第19話

あの雨の日から1週間ほど経った今日。及子は何とか1週間を乗り切った。それは七馬以外に見つけた友達と仲良く過ごせたおかげだろう。

しかし今日その友達はサークル活動で、今日の最終講義が終わってからすぐに別れてしまった。サークルに入っていない及子にとっては学校が終わればすぐに帰る時間となるのだが、たまには大学の図書館に寄ってみるのも悪くないと思い、足を踏み入れた。
琥珀大学の図書館は4階にまで渡る大きな図書館となっていた。最上階、今及子のいるフロアーは主に地域、新聞などの情報を集めたセンターとなっており、レファレンスとして機能しているのは下の階3つとなっている。

「そういえば琥珀市の情報ってあんまよく知らないかも。パンフとか見てみよっかな?」

早速パンフレットが置かれている所に及子が足を運ぶと、幼稚園でバザーをやりますだの、市民ホールでコンサートをやりますだのと言った、いかにもその地域を思わせるようなパンフレットが並べられていた。そして及子は、その中に3つほどすごいものを見つけてしまった。

「えっ!?何これ!七馬のイベントのパンフ!?それからこっちは沙織だし・・・あっ、これはテルのじゃん!!うわ〜、さすが有名芸能人・・・・」

どうやら七馬、沙織、テルの3人は琥珀市限定で活動していることがあるようだ。迷わずに3人のパンフレットをそれぞれ1枚ずつ手に取り、それぞれ簡単に見てみた。
七馬のパンフレットは8月に県民会館でトーク会をするというもので、沙織のパンフレットは同じく8月に肝試しをしようというイベント参加への促しがあり、テルのパンフレットは7月にクイズ番組のロケをするので、その際握手会もするといった内容のものだった。

「何気に皆地域に貢献してんのね〜。アハハハハ、ますますあたしがこんな3人と一緒にいてイイのかどうか不安になってきたわ・・・・」

仮にもここは図書館なので、及子は誰にも聞こえることのない小さな声でそう呟いた。
取り敢えずこの3枚のパンフレットをもう少しじっくり見てみたいと思い、及子が席に移動しようとしたその時だった。「Oh、及子サ〜ン?」という聞き覚えのある声が後ろからしたのは。
及子が驚いて振り向くと、そこにいたのは金色の長い髪がサラサラと美しい、ソバカスがよく似合うテルが笑顔で及子を見ていた。
常にテルは笑顔なので、及子はテルといるとどこか安堵出来た。ホッと胸をなで下ろしながら、及子はすぐにテルの方にクルッと体を向けて挨拶する。

「あっ、テル!どしたの?何か図書館で調べ物?」
「そです〜!でも、及子サ〜ンを見つけてしまったので予定変更になってしまいました〜。」
「へっ?」
「アハハハハ〜。ah〜、もしかしてボク、及子サ〜ンのお邪魔してます〜?」
「えぇっ!?いや、そんなコトはないけど・・・・」
「ホントですか〜?それじゃあ、こっちこっち。」
「あっ。うん・・・・」

そうしてテルが手招きしたので、テルと一緒に図書館を出る形となった。さすがに図書館の中でずっとお喋りするのは周りの人達に迷惑だと分かってのことだろう。実際、図書館を出てからテルは胸の上に手を当ててホッとしていた。

「フゥ〜、良かったです〜。図書館だとなかなか話しづらいですからね〜・・・・」
「うん。それより、どしたの?テル。あたしに何か用事?」
「そですね〜。用事というか、たまには及子サ〜ンとゆっくりお話しながら帰りたいなぁ〜!って思って。今日はお天気も良いですし、のんびりお散歩気分で帰りませんか〜?」

テルの温かい笑顔を見て抗える人はいないだろう。テルが常に真っ直ぐでウソを全くつかないことは、鈍感な及子にもよく分かっていた。
そんなテルの人柄を見ていて及子は自分の不器用さを呪わずにはいられなかったが、即OKをした。

「うん!いいよ〜。アハハハハッ、テルと帰るのって新鮮だね!」
「ハイ!ボクも嬉しいですよ〜!及子サ〜ンとはあまりお話する機会がなかったので、とっても楽しみです〜!!」

