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「オーナー、ダメでしょ〜?あんたがお客さん困らせるようなコト言ったら、ミャウちゃんが怒るわよ?」
えぇっ!?そうなんですか!?・・ミャウさんが怒っている姿が想像出来ないんですけど・・・・
「・・・そうだな。」
ラグリアさんは苦笑しながらそう仰って、私から離れて下さったんですけど。ま、まだ胸のドキドキがとても速いです、私・・・・突然こんな風になってしまって、本当に驚いてしまいましたけれど・・ちょっとだけ嬉しいです。
「フッ、ミャウは敏感に空気を察するからな。飼い主が自分以外に手を出したとなれば、荒れそうだぜ?」
「・・・今日は、ミャウを抱いて寝るか・・・・」
ウフフッ。あの看板猫のミャウさんはラグリアさんが飼っていらしたのですね。
ラグリアさんは・・・見かけはちょっとクールで、いかにも「偉い経営者さん」といった感じのオーラがキラキラあるんですけれど、微笑みがとてもお優しいですから・・・きっとミャウさんにもお優しいんでしょうね〜。
「やめておけ。爪で引っかかれるだけだぞ?」
「・・・さすがに分かっているようだな、アトラス。」
「当然だろう?あぁ、それよりアルビレオ。早くスピカに金払わせてやれ。」
「はいは〜い、今お食事代計算してる所だから〜。」
あら?何かとてつもなく重要なことを忘れているような気がします・・・・あぁ〜〜っ!!そうですよ!アトラスさんにチップお支払いしなければです〜!えぇ〜っと、袋、袋!それからお金はぁ〜・・・・
私は慌ててバッグの中を漁って小さな紙袋を取り出すと、お財布の中から10万ゴールドを抜き出してアトラスさんに見えないように包み込みました。
「あ、あの、アトラスさん。忘れてました!今日、お世話していただいた分のチップです・・・・」
「・・・これは驚きだぜ。もらっていいのか?スピカ。」
アトラスさんは驚いた表情をなさってそう仰いました。えぇっ?どうして驚かれてるんでしょうか?逆に私が驚いてしまいます〜。
「あ、はい!今日は、本当にアトラスさんにお世話になってしまいましたから・・・・あの、本当にありがとうございました。そして、ご馳走様でした!」
「フッ、礼には及ばん。だが、ありがたくもらっておくことにしよう。感謝するぜ?スピカ。」
アトラスさんはそう仰って私の差し出した紙袋を受け取ってくれたんですけど・・・その次の瞬間、頭をグシャグシャと撫でられてしまいました!
・・何か、一気に髪の毛が乱れた気がしますけど・・・・ウフフッ。とても嬉しいです。
「あっ、あの・・アトラスさん・・・!?」
「おまえは本当に義理堅くて真面目な女だな、スピカ。今時珍しいぜ?だが、それがオーナーやナンバーホストに受けたんだ。俺もおまえのそーゆー面は、高く評価している。だから、また遊びに来いよ?スピカ。必ずだぜ?」
アトラスさんはまた私の頭をグシャグシャ撫でながらそう仰って下さったんですけど・・・・何でしょう。少しぶっきらぼうなんですけれど、アトラスさんのお優しさを確かに感じました。
「は、はい!必ず、またこちらに遊びに来ます!」
「良い返事だ、スピカ。あぁ、髪の毛グチャグチャにして悪いな。直してやってもいいが、オーナーの目もある。適当に直しておけ。」
「えっ?あ・・は、はい・・・・」
・・今度、髪束ねてきた方が良いでしょうか?ですけどアトラスさんにこうして頭を撫でられたことは、とても嬉しかったです。
アトラスさんの所からアルビレオさんの所に移動すると、アルビレオさんはニッコリ笑顔を浮かべて私に話しかけて下さいました。
「大丈夫?スピカちゃん。お勘定終わったら、お姉様がスピカちゃんの髪の毛直してあげる!ってワケで〜、今日のスピカちゃんのお会計は、こちらになりま〜す♪」
そうして私はレジに打ち出された金額を支払いました。あっ、この間より随分安いですね〜・・・・って、そういえば。この間は先輩が随分色々と食べ物を頼んでいらしたので無理もないですね。
「スピカ。そなたがまた来ることを楽しみにしていよう。」
「あ・・はい!ありがとうございます!ラグリアさん!本当に、ご馳走様でした!」
私はラグリアさんにお辞儀をしてそう言いました。アトラスさんやラグリアさんとお話する時は、とてもドキドキしてしまうのですけど・・・・それからすぐにラグリアさんがお優しい微笑を浮かべて下さったので、とても嬉しくなりました。
「・・こちらこそ、ありがとう、スピカ・・・・あぁ、アトラス。そなたは再び持ち場につくように。アルビレオ、テーブル表は?」
「ほーい、コレ。」
「・・相変わらず人使いが荒いなぁ、オーナーさんよ〜・・・・」
そうしてラグリアさんとアトラスさんは今後の打ち合わせをなさっているようですけれど・・・・わぁ〜っ。こうしている間に、お客様が沢山いらっしゃってますよ〜!
