第17話 及子が半ば呆れてそう聞くと、七馬は軽く頷いて答えた。 「そうだな。俺はそんなにウソつかないぜ?」 またも七馬は殺し文句を及子に浴びせてくれた。改めて及子は七馬が自分のことを好きなんじゃないかと錯覚しそうで怖い。だが及子は期待しないように素っ気ない態度を取ることで、その考えを払拭するより他なかった。 「あんた、本当にそれってからかい文句にしか聞こえないよ?」 そう言った七馬の手に力がこもる。肩を抱き寄せられている及子は、七馬のその力をまともに感じてドキンとしてしまう。 「あ、あのさ、七馬・・・?」 どうして七馬はこんなあっさりと爆弾発言をしてくれるのだろうか。及子は「ハァ〜ッ・・・」と大きく溜め息をついた。 「何であたしとあんたが付き合うのよ?そうじゃないでしょ?」 及子がそう言うと、七馬はどこか納得いかないようで複雑な表情をした。 「・・そうなのか?」 いつもは七馬の余裕ぶりに負けていた及子だったが、今回は七馬が素直に及子の言うことを聞いた。真剣にそう返事をした七馬を見て、及子の心の中がざわめく。 「いや、真顔で返事されてもどうすればイイのやら・・・って、それより!!いつまであたしの肩に手のってけんのよ!?いい加減離して欲しいんだけど!」 たった今、確かに及子は七馬に「誤解されないようにした方がいい」と忠告をした筈なのに・・・どうやら七馬はすぐに実行に移せないタイプらしい。及子は再び「ハァ〜ッ・・・」と大きな溜め息をつくしかなかった。 「・・・なぁ。前から聞きたかったんだけど・・・」 七馬のその質問は、及子の心を大いに痛ませた。すぐ目の前にいる七馬その人が自分の片思いしている相手ではあるが、とても七馬本人にそんなことを言えたものではない。片方は大財閥のお坊ちゃまであり、国民的アイドルである。片や何の特徴も持たない、唯一姉が芸能界アイドルであること以外はごく普通でしかない自分では分不相応なのは誰が見ても明らかだ。及子は痛む胸を七馬に悟られないように言葉を発した。 「なっ、何であんたにそんなコト言わなきゃいけないのよ!?」 及子が強気でそう言いきると、七馬は複雑な表情をしていたが、間もなく真剣な表情をして言った。 「・・じゃあさ、考えてみろよ。どうして俺が、おまえにそーゆー誤解しそうなコト言うのかってのをさ・・・」 七馬にそう言われた途端、それまで及子の中にあった胸の痛みが消えて、一気にクエスチョンマークが及子の脳内を支配した。驚いている及子を見ると、七馬はいつもの余裕の微笑を浮かべて、再度及子の肩に手を置いて、自分の方に抱き寄せた。 「・・取り敢えず、今はおまえの傍にいさせてくれよ。これから俺、しばらく学校行けそうにねぇからさ・・・」 及子がそう言うと、七馬はどこか寂しそうな顔をした。 「最低1ヶ月は、おまえと一緒にいれねぇだろうな・・・・だからさ。今日はどうしても、おまえの傍にいたかったんだ。」 七馬に寂しそうな表情でそう言われると、及子は強気で攻めていく気になれなかった。むしろ胸が痛くて、引っ込み思案になってしまう。そんな及子を見て七馬は微笑んだ。 「ま、おまえの代わりに悦子さんと毎日顔合わせる形になるんだけどさ。悦子さん、最近は毎日家に帰ってんだろ?」 及子がそう言うと、七馬はどこか納得したような表情で頷いた。 「ふ〜ん。ようやく匠さんも分かってきたか・・・・」 七馬がそう提案すると、及子は驚いて七馬を見た。その顔は少しだけ赤い。 「へぇっ!?ちょ、ちょっと待ってよ!!何!?その「デート」って!!」 |