第6話



おっ、ようやく食事がお出ましのようだ。いやぁ〜、腹が減った。さて、食べるとするか。

道連れにした菊井君はというと・・・まだ驚いているようだな。この居酒屋という場所にも、そして出てきた大きい丼にも。

そう。ここは居酒屋なんだが、昼にランチメニューを出している。そして名物が、この天丼なんだが・・・・丼もそうだし、天ぷら自体も大きいんだ。当然、ご飯の量も多い。

完全に男向けだが、だからこそ、俺はこの店をひいきにしている。ママにもしっかり顔を覚えられたしな。

 

「・・・本当に、出てきましたね。このサイズで、一人分・・・?」

「あぁ。だが、菊井君ならその位食べられるだろう?」

「・・そう、ですね。ちょっと驚きましたけど・・・美味しそうです。いただきます・・・・」

「俺も、いただくとするか。」

 

こうして食べている間、俺も菊井君も無言だったんだが・・・・お互いほとんど平らげた所で、菊井君が口を開いた。

 

「・・美味しいです。さすが鹿嶋さんですね・・・・でも、こんな所に、女の子連れて来るんですか?」

「まさか。ここは量が多いから、女とは来ないな。1人ではよく行くが。」

「・・・鹿嶋さんが、1人で・・・?」

「何だ、意外だったか?」

「はい。高橋さん曰く、『三大色男の傍には、必ず女の子がいる』って事でしたから・・・・」

「ほう・・・ところで、さっきから言ってるその『三大色男』ってのは、他に誰がいるんだ?」

 

俺がそう聞くと、菊井君は少し首を傾げてから、思い出すかのように言った。

 

「・・・1人は、俺と同じ階にいる人なので、営業本部の・・・眼鏡かけてる、プレイボーイだって噂の・・・」

「柏木君か?」

「・・そうです。さすが鹿嶋さん。ライバルに関しても、しっかりチェックなさってて・・・・」

「いや、菊井君。ウチの会社で眼鏡かけてるプレイボーイって言われたら、柏木君しかいないだろう?それで、もう1人は?」

「はい。2課の人で・・・最近、できちゃった婚したって、話題の・・・・」

「あぁ〜、神さんか。なるほどな・・・」

 

柏木君は、営業本部所属の成績優秀な営業マンだ。

俺の1つ下なんだが、その人気の高さと言ったら、社内で知らない人はいないだろう。ウチの部署の子でも、直接関係ないのに柏木君のファンがいるみたいだからな。

そして神さんは、俺の2つ上の先輩だ。OP部2課のカスタマーセンター所属でSVなんだが、前にホストをしてたらしくて、今もその名残を十分に感じさせる人でな。

当然、同じ部署にいるアルバイトの女の子たちに大人気だったらしいが、それを覆すかのように、付き合っていた人とこの度できちゃった結婚をする事になったと、社内で評判なんだ。

 

「・・神さんに続いて、鹿嶋さんも・・・できちゃった婚とか、しないんですか?」

「おいおい、冗談はやめてくれよ。俺のデリケートなハートに傷が付いちまうぜ?」

「・・・鹿嶋さんのハートが、デリケート・・・?」

「ちょっと待った。何でそんなに目見開いて驚くんだ?菊井君。」

「・・いえ、すみません。俺、誤解してました・・・・鹿嶋さんは、ずっと強い人だと思っていたので・・・・」

「いや、謝らなくていい。実際、俺もそう思ってたんだ・・・昨日までは。」

「・・『昨日までは』、ですか?」

「あぁ・・・・なぁ。菊井君は、今好きな人とかいるのか?」

 

俺がそう聞くと、菊井君は少し驚いた顔をしてから、ゆっくり頷いた。

 

「・・はい、います。」

「そうか。それで?その子とは、今どういった関係なんだ?」

「・・いいお付き合いを、させてもらってます・・・・」

「ほう、やるな。その子には、菊井君から告白したのか?」

「そう、ですね・・・・俺からも言いましたし、向こうからも・・・・」

「そうか・・・羨ましいぜ。」

「・・・鹿嶋さん・・・?驚きです。鹿嶋さんは、今付き合ってる人・・いないんですか?」

 

