第20話「転機」

それからと言うもの、スピカは毎日レグルスに愛される日々が続いていた。
彼に抱かれるとスピカは全てがどうでも良くなってしまっていたのだが、後で事を終えるとその全てが吹っ飛んでいる自分に気が付き、自分で自分が怖くなってしまっていた。
いつも逃げたいとスピカは思っていたが、スピカの部屋は2階にあるし、外へ続く1階のドアは開けたり閉めたりすると音がうるさくて、2階にいてもすぐに分かってしまう。
両親へ会いたいこともあったし、何より家にばかりいるので段々とストレスが溜まってきていた。それはもう、レグルスと一緒に生活するようになってから1週間と少し経った日のことだった。


コンコン

「スピカ、いるかい?」

レグルスはドアをノックしてスピカの部屋にやって来た。
今の時刻はお昼を少し過ぎた位のことで、スピカはボーッと窓から景色を眺めていた時だったので突然レグルスが来たことに少し驚いてしまっていた。

「あ、はい!あの・・何か用ですか?」

スピカは尋ねた。レグルスは頷いて口を開いた。

「あぁ。実はね、これから食料の買出しに行こうと思ってるんだけど・・・・おまえも行くかい?」
「えっ?」
「フフッ。今もそうして外を眺めていたし、随分と家の中に閉じ込めさせてしまっていたからね。たまには外に出ないと、鬱になってしまうだろう?だからね。おまえさえ良ければだけど。」

それは願ってもいないありがたい話だった。スピカは一も二もなくOKした。

「あ、はい!外に行きたいです!連れて行って下さい。お願いします!」
「フフッ。これはこれは、ありがたい返事をありがとう。それじゃあ行こうか。あ、この国治安があまり良くないんだよ。私の傍を離れないように。いいね?」
「あ、はい。分かりました。」
「フフッ。手をつないでいた方がいいかな?それが一番安全だからね。」

と言ってレグルスはスピカの手をとって歩き出した。
スピカは一気に心が舞い躍った。レグルスとこうして住むようになってから初めて出る外の世界。何があるのかスピカはドキドキしていたのだった・・・・




「あぁ、そういえば詳しく紹介していなかったね。今私たちが住んでいる国はフェラールといってね、まぁ・・この通り、発展している城下町だよ。おまえがいるヴァルロからは馬車で2、3時間といった所かな?」
「・・フェラール・・ですか?」
「あぁ、王国だね。」
「王国なんですか。あ、あれがお城ですね?」

と言ってスピカが指を指せば、そこには確かに大きい城が建っていた。
まるで昔のおとぎ話に出てくるような縦に長いキャッスル。スピカは外国に行くことがあまりなかったので素直に感動してしまっていた。

「フフッ。おまえもヴァルロに住んでいたんだから、あんな城位いくらでもあったろう?」
「確かにそうですけれど・・・ですけどやっぱり、ここは外国なんですね・・・・私、今改めて実感しちゃいました。」
「フフッ、そうかい?あぁ、ここ。ここの市場が安くて質が良いんだよ。」

と言ってレグルスはスピカと手をつなきながら、城下町の中にある市場に入っていった。今まですれ違った人々は数多かったが、この市場に関していえば買い物をする主婦の層が厚かった。皆ここで熱心に働いて暮らしている。そんな普通の生活の一部が垣間見れて、スピカは何だか嬉しくなっていた。
レグルスはふとスピカから手を離し、野菜の鮮度を見極めている。因みに今手に取っているのはキャベツにトマトである。

「・・・・・・・」

手を離されて、スピカは急に逃げたい気持ちが湧き上がってきた。今ならレグルスと手をつないでいないし、レグルスから逃げ出すことは可能なのである。
正にその時、スピカにとって絶好調のチャンスが舞い込んできた。

「あっ、あれ!レグルス様じゃない?」
「ウソ!?ホントだわ!!レグルス様〜!!」
「ん?あぁ、おまえ達は・・・・・」

2人の見知らぬ女性がレグルスに走りながら抱き着いてきたのである。

「レグルス様〜!!お久しぶりでしたね〜!!私達のこと、覚えてます〜?」
「あぁ・・・・そういえば、一夜を共にしたことがあったね。」
「キャン!もうレグルス様ったら!!覚えてらしたんですね!あの日の熱く契りあった夜のことを・・・・」
「フフッ、もちろん忘れたりしないさ。おまえ達の美しさもね。」
「あぁん!!レグルス様〜!!」
「私あなたに想われてたなんて・・・嬉しすぎです!!」

スピカは驚いてしまっていた。この女性2人、異様に露出度の高い服を着ているのである。胸の谷間がよく見えるタイトドレスを2人とも身に付けている。
だが驚いている場合ではない。今ならレグルスがこの2人の女性を相手にしているし、自分の方を見てはいなかった。
思い立ったらすぐ行動だ。スピカはそう思って、まずは少しずつジリジリとレグルスから離れて行き、少し離れた所でもレグルスが女性2人を相手にしていたのでもう大丈夫だろうと確信し、ダッシュした。
この市場の出口などはよく分からなかったが、その内出れるだろうと思って無我夢中でとにかくスピカは走ったのだった・・・・・・・・


  

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