バレンタインデー当日の2月14日。ラグリア商事社内では、女性が鞄をゴソゴソする度に男性が過剰な反応を示していた(笑)
レグルスは逸る気持ちを抑えて、スピカが自分にチョコ・・それも本命チョコを渡してくれることを待っていた。
お昼休みも半ばになり、レグルスはコーヒーを飲みながら自分の席で待っていた。それまで色んな女性から渡されてきたチョコであったが・・・・スピカはまだきてくれない。
いつになったらきてくれるのだろうと想いを馳せていたその時であった。
「あ〜、いたいたレグルス〜!!」
「ん・・?あぁ、姉さん?」
そう、バタバタとレグルスの所に走りこんできたのは姉のアルビレオであった。
「ンフフフフ〜、ちょっとこっちきなよ〜。イイもん見せてあげるからさ〜!!」
「・・・「イイもん」・・・・・?」
露骨に顔を顰めたレグルスであったが、アルビレオはとにかく満面笑顔で「早く早く〜」なんてレグルスの腕をグイグイ引っ張ってせかすものだから、レグルスは仕方なく席を立ち、アルビレオに連れて行かれるがままになった。
アルビレオは移動を終えてから「シーッ」とレグルスに静かにするよう注意を促してから親指でクイクイと中を覗くように言った。因みにここは社長室の扉の前である。扉は少し開かれていた。
恐る恐るレグルスがそのわずかな隙間から覗き込んでみれば・・・・・・ラグリアが座っているが・・・・ラグリアと誰か話している人がいる。後ろ姿だけでよく分からないが・・・・この背格好と髪型は・・・まさか・・・・・・
「あ、あの・・・おいしいですか?」
「・・あぁ・・・・とても良い味だな・・・これは、ありがたくいただいておくことにしよう・・・・」
「わぁ〜っ!ありがとうございます!!」
そう、この声を聞いてレグルスは確信した。間違いなくラグリアと話しているのはスピカであった。
「ミャ〜。」
子猫のミャウの声まで聞こえてきている。ミャウの声を聞く限り、とても機嫌が良さそうである。ということはラグリアの機嫌も恐らく良いのだろう。
「・・・もう1つ、食べても良いか・・・・?」
「はい、もちろんです!これはラグリア社長の為に持ってきましたから!」
「・・そうか・・・・ありがとう・・・・」
「その・・私こそ、もらって下さいまして、ありがとうございます・・・・」
・・・・・何やらとってもイイ雰囲気の2人の会話を聞いて、レグルスは少なからずショックを受けていた。
誰よりも先にスピカの本命チョコが欲しかったのに・・・・義兄のラグリアに先を越されたことは大きかった。しかも何だかとてもイイ雰囲気だし、スピカは「社長の為に・・」なんて言っている。
「ンフフ〜、どぉ?ステキな光景でしょ〜?」
アルビレオが小声でそうレグルスに言ってきた。レグルスは社長室から少し離れて口を開いた。
「・・・・姉さん・・私はとてもショックを受けているんだけどね〜・・・・」
「えぇ〜?あらそ〜う?せっかくだからあんたに見てもらおうと思ってさ〜☆」
「・・・私をイジめてそんなに楽しいかい?姉さん・・・・」
「ウン、すっっごい楽しい☆しかもあんたさ〜、まだスピカちゃんからチョコもらってないんでしょ〜?」
「うっ・・そ、それは・・・・・」
レグルスはこの姉のアルビレオだけには勝てなかった。自分の弱い所全て分かられてしまっているから・・・反抗してもその上をいくのだ、この姉は。
「だろうと思ってさ〜、あたしが代わりにチョコあげようと思って!!ねね、せっかくお姉様が直々にプレゼントするんだからさ〜、ありがたく受け取りなさいよ〜?」
と言ってアルビレオは奇麗にラッピングされた箱をどこからか取り出した。
レグルスは眉を顰めたが、取り敢えずもらえるのは少なからず嬉しかったからいただくことにした。
「あぁ・・ありがとう、姉さん・・・・」
「ン〜、べっつに〜、大したモンじゃないけどさ〜。あ、んじゃ〜あたしそろそろ部屋に戻るわ。んじゃ〜ね〜。」
そうして社長室に入っていったアルビレオを寂しく見送りながら、レグルスはため息をつき、自分の席に戻った。
気分はとても憂鬱だった。バレンタインの日にこんな暗い気持ちになることは今までなかった。
「・・そういえば・・姉さんはどんなチョコを私にくれたのかな・・・・?」
姉のアルビレオからバレンタインチョコをもらうこと自体あまりなかったことだったので、レグルスは興味本位で箱を開けてみることにした。
リボンを解き、包装紙を外し、箱を開けてみたら・・・・・・
ベチッ!!!
