第17話

「おまえが暑くても、俺が寒いの。いいからもう少し、こうして傍にいさせろよ・・・・みどりの日以来、おまえに会うコトもなかったんだからさ。」

「・・・やっぱり七馬って女の子キラーだね。それもメッチャ地なんでしょ?」

及子が半ば呆れてそう聞くと、七馬は軽く頷いて答えた。

「そうだな。俺はそんなにウソつかないぜ?」
「あっそ・・・・それより、早く雨が止むといいね。この雨ひどいよ・・・・」
「まぁな・・・でも、おまえとこうして相合傘出来るんだから、俺としてはもう少し降ってもらった方がイイかな?少なくともおまえんちまで送れれば、後はどうなろうが構わねぇよ。」

またも七馬は殺し文句を及子に浴びせてくれた。改めて及子は七馬が自分のことを好きなんじゃないかと錯覚しそうで怖い。だが及子は期待しないように素っ気ない態度を取ることで、その考えを払拭するより他なかった。

「あんた、本当にそれってからかい文句にしか聞こえないよ?」
「せめて「口説き文句」って言えよ。やっぱおまえってさ、言葉攻めに弱いだろ?」
「ウッ・・それってやっぱりからかってるじゃん!!」
「だから、からかってねぇっての。いつだっておまえの傍にいたいんだからさ・・・・」

そう言った七馬の手に力がこもる。肩を抱き寄せられている及子は、七馬のその力をまともに感じてドキンとしてしまう。

「あ、あのさ、七馬・・・?」
「ん?」
「それって、付き合ってる彼女とかに対して言うセリフであって、あたしに言うべきセリフじゃないと思うんだけど・・・・」
「んじゃ、俺と付き合う?」

どうして七馬はこんなあっさりと爆弾発言をしてくれるのだろうか。及子は「ハァ〜ッ・・・」と大きく溜め息をついた。

「何であたしとあんたが付き合うのよ?そうじゃないでしょ?」
「んじゃあ、何なんだよ。」
「あたしが言いたいのは、そーゆーセリフは付き合ってる彼女とかファンの女の子に向けて言ったら?ってコトなの。たかがマブダチのあたしに言ったって何の意味もないでしょ?」

及子がそう言うと、七馬はどこか納得いかないようで複雑な表情をした。

「・・そうなのか?」
「そうなの!とにかくあんたの発言って誤解されやすいから、その辺気を付けた方がイイと思うよ?」
「・・分かった。んじゃ、出来るだけ気を付けるようにする。」

いつもは七馬の余裕ぶりに負けていた及子だったが、今回は七馬が素直に及子の言うことを聞いた。真剣にそう返事をした七馬を見て、及子の心の中がざわめく。

「いや、真顔で返事されてもどうすればイイのやら・・・って、それより!!いつまであたしの肩に手のってけんのよ!?いい加減離して欲しいんだけど!」
「何でだよ?別にいいだろ?おまえとくっついてられる機会ってそんなにないんだからさ。」

たった今、確かに及子は七馬に「誤解されないようにした方がいい」と忠告をした筈なのに・・・どうやら七馬はすぐに実行に移せないタイプらしい。及子は再び「ハァ〜ッ・・・」と大きな溜め息をつくしかなかった。
そんな及子を見た七馬は複雑な表情をしながらも、素直に及子の肩から手を離して、傘を持つ手を変えた。それと同時に、それまであった七馬の手の温もりを肩に感じて及子はドキドキしてしまう。
こんなに手の暖かい七馬が本当に寒いのだろうか?確かに風は少し冷たいが、急に温もりがなくなると、寒くないのに冷えた気がしてしまう。おかしいものだな、と及子は思いながら七馬を見る。

「・・・なぁ。前から聞きたかったんだけど・・・」
「ん?何?」
「おまえって、好きなヤツいるのか?」
「!!!・・・・」

七馬のその質問は、及子の心を大いに痛ませた。すぐ目の前にいる七馬その人が自分の片思いしている相手ではあるが、とても七馬本人にそんなことを言えたものではない。片方は大財閥のお坊ちゃまであり、国民的アイドルである。片や何の特徴も持たない、唯一姉が芸能界アイドルであること以外はごく普通でしかない自分では分不相応なのは誰が見ても明らかだ。及子は痛む胸を七馬に悟られないように言葉を発した。

「なっ、何であんたにそんなコト言わなきゃいけないのよ!?」
「気になるからだろ?それ以外に理由があるかよ。」
「あっ、あのね〜!!「気になる」ってどーゆー意味よ!?あんた、あたしの言ってるコト全っっ然これっぽっちも理解してないでしょ!?あたし、たった今あんたに「誤解されそうな発言には気を付けて」って言ったばっかなんだよ!?」

及子が強気でそう言いきると、七馬は複雑な表情をしていたが、間もなく真剣な表情をして言った。

「・・じゃあさ、考えてみろよ。どうして俺が、おまえにそーゆー誤解しそうなコト言うのかってのをさ・・・」
「は?」

七馬にそう言われた途端、それまで及子の中にあった胸の痛みが消えて、一気にクエスチョンマークが及子の脳内を支配した。驚いている及子を見ると、七馬はいつもの余裕の微笑を浮かべて、再度及子の肩に手を置いて、自分の方に抱き寄せた。
再び肩に七馬の暖かい手を感じて、及子は一気にドキンとする。それまで七馬の温もりしかなかったものに温度が戻ってきて及子は内心嬉しかったが、もちろんそれを表に出すことはしなかった。

「・・取り敢えず、今はおまえの傍にいさせてくれよ。これから俺、しばらく学校行けそうにねぇからさ・・・」
「へぇっ!?どうして?」
「仕事だよ。ドラマと映画の撮影。」
「マジで!?うわ〜、何か大変そうだね〜。」

及子がそう言うと、七馬はどこか寂しそうな顔をした。

「最低1ヶ月は、おまえと一緒にいれねぇだろうな・・・・だからさ。今日はどうしても、おまえの傍にいたかったんだ。」
「七馬・・・・」

七馬に寂しそうな表情でそう言われると、及子は強気で攻めていく気になれなかった。むしろ胸が痛くて、引っ込み思案になってしまう。そんな及子を見て七馬は微笑んだ。

「ま、おまえの代わりに悦子さんと毎日顔合わせる形になるんだけどさ。悦子さん、最近は毎日家に帰ってんだろ?」
「えっ?ン〜、でもGWの間は匠さんとどっか出かけて泊まりデートしてたみたいだよ?帰ってきたの昨日だったし。」

及子がそう言うと、七馬はどこか納得したような表情で頷いた。

「ふ〜ん。ようやく匠さんも分かってきたか・・・・」
「は?何が?」
「こっちの話だよ・・・・あ、そうだ。おまえ、どうせ暇だろ?もう少しでおまえんち着くけど、寄り道デートしねぇか?」

七馬がそう提案すると、及子は驚いて七馬を見た。その顔は少しだけ赤い。

「へぇっ!?ちょ、ちょっと待ってよ!!何!?その「デート」って!!」
「イイだろ?どうせ1ヶ月以上おまえと会えねぇんだからさ、ここら辺寄り道しながら歩きたいんだよ。ほら、そこの公園なんか丁度良いじゃねぇか。」


  

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