あ、今いらっしゃった方はアトラスさんのお客様なんでしょうか?いきなり抱き着かれてます〜!ラグリアさんも握手したりなさってますね〜・・・・しかもこの方、とても高そうなパーティードレスを着てらっしゃって、いかにもお金持ち!という感じの方です〜・・・・
そうして私が驚いて見ている横にアルビレオさんが来て下さって、ポンと私の肩の上に手を置いて下さいました。
「アハハハッ!スピカちゃんったら〜、目がテンになっちゃってるよ〜?」
ヒャ〜ッ、見られてしまいました。身分の違いが丸分かりという感じですね〜・・・・
「あ・・はい。とてもお金持ちそうな方々だなぁ〜、と・・・・」
「あの人達、古株のお客さんよ♪取り分けあの真ん中にいる人はアトラスと仲イイかな?それより、スピカちゃんの髪直したげる!こっちにおいで〜!」
そうしてアルビレオさんが手招きする方に着いて行ったんですけど。レジの所に置いてあった椅子に私が座っていいんでしょうか〜?
「あ、あの。お邪魔します・・・・」
「ンフフフ〜、どうぞどうぞ〜!・・全く、アトラスってば女の子の髪の毛何だと思ってるのかしら。もっと繊細に扱って欲しいわよね〜、こんなグチャメチャにしてくれて・・・・」
アルビレオさんはそう仰ると、胸ポケットから小さなブラシを取り出されて私の髪を梳かして下さいました。
ここの所、美容院なんて全然行っていなかったものですから、こうして他の方に髪を梳かされるということは、とても久しぶりで・・ちょっとだけ、くすぐったいです。
「は、はい・・・・ですけど、あの。嬉しかったです・・・・」
「ん〜、まぁ・・あの人、根は悪くないからね〜。んでも、やってるコトは非道極まりないかな?」
「・・そう、なんですか?」
うぅ〜ん。どうも、私にはよく分からないです・・・・
「スピカちゃんが襲われなかったのって、ある意味奇跡に近いわよ?アトラスは「客泣かせホスト」ってあだ名がつく位この世界では有名人なの。でもあの人ってばルックスだけがイイんじゃなくて、実際お客さんの盛り上げ方が上手いのも事実でさ。そうすると自然にお客さんが寄るじゃない?」
「はい。」
「で、あーゆー色男に口説かれたりしたら、大抵の女の子は悶絶しちゃうのよ。そうするとすぐにあの人は体の関係を吹っかけてくるのね。もちろん女の子も、アトラスが自分を気に入ってくれたんだと思って心を許しちゃうじゃない?んでもそしたら、もうアトラスに利用されてるのも同然なのよ。ハァ〜・・・・アトラスには、くれぐれも気を付けてね〜?襲われちゃダメよ?」
アハハハハハ。ですけど、私には遠い次元のお話のような気がします〜・・・・
「あ・・はい。ですけど、私は大丈夫ですよ〜、アルビレオさ〜ん。アトラスさんは、私には興味ないみたいですから。」
「そうかな〜?逆にあの人がスピカちゃんに手ぇ付けなかったのが怖いのよね〜。その内、大どんでん返しがくるかもよ〜?って、アトラスの話ばっかするのも何か変ね。ヤメヤメ!他に誰か聞きたい人のお話とかある〜?スピカちゃんになら、特別に教えちゃうわよ♪」
えっ。それでしたらレグルスさんのお話が聞きたいですよね!
