その日の夕食を食べ終えてからは、私・・ひどく落ち着きがありませんでした。もう・・お兄様のお部屋に行っても良いのでしょうか?それとも・・・お兄様まだお仕事中だったりするのでしょうか?
あっ・・ですけど、お兄様はお仕事なさる執務室とご自分の私室は分けていらっしゃるんですよね。ですから・・・お兄様の私室に行ってみて、もしいらっしゃらなかったらお兄様はまだお仕事中で・・・・・・私、早くお兄様にお会いしたいです・・・・
う〜ん、ですけど・・・昔からお兄様は、結構・・夜遅くまでお仕事なさってらっしゃるんですよね〜。私、お兄様のお仕事を邪魔したくないです・・・お兄様の私室のお部屋のドア鍵が開いているとは思いませんし・・・・う〜ん。後1時間位待ってみましょうか・・・・・
私はお兄様にお会いしたい気持ちを抑えながら本を広げました。えっと、今見ている本は・・古文書です。え〜っと、昔の王朝についての記述が書かれてる本なんですよ〜。たまには私も、ちょっとだけ貴族らしくお勉強しなきゃダメですよね・・・お兄様の妹ですし。
と思って、私は本を読んでいた・・・つもりだったんですけど・・・・・

 

 

「・・・カ・・・・・・て・・・・・」

ん〜、どこでしょう?何か・・遠くから・・お声が聞こえる気がします・・・・

「・・スピカ・・起きて・・・スピカ?」

えっ?えっと・・このお声・・・何だか、とても耳に馴染み深いお声で・・・私を、呼んで下さってますか・・・・?

「スピカ?ほら、起きてごらん?・・・全く。困った妹だね〜・・・・」

そうして気が付けば・・・・私の唇に、誰かの唇が重なって・・・・!!

「!!」

ヒャアッ!!!えぇっ!?これって・・どういうことですか!?えぇ〜っと・・・?

「フフッ・・やっと起きてくれたね、スピカ・・・お兄様のキスで目覚めるとは、都合が良いね。」

!!!お・・お兄様!?

「おっ、お兄様!?あっ、あの!!わ、私・・もしかしなくても・・・・ね、寝てました・・・・?」

私は恐る恐るお兄様に尋ねました。

「フフッ、そうだね。とてもよく眠っていたよ・・・最初は寝顔を見たくて起こさなかったんだけど・・・何分経っても起きてくれる気配を見せてくれないから・・とうとうキスまでしてしまったよ。」

ウ、ウワ〜ッ!どうしましょう。迂闊にも寝ちゃってたなんて・・・し、しかもお兄様に寝顔見られたなんてーーーー!!!うぅ〜っ。何か恥ずかしいです〜・・・・

「ね、寝顔見るって・・私の寝顔なんて見ないで下さいよ〜!!恥ずかしいです〜!!」
「ふ〜ん・・・・フフッ。昨日裸を見せたのと、どちらが恥ずかしいのかな?」

うぅっ!!お兄様ひどいです〜・・・・恥ずかしさで、どんどん顔と体が熱くなっていきます〜・・・・!

「ど、どちらもです!!」
「フフッ、そうか。ねぇ、それよりスピカ・・・おまえは大切な・・それはもう大切な約束を忘れてはいないかい?」

えっ?大切な約束?えぇ〜っと・・・・・・あぁーーーーーーーっっっ!!!い、いけないです〜!!私ったら眠ってしまって・・・ウ、ウワワワワ〜ッ!!

「あっ、あの!あの!!!お兄様、すみません!!!私、その・・・・!」
「フフッ。今はまだ、言い訳は聞かないよ・・・・私の部屋に行こう。話はそれからだよ、スピカ。」

ギクギクッ・・・・な、何か・・・お兄様、微笑んでらっしゃるのに・・・スッゴク怖いです〜!!!うぅ〜っ・・それはもちろん、寝てしまった私が悪いんですけど〜・・・えぇ、とっても悪いんですけど〜!!

「あ・・は、はい・・・」

私は一応返事をして、それからすぐに私とお兄様で部屋を出て、お兄様の部屋の方に向かいました。その間、お兄様は私の前に立って歩いて、何も話して下さらなくて・・・私も怖くて、お兄様に話しかけることが出来ませんでした・・・・・・
無言のまま、私とお兄様は歩いて・・そしてお兄様のお部屋に着きました。お兄様はドアを開けて私を招き入れて下さったんですけど・・・部屋に入った途端、お兄様は鍵をおかけになりました・・・・何か、カチャッという音がとてもよく聞こえて・・怖いです・・・・・

「さ、スピカ。そこのソファーに座ってごらん。」
「あ・・はい・・・・」

な、何か・・お兄様の放っている雰囲気が、とっても怖いです〜・・・・うぅ〜っ、お兄様・・口調や言動はいつもと全然変わらないんですけど・・妹の私には分かります。お兄様、明らかに怒ってらっしゃるんです・・・・ウワーン、どうしましょう・・・・
お兄様は私の向かい側のソファーに腰掛けられました。それで私を1回だけ見てから・・軽く咳払いされて仰いました。

