第18話「努力の形、愛の形」
交じらいを終えた2人は、後始末が終わってからもしばらくお互いに抱き合って横になっていた。後味の快楽と疲れに酔いながら・・・・・・
「・・悪かったね、スピカ。」
「えっ?」
唐突にレグルスがそうポツリと言ってきたので、スピカはかなり驚いてしまっていた。
「痛がってたのに、結局最後までやってしまったから・・・・・痛いだろう?大丈夫かい?」
とレグルスはスピカを気遣って、スピカのお腹に優しく手を添えた。
「レグルスさん・・・・あ、あの、えっと・・・・痛い、ですけど・・大丈夫ですから・・・・・あ、ですけど・・・今度は私のお願い、聞いて下さいますか?」
「うん、何だい?」
「・・・・明日からは、もうこんなことをしないで下さい・・・・・」
「!・・・・・・・・・・・・」
スピカの本音だった。レグルスはそのスピカの言葉を聞いた瞬間にその表情を複雑なものへと変え、考え込んでいた。
レグルスがどうやら迷って考えてくれているようである。畳み掛けるならスピカは今しかないと思った。だから再度お願いをした。
「お願いします、この通り・・・・・そして出来れば・・・・家に帰らせて下さい・・・・・」
「・・それは無理だよ、スピカ。愛するおまえの願いは叶えてあげたいけどね・・・・セックスをしないことと、おまえを家に帰すこと・・・この2つの願いを叶えることは・・絶対無理、と言っておこうかな?」
「・・どうしてですか?」
「どうしてもだよ。言っただろう?私はおまえを愛しているし、今おまえを家に帰してしまったら・・2度とおまえに会えなくなってしまう・・・・だから私は、おまえをさらったんだよ。」
「・・レグルスさん・・・・どうして、会えなくなってしまうんですか?努力もせずにそんなこと言うのは、ちょっと間違ってると思います。」
「・・・・努力、ね・・・・散々屈辱を受けた努力をしたと言っても・・・おまえはそう言うのかな?」
「えっ?あの・・・どういうことですか?」
スピカは驚いてしまってレグルスに尋ねたが、レグルスは難しい顔をして口を開こうとはしてくれなかった。スピカも少し内気な面があるので、なかなかレグルスに踏み込むことも出来ず、しばし2人を沈黙が支配した。
レグルスがこんなに難しい顔をして考え込んでいたことは今まで一度もなかった。一体どういうことなのか聞きたかったが、恐らく聞いてもまともに答えてはくれないだろう。それが何となくスピカにも分かっていたから聞くことも出来ず、かと言って別の話題を見つけることも出来ずに黙ることしか出来ないのであった。
「・・・悪いね、スピカ。こんなに考え込むのは・・・私らしくない。」
「えっ?あ、いえ・・・・」
「・・・取り敢えず、こうしておまえと一緒にいること・・おまえとセックスしていることを・・・私はとても幸せに思っているよ。最高の時間だと思ってる。いずれおまえにもそう感じてもらえるようにしなければ、ね。それが今後の私の努力かな?」
「・・レグルスさん・・・・・」
「・・・でも、おまえの両親は・・・・今頃おまえのことを必死で探しているとは思うよ。」
「!・・・・・・」
そう言われるとスピカは急に父母に会いたくなった。スピカは一人っ子だから、両親に甘えていた面が多かったのは確かだった。スピカは両親が大好きなのである。
そして両親もまた、スピカのことをとても可愛がってくれた。両親の愛があればそれで幸せだった。
でも・・・・・・そんなスピカも3年前、とある男性に恋をしてしまった。それからのスピカは、いつか来てくれるその男性のことを想って日々過ごしていたのに・・・・・突然こんな形でレグルスという訳の分からない男と一緒になるとは、もちろん予想なんてしていなかった。
これが自分の運命なのかとスピカは思うと心が痛かったが、同時にあの時の男性がいずれは今この状況からスピカのことを助け出してくれるのではないかと、今はそう願うしかなかった。
「・・・・ねぇ、スピカ・・・・おまえには、愛する男がいるみたいだね・・・・」
「えっ・・・・・?」
「フフッ、またそんな驚いた顔をしてしまって。私には分かるんだよ?・・そんなおまえの心を支配している男が・・・いずれ私になって欲しいと・・そう思うよ・・・・・」
「レグルスさん・・・・あの、まさか・・・最初から、そのこと分かってました・・・・?」
スピカはまさかと思いながらレグルスに尋ねた。
「フフッ、もちろんだよ。でも、敢えて聞こうとは思わなかったんだよ。何せ私は嫉妬深いからね。私がおまえを愛してくれていて、私のことを喋ってくれるなら喜んで聞くけど・・・・それ以外の男の話なんて、私にとってはどうでもいいからね。」
「ど、どうでもいいんですか?」
「そうだよ、どうでもいいんだよ。あぁでも・・おまえに関する男の話なら、少し気にしてはいるんだけどね・・・・よければ少しだけ、教えてくれないかい?」
「・・嫌です・・・・」
「おやおや、あっさり否定されてしまったね。フフッ、それじゃあまたの機会にするしかないみたいだね。」
「またの機会もないです。だって・・・レグルスさん秘密ばっかりですから・・・・私だって少し位秘密にしたいことがあるんです。」
スピカは唇を尖らせてレグルスにそう言った。スピカとしては本気で怒っているのだろうが、レグルスにとってはこの上なく可愛く見えて仕方がなかった。
「フフッ、私に秘密なんてあるかい?可愛いスピカ。」
と言ってレグルスは余裕ある微笑を浮かべ、スピカのことをそれまでよりも強く抱き締める。
「当然です!ありまくりです!!」と即答したくなったスピカだったが何とか抑えつつ、更にスピカは唇を尖らせるばかりだった。
明らかに自分の負けだった。レグルスは余裕ある態度と微笑でスピカを見つめている。
「・・・レグルスさんの意地悪・・・・」
「おやおや、そんな風に言われるとは思わなかったね〜。フフッ、でもそんなおまえを見ていると・・いじめたくなってしまうんだよ?」
「や!もうやめて下さい!今日は、これ以上は・・!」
「フフッ、大丈夫だよ、分かっているから。さて、それじゃあ・・・おまえはまだ痛むだろう?もう少し横になってるといいよ。今姉さんが買ってきた服をここに持ってきてあげるからね。」
と言ってレグルスは簡単に服を着てベッドから出て、部屋を出て行ってしまった。
「あ・・・・・・」
スピカは急に取り残されて、寂しさが一気にこみ上げてしまった。何だかんだ言いながら、レグルスが傍にいてくれて抱き締めてくれる心地良さ、温かさがないとスピカの心の中に穴が空いてしまう感じだった。
「でもいけない・・・・レグルスさんは・・・悪い人、なんだから・・・」
と必死に自分に言い聞かせてみても、レグルスの存在が急に大きくなってしまっていることをスピカは完全に否定出来ないのであった。
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