参ったな。その質問は、今の俺の心にグサッとくるんだが。まぁ、元はと言えばその手の話題を振った俺の責任か。

菊井君とは所属部署も違うし、誰かに言いふらすような事もしないだろうから、別にいいか。俺は開き直って言った。

 

「あぁ・・・昨日、フラれたんだ。」

「・・・鹿嶋さんが・・・?そんな事って、あるんですか・・・?」

「そりゃあ、あるさ。今までだって、何度もあった・・・・だが、今回のは一番強烈でな。もう1度、その子とやり直したいと思っているんだが・・・・幸せ者の菊井君から、何かアドバイスはないか?」

「・・俺から、ですか?むしろ、鹿嶋さんからアドバイスもらいたかったんですが・・・・」

「悪いが、今の俺では無理だ。それに、菊井君の事だ。その子と付き合って、長いんじゃないか?」

「・・・はい。今年で4年になります、けど・・・・鹿嶋さん、どうして分かったんですか?」

「まぁ、菊井君の性格を考えれば分かるさ。優しくておっとりしているし、真面目で実直だから、そんなにわがままとか言わないだろう?」

「・・確かに、物欲とかはないですけど・・・・俺は、十分彼女に迷惑をかけています。だからこそ、少しでも俺の出来る事で返してあげたいと思いますし、それが当然だと思っています・・・・それが、どこまで実行出来ているかまでは、分かりませんが・・・・」

「・・少なからず、出来ているんじゃないか?だから、その子も菊井君に着いていってると思うが?」

 

・・『迷惑をかけている』、か・・・・菊井君でさえそう思っていると言うのなら、俺はどれだけおまえに迷惑をかけた事だろう?

それでもおまえは、ずっと自分勝手な俺を許して、着いてきてくれた。おまえを失った今だからこそ、俺は初めて、おまえのその優しさに気付いたんだ・・・・

 

「・・・そう言っていただけると、嬉しいです。鹿嶋さん、その人とやり直せると良いですね。」

「・・そうだな。だが、そういった経験がなくて、戸惑っている。」

「・・・色男の鹿嶋さんでも、恋に悩むんですね・・・・」

「そりゃあ、な・・・だが、これは良子ちゃんには秘密にしておいてくれないか?」

「はい。誰にも言いません・・・・お約束します。」

「ありがとう・・・っと、話している間にすっかり時間だな。行こうか?菊井君。」

「はい・・・・」

 

こうして、俺と菊井君は立ち上がったんだが・・・・菊井君、財布なんぞ出してやがる。本当に真面目だな。

 

「菊井君、財布は要らないぜ?俺の方が先輩だし、飯に付き合ってくれた、ほんのお礼だ。」

「・・いいんですか?鹿嶋さん・・・すみません。ご馳走様です・・・」

「気にしなくていい。今度後輩が出来たら、そいつに奢ってやればいいさ。ママ、ご馳走様!」

「あいよ〜。いつもありがとうね。」

 

さて、今日はまだこれからだな。

・・また、おまえが俺に心を開いてくれるかは分からないが・・・・今度は、おまえにフラれないようにしないとな。

菊井君と話した事で、俺は今までの自分の失態が身にしみた。だが、2度も同じ過ちを犯すほど、俺もバカじゃないつもりだ。

今度こそ、おまえを本当に幸せにするから。待っててくれるか?清香・・・・・・・
















17時40分か〜。もうちょっとで、今日のお仕事が終了する。

そんな中、私は思わず、鹿嶋さんをチラ見してしまった。パソコンに向かって仕事する鹿嶋さんの真剣な表情は、男らしくて本当に格好良い。

なんて・・私、本当に何考えてるんだろう!鹿嶋さんと別れた上に、なつみちゃんにもその事で励ましてもらったのに、どうしても鹿嶋さんを目で追ってしまう自分がいる。

やっぱり私は、鹿嶋さんの事が好き。でも、このまま鹿嶋さんの事を忘れられなくなったら、どうしよう・・・・それって、別れた意味ないよね?

