第18話 「ここでお喋りでもするか・・・・・そうだ。さっきはぐらかされたけどよ、やっぱおまえの好きなヤツが気になる。いるなら教えろよ。」 どうして七馬はこんなにも余裕があるのだろうか。及子は七馬のこの余裕ぶりを何となく羨ましく思いつつ、七馬の問いに素直に答えた。 「・・年上よりは、同年代の方がイイけど・・・・」 及子が顔を赤くしてそう答えると、七馬は面白そうに笑った。 「ハハハハハッ!おまえ、顔赤いぞ?俺かテルのどっちかが好きってコトか?」 七馬が面白そうにニヤニヤしながら及子にそう言ってきた。七馬のこの面白そうな態度が気に食わないのと、どうも及子は七馬の前だと素直になるコトがバカらしく思えて、心の中で「七馬が好きだよ」と念じつつ、口では違うことを言ってみせた。 「あんたの質問に答える義理はないから!2択にしぼれたならそれで十分でしょ!?」 及子が意味が分からず七馬にそう聞くと、七馬はそれまでいた場所から離れて、及子が寄りかかってる大木に両手を置いて、及子と向かい合う形で見つめた。 「フッ・・分かんねぇの?ま、それならそれで別にイイんだけどさ・・・・」 笑顔で七馬にそう言われてしまい、及子は顔から火が出そうな勢いで一気に熱くなった。全国の七馬ファンが夢に見て憧れそうなシチュエーションだ。七馬のカッコ良い笑顔を目の前にして、「可愛い」と褒められるなんて・・・・ 「・・またそうしてからかう・・・・」 及子が逆ギレっぽくそう言うと、七馬は楽しそうに笑った。 「ハハハハッ!確かに、おまえ今スッゲー顔赤いもんな。」 及子がそう言うと、七馬は両手を離しながらも少し寂しそうな表情をした。 「何だよ、つれねぇな。もう少しデートしたいとか思わねぇの?」 及子が強い口調でそう言うと、さすがに七馬は複雑な表情を見せた。そして少し考えてから、渋々七馬は及子の言うことに了承した。 「分かった。でも、まだ雨降ってるから、最後まで送らせてくれよな?」 そうして再び七馬が傘を広げ、相合傘をして公園を出た。及子の家はもう既に見えている。ようやく帰れるんだと思うと及子は安堵したが、一方で七馬といれない寂しさを密かに心の中で感じていた。しかしそれを表に出すことはしない。七馬の前では素直になれないからだ。 「んじゃ、七馬。今日はありがと!1ヶ月後にまったね〜!」 正に家に入らんとしようとしている及子に、敢えて七馬はマッタをかけてきた。驚く及子をよそに、七馬は突然その場にしゃがみ込んだかと思うと、及子の手を取って軽くキスをしたのである。 「ななっ・・ちょっと、あんた何してんのよ!?」 驚く及子を見て、七馬は前髪をかき上げつつ、ゆっくりと立ち上がって余裕の微笑を浮かべた。 「何って・・・よく分かんなかったなら、もう1回する?」 お互いに手を振って別れたものの、本当は1人で傘をさしながら歩いていく七馬を追いかけたかった。そして「もっと一緒にいたい」と甘えたかったが、たかが友達の分際でそのようなことは出来ないと、及子は何度も首を横に振って自分の気持ちにふたをしようとした。 「もう、私にどうしろって言うの?これ以上つらい思いなんかしたくないのに・・・・・・ハァ〜。素直になりたいなぁ〜・・・・」 家の中に入ってもがらんどうとして1人ぼっちだ。母は単身赴任状態であるし、姉の悦子もあまり家には戻らないので仕方ないと言えばそれまでだが、今は誰でもいいから傍にいて欲しかった。 「1ヶ月後か・・・・今度会った時は、今より素直になれるかな・・・・?」 1人ぼっちの及子を慰めてくれる唯一のものは、悦子が入学式の時にくれた小さなお花だった。今でも及子の部屋に大切に飾ってあるその花は何も語らないし動くこともないが、及子をまっすぐに見据えてくれていた。 「あたし、これからも頑張るよ・・・・だから、これからもあたしを見守っててね?お花さん・・・・」 雨が静かに降る日。それは及子の決意を高めてくれた日でもあった。 |