第8話

「Oh!沙織サ〜ン!さすがです〜、この場所を分かってしまうなんて〜!」

「オホホホホッ。及ちゃんとテルの楽しそうな会話が聞こえてきたものですから・・・及ちゃん、ご機嫌麗しゅう。七馬ではなく、テルとご一緒にいることを選んだ及ちゃんは、見る目があるのですわ。」

沙織は入学式の時と同様、丁寧な口調と優雅な振る舞いで及子にそう挨拶した。言っていることにさり気なく七馬へのトゲが混じっているのがすごい。

「アハハハハ・・ってゆーか、七馬は他の女の子達にモッテモテだから1人でいただけなんだけど・・・・」
「あら、そうなんですの?及ちゃん、七馬以外にも優れた殿方は沢山いらっしゃるのですわ。もちろんテルもそのお1人です。七馬は変態エロ河童ですから、一緒にいることはお勧め出来ないのですわ。」

どうも沙織は七馬のことに関するとトゲのある発言ばかりする。それは素直になれない女の子の証だろうか?テルの誘導尋問に触発されたのか、及子は沙織に聞いてみることにした。

「そんなコト言って〜、沙織〜。実は七馬のコト好きだったりするでしょ?」
「あら・・及ちゃん、私は七馬が世界一大嫌いなのです。私が好きなのは歴史上の殿方なのですわ!!特に怨霊となって数々の方に祟ったとされる菅原道真様が最高ですわね!!ハァ〜・・・1度でいいですから、素敵な殿方の怨霊に憑かれたいですわ・・・・」

沙織はそう言って、ウットリしながら顔を赤く染めているのだが・・・・どう見ても演技ではない所が逆に怖い。
どうやら沙織は本当に七馬のことを嫌っているようだ。しかしそうなると、本気で怨霊に憑かれたいとか思っているのだろうか?それはそれでまずいのではないかと及子は思えた。

「さ、沙織。それもそれでどうかと思うんだけど・・・・」
「そうですわ!!丁度いい機会ですから、菅原道真様の魅力を及ちゃんにお伝えしたいのですわ!テルはもう何度も聞いて飽きていらっしゃると思いますけど、聞いて下さいますか?」

及子の言ったことを沙織は完全に無視していた。テルも曖昧な微笑を浮かべている。
このまま沙織の熱弁が本当に始まってしまうのか!?さすがに幽霊の話や歴史上の人物の話をされてもな〜、と及子が困ったその時だった。

「やめとけよ。誰もおまえの話なんか聞きたいと思わねぇんだからさ。」
「・・七馬。私がせっかくお話しようと思った時に、狙いすましたようなタイミングで来られるんですのね?」

それまで楽しそうに、優雅な笑顔で話していた沙織から一気に笑顔が消えて不快そうな表情をしたと同時に声のトーンも変わった。どうやら及子の沙織に対する読みは完全に間違っていたようだ。七馬も沙織と話す時は笑顔を全く見せておらず、眉をつり上げて嫌そうな顔をしている。どうやらこの2人、完全に犬猿の仲のようだ。

「別に〜。ま、俺は日ごろの行いがイイから〜?」
「その自慢げなお顔、見ているだけでイライラしますわね。あなたのどんな行いが良いのか、私には検討が付かないのですわ。」
「そりゃあ?おまえの前ではイイとこ見せたってどうしようもねぇもんな〜?」
「オホホホホッ。所詮七馬はその程度の器でしかありませんものね。」
「おい・・どーゆー意味だよそれは。」
「Ah〜、お2人とも〜。その辺になさって下さい〜!及子サ〜ンが怖がってらっしゃいますよ〜?」

テルが何とか2人の間に割って入り、宥めた。七馬と沙織が及子の方を見てみれば、確かに及子は動きが完全に止まっていて、ビクビクした表情を見せている。2人はその及子の様子にようやく気付き、謝った。

「・・申し訳ございません、及ちゃん。お気を悪くされませんでしたか?」
「悪い。コイツといると、いつもこんな調子だからさ・・・あんま気にすんなよ。」
「あ、いや・・別に、あたしのコトはイイんだけど。せっかく大財閥同士なんだから、仲良くしたりしないの?」

