第3話 七馬にいきなりそう聞かれて、及子はドキンとしてしまった。と同時に、及子は自分の中で起きている異変を不思議に感じていた。 「んっと・・経済学部経済学科。」 とても理にかなったことを言われ、及子は「すごいね〜。」などと感心しながら七馬を見た。七馬はそんな及子を見て微笑む。 「おまえはどうして経済学科入ろうと思ったワケ?」 驚く及子に、七馬は相変わらず外に沢山いる人達を気にしているようだった。それから少し難しい顔をして七馬は言った。 「・・まぁ、就職決まんなかったら来いってコトだよ。それより、そろそろ入学式始まるな。行くか?」 及子が驚いて尋ねると、七馬は一瞬驚いた表情をしたものの、すぐに微笑んだ。 「あぁ、悦子さんから聞いた。んじゃ、行くか!」 そうして七馬は突然及子の右手首を掴んで歩き出した。七馬に引っ張られてしまっては、及子も着いて行かざるを得ない。 「えっ!?ちょっと、七馬!?」 及子がそう言うと、七馬はいきなり歩くのをやめて及子を見た。七馬のそのカッコ良い眼差しに及子はドキンとしてしまい、体と顔が一気に熱くなるのを感じた。 「・・本当か?」 そうして七馬は及子から手を離して、及子を導くように先に立って歩き出した。及子はドキドキして七馬に着いて行きつつ、悦子からもらった小さな花をつぶさない程度に鞄の中に入れたりしていたのだが、一方でなぜ七馬がこんなに自分に優しくしてくれるのかを考えていた。 (あ・・でも、七馬って優しくてカッコ良いから女の子達にモテモテなんだっけ?加えて文武両道となりゃ〜、そりゃ注目しない女の子の方がおかしいよね・・・・) 改めて自分は何という人に恋をしてしまったのだろうと思いながら及子は七馬の後ろを着いて行った。七馬はいちいち及子の方を見て、着いてきているかどうか確認しているようである。七馬と目が合うと、及子は微笑んでみせた。 (そ、そんなチロチロ見なくてもイイのに・・・恥ずかしいよ・・・・) 及子がそう思った矢先、七馬は新入生席の中でも左端の後ろの席の方に行き出し、及子も着いて行った。そのまま七馬は空いている席に座ったのだが、傍に行った及子は座ることをためらってしまった。 「あれ?座んねぇの?」 と言って及子が席に座った途端、七馬の目つきが鋭いものになった。 「おまえ、今敬語使ったろ?」 七馬はそう言ったかと思うと、いきなり及子の方に自分の顔を近付けてきた。七馬のカッコ良い顔が近付いてきたことで、及子は一気に慌てる。 「えぇっ!?ちょっと、何!?」 七馬はいきなり及子の耳元で低くそう囁いた。及子は耳元に七馬の甘い吐息を感じて、思わずビクンと体を震わせてしまう。 「な、何って・・知らないよ!!そんなこと・・・・」 七馬はそう言って、及子の顎に手をかけた。そのまま2人は見つめ合ったかと思うと、七馬が及子に顔を近付けようとしてきた・・・そのことに及子があせりを感じる一瞬前のことだった。七馬の手をバシッ!と叩いたかと思うと、「及ちゃ〜ん!!」と言って突然第三者が介入してきたのである。 「ええぇぇっ!?なっ、何!?」 ようやく何とか落ち着いた及子が抱き着いた相手を見てみれば、そこにいたのは真っ黒な肩ほどのストレートの髪がサラサラとしている、古典的な和美女であった。ニコニコと優雅な笑顔を浮かべていて、見ているこっちまで優雅な気分になっていく。 「あっ、驚かせてしまったでしょうか?私は厚木沙織です。及ちゃんと同じ新入生ですわ。改めまして、どうぞよろしくお願い致します。」 改めても何もないと思うのだが、この優雅な和美女・沙織はようやく及子から離れてお辞儀をしてそう言った。そうなると及子も慌てて立ち上がり、お辞儀を返すことしか出来ない。 「こっ、こちらこそ!!よろしくお願いします!」 七馬の声音が、及子と接していた時とは全く違う低く厚みのあるものになった。その表情や声音から窺うに、不快になった証拠だろう。一方の沙織も、優雅な立ち居振る舞いこそ崩れないものの、及子に話しかけた時とは明らかに差のある嫌味口調で七馬に対抗した。 「オホホホホッ。お話もろくに聞けない変態エロ河童のようですわね♪」 何と、またもや人が乱入してきた。しかも英語発音がやたら流暢で、日本語に少し英語訛りが感じられる。外人だろうか!? 「・・テル・・・」 及子は突然自分の名前をテルに呼ばれたことでひどく驚いてしまった。テルは人当たりの良さそうな笑顔を見せる。よくテレビで見る笑顔だな〜、などと及子は思いながらそれを見ていた。 「ハァ〜イ、及子サ〜ン!Nice to meet you!」 少し英語訛りがあるものの、テルの日本語発音は聞いていて不快なものではなかった。外国人と対面して話すことは初めてで緊張している及子であるが、何とか笑顔を浮かべた。 「あっ、はい!こちらこそありがとうございます〜・・・・」 そうして沙織が及子の右隣に座り、テルがその隣に座った。いきなり入学式早々大財閥のお坊ちゃまとお嬢様に囲まれて及子はドキドキしてしまった。こんな経験滅多にないだろう、ちゃんと心に留めておこう、などと及子は思いながら時を過ごすこととなる。 |