第7話
入学式から2日後。それが七馬の誕生日であった。
昨日から始まったオリエンテーションは、1日中話を聞いたりスライドの映像紹介を見たりで終わるようだ。七馬に声をかけようかとも思ったのだが、同じ学部・学科で七馬ファンの女の子が多いらしく、昨日七馬は終始女の子に囲まれていた。そんな中に自分が入っていくことがためらわれて、結局及子は昨日七馬と話をすることすら出来ず、誰とも話すことのない暗い1日を終えたと同時に、果たしてこの大学でうまく生活出来ることやら不安になってしまったのである。
家に帰っても姉の悦子は忙しくてしばらく家に帰って来ないことは分かっていたし、憂鬱なまま今日という日を迎えてしまった。結局七馬の誕生日プレゼントを用意することは出来ず、及子はわざと知らないふりを通して、七馬と会わないようにすることにした。
本日もオリエンテーション。今週一杯は大学の紹介やサークル紹介で丸々つぶれるようで、正式な講義開始は来週から始まる。早く講義を聞きたいな〜、とかは思わないものの、今の内に友達を作っておかないとこのまま友達が出来なさそうなのが何だか悲しい。自分と趣味が合いそうな子はいないかな〜、とあちこちキョロキョロしてみるものの、どうも及子は友達作りが苦手だった。引っ込み思案とかいう訳ではないのだが、いきなり複数の人達がワイワイ仲良くお喋りしている中に自分が入っていけないのが現状なのである。
結局及子は今日もお昼を1人で食べることにした。大学の生協でパン2つと午後の紅茶を買い、春の陽が暖かい外の、少し木陰になっている所で及子は1人寂しくお昼を食べていた。周りの楽しそうな声が恨めしく、どうも馴染めそうにない。及子が「フゥ〜ッ・・・」と溜め息をついた、その時だった。
「ハァ〜イ、及子サ〜ン!お1人ですか〜?」
「ギャーーーッッ!!あ・・テ、テル!?」
及子は驚いて思わず叫んでしまったのだが、そこに現れたのは蜂蜜色の奇麗な金髪がサラサラと美しい、澄んだ青い瞳とソバカスがチャームポイントの芸能リポーター・テルだった。
外国人は、どうしてこうも日本人と違って肌が白くて整ったルックスをしているのだろうと及子は常日頃から思っていたが、実際にこうしてテルを見ると余計にそれを実感する。
「ハイ!!ah〜、スミマセ〜ン。驚かせてしまったみたいで・・・」
「あっ、ううん!大丈夫!それより、テルも1人・・なの?」
「そですね〜。色んな人と話すコトは大好きですけど・・・今日は朝から沢山の人と話しすぎて、チョット疲れたんです〜。でも、及子サ〜ンとならお話したいかな!隣、お邪魔してもイイですか?」
テルに優しい笑顔でそう言われて断れる人がどこにいよう。及子は即OKした。
「もっちろんだよ〜!!どうぞ、どうぞ!」
「ありがとございま〜す、及子サ〜ン!ところで、七馬ク〜ンはどうしたんですか?確か、一緒の学科でしたよね〜?」
及子はそれまで置いていたパンを自分の膝の上に乗せてテルの席を作った。そうしてテルは及子のすぐ隣に座ると、及子にそう尋ねてきたのである。及子は「七馬」という名前を聞いて一瞬ドキンとしたものの、すぐにその動揺を見せまいと努めていつも通りを装ってテルに言った。
「あっ!七馬は他の女の子達相手に忙しいみたい。実は昨日から七馬とは話してなくて・・・・」
「えっ!?そうなんですか!?意外です〜・・・・ah〜、ですけど納得しました。」
テルはそう言うとズボンのポケットから小さなメモ帳とペンを取り出し、パララッとページをめくったかと思うとペンで何かを書いていた。及子としては「何事!?」という感じのテルの行動であったが、その疑問は心の中に留めただけで突っ込むことはしなかった。
「納得って、何が?」
「アハハハハ。まぁ、色々ありまして・・・有名人のウラ事情、というモノですね〜!ン〜、1つお聞きしたいんですけど。及子サ〜ンは、七馬ク〜ンと一緒にいたい!とは思わないんですか〜?」
「えっ!?と、突然どうしたの!?テル!!そんな質問されても、何って言えばイイのやら・・・・」
及子は一気に顔を赤くしてそう言った。するとテルは、すぐに優しい笑顔を浮かべた。
「複雑、ですか〜?」
「ン・・ン〜〜。ってゆーか、テルはそんなコト聞いて何かメリットあんのかな〜?と思って。」
及子がパンを食べながら聞くと、テルは笑顔のまま答えた。
「ハイ、ありますよ〜!ボクが気にしているコトの1つですからね〜!」
「ええぇぇっ!?テ、テル。それって、さりげな〜くあたしに対しての誘導尋問?」
「アハハハハッ!そですね〜。それがボクの仕事ですから!」
「待った!テル!!そーゆーコトなら姉さんにしてもらわないと・・・」
「イイエ!ボクが今知りたいのは及子サ〜ンのコトなんですよ〜。七馬ク〜ンのコトどう思ってるのかな〜?とか、ボクのコトどう思ってるのかな〜?とかね!気になっちゃうんですよ〜。」
テルに笑顔でそう言われてしまい、及子は再び顔を赤くしてしまった。それはむしろ及子の方が知りたい。自分のことを七馬やテルがどう思っているのか・・・・
「え、えっと・・テル。そーゆーコト言われると、変に意識しちゃうよ?」
「・・ホントですか?」
テルは青く澄んだ瞳を見開き、驚きながら及子にそう尋ねてきた。及子はコクンと頷いて答える。
「うん、ホント。だってテルも七馬も・・その。カッコイイし、モテモテだから?あたしも一応女だし・・ね。分かるかな?テル・・・」
「ハイ、分かりますよ〜。でも嬉しいな〜!ボクと七馬ク〜ンのコト、そんな風に思って下さってるんですね!」
「えっ!?ま、まぁ・・これは率直な感想ってゆーか。テルって、ガールフレンド一杯いるんでしょ?」
及子がそう聞くと、テルはすぐに笑顔で答えた。
「ハイ!向こうにもこっちにも一杯いま〜す!及子サ〜ンもボクのgirl friendですよ!」
「えっ?ええぇぇっ!?い、いや!あたしはそんな・・・・」
及子が照れながらそこまで言ったその時だった。「及ちゃ〜ん、テル〜。」という優雅な女性の声が聞こえてきたかと思うと、及子とテルの方にゆっくり走ってきたのは大財閥のお嬢様・厚木沙織であった。
先日の入学式の振袖から一転して、本日は白いワンピースドレスを着ている。洋服も沙織にはよく似合うのだな〜、などと及子は思いながら沙織を見ていた。
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