屈託のない笑顔を見せながらメモ帳を取り出されると、突っ込もうにも突っ込められない。やはりテルの笑顔は魅力的だな〜、と思いながら及子は苦笑しつつ話をした。

「いや、アハハハハ〜!テル〜。そんな楽しみにされてもどうすればいいのやら・・・・」
「そうですか〜?あっ、そういえば七馬ク〜ンが学校に来なくなって1週間位経ちましたね〜。どうですか?及子サ〜ン。七馬ク〜ンのいない毎日に慣れてきましたか?」
「えっ!?う、うぅ〜ん。まぁ、一応はね。友達いるし、それほど大変じゃないよ!」

七馬のことを考えると、どうしても会いたくなってしまうのであまり触れて欲しくなかった。だが、七馬の話もしないと自分が恋をしていると言った自覚が出てこないのも事実なので、たまにはいいかと思いながら及子は答えた。

「それは何よりです〜。でも、七馬ク〜ンの方はそうでもないみたいですよ〜?」
「へっ?どゆコト?テル。」
「アハハハハ〜。一昨日だったかな〜?七馬ク〜ンが今仕事している場所に取材しに行ったんですよ〜。七馬ク〜ン、どことなく寂しそうでした〜。やっぱり及子サ〜ンがいらっしゃらないからでしょうね〜。」

思ってもみなかったことを言われ、及子は慌てて首を横に振った。

「い、いや、テル!それはないでしょう!!人間誰しも寂しい時とかあるって!!あたしがいないからとかそーゆーのは全く関係ないと思うんだけど・・・・」
「そうですかね〜?それじゃあ、及子サ〜ンは今寂しくないですか〜?」
「ハウッ!!そ、それはぁ〜・・・・・・・ちょっとは寂しい、かな・・・?」

及子は少し間を空けた後、そう結論付けた。この及子が間を空けた間、及子とテルは見つめ合う形になっていたのだが・・・・なぜだかテルの前でウソをつくことが出来なかった。
いつも七馬にしていたように強がってみせたかったのに、テルの前ではそれが出来ずに本当の自分の気持ちを言ってしまった。テルの青く澄んだ瞳を見ていると強がることが出来なかったのだ。

「良かった。及子サ〜ンが、ボクに本当のコトを話してくれて・・・」
「テル・・・・」
「アハハハハ。及子サ〜ンは、やっぱり七馬ク〜ンのコトがお好きなんでしょう?」
「えぇっ!?テテテ、テル!?そ、それはさすがに答えづらいよ〜!!」

つい素直に答えそうになってしまった自分に及子は驚きつつ、何とかそう言ってごまかそうとした。だがテルは優しい笑顔で及子を見つめながら言った。

「そうですか〜?でも、これはボクと及子サ〜んのヒミツですからね!安心して答えて下さってイイですよ〜。」
「ウッ・・・・・・テル。あたしね、時々自分で自分がイヤになっちゃうんだ・・・・あたし、七馬の前で素直になるコトが怖くてさ。それに七馬も七馬で、あたしに思わせぶりな態度とってくるし・・・・だからね、迷ってるの。あたし、このまま七馬のコト好きでいて大丈夫かな・・・・?少なくとも、七馬にとって迷惑にならないようにはしたいんだけど・・・・」

テルの笑顔ときっぱり言い切った真摯さをしっかりと受けた及子は、初めて他人の前で素直になって自分の本当の気持ちを告白することが出来た。
そのことが及子にとってどれほどスッキリしたことだろうか。今まで自分1人で抱え込んでいた悩みをテルに打ち明けられたことは、及子にとって重荷の1つが取れたような、及子が自分で想像していた以上に清々しい気分になっていた。

「及子サ〜ン・・・・安心して下さ〜い!及子サ〜ンのそのお気持ちは、いずれ七馬ク〜ンにちゃんと伝わると思いますよ〜?」
「本当?テル・・・」
「ハイ!ホントです〜!!それに、きっと七馬ク〜ンも迷ってるんじゃないかと思いますよ〜。七馬ク〜ンは、及子サ〜ンとお友達でいるコトがつらいみたいですから・・・・」
「へっ?それ、どーゆー意味?テル。」