あっ!でも、鹿嶋さんの事だもん。すぐに新しい彼女作る筈だよ。他の女の人と付き合ってるとかいう事になれば、さすがに鹿嶋さんの事を忘れられるよね。

それに、なつみちゃんも言ってたじゃない。『しばらくはツライかもしれないけど、それは時が解決してくれる』って・・・・つらいのは、今だけ。今を乗り越えれば、きっと大丈夫だよ・・・・

私がそう思った、その時だった。

 

「館澤さん、お疲れ様です。」

「はっ、はい!お疲れ様です、丸山さん。」

 

わぁっ!誰かと思ったら、丸山さんじゃないですか!

鹿嶋さんの事を考えてる時に、誰かに声かけられると本当にビックリしちゃう。でも、丸山さんなら話は別。私は作業をしながらも、顔を丸山さんの方に向けた。

 

「あっ、すみません。突然お声がけして、驚かせてしまって・・・」

「いえ、大丈夫です!すみません。本当は、私から丸山さんへ、ご挨拶に行こうと思ってたんですけど・・・」

「ありがとうございます、明日の件ですよね。俺も、そのご挨拶に来た所です。明日は、よろしくお願いしますね。」

「こちらこそ!よろしくお願いします。本当に、入社の時しか喋ってなくて、自信がないんですけど・・・」

「大丈夫ですよ!館澤さんなら、間違いなく出来ますから。もっと自信を持って下さい。」

 

丸山さんにそう言われると、少しは自信持っていいのかな?

さすが丸山さん!丸山さんにそう言われると、頑張ろうって気になっちゃう。

 

「はい。ありがとうございます!丸山さん。」

「いいえ!館澤さんは、本当に出来る人ですから。一緒に頑張りましょうね。」

「はい!」

 

私がそう返事した、その時だった。丁度丸山さんが他のOPに呼ばれちゃったのは。

あらら、ちょっと残念。でも、これで丸山さんにちゃんと挨拶出来たから、良かったな。

・・そういえば、丸山さんって私より年下なんだよね?見えないよな〜・・・・鹿嶋さんと言い、丸山さんと言い、男の人はやっぱり女より社会に適しているというか、しっかり仕事してるって感じ。

私も、もっと頑張らなきゃ。私に出来る事は少ないかもしれないけれど、自分の力が少しでも役に立つのなら、それを活かしたいもん。

丸山さん、明日はよろしくお願いします・・・って、一応丸山さんに言ったけど、自分の心の中で、もう1回唱えてみる。

そして、またついうっかり鹿嶋さんをチラ見しちゃうんだけど・・・・あれ?鹿嶋さん、席にいないや。でも、その辺でうろちょろしてる訳でもないし、誰かに声かけてるようでもないし・・・・隣の管理本部とかに行ったのかな?それともお手洗い?

まぁ、いっか。鹿嶋さん、忙しいもんね・・・・見られなくて、ちょっと残念な気もするけど・・・・

って、いけないいけない。鹿嶋さんと別れたのに、ホント私ってば、懲りてない。しばらくこの悪い癖、続いちゃうんだろうけど・・・・いつか、もしも鹿嶋さんの事を忘れる事が出来たら、こういう事もしなくなるかな?

今はまだ、鹿嶋さんの事が気になって仕方ないけど・・・・いつか、この恋が良い思い出になる事を願うしかないよね。

鹿嶋さんから今朝もらった仕事も、定時になると共に終わりが見えてきた。基本、私たちバイトには残業ないから本当に助かってるんだよね〜。

でも、鹿嶋さんのようなSVや丸山さんのようなLDさんは、毎日残業してるみたい。本当に、お疲れ様です。

鹿嶋さんと付き合ってた時は、時々鹿嶋さんのお手伝いして、残業した時もあったけど・・・・それでも、月にして20時間位だから大した残業じゃなかった。

それ位なら、今でもお手伝いしていいんだけど・・・・鹿嶋さんにとって、かえって迷惑だよね。

だって、フッた女から『仕事手伝いますよ』って言われて、嬉しく感じるのかな〜?私が鹿嶋さんと同じ立場だったら、さすがに嫌だなぁ〜・・・・

当然、言われたらやるけど・・・・私たちのようなバイトで、『言われる』って事がまずないし。どこの会社も社員には厳しくて、バイトには優しいよね・・・・

なんて思ってたら、時計が18時を指していた。今日のお仕事も終わりだね!でも、まだ5枚入力しなきゃならないのが残ってるよ〜。と言っても、すぐに終わる。後2、3分位かな?