及子がそう尋ねると、七馬も沙織も複雑な表情をした。テルもどこか困ったような微笑を浮かべて皆を見ている。先に口を開いたのは沙織だった。

「本当はそのように出来ればよろしいのでしょうね。ですけど、私と七馬の家は、元から仲が悪いのですわ・・・・」
「ま、昔からの腐れ縁ってヤツ?これでも昔は仲良かったんだぜ?今みたいになったのって・・・やっぱあの時からか?」
「・・そうですわね・・・・」
「まぁ・・おまえがいれば、俺と沙織はまだ普通に話せるよ。だから、おまえがこれからもいてくれるんなら、俺と沙織はいつか仲直り出来るかもしれねぇな。」

七馬は及子に笑顔でそう言った。その七馬の笑顔を見て、沙織も何か思うことがあったようで笑顔を見せた。

「そうかもしれませんわね。私と七馬の仲は、及ちゃんに左右されているのですわ。」
「ええぇぇっ!?な、何であたしなの!?ワケ分かんないんだけど!!」

及子がそう言うと、テルも優しい笑顔を見せた。

「ダイジョブですよ〜、その内分かります!ah〜、それより七馬ク〜ン!happy birthday!!これは、ボクからささやかなモノですが・・・・」

そうしてテルは、先ほどメモ帳とペンを取り出した反対側のポケットから小さな箱を取り出した。七馬はテルからプレゼントをもらえるとは思っていなかったようで、目を見開いて驚いていた。

「サンキュ!やっぱさすがだな、テル!この間言ってた例のブツだろ?マジ嬉しいぜ!」
「イイエ〜、どう致しまして〜!!」
「そういえば、今日はあなたのお誕生日なのですわね。おめでとうございます。」

どこかトゲのある言い方だったが、沙織は七馬の誕生日を一応祝った。七馬も少し面倒くさそうな表情をしたものの、小さく「サンキュ。」と言った。
そして及子は思い出す。悦子から今日のことを聞いていたのに結局七馬への誕生日プレゼントは何もない・・・・及子はパンを食べ終えてから午後の紅茶を持って立ち上がり、抜き足差し足で逃げようとした。だがすぐに七馬にマッタをかけられてしまう。

「おい、何逃げ出そうとしてんだよ?おまえ。」
「いや!!実はさ〜、ちょっと急用思い出しちゃって〜。ゴ、ゴメン!」
「あっ、おい!」

そうして及子は慌てて全力ダッシュした。七馬は追おうと思ったが、意外に及子は逃げ足が速かった。だからすぐに追うのをやめてその場に立ち止まる。それから七馬は一気に切ない気持ちになり、それが表情にもにじみ出ていた。

「オホホホホッ。及ちゃんに嫌われてますわね、七馬。」
「!沙織、おまえ・・・」
「よろしいではありませんの。及ちゃんには、あなた以上に相応しい殿方が沢山いらっしゃるのですわ。」
「沙織サ〜ン。それは、七馬ク〜ンにはキツいですよ〜・・・」

テルが苦笑して沙織にそう言った。一方の七馬は何も言わずに難しい顔をするだけである。そんな状態の中で、沙織が口を開いた。

「テル、あなたは少し七馬に甘いのですわ。私は、及ちゃんの今回の選択は間違ってないと思いますの。それに、及ちゃんから聞きましたわ。及ちゃんを差し置いて、他の女の子さんたちとお過ごしになっていたようで・・・・」
「・・それは、仕方ねぇだろう?向こうが俺のコト離してくれねぇんだからさ・・・・」
「所詮は、ただの女の子好きなのですわ。やはり、そんな方に及ちゃんを差し上げる訳には参りませんの。テルもそう思いませんか?」
「ウ〜ン・・・それは、難しい質問ですね〜。」

テルは、沙織の気持ちも七馬の気持ちもよく分かる。だからこそどちらにも賛同出来るし、どちらも否定出来ない。そんなテルの優しさと経験の深さは、沙織も七馬もよく知っている。沙織は一旦目を閉じると、すぐに笑顔を見せた。

「申し訳ございませんわ、テル、七馬。少々言い過ぎたかもしれません・・・・それでは、そろそろお昼休みも終わってしまいますから、この辺で。参りましょう?テル。御機嫌よう、七馬。」
「あぁ、またな。」
「七馬ク〜ン!その・・うまく言えませんが、どうか気落ちだけはなさらないでくださ〜い!ボクは、まだ可能性が無限に広がってると思いますよ〜!!これからもfightです!」

それまで暗い空気だったものを、テルが笑顔で吹き飛ばしてくれた。そのことに七馬は感謝し、微笑を浮かべた。

「あぁ・・サンキュ、テル。んじゃ、また。」


  

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