第4話

「・・巧斗。おい、巧斗?」

「ん・・・・?」

「柏木さん、大丈夫ですか?呼びかけても反応がなくて、ボーッとしちゃってる感じで・・・お疲れですか?」

どうやら物思いに耽っていたら、2人に呼びかけられていたようだ。我に返った巧斗は、眼鏡を持ち上げてうわべだけ微笑んでみせた。

「いや、そんなことはないよ。ごめんね、由依ちゃん。心配かけたね。」

「いえ・・・」

「俺にも言ってくれよ、巧斗〜。最初におまえのコト呼んだの俺なんだぜ〜?」

「・・悪かったな、圭吾。」

「どうして目線鋭くなるんだよ・・・まぁ、いいや。俺もおまえのフルーツポンチ食いたいんだけど、ダメ?」

そう言った圭吾のコンビニ弁当の中身は、奇麗に空になっていた。

さすがに食べ物を制限するほど、巧斗も鬼ではない。軽く頷いて圭吾に答えた。

「好きにしろ。ただし、由依ちゃんの食べる分は残すように。」

「分かってるって!んじゃ、いっただき〜!」

そうして圭吾がフルーツポンチに手を出した所で、由依がお辞儀をして巧斗に言った。

「すみません、柏木さん。私、沢山ご馳走になってしまって・・・・」

「構わないよ。君に食べて欲しかったから、丁度良かった。」

「はい・・・あの。柏木さんは、料理がとてもお上手だと思いました!玉子焼きも固くなくてフワッとしてましたし、ナポリタンのケチャップも美味しかったですし、味付けも少し薄めで、私は好きです!何だか、柏木さんがモテる理由が分かっちゃいました。」

「フフッ・・俺は、由依ちゃんにだけモテてれば良いよ。」

「えぇっ!?そ、そんな。柏木さん・・・」

「出た出た!巧斗の必殺口説き攻撃!!だが、残念だな、巧斗。由依はおまえに渡さないぜ?」

圭吾はそう言うと、由依の後ろに回って、背後から由依をギュッと抱き締めた。

「け、圭吾君!?」

「ほう。だが、おまえは由依ちゃんと付き合ってる訳じゃないだろう?おまえに止められる権利があると思えないが?」

「グッ。そ、それは、どうしてもだ!」

圭吾は不器用な性格をしている。本当は由依のことが好きでたまらないのだろうが、由依はそんな圭吾の気持ちを分かってはいないだろう。

つくづく由依は罪作りな女性だと思いながらも、巧斗自身由依の素直さや可愛さ、その鈍感ぶりを気に入っているのも確かだった。

「そうか。おまえがどこまで止められるか、見物だな。」

「巧斗。おまえ・・・・!」

「け、圭吾君、柏木さん。な、何か変ですよ。もっとフレンドリーにいきましょうよ!ね?」

2人の中にいた由依は、2人の目から火花を感じたような錯覚にとらわれていた。

皆仲良しでいるのが一番だ。だから由依はそう言ったのだが、2人に届いただろうか?

「由依・・・・」

「・・由依ちゃん。俺は、君ともっとフレンドリーな関係になりたいな。」

「か、柏木さん!?」

巧斗に優しい笑顔と甘く低い美声でそう言われたら、由依は意識せずにはいられない。だが更に今の由依をドキドキさせるのは、圭吾が後ろから抱き締めてくるからだった。

「おい、巧斗!俺だって本当は・・・って、言わせんな!!」

「圭吾君?」

「フッ、圭吾。今回ばかりは、おまえに同情したが・・・俺は、本気でいかせてもらう。」

「!巧斗・・・おまえがそう言うなら、俺も・・・・」

圭吾は真剣な表情でそう言い、由依を抱き締める力を強くした。

事情が飲み込めないものの、圭吾に強く抱き締められたことで由依はドキンとしてしまう。

「あ、あの、圭吾君、柏木さん。何のお話をしてらっしゃるんですか・・・?」

「フフッ。由依ちゃんには、内緒だよ。」

「おうよ!これは男同士の話だからな!」

「はぁ・・・」

由依にはよく分からなかったが、2人が『内緒』だと言うのだから、きっと突っ込まない方が良いのだろう。

元々営業本部の柏木巧斗が、自分の上司である茅場圭吾と大学時代の同級生だと知っていたものの、それまで巧斗と出会う機会がなかった為、実際に2人を見てようやくその仲の良さを見ることが出来た。

どこか気まずい雰囲気も感じられたが、何だかんだで男性同士の友情は厚いんだなぁ、などと思いながら、由依は昼休みを満喫したのだった。


  

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