徐々に皆が上がっていく中、私も最後の1枚を入力し終えて、お仕事終了〜!さて、後はこの資料を鹿嶋さんに持って行きたいんだけど・・・・ありゃ。鹿嶋さん、まだ戻ってきてないや。どうしたんだろう?

 

「お疲れ、清香!」

「あっ、お疲れ様〜。なつみちゃん。」

 

席を立ったまではいいものの、どうしていいか分からずに周りを見てたら、なつみちゃんが私の方に来てくれた。

 

「どうしたの?清香。帰らないの?」

「うん。帰ろうと思ってるんだけど・・・鹿嶋さん、どこかな?って思って・・・・」

「えっ?鹿嶋さん?そういえば、姿が見えないわね・・・・」

「そうだよね・・・どうしよう。この資料、鹿嶋さんに返したいんだけど・・・」

「じゃあ、メモでも残して鹿嶋さんの机に置いてけば?わざわざあんたが待ってる必要ないって!」

「うん・・・でも・・・・」

「・・ダメよ?清香。鹿嶋さんに会いたいって気持ちは分かるけど、あんたは仮にも、鹿嶋さんと別れたんだから。それでいいのよ?」

「なつみちゃん・・・・うん、そうだよね。ごめんなさい・・・・」

「いいっていいって!じゃ、早いとこメモ書いて、とっとと帰ろうよ!ね?」

「うん。」

 

こうして、私はなつみちゃんの言う通り、付箋にメモ書きして、資料を鹿嶋さんの机の上に置いておいた。

鹿嶋さんの机の上は奇麗に片付いていたけれど、そのパソコンの画面には難しそうなシステム画面が出てた。うわ〜、さすが鹿嶋さんって感じがするよ〜。

なつみちゃんと一緒に打刻をして、退勤完了〜。お疲れ様でした!

ロッカールームから荷物を出して、私となつみちゃんがロッカールームを出て、エレベーターに向かおうとした、その時だった。エレベーターの前で、鹿嶋さんが女性アルバイトとお話しているのを見たのは・・・・

 

「ホントですよ〜!鹿嶋さんがいてくれないと、目の保養にならないんですから〜!」

「それは悪かった。今度から、ちゃんといるようにするから・・・・何なら、君の前にだけいようか?」

「キャーーーッ!!鹿嶋さん、それホントですか〜!?」

「えぇ〜っ!?じゃあ、私の前にもいて下さいよ〜!私だって、鹿嶋さんずっと見てたいんですから〜!」

「何だ、そうだったのか。確か2人の担当って、赤間さんだったよな?」

「はい!そうで〜っす!」

「赤間さんも面白くて良い人なんだけどさ〜、やっぱ恋愛対象じゃないよね〜。」

「そうそう!だって鹿嶋さん超カッコイイんだも〜ん!」

「そうですよ〜!鹿嶋さんって、フリーじゃないんですか〜?」

 

その女の人たちの言葉を聞いて、私は心に穴が空いたような気がした。やっぱり皆、鹿嶋さんを狙ってるんだ・・・・!

私と鹿嶋さんが付き合ってるのは秘密だった。それこそ、私と同じOPではなつみちゃんしか知らないから、鹿嶋さんがこういう質問されるのは当然・・なんだけど・・・・

私は、昨日鹿嶋さんと別れて、もう何も関係ない筈なのに・・・・この女の人たちに、嫉妬しちゃってる。鹿嶋さんを、取られたくないって・・・・

 

「・・清香。階段から行こっか。」

「えっ?」

「いいからこっち!皆さん、お疲れ様でした〜!」

「あっ、あの。お疲れ様です。」

「あ、お疲れ様で〜っす。」

「お疲れ様で〜す。」

「・・館澤さんに、藤沢さん・・・?ちょっと待った。」

 

