったよね!」 「だなぁ〜。何か一気に色々思い出してきた。」 そうして笑い合う圭吾と由依を見て、巧斗は複雑な気持ちに駆られた。 いつでも圭吾と由依は一緒で、巧斗が言ったように、お嬢様っぽい由依に『姫君様』というあだ名が付いているものの、それは圭吾が由依に過保護だからなのも理由なのだ。 即ち、圭吾は由依という姫を守っている強固な騎士であり、2人の間に介入することは難しかったし、実際圭吾と由依は恋人同士だと誤解している人たちが社内に多いのも事実だ。 社内一のプレイボーイとして名高い自分が、圭吾の『姫君様』の心を奪えないとはどういうことだろうか?元々圭吾が巧斗に由依を近付けさせなかった為、それまで話す機会がなかったものの、今朝巧斗が由依に口説いた時、自分の手に落ちるだろう手応えがない訳ではなかった。 しかし、最終的には拒否されてしまい、おまけに圭吾と仲良くしている様を見ると、やはり由依は圭吾のことが好きなのだろうか?と考えてしまう。 それだけは認めたくなかった。それは、圭吾に負けを認めたも同然だから・・・・・ |