第22話

あの時の電話から丁度1週間になった今日。及子はようやく七馬のいない生活に慣れてきたものの、やはり寂しかった。

沙織やテルがいてくれることで完全に現実逃避することはなかったが、これでこの2人がいなかったらどうなっていたのだろうか?と及子は思う。
因みに今日は、テルと一緒に家路についていた。
既にテルには、沙織から聞いた例の事情について話し済みである。情報に詳しいテルは、そのことを聞いても驚くことはなかった。なぜなら、沙織や七馬から聞いて元々知っていたからである。

「ねぇ、テル。あたしね、人間の縁ってすごいんだなぁ〜って思っちゃった。だって、離れ離れだった沙織や七馬と、またお友達になれたんだよ?それに、国の違うテルともこうしてお話出来てるし・・・・」
「アハハハハ、そですね〜。そしてこれが人生であり、運命なんでしょうね〜。」
「『運命』・・・・?」
「ハイ!及子サ〜ンが再び沙織サ〜ンや七馬ク〜ンとお会い出来たのは、きっと『偶然』ではなく『運命』だったと、ボクは思うんですよ〜。そういえば、及子サ〜ンはどうしてこちらの大学を受験なさったんですか〜?」
「えぇっ!?ン〜〜。一番の理由は、姉さんと一緒に暮らしたかったからなんだよね〜。」
「ヘェ〜、そうなんですか〜。」

テルは驚くと、ズボンのポケットからメモ帳とペンを取り出し、サササッと素早く書き込んだ。
既にこれがテルの日常の光景として刻まれた及子であるが、やはりこのような時、テルの素早さを見ると驚かずにはいられない。それまで突っ込んではいけない領域だと思っていたが、今回ばかりは突っ込まずにはいられなかった。

「ねぇねぇ。テルって、いつもそのメモ帳に何を書き込んでるの?」
「ハイ!ボクが良い情報だと思ったコトを、全てmemoするようにしてま〜す!」
「そっ、そうなんだ・・・・もしかして、掘り出し物の情報とかもあるの?」
「ハイ!イーッパイありますよ〜!そですね〜。今及子サ〜ンの知らない沙織サ〜ンや七馬ク〜ンの情報を言ってしまえば・・・沙織サ〜ンと七馬ク〜ンの習い事のコトでしょうか?」
「習い事?うわぁ〜。何かいかにもって感じだね〜。」
「アハハハッ!そうですね〜。」
「やっぱ沙織と七馬はお金持ちだから、何ってゆーの?日舞とかそんな感じのコトやってんの?」
「Oh!鋭いですね〜!及子サ〜ン。確かに沙織サ〜ンはそれを嗜んでらっしゃいま〜す。じゃあ、七馬ク〜ンは何だと思いますか〜?」

テルにそう聞かれて、及子は「う〜ん・・・」と唸った。

「えぇ〜?七馬も日舞じゃないんだ〜。」
「そですね〜。七馬ク〜ンは、音楽がお好きなんですよ〜。」
「音楽?へぇ〜、そうなんだ〜。んじゃあ、ピアノ?」
「アハハハ〜、ハズレですね〜。正解はviolinです〜。」

さすがテル。奇麗な英語発音をしてくれた上に意外なことを知って、及子は驚きを隠せなかった。

「バイオリン!?あの七馬が、バイオリンなんか弾いちゃうの!?」
「ハイ〜!七馬ク〜ンは、contestで特別賞を取ったこともある実力者なんですよ〜。」
「ウッソ〜!?今までそんな話、全っ然聞いたコトなかったんだけど!!」
「アハハハハ。それはまぁ・・七馬ク〜ンはそのようなコトを自慢されない方ですからね〜。ah〜・・・ところで、及子サ〜ンは昔、pianoを習ってらっしゃったんですよね〜?」
「えっ!?テル、どうしてあたしのそんなコトまで知ってるの!?」

