第12話

あっという間に毎日は早く過ぎ去っていくものだ。気が付けば明日から「みどりの日」になろうとしている。そう、ゴールデンウィークの始まりだ。

琥珀大学は、ゴールデンウィーク中は全学休講らしい。丸々5月5日までの1週間が休みということで、及子は嬉しいながらどこか悲しかった。

(休みってのはイイんだけど、肝心の姉さんはゴールデンウィーク特有のイベントで忙しいみたいなんだよね〜・・・さすが売れっ子アイドル。)

そう、ゆっくり家の中で時を過ごそうにも大好きな姉・悦子がいないと1人で家にいてもつまらないだけである。それに及子の友達である七馬と沙織は大財閥でその動向が注目されているし、芸能リポーターのテルもそのような有名人達のバカンス取材で忙しそうだ。
結局休みになったとは言え、及子にとっては寂しいゴールデンウィークでしかないのだ。今日の講義が終わり、及子が「ハァ〜・・・」と寂しい溜め息をつくと、隣に座っていた七馬が少しばかり目を見開いて及子を見た。

「何かパッとしねぇ顔してんな?おまえ。明日から休みだってのに、嬉しくねぇの?」
「いや、学校休みなのはイイんだけどさ。姉さんはもちろん、七馬や沙織も忙しいっぽいし、テルもそうでしょ?1人で1週間もグータラしなきゃいけないんだな〜、と思うと憂鬱で・・・」
「あれ?悦子さん、おまえのコト誘ってねぇのかよ?」

七馬の意味深な発言に、今度は及子が驚く番だった。

「はぁっ!?誘うって?」
「明日、みどりの日のイベントで俺と悦子さんがゲストで呼ばれてるんだよ・・・・悦子さん、そーゆーのおまえに言わねぇの?」

七馬が少し驚きながら及子にそう言うと、及子は苦笑してそれに答えた。

「いや、実はあたしが姉さんに頼んでるんだ。お仕事の詳細はあたしに言わなくてイイよって。」
「はぁっ?どうしてだよ。」

七馬の驚きがますます強くなった。及子は苦笑したまま話す。

「ン・・前に姉さんがあたしを自分のコンサートに呼んでくれたことがあったんだけど・・・そこで「妹」ってコトでやたら注目浴びちゃって、恥ずかしいやら何やらで・・・あの時は本気で逃走したいと思ったよ。もうあんな経験したくないから、それで・・・・」
「ふ〜ん。しょうがねぇな、せっかく明日は俺の全額おごりで豪華ディナーに行くってのに・・・・おまえも来ねぇか?」
「えぇっ!?いっ、いや、イイって!!それってイベントの打ち上げみたいなものなんでしょ?関係ないあたしが行っても意味ないって〜。」
「悦子さんの妹って時点で、おまえは十分関係者じゃん。来いよ、良いモンおごってやるからさ。」

七馬が笑顔で及子にそう誘いかけた、その時だった。及子と七馬の背後から「及ちゃ〜ん。」という優雅な女の子の声が聞こえてきたのは。

「えっ?沙織!?」

及子と七馬が振り向いてみれば、そこにいたのは優雅な大財閥の美少女・厚木沙織と芸能リポーターのテルだった。

「ハァ〜イ!及子サ〜ン、七馬ク〜ン!ah〜、お2人の会話を邪魔する気はなかったんですが・・・・」
「オホホホホッ。テルがそうでなくても、私はその気なのですわ。七馬、及ちゃんを無理矢理誘うのは良くないですわね。及ちゃんと一緒にいたいという魂胆が丸見えなのですわ。」

沙織が少しムッとした表情で七馬にそう言った。沙織は本気で七馬が及子の傍にいることを反対しているようだ。

「おまえには関係ねぇだろ?俺がこいつと一緒にいて何が悪いんだよ?」
「及ちゃんの身が汚れることを案じているのですわ。私のいない間、あなたが何か及ちゃんに悪さをしないかと心配なのです。」
「アハ、アハハハハハ。沙織、何言ってんの〜。七馬がそんなコトする筈ないじゃん!とぉ〜っても美人な子だとかとぉ〜っても可愛い子とかならともかく、あたしにはあり得ないから。」

何やら沙織と七馬が衝突したことで、今回は及子自身が割って入って宥めた。

「そんなことないのですわ。及ちゃんはとても奇麗で可愛いんですの。だからこそ不安になるのですわ。」
「大丈夫だってば〜!沙織〜。それなら、むしろ沙織の方が超美人だし可愛いから男子に狙われそうだよ〜?」
「あら、及ちゃんにお褒めいただけるなんて嬉しいですわ。ですけどご安心下さい。私、多少武術の心得がありますの。」
「ええぇぇっ!?沙織が武術〜!?」

