第11話 「あっ、ねぇ?七馬。姉さんから聞いたんだけど、付き合ってる彼女いるんでしょ?」 七馬は少しばかり複雑な表情をして及子にそう言った。及子はコクンと頷く。 「バッチリ聞いたって。どうせ誕生日にキスしてもらうなら彼女が一番良いクセに・・・・」 七馬はそう言って花束を抱え直した。そういえば悦子もそんなことを言っていた気がしたが、どうやらこの七馬の口ぶりからするにまだ別れてはいないようだ。 「あのさ〜、彼女大事にするのが普通じゃないの?」 そう言った七馬を及子が即否定した。 「ウソだ〜!!七馬は絶対、5人位本命の人いるんじゃないの〜?」 そう言う七馬の瞳に迷いやウソは感じられなかった。及子はそのことで少し驚く。 「へぇ〜・・・んじゃ〜、何でそう、やたらめったら女の子に愛振りまいてるの?」 七馬は怒らず、むしろ笑い出した。及子としては真剣に考えたつもりだったのに笑われてしまったことで、少しばかりムッとしてしまう。 「七馬のバカバカ〜!!どうせあたしは語彙ないも〜んだ!!」 そこまで言った所で2人は校門前にある車の乗降場に到着したのだが、まだ七馬のお迎えの車は来てないようだ。 「おまえのコトだから多分聞いてると思うけど、匠さんは俺の義理の兄貴なの。だから、悦子さんと匠さんが付き合ってた頃からずっと見てたけど・・・おまえが今言ったようなセリフ、悦子さんがよく匠さんに言ってたぜ。」 七馬が笑顔でそう言った。及子はそれを聞いて思わず苦笑してしまう。 「アハハハハ。そうなんだ・・・・確かに姉さんはあたしよりちょっと常識よく分かってないし、国語苦手だったらしいからな〜。」 七馬としては特に深い意味はなかったのだろうが、及子としては大いに心を抉られる発言だった。確かに姉の悦子は自分より何倍も奇麗だし可愛いと思う。だからこそお茶の間のアイドルとしてすっかり定着したと思うのだが・・・ 「やっぱ男の人は、年齢関係なく姉さんのこと可愛いって思うんだね〜。」 と七馬が言った所で、1台の何やらテレビでしか見たことのないような車が乗降場に入ってきた。七馬はそれを見てすぐに車に近付く。及子も慌てて七馬の後ろに着いて歩いた。 「よっ。お疲れ、爺。わりぃな、何回もこうして来てもらって・・・」 七馬が爺と呼ぶその人の発言を聞いた七馬は、難しい顔をして頭を抱えてしまった。一方の及子も話だけ聞いて「さすが七馬・・・」と改めて感心してしまった。 「マジかよ・・・それ、やっぱ全部花束?」 そうしてこの老人は車の一番後ろのドアを開けて七馬と及子を乗せた。それからドアを閉め、自身が運転席に乗り込む。間もなく車がゆっくりと走り出したのだが・・・及子は恐る恐る七馬に尋ねた。 「あ、あのさ、七馬。この車って何?」 よく「超大豪邸!世界のお金持ち特集」とかで見るような車だと思ったら、やはりビンゴだったようである。及子のドキドキはますます強くなった。 「まぁな。でも今は大した装備じゃないぜ?一応DVDは見れるけど、後は冷蔵庫とテーブル位しかねぇし・・・」 思わず興奮してしまって及子は七馬にそう聞いたのだが、七馬は面白そうに笑った。 「ハハハハハハッ!!別にへこませてイイぜ?その位、大したモンじゃねぇって。」 七馬は笑ってそう言ったのだが、及子はそのことに驚いて七馬に言った。 「いっ、いやいや!!機会なんて、そんなないだろうから・・・」 車がゆっくりと止まったかと思うと、「はい、坊ちゃま。」という返事が返って来た。それからすぐに及子たちの座っている車のドアが外側から開かれた。 「さ、どうぞ。及子様。」 そうして及子が車から降りると、すぐに七馬が窓を開けて及子に手を挙げた。 「今日は色々サンキュ。楽しかったぜ?また明日な。」 そうして、最後まで2人は手を振って別れた。あのリムジンに及子自身乗っていたのだな〜と思うと信じられなかったが、これが事実なのだ。七馬の要望とは言え、頬に軽くキスしたことも・・・ 「・・ちょっとだけ、頑張っていけるかも。」 昨日失った学校生活への自信を及子は取り戻せたような気がした。七馬がいれば頑張れる。及子はそう言い聞かせて、それから今日1日をゆっくりと過ごしたのだった。 |