第18話

そうして七馬と及子は小さな公園に足を踏み入れた。ここは及子が小さい頃遊んでいた公園だったらしいが、今は小さい子もここえら辺には住んでいない為、奥様方の憩いの場となっている。

しかし今は雨が降っているので、周りには誰も人がいなかった。七馬と及子は、大木の大きな枝に寄りかかる。大きな葉っぱや枝が及子と七馬を雨から守ってくれた。

「ここでお喋りでもするか・・・・・そうだ。さっきはぐらかされたけどよ、やっぱおまえの好きなヤツが気になる。いるなら教えろよ。」
「はぁっ!?だ、だだ、だからぁ〜!!何であんたにそんなコト教えなきゃなんないのよ!?」
「気になるからだろ?でもおまえって、年下は好みじゃなさそうだよな。やっぱ同年代?それとも上?」

どうして七馬はこんなにも余裕があるのだろうか。及子は七馬のこの余裕ぶりを何となく羨ましく思いつつ、七馬の問いに素直に答えた。

「・・年上よりは、同年代の方がイイけど・・・・」
「ふ〜ん。じゃあ、俺とテルならどっち好み?」
「はぁっ!?あ、あんたね〜!!イキナリその質問はないでしょが!!」

及子が顔を赤くしてそう答えると、七馬は面白そうに笑った。

「ハハハハハッ!おまえ、顔赤いぞ?俺かテルのどっちかが好きってコトか?」
「!イイから!!余計なお世話でしょ!!」
「図星か。どっちなんだよ?俺か?テルか?」

七馬が面白そうにニヤニヤしながら及子にそう言ってきた。七馬のこの面白そうな態度が気に食わないのと、どうも及子は七馬の前だと素直になるコトがバカらしく思えて、心の中で「七馬が好きだよ」と念じつつ、口では違うことを言ってみせた。

「あんたの質問に答える義理はないから!2択にしぼれたならそれで十分でしょ!?」
「・・十分じゃねぇよ。もしもおまえがテルのコト好きだとしたら、期待してる俺がバカみてぇだろが。」
「は?どーゆー意味?それ。」

及子が意味が分からず七馬にそう聞くと、七馬はそれまでいた場所から離れて、及子が寄りかかってる大木に両手を置いて、及子と向かい合う形で見つめた。
急に両手を置かれて、すぐ間近で七馬に見つめられてドキドキしない訳がない。まして七馬はワイルドで色気まで漂わせている超美男子だ。どうして七馬はこんなにカッコ良いんだろうと見惚れつつ、及子は七馬のことを見ていた。

「フッ・・分かんねぇの?ま、それならそれで別にイイんだけどさ・・・・」
「・・ねぇ、それより七馬。そんなにあたしのコト見ないでよ?そんな、見る顔してないんだから・・・」
「何言ってんだよ。俺は、おまえの顔ずっと見てても飽きないぜ?」
「はぁっ!?またそうして人をからかう!?」
「からかってねぇっての。見る度おまえの表情ってコロコロ変わるし、何より可愛いじゃん。」

笑顔で七馬にそう言われてしまい、及子は顔から火が出そうな勢いで一気に熱くなった。全国の七馬ファンが夢に見て憧れそうなシチュエーションだ。七馬のカッコ良い笑顔を目の前にして、「可愛い」と褒められるなんて・・・・
及子は夢にまで見たことはないものの、やはり七馬の存在は及子にとって特別だった。その七馬にそう言われて嬉しくない訳がない。しかし、やはり及子は素直になれず、顔を赤くしながらも七馬に抵抗することしか出来なかった。

「・・またそうしてからかう・・・・」
「だから、からかってねぇって言ってるだろ?」
「お願いだからからかってるってコトにして!!そうじゃないと、あたし落ち着けないから・・・・」
「何でそこで落ち着く必要があるんだよ?」
「落ち着かなきゃでしょ!?誰のせいで顔あっつくなってんのよ!?」

及子が逆ギレっぽくそう言うと、七馬は楽しそうに笑った。

「ハハハハッ!確かに、おまえ今スッゲー顔赤いもんな。」
「グッ・・あんたって絶対確信犯でしょ!?何かハメられたようですっごいムカつくんだけど〜!!」
「別に、おまえをハメたつもりはないぜ?からかってる気も一切ねぇし。」
「あんたにその気がなくても、こっちはそーゆー思いでしかないわよ!!全く・・・あたし、帰りたいんだけど。」