どう見てもおしとやかで優雅な沙織が武術に明るいとは思えない。しかし及子の驚きをよそに、沙織は返事をした。

「はい。弓道と、拳法の方を少々・・・」
「少々とかゆーレベルじゃねぇだろ、おまえ・・・・」
「アハハハハハ。及子サ〜ン、沙織サ〜ンはどちらの競技においても有段者なんですよ〜。」

七馬の突っ込みにテルが補足を付け加えたことで、及子の驚きは更に膨れ上がる。

「えぇっ!?そうなの!?沙織ってすごいんだね〜!!護身みたいな感じ?」
「はい、そうですわね。それに、今はテルがナイトをして下さってますから、変な方は寄って来ないのですわ。」

沙織が笑顔でそう言うと、テルも屈託のない笑顔を見せた。

「そですね〜。今はすっかり沙織サ〜ンのknightになってしまってますね〜。」
「えっ?何。沙織とテルって付き合ってるの?」

沙織とテルの間に、及子は友達以上の感情を見出した気がしたのでそう尋ねたのだが・・・すぐに沙織が優雅な笑顔でそれに答えた。

「まさか、そんなことはございませんわ。私は生涯、心霊のみに心を預けると決めておりますから。」
「きたぜ、オカルト娘・・・・」
「あら、七馬。私に、オカルトの魅力について話して欲しいんですの?」
「おまえ、ホンット性格悪いよな。誰がそんなこと頼んだよ。」

また2人の言い争いが始まってしまった。及子はアワアワとしてしまい、もう1人及子と同じ立場にいるテルに目を向けてみた。するとテルは優しい笑顔で及子の傍に来た。

「始まっちゃいましたね〜。さすがに今回は及子サ〜ン自身が出たのでダイジョブかと思ったんですけど、ダメでしたね〜。」
「アハハハハハ。何だかんだ言って、ホントは2人って仲良いよね。」
「そですね〜。ですけど本当の2人の仲の良さって、あんな感じじゃないと思うんですよ〜。」
「そうなの?ねぇねぇ、テルはどうして七馬や沙織と仲良くなったの?」

及子がそう聞くと、テルは優しい笑顔のまま答えた。

「中学の時に、ボクが日本に来たんです〜。その時、七馬ク〜ンと同じclassだったんですよ〜。七馬ク〜ンは何も分からないボクに、日本の色んなコトを教えてくれました〜。沙織サ〜ンにお会いしたのは、七馬ク〜ンの少し後だったんですけど・・・沙織サ〜ンも七馬ク〜ンも、ボクに優しくしてくれました〜。大体の人はボクが行くだけで逃げちゃってたんですけどね・・・沙織サ〜ンと七馬ク〜ンだけは、そうじゃなかったんです。それ以来、お世話になってますね〜。」
「そうなんだ〜。さすが沙織に七馬!」
「そですね〜!それから、ボクが七馬ク〜ンと沙織サ〜ンが大財閥というコトを知ったのは、随分後だったんですよ〜。それでも、変わらずにボクと仲良くしてくれるお2人は、本当に良い人達だと思いま〜す!ボクが芸能活動を始めた時にも、一番に助けてくれたのはお2人でしたから・・・・あ、悦子サ〜ンも知り合ってからは、とてもお世話になったんですよ〜。そして及子サ〜ンとも仲良くなれて、ボクは嬉しいです!」

テルは本当に心の優しい人なのだなと及子は思った。本当に嬉しそうに笑顔で話すテルを見て、及子も嬉しくなってしまった。

「あたしも嬉しいよ、テル!そして姉さんがお世話になってるようでごめんね。」
「イイエ〜、それはボクのセリフですよ〜!」

そうして2人が笑い合ったその時だった。沙織と七馬が話に混じってきたのは。

「オホホホホッ。仲睦まじいですわね?及ちゃん、テル。」
「ハイ!七馬ク〜ンに負けてられませんよ〜!」
「えっ!?テル。それ、どーゆー意味!?」
「・・おまえ、コイツ目当てで来たのかよ?」

七馬が少し複雑な表情でそう言うと、テルはニッコリと笑ってみせた。

「そですね〜。でも沙織サ〜ンのknightもしてますし、cuteなgirlと仲良くしたいのがホンネです!」
「・・・さすがだぜ。そーゆー発想って、日本人はなかなかしねぇよな。」
「オホホホホッ、テル。女の子大好きなのは結構なことですが、七馬みたいに行き過ぎないようにご注意下さいね。あなたにまで変態エロ河童になって欲しくないのですわ。」
「ハイ、心得ました!」
「おい、テル。そこで返事をすんなよ・・・」

それから及子も含め、皆で楽しく笑い合った。いつまでもこうして楽しい時間が過ごせれば良いのに、と思いながら、明日からのゴールデンウィークのことを考えると憂鬱で仕方なかったのだった。


  

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