第8話 沙織は入学式の時と同様、丁寧な口調と優雅な振る舞いで及子にそう挨拶した。言っていることにさり気なく七馬へのトゲが混じっているのがすごい。 「アハハハハ・・ってゆーか、七馬は他の女の子達にモッテモテだから1人でいただけなんだけど・・・・」 どうも沙織は七馬のことに関するとトゲのある発言ばかりする。それは素直になれない女の子の証だろうか?テルの誘導尋問に触発されたのか、及子は沙織に聞いてみることにした。 「そんなコト言って〜、沙織〜。実は七馬のコト好きだったりするでしょ?」 沙織はそう言って、ウットリしながら顔を赤く染めているのだが・・・・どう見ても演技ではない所が逆に怖い。 「さ、沙織。それもそれでどうかと思うんだけど・・・・」 及子の言ったことを沙織は完全に無視していた。テルも曖昧な微笑を浮かべている。 「やめとけよ。誰もおまえの話なんか聞きたいと思わねぇんだからさ。」 それまで楽しそうに、優雅な笑顔で話していた沙織から一気に笑顔が消えて不快そうな表情をしたと同時に声のトーンも変わった。どうやら及子の沙織に対する読みは完全に間違っていたようだ。七馬も沙織と話す時は笑顔を全く見せておらず、眉をつり上げて嫌そうな顔をしている。どうやらこの2人、完全に犬猿の仲のようだ。 「別に〜。ま、俺は日ごろの行いがイイから〜?」 テルが何とか2人の間に割って入り、宥めた。七馬と沙織が及子の方を見てみれば、確かに及子は動きが完全に止まっていて、ビクビクした表情を見せている。2人はその及子の様子にようやく気付き、謝った。 「・・申し訳ございません、及ちゃん。お気を悪くされませんでしたか?」 及子がそう尋ねると、七馬も沙織も複雑な表情をした。テルもどこか困ったような微笑を浮かべて皆を見ている。先に口を開いたのは沙織だった。 「本当はそのように出来ればよろしいのでしょうね。ですけど、私と七馬の家は、元から仲が悪いのですわ・・・・」 七馬は及子に笑顔でそう言った。その七馬の笑顔を見て、沙織も何か思うことがあったようで笑顔を見せた。 「そうかもしれませんわね。私と七馬の仲は、及ちゃんに左右されているのですわ。」 及子がそう言うと、テルも優しい笑顔を見せた。 「ダイジョブですよ〜、その内分かります!ah〜、それより七馬ク〜ン!happy birthday!!これは、ボクからささやかなモノですが・・・・」 そうしてテルは、先ほどメモ帳とペンを取り出した反対側のポケットから小さな箱を取り出した。七馬はテルからプレゼントをもらえるとは思っていなかったようで、目を見開いて驚いていた。 「サンキュ!やっぱさすがだな、テル!この間言ってた例のブツだろ?マジ嬉しいぜ!」 どこかトゲのある言い方だったが、沙織は七馬の誕生日を一応祝った。七馬も少し面倒くさそうな表情をしたものの、小さく「サンキュ。」と言った。 「おい、何逃げ出そうとしてんだよ?おまえ。」 そうして及子は慌てて全力ダッシュした。七馬は追おうと思ったが、意外に及子は逃げ足が速かった。だからすぐに追うのをやめてその場に立ち止まる。それから七馬は一気に切ない気持ちになり、それが表情にもにじみ出ていた。 「オホホホホッ。及ちゃんに嫌われてますわね、七馬。」 テルが苦笑して沙織にそう言った。一方の七馬は何も言わずに難しい顔をするだけである。そんな状態の中で、沙織が口を開いた。 「テル、あなたは少し七馬に甘いのですわ。私は、及ちゃんの今回の選択は間違ってないと思いますの。それに、及ちゃんから聞きましたわ。及ちゃんを差し置いて、他の女の子さんたちとお過ごしになっていたようで・・・・」 テルは、沙織の気持ちも七馬の気持ちもよく分かる。だからこそどちらにも賛同出来るし、どちらも否定出来ない。そんなテルの優しさと経験の深さは、沙織も七馬もよく知っている。沙織は一旦目を閉じると、すぐに笑顔を見せた。 「申し訳ございませんわ、テル、七馬。少々言い過ぎたかもしれません・・・・それでは、そろそろお昼休みも終わってしまいますから、この辺で。参りましょう?テル。御機嫌よう、七馬。」 それまで暗い空気だったものを、テルが笑顔で吹き飛ばしてくれた。そのことに七馬は感謝し、微笑を浮かべた。 「あぁ・・サンキュ、テル。んじゃ、また。」 |