第13話 「たっだいま〜!及子〜、いる〜?」 このようなハイテンションボイスの声で自分を呼ぶのは姉の悦子しかいない。及子は少し驚きながらヘッドホンを取って部屋のドアを開けて、2階から悦子を出迎えた。 「いるよ〜。どうしたの〜?って、匠さんに七馬!?」 姉の悦子の声だけ聞こえたと思って油断していたら、そこには眼鏡をかけたクール美形な悦子のマネージャー・匠と超美男子のアイドル・七馬までいたのだ。及子が驚くのも無理はない。 「ウフフフッ!及子、降りてきてくれるかしら?あなたにおみやげがあるの!」 そう返事をして、及子はダダダッと階段を降りて玄関の方に行った。そこで悦子が及子に差し出したものは、桃色の小さな花が沢山咲いている観葉植物だった。 「可愛いでしょう?今日ね、イベント帰りに主催者さんからもらってきたの!」 及子がそう聞くと、悦子はきょとんとした顔をして匠に尋ねた。 「あら、何だったかしら?匠ちゃん、七馬ちゃん、覚えてる?」 匠の知識の深さに及子は感心すると、悦子が嬉しそうに笑顔で言った。 「それはそうよ〜、私の匠ちゃんだもの〜!ってゆーか、匠ちゃんも七馬ちゃんも植物大好きなのよね!!」 意外な所でまた七馬の一面を知ることが出来た及子は言葉にこそ出さなかったものの、内心驚き関心を示していた。さすが七馬の義兄である。 「いや、そんなコトねぇよ匠さん。知識なら匠さんの方があるって。ただ、俺の方が緑に接する機会が多いだけで・・・」 悦子は嬉しそうに匠に抱き着いた。匠は苦笑してそんな悦子を見つめていたが、すぐに匠が及子と七馬に軽く頭を下げた。 「申し訳ないです。及子さん、七馬君・・・・」 悦子がそう言うと、匠は目を閉じてスッと眼鏡を持ち上げた。何も言わなくてもそれが匠の肯定の印であることは、恋人の悦子にはよく分かっていた。 「じゃあ、及子!ゴゴティーとアイスコーヒーよろしくね〜!!さ、匠ちゃん、七馬ちゃん!上がって、上がって!」 及子は取り敢えず観葉植物を玄関の脇に置いてから飲み物を用意するべくキッチンの方に行ったのだが・・・幸せそうな悦子が、何となく恨めしかった。 「ハァ〜。あたしも姉さんみたいに可愛い!って思えるような女になりたかったな〜・・・・」 いくら及子と悦子が姉妹とは言え、顔立ちは明らかに悦子の方が可愛らしいのは妹の及子がよく分かっていた。実際及子はそれまでモテた経験もない。今までそのようなことを悔やんだり悩んだりすることはなかったが、七馬に恋をしてしまってからはやはり異性にどう見られているのか気になるのは当然のことだった。 「七馬、匠さぁ〜ん、アイスコーヒーで〜す。姉さんはゴゴティー。」 このまま3人の所にいても邪魔なだけだろう。イベント帰りの3人なのだから、恐らく今日の反省会などもあるに違いない。 「いや、あたしはイイんだ。匠さん、七馬、ゆっくりしてってね!」 及子が驚くのをよそに、七馬はアイスコーヒーのグラスを持って立ち上がり、及子の傍にきた。たったそれだけのことなのに、及子はつい顔が熱くなってしまった。 「何でって・・悦子さんと匠さんの邪魔出来ねぇだろ?なぁ?匠さん。」 七馬が匠の耳元で何か囁いているようだ。及子と悦子には何も聞こえなかったが、話し終えてから匠は目を閉じ、眼鏡を持ち上げた。 「・・分かりました。七馬君がそこまで仰るのでしたら・・・・」 及子がそう返事をすると、七馬は笑顔を見せた。 「んじゃ、決定だな。悦子さん、匠さん。また後で。」 成り行き上仕方ないことなのかもしれないが、及子は七馬を自分の部屋に案内した。こちらの家に越してきてまだそれほど経っていないことで、物が散らばっていることはない。ホッと安心しながら、及子は七馬を部屋の中に迎え入れた。 |