「うっ!!!」
とっても鈍くてイイ音がちょっとだけ響いた(笑)
「アイタタタ・・・・は、鼻とおでこが痛い・・・・」
そう、思いっきりレグルスの顔面にクリーンヒットしたそれは、ただのからくりのおもちゃ箱だった(笑)ビヨヨヨーンと伸びてレグルスの顔にクリーンヒットした物体はアッカンベーをしていた(笑)
鼻とおでこをさすりつつ、箱の奥をよく見てみると、1個だけ銀色の包装紙に包まれたチョコっぽいものがくるまって置かれていた。それを取り出してみる・・・・この感触からいって、どうやらチョコに間違いなさそうだった。
「全くもう、姉さんは・・どこまでも・・・・・」
そうして何だか無性に悔しくなったレグルスは思い切ってそのチョコを食べてやろうと半ばヤケになってくるまれている包装紙からチョコを取って食べた、その時だった。
このチョコをくるんでいた包装紙の裏面に何やら文字が書かれているのだ。それを見てみると・・・・・・
「バレンタインチョコわざわざ買ってしっかりあげたんだからさ〜、ホワイトデーはあんたの得意なケーキ作ってよ〜。それにプラスしてオパールも一緒にくれると嬉しいんだけどな〜☆
BY 超優秀なアルビレオお姉様☆」
という風に書かれていた(笑)
「・・・本当に姉さんは・・どこまでも・・・・!!・・・・でも、そんな姉さんに逆らえない私は、やっぱりダメなのかな・・・・?」
何だかんだ言ってやっぱり姉にもフェミニストのレグルスなのであった(笑)
今日の仕事の時間も終わってしまった。とうとう最後までスピカがチョコをくれることはなかった。
このまま帰るなんてカッコ悪すぎる・・・・確かにスピカと約束したのに。だがあの時・・・スピカを泣かせるようなことをしてしまったから・・・だからいけなかったのだろうか?・・・せかすことなんてしなければ良かった。先日のことを思い出してレグルスは自分で自分のしたことに途方にくれていたりした。
どんなに望んだって相手がくれなければどうしようもない。潔く諦めて帰ろう。レグルスがそう思って帰り支度をまとめていた時だった。
「あっ・・レグルス課長!!」
「・・スピカ?」
「あぁ〜、良かったです〜、探しちゃいました〜。あの・・今日もお疲れ様でした。もう、今日はお帰りですか?」
「あぁ、そうだね・・・フフッ、おまえは?帰らないのかい?」
「あっ・・・あの、その・・・・こ、これを・・課長に渡したくて・・・・」
そう言ってスピカが鞄の中から取り出したのは・・・・・・そう、レグルスの待っていたチョコであった。
「・・スピカ・・・・・」
「その・・・私、お料理ダメなんですけど・・・課長の為に、頑張って作ってみました・・・・!その・・もしかしたら、チョコ作る時の配合、間違っちゃったかもしれないんですけど・・・・ですけど、やっぱり・・・・手作りチョコは、レグルス課長に食べて欲しくて・・・・・」
「・・・スピカ・・・・・それじゃあ・・このチョコは・・・・」
「・・本命、チョコです・・・・いつも、レグルス課長にお世話になって・・キャッ!?」
「スピカ・・・・ありがとう・・ありがとう・・・・!!!おまえからもらえて、本当に良かったよ・・・・ずっと、ずっと待っていたんだよ・・・・?」
そう、レグルスはもう我慢出来なくなってスピカを抱き締めた。あまりにも嬉しかったから。自分の為に作ってくれたこと、「本命チョコだ」と言ってくれたこと・・・・
「・・レグルス課長・・・・すみません・・・・その、なかなか勇気が出せなくて・・・皆のいる前で渡すのが、ちょっとためらわれてしまって・・・・」
「そんな、いいんだよ・・・・もらえれば、すべて同じさ・・・・・あぁ、それじゃあ・・味見してみてもいいかな?」
「あっ、はい!あの・・・もしかしたらちょっと変な味かもしれませんけど・・・・・」
「あぁ、そんなの全然気にならないよ。」
そう言ってレグルスはスピカから本命チョコを受け取り、早速その中身を解いてチョコを見た。
形は悪くない。匂いも普通のチョコの匂いだ。安心してレグルスがパクッと一口食べてその味をかみ締めた瞬間だった。
「!!!」
何かがきた(笑)
「・・・レグルス課長?あの〜、どうかなさいましたか?」
「ん・・・・?あ・・あぁ・・・いや・・・」
「あの・・何か、心なしかお顔の色が悪い気がします・・・ま、まさか・・私のチョコのせいですか!?」
「い、いや!!全然そんなことはないんだよ!!う、嬉しすぎて・・思わず血の気も引いてしまったんだろう・・・ハハ、アハハハハ・・・・」
「そ、そうですか?それならいいんですけど・・・・あ、あの、ですけど・・今にも倒れてしまいそうで・・・・」
「あぁ、気にすることはないんだよ、スピカ・・・・ハハッ、とてもおいしいよ!!アハハハハハッ!!!」
「あ・・そ、そうですか?それなら、良かったです・・・私、お料理苦手なもので・・・・・」
本当はとってもマズかった(笑)だが本人を目の前にして「マズい」とも言えず、大好きなスピカからもらったせっかくの本命チョコであるし・・・ここで醜態を晒す訳にはいかないレグルスなのでありました・・・・・・(笑)
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