第9話 別れたとは言え、やっぱり鹿嶋さんは上司として、1人の人間として尊敬しちゃう。お昼休みなのに、わざわざ私のロープレに付き合ってくれたんだもん。 鹿嶋さんのその優しさが、本当に身にしみます・・・・ありがとうございました。 ロッカールームに行って自分の荷物を取り出す。そこからケータイを取り出してみると、メールが来ているランプが点滅していた。 きっとなつみちゃんだよね!案の定ビンゴで、『先に休憩室で待ってるね〜』っていうメールだった。 ・・そういえば、今になって気が付いたんだけど。私、鹿嶋さんのケータイ番号とメルアド、登録したまんまだった・・・・! やっぱり、これって削除すべきだよね?ヤバイ、すっかり忘れてたよ〜。 ・・でも、どうしてか出来ない。鹿嶋さんの情報出して、『機能』から『削除』って選べばすぐに済む話なのに・・・・ つい今まで、わざわざお昼休み削って私のロープレしてくれたのに・・・・そんな優しい鹿嶋さんの番号削除するなんて、出来ないよ・・・・! やっぱり私は、鹿嶋さんが好き。まだ、この気持ちは変わらない・・・・うぅん。きっと、しばらく変わらない。だって、鹿嶋さん以上に好きになれるような男の人なんていないもん・・・・ でも、別れたのにまだ番号あるなんておかしいよね。いずれは、削除しないといけないんだろうなぁ・・・・でも、これは後でイイや。今の私には無理だし・・・・ 私はケータイを閉じて、すぐに休憩室に向かった。今日は朝にコンビニ寄って、事前にお昼に食べる物買っておいてたんだ〜。 休憩室は7階にあって、7階の人たちと共同で使う事になっている。でも、ここで鹿嶋さんのような社員さんを見かけるのは、喫煙室に行く時位。だから、休憩室は私たちのようなアルバイトかつOPの溜まり場みたいになってるんだ〜。 あっ・・・でも、私はよく分からないんだけど、管理本部の一部の人とか、ここで食べてるらしいんだよね〜。 私がそう思いながら、休憩室に入ったその時。私の目には、すぐになつみちゃんの後ろ姿が飛び込んできたんだけど・・・・あれ?誰だろう、なつみちゃんとお話してる人。スーツ着てるから、男の人・・だよね? しかも、スッゴク仲良さそうにお喋りしてる〜!えぇっ!?誰だろう?あんなスーツ着てる男の人、ウチの部署にいないと思うんだけど・・・・近付いてみても、いいのかな? 恐る恐る私がなつみちゃんに近付くと、なつみちゃんが偶然にも私の方を振り返ってくれた。その途端、なつみちゃんってばすごい奇声を上げちゃった! 「キャーーーッ!!清香、やっと来たのね〜!超待ってた〜!」 「えぇっ!?うっ、うん・・・・」 「・・どうやら、待ってたお友達がご登場のようだね。」 スーツを着た男の人がそう言って、それまでなつみちゃんの隣に座っていた所からスッと立ち上がったんだけど・・・・わぁ〜っ!とっても背が高くて、細いなぁ〜。脚もとっても長いし・・・・何か、鹿嶋さんみたい。 しかも、声が!この男の人の声、ただ低いだけじゃなくて、妙に甘い感じって言うか、すごく心の奥底に響くって言うか・・・・とっても素敵な声だなって思っちゃった。 思わず、その人の顔を見てみると・・・・えぇ〜っ!?眼鏡かけてるけど、それがスッゴク似合ってる〜!何か、見た目は知的な男の人っぽいんだけど、随所に色っぽさが見え隠れしてるような、そんな感じ。 うわ〜、何〜?この人〜。ウチの会社に、こんな誘惑的なフェロモンたっぷり持ってる人がいたんだ〜・・・・ って、色気の点で言うなら、鹿嶋さんも普通の人より一杯あるんだけど。