「・・・本当なら・・おまえにミルクティーの1つでも淹れるべきなんだろうけど、ここまで予定を覆されるとは思っていなくてね〜・・・・単刀直入に聞くけど、おまえは本当に私との約束を覚えてくれていたのかな?」

ウッ・・・・お兄様・・やっぱり、怒ってらっしゃいます・・・・

「あ、は、はい・・・その・・覚えては、いました・・・・」
「・・寝てしまった理由は・・おまえの下にあった本かな?」
「・・・は、はい・・・その・・お兄様、本当にすみません!!!お約束していたことを・・私・・・・!その、本当にすみませんでした!!・・・私、本当はずっと、お兄様のこと待つ気でいて・・・・」
「・・待つ気でいて・・寝てしまったのかい?」
「あっ、その・・・・お兄様は、夜遅くまでお仕事をなさっておいででしたから・・・・その、お兄様のお仕事の邪魔だけはしたくなくて・・・・」

と、私が言った所で・・お兄様が私のすぐ横に移動して座られて・・・・私は、お兄様に抱き締められていました・・・・

「・・私の仕事なんていいんだよ・・・・私にとっては、おまえと会うことの方が重要だよ・・・・」
「!お、お兄様!!そんな、あの・・・・!」
「もう私は、おまえをこれ以上手放したくないんだよ!!」

と、珍しくお兄様が声を荒げてそう仰られたので・・・・私、本当に驚いてしまいました。こんな・・こんな感情的なお兄様を見たのは、本当に・・滅多にないことです・・・・

「お・・おにい、さま・・・・」
「・・・・おまえが2年前に倒れてしまった時、私は何も出来なくて・・・・ここ2年間、おまえの傍にいることも出来ずに・・ただ、仕事をするのみ。おまえとの連絡手段は、手紙のみで・・・・・そんな生活、私はもう沢山なんだよ・・・・!私は、おまえがいてくれれば・・それでいいんだから・・・・」

お兄様は、強く・・とても強く、私のこと・・抱き締めて下さいました・・・・・
今はお兄様、怒ってらっしゃらないみたいですけど・・・・こ、こんなに強く抱き締められて、そんなことを言われてしまいますと・・・私、心が苦しくて・・・・!

「お、お兄様・・・・!」
「・・お願いだから・・・・1分でも・・1秒でも長く、私の傍にいてくれないかい?・・・私は、おまえがいないと・・・これ以上生きていけないよ。」
「えっ・・?ええぇぇっ!?」
「フフッ・・・・それ位、私はおまえを愛してしまっているよ、スピカ・・・・・」
「・・・おにい、さま・・・・・」

私・・・そんなに、お兄様に愛されてるんですか・・・・?私・・今まで以上に・・お兄様に確実に愛されてるって・・自惚れちゃってもいいんでしょうか・・・・?

「・・ねぇ、スピカ。」
「はい?」

お兄様が一気に私を抱き締める力を緩めて下さいました。ですけど・・まだ腕は私の体に回して下さったまま、お兄様は仰いました。

「・・お兄様にこんなことを言われて・・・おまえはどう思うのかな?」
「えっ?」
「・・・嬉しいのかな・・・?それとも・・気持ち悪いと思うのかな?」

お、お兄様・・・・

「えっ?その・・・私・・嬉しいですよ?お兄様・・・・気持ち悪い、とは思わないです・・・・」
「スピカ・・本当かい?」

お兄様は、私を見つめてそう尋ねられました。な、何か・・お兄様にこんなに見つめられてしまうと、ちょっと恥ずかしいです・・・・

「本当です。その・・・私も、お兄様のこと・・大好きですもの・・・お兄様と、ずっと一緒にいたいと思ってます・・・・!」

私はもう恥ずかしさを吹っ切って、お兄様に改めてそう告白しました。そして・・今度は私からお兄様を抱き締めました。
お兄様は・・驚いていらっしゃったのか、少しの間だけ反応がなかったんですけれど・・・すぐに私のこと、抱き締めて下さいました。

「ありがとう、スピカ・・・・!フフッ・・私はね、本当に嬉しいよ。こんなに嬉しいと思ったのは・・とても久しいことだよ。」
「・・お兄様・・・・」

お兄様・・・本当に、嬉しそうに笑ってらっしゃいます。いつもお兄様は、余裕たっぷりのニヒルな微笑みを浮かべておられますけど・・・・お兄様の、こういう本当の優しい笑顔・・私、大好きです。お兄様のこんな笑顔を見ていると・・・・私も、つい嬉しくなっちゃって・・・・自然と顔が笑みを浮かべてしまいます。


  

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