第6話

ということで、2人で冷蔵庫の中に入っていた午後の紅茶をカップに分けて飲むことにした。及子も悦子も、こうして面と向かって話をすることは本当に久しぶりのことなのである。

「うぅ〜ん!ゴゴティーおいしい〜!!」
「そうね〜!!あっ、そういえば及子!明後日って七馬ちゃんの誕生日なのよ!何かプレゼントしてあげたらどう?七馬ちゃん、きっと喜ぶわよ〜!!」

突然思ってもみなかったことを言われた及子は、驚いて悦子を見た。悦子はニコニコ笑顔で及子を見ている。

「えぇっ!?そっ、そんなコト突然言われたって!!姉さんこそ七馬にプレゼントすればイイじゃない!」
「私は匠ちゃんと一緒だからイイの!そ・れ・にぃ〜。あなたって、ピアノ弾くの上手じゃない!」
「あ、あのね〜!!そんな、あたしの記憶にない時代のコト言わないでよ!!今は完全独学なんだから!!ってゆーか、それと七馬の誕生日がどうやって結びつくの?」

実は及子、中学に入る前までピアノを習っていたらしいのだ。確かにピアノの楽譜は普通に読めるし、人並み以上に楽器系統の扱いが得意である。
だが今は習い事など全くしていないし、特に去年から今年にかけて受験勉強で一生懸命だったから、まともに楽器に触れてすらいない。しかもそれと誕生日を悦子はどうつなげているのだろうか?

「んも〜う、及子ってば分かんないの〜!?世界に1つだけの弾き語りを七馬ちゃんに披露すればイイのよ〜!!きっと七馬ちゃん、喜ぶコト間違いなしよ!!」
「弾き語りって・・・ピアノはどうすればイイのさ・・・」
「その辺の人から借りれないの?」
「借りれるワケないでしょがーーーーー!!!とにかく無理だよ、無理!!それこそ、七馬って欲しいモノあるの?あーゆー人って欲しいモノ全部手に入れてそうな気がすんだけど・・・・」

盛大に姉の悦子に突っ込みを入れた所で、及子は素朴な疑問を悦子に投げかけた。すると悦子は驚いて及子に言った。

「イヤ〜ン、及子〜!!七馬ちゃんだって人間よ〜!?欲しいもの位あって当然じゃな〜い!!」
「えっ?んじゃあ、姉さんは七馬が何欲しいか知ってるの?」
「そういうことになるわね〜!これでも私、七馬ちゃんの相談相手だから♪」

自慢げにそう言った悦子に、今度は及子が驚く番だった。

「ウソーーーー!?姉さんが、七馬の相談相手になってんの〜!?」
「エッヘン!そうなのよ!だ・か・らぁ〜。七馬ちゃんのことなら私にお任せって感じ〜!あっ、でもテルちゃんもそうみたいよ?あの子の場合、職業柄そうなってるんでしょうけど!」

そういえば、テルは芸能リポーターだ。仕事柄芸能人やら噂されている人の情報を集めて報道するのが仕事なのだから、確かにテルは色々詳しそうである。

「そうなんだ〜。それよりさ〜、七馬の欲しいものって何?」
「えっ?ヤッダ〜、及子〜!!それは秘密なの!あなたにこんなおいしい情報をそう簡単に言えるワケないじゃな〜い!」
「・・悔しいな〜。せっかく探り入れられるチャンスだと思ったのに・・・・」

及子が唇を尖らせてそう言うと、悦子は満面笑顔で及子に尋ねてきた。

「ウフフフッ!及子〜、1つだけ聞きたいんだけど。やっぱり、七馬ちゃんに惚れちゃった〜!?」
「えっ!?とっ、突然何!?」

及子は一気に顔を赤くした。それが答えのようなものであり、悦子は笑顔のままだった。

「分かる!!分かるわよ〜、及子〜!!私だって七馬ちゃん大好きだもの〜!!あなたならきっと、七馬ちゃんのこと一目見たら好きになるんじゃないかと思ったの!」
「・・・ハァ・・・そう・・・・」
「ヤ〜ン、及子〜!どうしてそんな力をなくしちゃってるの〜!?私が七馬ちゃんの相談相手になってるの忘れた?」

どうも姉の悦子の言いたいことがよく分からない。及子は紅茶を一口飲んでから悦子に尋ねた。

「いや、それが今の話とどうつながるの・・・?」
「だからぁ〜!!私が、あなたと七馬ちゃんの恋を応援しちゃうわ!!さっき、あなたが匠ちゃんのことで励ましてくれたお礼♪やっぱり、あなたにも恋をして欲しいもの〜!!」

悦子は超ノリノリ笑顔でそう言ったのだが、及子がそこでマッタをかけた。

「ちょっと待った!!それはカナリ無理だから!!!」
「えぇ〜?どうして〜?」
「どうしてって!!姉さん、七馬だよ!?大財閥なんだよ!?それは分かってるんでしょ!?」
「分かってるわよ〜。でも、それがどうしたの?このご時世身分なんて関係ないじゃな〜い!!七馬ちゃんや沙織ちゃんは、あなたにそういうことして欲しくないから普通に喋ってって頼んだ筈なんだけど・・違う?」

確かにそうだった。七馬も沙織も、そしてテルも、及子に「普通の口調、呼び捨て」を強調していた。及子としては不慣れなことではあるが、言われたからには守らなければと思っている。
さすが、自ら「七馬の相談相手」と言っているだけあって、悦子はその辺の事情までよく分かっているようだ。及子はそれ以上言うに言えなくて、コクンと頷くしかなかった。

「そうでしょう?確かに七馬ちゃんは特別な存在よ?今となっては、全国の女の子達に大人気の七馬ちゃんだもの!でもだからと言って、あなたとの恋愛が不可能って訳じゃないわ。むしろチャンスじゃない?せっかく七馬ちゃんと同じ大学に入れたんだもの!七馬ちゃんだってあなたにキスしようとしてた位なんだし、もう両思いだったりして☆キャーーーーッッ!!」

そうして悦子は頬に手をあてて興奮していたのだが、及子はそんな悦子を冷めた目で見ていた。

「いや、それはあり得ないから、姉さん。匠さんが「七馬は遊び人だ」って言ってたんだし・・・からかい目的でしょ。」
「ン〜・・・そういえば、七馬ちゃんってまだミスドの彼女と付き合ってたのかしら?」

いきなり悦子がそんなことを言い出したものだから、及子は一気に驚いてしまった。

「はぁっ!?七馬、付き合ってる子いるの!?」
「もっちろ〜ん!でも、その内別れるとか言ってた気がしたから・・・きっと別れたと思うわ!」
「・・姉さん。それなら尚更あたしと七馬の恋愛とかって無理な話だと思わないの?」

よほど及子の言っていることの方が正論のような気がするのだが、悦子はそんな及子の意見を否定した。

「私は無理だなんて思わないわ!それこそ諦めたらダメじゃな〜い!及子〜。恋には多少のスリルも必要だわ!」
「・・そうかな〜・・・・」
「そういうものよ☆」

こんな感じで、今日1日2人は夜まで語り明かした。久々に姉妹で語り合えたことで、お互いに満足出来たようだ。悦子は明日からすぐに仕事でしばらく家に帰れないらしく、当分は及子1人での生活になりそうだが・・・及子は悦子からもらった小さなお花を自分の部屋に飾った後、期待と不安と、そして七馬のことを考えながら眠りについたのだった。


  

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