この人は、そんな鹿嶋さんを超えてるような気がするよ・・・・・ 「あっ、あの、すみません!私、突然来てしまって・・・」 「いいのいいの、清香は別!あぁ、それより!せっかくですから、もう少しお話していきませんか〜?柏木さ〜ん。」 「ありがとう。でも、せっかく待ってるお友達が来たんだし、俺はもう十分楽しんだから、いいんだよ。」 「そうでしたか〜、ざんね〜ん。また今度、お話させて下さいね!」 「ありがとう。じゃあ、昼休みを楽しんでね。」 「は〜い!柏木さん、ありがとうございました〜!」 「どうも・・・・」 一応、私もお辞儀してみた。 何だろう?この男の人・・・・何と言うか、鹿嶋さんとタイプ的に似てる感じがする。色っぽくて、とっても格好良くて・・・・ 眼鏡かけてたし、ルックスは鹿嶋さんと全然違うんだけど、何と言うか・・・・放ってる雰囲気と言うか、取り敢えず色気フェロモンが尋常じゃなかった。 「・・ごめんね、なつみちゃん。私、お邪魔しちゃったみたいで・・・」 「あぁ〜、ぜ〜んぜん!危うくあの人の色気に騙されそうだったから、清香が来てくれて丁度良かったよ〜!」 「えぇっ!?そっ、そうなの!?それって、本当に良かったのかな!?」 「うん、全然OK〜!ってか〜、あたし恋愛するなら社外の人がイイも〜ん!だから、危なかった〜。清香、あの人には気を付けた方がイイよ?」 「えっ?今の男の人って・・・・」 「この7階にある、営業本部の柏木さん。清香も、噂で聞いたコトない?プレイボーイで有名って・・・」 「あっ・・・!えぇっ!?今の人が!?うわ〜。確か、相川さんとかがファンだって言ってなかったっけ〜?」 「うん、その通り!今の人が、その人だよ。」 えぇ〜っ!?そうなんだ〜、通りで・・・・放ってる色気フェロモンが尋常じゃなかったのも、納得です・・・・ あの男の人・・・柏木さんに関する事は、噂でしか聞いた事がないんだけど、社内一のプレイボーイだって評判なんだ〜。 何か、雰囲気が本当に『プレイボーイ』って感じで、色気フェロモンたっぷりだったなぁ〜。それに、眼鏡似合っててとっても格好良かったし、頭良さそうだし、優しそうな雰囲気だった。 あの人は、間違いなくモテそう。誰が見てもそう思うし、実際そうなんだと思う。 なつみちゃん、そんな柏木さんと、随分楽しくお話してたよね・・・・?スゴイなぁ〜。さすがなつみちゃんって気がする。 「そうなんだ〜・・・・なつみちゃん、お友達なの?」 「ン〜。まぁ、顔見知り程度かな〜?それより!どうしたのよ〜!?清香〜。鹿嶋さんと居残り授業なんかしちゃって!」 「えっ!?うっ、うん。ほら、今日から私もOPになっちゃったでしょ?不安で、何度もマニュアル読み直してたら、鹿嶋さんが声かけてくれて、それで・・・・」 「ふ〜ん、そ〜う。へぇ〜〜〜・・・・・・」 ウゥッ。なつみちゃんのジトーッとした視線が、何だか怖いです・・・・ それまでかじっていたサンドイッチを口から離して、私は恐る恐るなつみちゃんを見た。すると、なつみちゃんは私から視線を外してから、私に尋ねてきた。 「・・あたし、思うんだけど。あんたと鹿嶋さんが別れてから、前以上に鹿嶋さん優しくなってない?」 「えっ?そうかな?私は、それまでと全く変わらない気がするんだけど・・・・」 「あっ、そうなの?清香がそう思うなら、あたしの思い違いかな〜?」 「でも。なつみちゃんは人を見る目があるから、私の知らない鹿嶋さんを知ってるかも。」 