第21話「偶然の再会」

あれからスピカはすぐに市場を脱け出すことが出来た。かくなる上は馬車の一つでもつかまえてヴァルロ王国に戻りたい所なのだが、スピカには馬車に乗るお金がなかった。
だがそれでスピカは途方にくれることなく、まずはこの王国を離れることからしなければならないと思った。自力で歩いて帰るとなると相当な日数がかかると思ったが、どこか野宿でもしようか・・・・だが自分はそんな準備も持ち合わせてはこなかった。
とここまで考えて、スピカは一瞬逃げてきた自分がバカみたいに感じたのだが、もうレグルスと一緒に住むあの家に戻りたくなかった。とにかくレグルスから離れたかった。このままだといけないから。
スピカは夢中になって遠くを目指したいと思った。あたりをキョロキョロと見回してみるが、ここの城下町の構造はさっぱりよく分からなかった。ここまで城下町が発展しているのだから大きい王国なのは確かである。

「どうしよう・・・このまま立ち止まっていたら・・レグルスさんに、見つかってしまうかも・・・」

とスピカがボソッと呟いた時だった。

「あっれ?スピカちゅわ〜ん?」
「キャッ!!あ・・・アルビレオ・・さん・・・・?」
「ん?ウンウンそうそう!!ヤッホホ〜、スピカちゅわ〜ん!!あれからお元気してたみたいね〜♪・・・ってあら待った。ウチのバカ弟はどこ行ったワケ?一緒にいたんでしょ?」

そう、突然スピカに声をかけてきたのはレグルスのハイパーな姉・アルビレオであった。
アルビレオは初めて会った時とは違うポニーテール、キュロットスカートという出で立ちをしていて雰囲気がかなり違かったのだが、喋りですぐに彼女だと分かった。

「え!?あ、えっと、それが・・・・」
「え?あらヤダ。もしかして迷子?スピカちゅわ〜ん。」
「えっ!?あ、その、ちょっと・・違うんですけど・・・・」

と言ってスピカは少し顔を赤くしたまま俯いた。アルビレオはそんなスピカの状況を見てポンと手を打った。

「あのバカ弟・・スピカちゃんに何しでかしたのやら・・・・もしかして逃走中?スピカちゃん。」
「!・・・・は、はい・・・・」

だがこうしてアルビレオに見つかってしまった。このままレグルスに会わせられるのかと思うとスピカは絶望感を隠せなかったのだが。

「そっかそっか。う〜ん・・・・それじゃあ半分だけ協力してあげる☆」
「えっ!?」

アルビレオのこの大胆発言にスピカは驚くしかなかった。だって彼女はレグルスの姉で、「レグルスと共犯だ。」とか言ってた時点でレグルスのやったことに協力していた人物なのに・・・・・

「んっとね〜、ん〜・・・・あいつと今日何しにここ来たの?スピカちゅわ〜ん。買い物かな〜?」
「あ、はい・・・・・」
「ん〜それじゃあね〜、あっちの〜、この城下町を東に行くとね、民家並んでるんだけど〜、そこえら辺行けばレグルスの目交わせるかもよ♪」
「・・本当、ですか?」
「ン〜♪多分ね〜。」
「た、多分じゃダメなんですアルビレオさん!」
「ん〜でもさ〜。スピカちゃんのコト助けてあげたいのはヤマヤマなんだけどさ〜。ほら〜、あたし一応今回レグルスに加担しちゃってるからさ〜。やっぱ最終的には、レグルスに家連れられてった方がイイでしょ?スピカちゃん♪」
「?・・・・・・」

アルビレオの言っていることがスピカにはよく分からなかった。「レグルスに家に連れられていった方がいい。」とは・・どういうことなのだろうか?

「ンッフフ〜。よく分かんないって顔してるね〜、スピカちゅわ〜ん。大丈夫!夜になれば分かるんじゃないかな〜。」
「・・夜、ですか?」

夜と聞くとスピカは少し怖かった。暗くて何も見えないからだ。

「ン、そう!よ・る☆まぁ、今の時間帯ならレグルスのこと、あたしが目くらまししておくからさ♪せいぜい頑張って逃げちゃってよ♪」

と言ってアルビレオはウインクした。スピカはよく分からなかったが、取り敢えず逃げ道を教えてくれたアルビレオに感謝せずにはいられなかった。

「アルビレオさん、ありがとうございます!!ですけど、偶然ですね。この城下町、とても広くて・・・お会い出来る方が奇跡に近いですよね?」
「ンッフフ〜、まぁそーだね〜。でもこの市場って若い子こないからさ〜。主婦ばっかよ♪あ、因みにあたしもこの通り買出し♪ンッフフ〜、どぉ〜?このジャガイモもこっちのパセリもおいしそうだよね〜!!今から作るの楽しみでさ〜、ンフフフフフ〜♪あぁ〜、考えるだけでお腹空いてきちゃう!!スピカちゃんもそうじゃな〜い?」
「ア、アハハハハ、そうですね・・・・・」

それよりスピカには逃げなければならないという気持ちが強かったから、苦笑いして曖昧に答えた。

「っとと・・・ここで呑気にお喋りしてる場合じゃないよね。んじゃま、頑張ってね〜?」
「あ、はい!それでは失礼致しました!」

と言ってスピカはパタパタと走り出した。アルビレオはそんなスピカを見送りながらボソッと呟いた。

「あ〜あ、ヤんなっちゃう。な〜んであたしがあのバカ弟の恋の手伝いなんてしなきゃいけないのよ〜。あ、でもオイシイ場面作れちゃったし〜?今度あいつにジャンボチョコパフェでも奢ってもらっちゃお〜っと♪」

どこまでも食べ物のことを考えるアルビレオだった。


  

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