なつみちゃんが階段から行こうって言って、私の手を引っ張ってくれてたんだけど・・・・そこに来たのは、鹿嶋さんだった。

やっぱり鹿嶋さんは背が高くて、スーツがよく似合ってて、色っぽい甘いマスクが本当に格好良いな・・・・なんて、見惚れてる状況じゃないのは分かってるんだけど。

そうだ!鹿嶋さんに言わなきゃ。あの仕事の事を。

 

「何ですか?」

「あっ、あの、鹿嶋さん。今日の入力分、終わりましたので・・・机の上に、置いておきました・・・」

「そうだよな・・・悪い。ありがとう、館澤さん。」

「いえ・・・」

「じゃあ、お疲れ様でした。行こう、清香。」

「うん。お疲れ様です。」

「あぁ、お疲れ様。気を付けて・・・」

 

あれ?どうして鹿嶋さんが、そんな切なそうな表情するの?

疑問に思ったけれど、分からなくて。なつみちゃんに手を引かれていたのもあったし、そのまますぐに階段を降りる事しか出来なかったんだけど・・・・

気になるな。鹿嶋さんがあんな顔するなんて、どうしちゃったんだろう?何かあったのかな?

でも、私が突っ込んで聞く事は出来ない。鹿嶋さんとの関係は、昨日で終わってしまったから・・・・

明日からは、いよいよOPだね。よぉ〜っし!こうなったら、開き直るっきゃない!気合い入れて、頑張ろうっと!
















行ってしまったか・・・・出来る事なら、もっとおまえと話したかったんだが・・・仕方ない。

それにしても、悪い事をしてしまった・・・・定時前に席を立つなんて、通常ではあり得ないよな。それは分かっている・・・・だが、丸山君とおまえが話している所を見て、あんなに嫉妬すると思わなかったんだ・・・・

しかもおまえは、笑顔で丸山君と話していた。俺と一緒にいた時と同じ、愛らしい笑顔を丸山君に向けて・・・・だから、俺はいても立ってもいられなくて、抜け出す事しか出来なかった。

全く、本当にらしくないぜ。俺にも、こんな熱い気持ちがあったなんて思わなかった。

 

「鹿嶋さ〜ん。私たちも帰りますね〜。お疲れ様で〜っす!」

「お疲れ様でした、鹿嶋さ〜ん。また明日〜。」

「あぁ、お疲れ様。気を付けて帰れよ?」

「はぁ〜い!」

「はい!」

 

こうして、さっきのOPの子たちとも、挨拶したんだが・・・・そういや、おまえは資料を机に置いておいたって言ってたよな?どれ、見に行くか。

ロッカールームを越えて、仕事場に着く。OPの連中はほとんど帰っていて、残っているのはまだ話の終わらない何人かのOPと、LDとSVのみだ。

通常このOP部1課だけで60人以上はいるんだが、今は15人位しかいない。一気に静かになって、ガランとした感じだな。

席に戻って見てみれば、確かに今朝おまえに渡した資料が、そこには置いてあった。しかも付箋付きで。

付箋を見てみると、『鹿嶋さんへ。入力全部終わりました。ご確認下さい。よろしくお願いします。館澤』と書かれていた。

おまえらしくて、分かりやすいメモなんだが・・・・何だか、無性に悲しくなるな。

確か、おまえに告白されて付き合おうと決めた時には、ラブレターもくれたよな。この奇麗な文字で、『鹿嶋さんが好きです』って書かれていたのを、今でも覚えている。

だが、あの時の俺は自意識過剰すぎたから、今そのラブレターがどこにいったのかは分からない。と言うか、捨てた・・かもしれんな・・・・

本当に、我ながらどうしようも出来ないぜ。あのラブレターが残っていれば、それで少しは自分自身を元気付けられるかもしれないのに・・・・

・・どうやら、俺は相当大切なものを失くしてしまったらしい。おまえが・・・おまえの存在が、俺にとってどれほど大きかったかを、証明させられる。

愛している、清香・・・・どうか、戻ってきてくれないか。俺の元に・・・・待っているから。おまえが、もう1度俺の事を見てくれるまで、ずっと・・・・・


  

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