「あっ、あの、それじゃあ。もしよろしければ、レグルスさんのことを・・・・」
「あぁ〜、レグルス〜?アイツはアトラスに比べれば危機感はないんだけど・・・・そういえば、この間初めてこのお店に来た時スピカちゃん顔近付けられたんでしょう!?大丈夫だった!?」
「あ・・はい、大丈夫でした。すぐにレグルスさんが離れて下さったので・・・・」
「・・アイツがそんなコトやらかすなんて珍しいコトなのよ?スピカちゅわ〜ん。どんなにアルコール入ってても、アトラスと違って、お客が望まない限り絶対に手は出さない人だから。まぁ、口で攻める分はアトラスより上だけど・・・・だからミーティングでこの話聞いた時、皆驚いてたわよ?大体レグルスってば今この手の世界では一番有名な人になってるからさ。実際レグルスに憧れてホストを目指す子が多いのも事実だし。」
・・レグルスさんは本当にすごい方なんですね〜。そんな方と、プレアデス先輩とのご縁で近付くことが出来たことが本当に嬉しいです。
「そうなんですか〜。レグルスさんは、皆さんの憧れの的なんですね。」
「ン、そーゆーコト。ある意味アトラスより泣かせてる女の子の数は多いかもね。アハハハハッ!」
あ、確かにそうかもしれませんね〜・・・・妙に納得してしまえるのはどうしてでしょうか。
私は・・今の所は、レグルスさんのことを想って悲しくなったことはないですけど・・・・レグルスさんとは今日ほんの少ししか一緒にいれなかったので、寂しい気持ちがあるのは確かです・・・・でも、こんなことで泣くほど弱くないですし。これからレグルスさんにはアタックをかけていけば良いですよね!・・断られそうな確率が高い気がしますけど・・・・
「アハハ・・・・あ、それじゃあ、ミザールさんのこともお聞きして良いですか?」
「えっ?ミザール?あの人面白いよね〜。オーナーが固い分、弟君があれ位抜けてると、ギャップが楽しくて笑えまくりよ〜。」
へっ?弟君?・・・まっ、まさか、ミザールさんって・・・・!!
「あっ、あの!!ミザールさんは、ラグリアさんの弟さん・・なんですか!?」
「あら、スピカちゃん知らなかった〜?そうなのよ〜、あの2人兄弟なの。顔だけはソックリだけど中身が違いすぎよね〜。あっ、でも可愛いモノ好きなのは一緒かしら。だからミャウちゃんとかは兄弟で仲良く可愛がってるわね。」
た、確かに言われてみれば、髪の毛の色も瞳の色も同じですし・・・・お顔・・特に目元がよく似てらっしゃる気がします。ですけど・・まさか、お2人がご兄弟だなんて!想像もしてませんでした・・・・
「そうだったんですか〜!知らなかったです・・・・」
「アハハハッ!まぁ、確かにあの2人って、あんま兄弟らしい会話もしないからね〜。どうしてもラグリアがあーゆー立場にいると、弟君として気を使っちゃうみたいね。今度ミザールともゆっくり話してみなよ!」
「あ、はい!分かりました。」
「ン!んじゃ、こんな所かな?ハァ〜ッ。すっかり長居させちゃってゴメンね〜、スピカちゃ〜ん。急いでたんでしょ?」
「いいえ、そんな!あの、1人でこの時間に帰るのが怖かっただけなので、早めに、と思っただけなんです。あの、アルビレオさんとお話し出来て楽しかったです!本当に、ありがとうございました!」
私が立ち上がってそう言うと、アルビレオさんは「どう致しまして〜。」と仰いながら手鏡を持ってきて見せて下さいました。
わぁっ!むしろ最初に来た時より髪形が奇麗に整っている感じです!す、すご〜いです。感動してしまいました・・・・
「こんな感じでどうかな〜?」
「あっ、はい!ありがとうございます、アルビレオさん!こんなに奇麗にしていただいてしまって・・・・」
「イイってイイって〜、当然じゃな〜い!そんじゃ、気を付けて帰ってね〜?また今度遊びにおいでよ♪」
「はい!また来ます!」
そうして私はアルビレオさんと、最後にミャウさんに見送られてお店を出ました・・・・うぅ〜ん。心がランランとしていて、怖さを感じないです。今日はこの明るい気持ちを抱いたまま、家に帰ってゆっくり眠れそうです・・・・・
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