「えぇっ?それ、元カノとして立場なくな〜い?」 「ウッ。確かに・・・・」 「ヤ〜ダ〜!そこで認めないでよ〜、清香ってば〜!」 「エヘヘッ。ごめんなさい・・・」 確かに、私は他の人より鹿嶋さんと一緒にいる時間は多かったかもしれない。でも、だからと言って鹿嶋さんの全てを知ってるかと言えば、それは違うと思う。 それに、恋人から見た視点と、他人から見た視点って違うじゃない?だから、私だけが知ってる鹿嶋さんの情報も一杯あるけれど、なつみちゃんはなつみちゃんで、私の知らない鹿嶋さんを知ってそうな気がするの。 特に、なつみちゃんは人を見る目があるなって思うんだ。実際、鋭いし・・・・交友関係幅広くて、色んな人と仲良いからかもね。 「・・でもね、清香。あたしのこの考えが正しいとすれば・・・・それってつまり、鹿嶋さんが改心したってコトにならな〜い?」 「えっ?改心!?鹿嶋さんが!?」 「そうよ〜!・・って、清香。驚きすぎ・・・」 「だって、考えられないよ!鹿嶋さんが反省する所なんて、見た事ないもん!」 「・・あんたが言うと、妙に説得力あるわね・・・・」 「でしょ〜?だから、改心はないと思うなぁ〜。」 「そう?・・・でも、清香は後悔してないの?鹿嶋さんと別れた事・・・・まだ好きなんでしょ?」 ギクゥッ!そ、それは・・・・ 後悔は、してないつもりなんだけど。ふとした時に鹿嶋さんの方を見ちゃうのは否定出来ないし、好きなのも・・・・そう簡単に、嫌いになんかなれないよ・・・・ 「・・うん。鹿嶋さんの事は、まだ・・・・でも、別れた事に後悔はしていないつもりだよ?鹿嶋さんが、他の女の人と話してるの・・・・仕事のお話だって分かってても、嫉妬が抑えられなかったのに・・・鹿嶋さんの場合、それだけの話に留まらないから・・・・」 「確かに。あの人、フェミニストで女好きだからタチ悪いのよね〜。それに見た目良いのが、かえって癪に障る!何であの人って見た目あんなパーフェクトなワケ〜?ねぇ、清香〜!」 「アハハハ。それは、持って生まれてきたものだから・・・・」 「確かに、そうなんだけどさ〜。ズルイわよね〜、あんな悪い性格してるのに、見た目完璧だなんてさ〜。どうせなら、あたしをもっと美人にして欲しかった!」 「そんな。なつみちゃんは、とっても可愛いと思うけどなぁ〜?」 「清香・・・もう、あんたって子はホントに・・・・・!鹿嶋さんはバカよね。こんな優しい良い子とあっさり別れちゃうなんて。そう思わない?清香。」 「えぇっ!?別に、私、そんな・・・・だってなつみちゃん、本当に可愛いと思うよ?」 これは、私の本当の気持ち。だから、『優しい良い子』とか言われる所以はないんだよ? なつみちゃんは、流行を追っててメイクもバッチリだし、仕事も出来るし、色んな人と仲良いから、本当にスゴイ人だと思ってるんだ〜。 そんななつみちゃんが、私と友達になってくれた事が本当に嬉しい。だから、私の出来る範囲で、なつみちゃんに尽くせたら良いな。 「・・ありがと、清香。あんたのそーゆートコ、本当に大好き!」 「キャアッ!なっ、なつみちゃん!?」 なつみちゃんが、私に抱き着いてきたよ〜! 時々されてた事だったけど。まさか、今されると思わなくてビックリしちゃった・・・・! 「清香、午後からまた頑張ろうね!席遠いけど、応援してるから!」 「うん、頑張る!ありがとう、なつみちゃん。」 お昼ご飯もきっちり食べたし、なつみちゃんの言う通り、いよいよ午後から本番だ!気合い入れて、頑張ろうっと! |