及子が驚いて尋ねると、テルはそれまでメモ帳に何か書いていたようだが、すぐに別のページを一気にめくり上げて口を開いた。

「Ah〜、ボクがこのコト言ってもイイのかな・・・・?1つ言えるとすれば、七馬ク〜ンは及子サ〜ンのコトを、誰よりも大切にしているってコトですね〜!!」
「えっ・・・?な、何だか照れるなぁ〜、テル。それって、まるで七馬があたしのコト好きみたいじゃん・・・・」
「おや〜?及子サ〜ン、七馬ク〜ンに嫌われてると思ってました〜?」
「いやいや!!テル。あたしが言ってんのはお友達としての意味じゃなくって〜、恋とか愛とかの意味の方なんだけど・・・・」
「そうでしたか〜。ン〜・・・失礼を承知で聞きますが、及子サ〜ンは鈍感ですか〜?」
「ハウゥッ!!よ、よく言われるけど・・・・・」

図星を指されて小さくなった及子を見て、テルはすぐに温かい笑みを及子に向けた。

「アハハハハ〜、やっぱりね〜。」
「やっぱり!?ウゥッ。一応自分でも鈍感とは思ってたけど、テルにもそう見える・・・・?」
「ハイ!見えますね〜。でも、そこが及子サ〜ンの魅力だと思いますよ〜!!」

テルにあっさり鈍感であることを認められたものの、それが「魅力」と言われれば短所でも嬉しくなってしまう。及子は少し照れながらペロッと舌を出した。

「エヘヘヘッ。ありがと、テル。」
「イエイエ〜!お礼を言うのはボクの方ですよ〜!!ah〜・・・そだそだ、及子サ〜ン。七馬ク〜ンの私設fan clubがあるコトはご存知ですか〜?」
「へっ・・・?あぁ〜!ウチの経済学部の人達が集って出来たものとか、他学科の人達がゴッチャリ来て「七馬様大好き」とかゆー旗まで持って七馬に会いに来る人達とかいるけど、その人達のこと?」
「Oh!さすが及子サ〜ン、ご存知でしたか〜。実は大学内だけで、七馬ク〜ンの私設fan clubは50以上あるんですよ〜。」
「えっ?ええぇぇっ!?ちょっと、それマジ〜!?テル〜。スッゴイ数なんだけど・・・・」

七馬が大好きな人は本当に多いし、公式ファンクラブから私設ファンクラブまで色んなファンクラブがあることも何となく分かっていた及子ではあったが、いざ具体的な数字を出されると驚きを隠せなかった。やはり七馬の特別な存在になることは難しいのだなぁ、と改めて実感する時でもある。

「確かにそうですね〜。でも、ボクはその数多くあるfan clubの誰よりも、及子サ〜ンが優位だってことを言いたかったんです〜。」
「へっ?テル。それって・・・・」
「先ほども言いましたが、七馬ク〜ンは及子サ〜ンを大切に思ってますよ。ですから、もっと自信を持って下さ〜い!たまには、七馬ク〜ンに甘えてみるのも良いと思いますよ?」
「ウッ・・・・テル。テルって、そんなにあたしと七馬の傍にいなかったよね?何かすごく図星をさされてる気がするのはどうしてかな〜・・・・?」

及子は冷や汗が出るのを感じていた。確かにテルに素直になれないことや本当の気持ちを告白したものの、ここまではっきり言われてしまうと何となく怖い気もする。
だが、テルの瞳はいつも穏やかで温かい。そんなテルを見ていると、及子は怖い気持ちより信じようという気持ちが強くなるのだから、テルは不思議な魅力を持っている人なのだなぁ、と感心せずにはいられなかった。

「アハハハハ。ボクは色んな情報をまとめて皆さんにお伝えするのが仕事ですからね〜。及子サ〜ンにとって最適の答えを、ボクなりに引き出してみました!」
「そっか・・・うん。ありがとう!テル。ちょっとだけ自信持ってみる。ついでに、素直になれるように頑張るね!」
「ハイ!ボク、応援してますよ!何か困ったコトがあったら、いつでも相談に乗りますから!じゃあ、及子サ〜ン。名残惜しいですが、ボクはここで・・・・」
「えっ?あっ、うん。今日はありがと!テル。おかげでカナリ気が楽になったよ。」
「そう言っていただけると、ボクも嬉しいで〜す!また今度、学校で会いましょう!byebye!」

こうして、その日テルと別れた及子は家に向かって歩きながら、テルと話したことを反芻して呟いたのだった。

「素直になるべき、か・・・・あたし、七馬に甘えてみてもいいのかな?でも、いざ七馬に本当の気持ちを出して嫌われたりしたら・・・・あぁ〜っ!!やっぱりダメダメ!!嫌われる位なら、今の悪友みたいな感じの方がイイじゃん!!ウゥッ。恋って、難しいね・・・・」


  

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