及子がそう言うと、七馬は両手を離しながらも少し寂しそうな表情をした。

「何だよ、つれねぇな。もう少しデートしたいとか思わねぇの?」
「思うワケないでしょ!!大体あんたとデートってコト自体あり得ないでしょが!!」
「は?今正に、おまえと俺はデート中じゃねぇの?」
「誰がいつあんたとのデートなんて認めたわよ!?ただ単に寄り道してるだけでしょ!?とにかく、このままいるとあたしの精神が持たないから帰らせて!」

及子が強い口調でそう言うと、さすがに七馬は複雑な表情を見せた。そして少し考えてから、渋々七馬は及子の言うことに了承した。

「分かった。でも、まだ雨降ってるから、最後まで送らせてくれよな?」
「ん、ありがと。」

そうして再び七馬が傘を広げ、相合傘をして公園を出た。及子の家はもう既に見えている。ようやく帰れるんだと思うと及子は安堵したが、一方で七馬といれない寂しさを密かに心の中で感じていた。しかしそれを表に出すことはしない。七馬の前では素直になれないからだ。
七馬は、及子が玄関前の濡れない所に着くまで一緒に付き添ってくれた。そんな七馬の優しさに及子は感謝しつつ、軽く手を挙げた。

「んじゃ、七馬。今日はありがと!1ヶ月後にまったね〜!」
「待った。1つだけ、イイか?」
「は?何?」

正に家に入らんとしようとしている及子に、敢えて七馬はマッタをかけてきた。驚く及子をよそに、七馬は突然その場にしゃがみ込んだかと思うと、及子の手を取って軽くキスをしたのである。
手の甲でありながらも、どこか優しい七馬のそのキスに及子はただ驚くしかなかった。もちろん心の中は嬉しいのだが、それより驚きが勝っていた。

「ななっ・・ちょっと、あんた何してんのよ!?」

驚く及子を見て、七馬は前髪をかき上げつつ、ゆっくりと立ち上がって余裕の微笑を浮かべた。

「何って・・・よく分かんなかったなら、もう1回する?」
「しなくてイイから!!それより、早く帰ってよ!!この雨だし!」
「・・分かったよ。んじゃ、また1ヶ月後に会おうな。必ずだぜ?」
「ン。それじゃあね、七馬。」

お互いに手を振って別れたものの、本当は1人で傘をさしながら歩いていく七馬を追いかけたかった。そして「もっと一緒にいたい」と甘えたかったが、たかが友達の分際でそのようなことは出来ないと、及子は何度も首を横に振って自分の気持ちにふたをしようとした。
だが不思議と七馬への想いが日増しに強くなっていくことも事実であり、及子自身それを認めていた。

「もう、私にどうしろって言うの?これ以上つらい思いなんかしたくないのに・・・・・・ハァ〜。素直になりたいなぁ〜・・・・」

家の中に入ってもがらんどうとして1人ぼっちだ。母は単身赴任状態であるし、姉の悦子もあまり家には戻らないので仕方ないと言えばそれまでだが、今は誰でもいいから傍にいて欲しかった。
つい先ほどまで大好きな人と一緒にいたのに、自ら拒否してしまった結果がこれだ。本当は強がってなんかいたくない。素直な気持ちで七馬と接したいと及子は思っていた。

「1ヶ月後か・・・・今度会った時は、今より素直になれるかな・・・・?」

1人ぼっちの及子を慰めてくれる唯一のものは、悦子が入学式の時にくれた小さなお花だった。今でも及子の部屋に大切に飾ってあるその花は何も語らないし動くこともないが、及子をまっすぐに見据えてくれていた。
この小さい花を見ていると、入学した頃を思い出す。まだ入学して日は浅いが、大分大学生活にも慣れてきたことで、少し及子は得意げになっている所もあったようだ。

「あたし、これからも頑張るよ・・・・だから、これからもあたしを見守っててね?お花さん・・・・」

雨が静かに降る日。それは及子の決意を高めてくれた日でもあった。


  

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