及子が更に驚いてそう聞くと、テルは笑ったまま答えてくれた。

「アハハハハ〜。そのコトは沙織サ〜ンや七馬ク〜ンも、よ〜くご存知ですよ。七馬ク〜ンから聞いた話ですが、小学校の時、よくお2人で合奏されてたそうです〜。」
「えっ?あたしと、七馬が?」
「ハイ!それはもう、息の合った演奏だったそうで〜す!でも、及子サ〜ンは中学校に入られてから、pianoをやめてしまわれたそうですね〜。」
「そうなんだよね〜。今でも一応楽譜とかは普通に見れるけど、鈍ってて弾けないと思う・・・・七馬は、まだバイオリンやってるの?」
「そですね〜。実際、orchestraの方からお誘いもあったようですが、七馬ク〜ンは音楽家としての道は考えてらっしゃらないようです〜。」
「うわぁ〜っ。さすが七馬・・・・ってかさ〜、七馬の場合、三食昼寝つきで一生過ごせそうだよね。」

及子がそう言うと、テルが面白そうに笑った。

「アハハハハッ!及子サ〜ン、面白いコトを仰いますね〜。」
「えぇ〜?でもテル〜、実際そうだと思わな〜い?」
「ン〜。可能と言えば可能かもしれませんが、七馬ク〜ンのお父様は、活発なコトで有名ですからね〜。何もせずに寝て過ごすというのは、七馬ク〜ンのお父様が許さないと思いますよ〜?」
「そっか〜。んまぁ、七馬もアクティブだから、何もせずに過ごすなんて考えてなさそう〜。」
「そですね〜。及子サ〜ンの仰る通りだと思いますよ〜。」
「そういえば、七馬の夢って何なのかな〜?テル、聞いたコトある?」

及子がそう尋ねると、テルは少し驚いたものの、すぐに笑顔を見せた。

「聞いたコトはありますよ〜。でも、それはボクが言ってはいけないコトですね〜。七馬ク〜ンの夢は、七馬ク〜ン自身から聞くのが一番で〜す!」
「アハハハハッ、それもそっか。」

及子は自分の頭を軽くコツンと叩いて舌をチロッと出した。テルはそのまま笑顔で見守っていたのだが、再びメモ帳をパララッとめくると及子に尋ねてきた。

「そういえば、及子サ〜ンの夢は何なんですか〜?」
「えぇっ!?あたしの夢!?ン〜、そうだなぁ〜。今の所、目標みたいなのは持ってないんだけど・・・・取り敢えず、姉さんや母さんにお世話になった分の恩返しはしなきゃなぁ〜って感じかな?」
「そですか〜。及子サ〜ンは、優しい心をお持ちなんですね〜!」

テルに笑顔でそう言われると、さすがに照れてしまう。及子は顔を赤く染めて否定した。

「いやいやいやっ!!テルほどじゃないよ〜。」
「Oh〜、そですか〜?」
「そうだよ〜。だってテルは違う国にいるからそれだけでも大変なのに、ずっと笑顔じゃん?それにこうして、あたしの話にも付き合ってくれたりして・・・・芸能界のお仕事もあるのに、スゴいなぁ〜って思うんだ〜。」
「及子サ〜ン・・・ありがとございま〜す。ボクがこうしていられるのは、及子サ〜ンのようなcuteなgirlが、こうしていて下さるからですよ〜!」
「ええぇぇっ!?も、も〜う、テル。そんな風に言われたら、あたし、どうしたらいいのか・・・・」

爽やかな笑顔でサラッとすごいセリフを言うテルに、及子は再度顔を赤くしてしまった。テルはそんな及子を見て、笑顔のまま言った。

「アハハハハッ!七馬ク〜ンが及子サ〜ンを大切になさる理由が、分かってきたような気がしますよ〜。」
「えぇっ!?そっ、それってどーゆー意味!?テル〜!」
「それは、ヒミツで〜す!」

テルがウインクして口元に人差し指を立ててそう言ったことで、及子はドキンとしてしまった。
七馬とはまた違った、外国人特有の掘り深い顔立ちのテルは、いくら及子が七馬に心惹かれていても、別の男性的な魅力を感じさせてくれた。

「もっ・・も〜う、テルったら〜!イジワル!!」
「アハハハハッ!怒った及子サ〜ンも、so cuteですね!」
「テ、テル!!これ以上あたしをからかうのはなし〜!!」
「アハハハ、スミマセ〜ン。でも、これがボクの性分なので、許して下さ〜い。」

こうして及子は、テルと楽しい一時を過ごした。
このままテルと楽しく過ごすのも悪くないが、やはり七馬のことが気になってしまうのも事実だ。実際、今日もテルは七馬について新たな情報を教えてくれたことで、及子の好奇心はそちらに傾いていったのだった。


  

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