第10話

「なっ・・・・!あ、あのね〜!!!七馬、あんた人をからかうのもいい加減にしなさいよ!!!」

「からかってねぇぜ?」
「ウソだ!!絶対ウソだーーーーー!!」
「超本気。」

叫ぶ及子も迫力があったが、余裕の態度で言い切る七馬にもまた迫力があった。及子はその七馬の余裕さと冷静さを信じられないといった思いで見つめる。対して七馬は余裕の微笑を浮かべて及子を見ていた。

「ってゆーか、あんたって絶対他の女の子にも平気でそーゆーコト言ってんでしょ!?何であたしにまで言うのよ!!!」
「はぁ?キス欲しいって言ったのおまえだけだけど?」
「ウソつけ!!!女好きのあんたにあり得ないでしょ!!そんなの!!」
「勝手に決め付けんなよ。事実じゃないコト言われると腹立つ。」

七馬が眉をつり上げて及子にそう言った。それまで及子に優しく接してくれていた七馬にここまで強く言われてしまうと、及子は言葉に詰まってしまう。

「ウッ・・と、とにかく!!そーゆー冗談だけはやめて!!」
「冗談じゃないっつの。おまえも聞き分けねぇな〜。」
「あのね〜!!あんた、あたしとキスして嬉しいとか思うの!?」
「そりゃ、もちろんだぜ?」

及子としては、ここで七馬に否定して欲しかったのだが・・・あっさり肯定されてしまい、及子は完全に言葉に詰まってしまう。

「ハウッ!!」
「フッ・・おまえ、イイ顔するな。」
「ダーーーッッ!!とにかく、それだけは出来ない!絶対出来ない!!」
「どうしてだよ。」
「だ、だって!!恥ずかしいじゃん!!!」

及子は顔を真っ赤にしてそう言った。そんな及子を見て、七馬はフッと色っぽく微笑んで見せる。

「誰も唇にしろ、なんて言わねぇよ。頬に軽くでイイからさ・・・それなら、恥ずかしくねぇだろ?」
「・・十分恥ずかしいってば・・・」
「・・・そんな顔するなよ。このままずっと、傍にいたくなる・・・」

七馬は、照れて顔を真っ赤にしている及子の頬に手を置いてそう言った。及子はドキドキと胸の高鳴りを感じずにはいられなかった。

「か、七馬・・・・」
「・・早くキスしろよ・・・そしたら、おまえも俺も解放されるんだぜ?」
「アウ。で、でも、ここだとちょっと・・・・」
「分かった。んじゃ、もうちっと人気のない場所行くか?」
「出来れば、全然人がいない所がイイ・・・・」
「OK。んじゃ、行くか。」

そうして七馬は花束を抱え直し、先に立って歩いた。及子はその後ろに着いて行った訳だが・・・七馬の大きい背中を見ているだけで、及子はとても切ない気持ちになった。
すぐ近くに七馬はいるのに、どうしてこんなにも胸が痛いのだろうか?誕生日プレゼントがあげれなかった罪悪感だろうか?否、そうではない。七馬と2人きりになることが怖い訳でもない。
及子の胸が痛い理由はただ1つ。それは七馬にとって一番特別な存在になりたいと思っても、叶うことがないだからだ。今はまだ「友達」とも言えない、一昨日初めて出会ったばかりの超お坊ちゃまである。悦子が「付き合ってる子がいる」とも言っていたし、どんなに七馬の特別な存在になりたくてもそれは無理なのだ。

「・・ここら辺ならイイかな。」

そうして七馬は歩みを止めた。ふと及子が現実の世界に戻ると、そこは大学礼拝堂の入り口前だった。

「えぇっ!?七馬、外だよ!?誰かに見られそうだよ〜!!」
「そうは言っても、誰も人いねぇだろ?ここ。」
「確かにそうだけど!!例えばあの教室の窓とかからさ〜!!」

礼拝堂は大学の本館とは少し離れた場所にある。ここにいると教室の窓がよく見えるのだ。つまり教室の窓からは、こちらが丸見えなのである。

「考えすぎ。まだ講義始まんねぇんだぜ?あーゆー講義専用の教室に誰かいるように思うか?」
「ウッ・・万が一ってコトがあるじゃ〜ん。」
「心配しすぎだって。すぐに終わるんだしさ・・・」

そう言うと、改めて七馬は及子を見つめた。七馬の何とも言えない独特の色っぽいカッコ良い眼差しに及子はドキドキしていた。

「う、うん・・・えっと。お誕生日おめでとう、七馬・・・・」

及子は最高にドキドキしながらそう言い、意を決して七馬に近付き、七馬の左頬に触れるか触れないかの軽いキスをしてすぐに離れた。七馬は顔を真っ赤にした及子を見つめる。

「サンキュ・・・出来れば、もう少しちゃんとキスして欲しかったんだけどな〜?」
「ム、ムリムリ!これ以上はホントにダメ!!」
「・・分かったよ。仕方ねぇ・・・んじゃさ、一緒に帰ろうぜ?」
「はぁっ!?」

出来ればこれ以上七馬と一緒にいたくない。心臓がすごい勢いでバクバクいってるからだ。そんな及子のことを知ってか知らずか、七馬は色っぽい微笑を浮かべて言った。

「もう少しおまえと一緒にいたいんだよ。家まで送ってやるからさ。」
「えぇっ!?イ、イイよ!!」
「いや、今から爺呼ぼうと思ってたんだ。車だから心配すんな。」

そうして七馬は携帯電話を取り出したかと思うとすぐにまたしまい込んだ。及子は何が起こったのか分からず首を傾げる。それを見た七馬がすぐに説明した。

「あぁ、今爺にワン切りしたんだ。これ、学校に迎えに来いっていう合図な。取り敢えず校門前の乗り場まで行こうぜ。」
「う、うん、分かった。」


  

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