第22話「大ピンチ」
スピカはアルビレオの指していたであろうフェラール王国の東側にたどり着いていた。しかしもう辺りは暗くなり始めていた。夕闇が眩しい。
「本当に、民家ばかり立ち並んでるんですね・・・・」
と、スピカは既に走り疲れたのでゆっくりと歩きながら回って見ていた。煙突からモクモクと上がる煙が暗くなり始めたこの景色に白く鮮明に映し出される。
それまで外に出ていた子供達がぞくぞくと家に入っていく。そんな子供達を見て自分にもこんな時があったのだなと、少し昔に思いを馳せる。
スピカは一人っ子であったし、中流貴族の家柄だったので両親がいない時にはその家来達がスピカの相手をしてくれていたから、寂しく感じることはあまりなかった。両親の愛があればそれで幸せだった。
だが今はどうだろう?レグルスに突然このフェラール王国に連れて来られて、護衛も誰もいない。自分をさらってきたレグルスさえもいない。少しだけ寂しさがスピカを支配した。
「お父様、お母様・・・お会いしたいです・・・そして・・・あの方・・・・」
スピカはいい加減走り疲れと歩き疲れで足がフラフラだった。元々スポーツなどはあまり得意分野ではなかったし、出歩くことなどなかったスピカは本当に体力がなくて疲れ果ててしまっていた。
丁度噴水のある小さな広場にベンチがあったので、スピカはそこにゆっくりと腰掛ける。ベンチの冷たさがスピカの中にも広がる。
空はもはや太陽が見えなくなり始め、大分濃い藍色になってきた。いずれはこれが真っ暗になり、星が輝きだす。そしてまた1日過ぎていくのだ。
スピカはため息をついた。もう疲れてしまった。まだ少し暖かいし、ここで寝てしまおうか?スピカがそう思ったその時であった。
「ちょっとそこのお嬢さん。俺と今日付き合わな〜い?」
「!・・・・」
突然声をかけてきたのは、スピカが当然見知ったことのない男だった。何だか妙につぎはぎの多い服を着ている。片手にはワインの瓶を抱えてフラフラとこちらに近寄ってくる。明らかに酔っている男だった。
「あ、あの、すみません。私は、そんな・・・」
「おっ。上玉のネーチャンじゃん。」
「おぉ〜っ、マジだぜ〜?おいおい、そんなヤツじゃなくてよ〜、俺と今日は一緒に過ごさねぇか〜?」
「いや、今日は俺と過ごさねぇかい!!嬢ちゃん」
「ダメだダメだそんなヤツら〜。俺とじゃなきゃ!!な〜?」
「!!・・・・」
スピカが否定して立ち上がった時、後からゾロゾロとフラフラ近付いてくる男達がきた。皆目をギラギラ光らせ、貪欲な獣のような目でスピカを見ている。
そしてこの男達がスピカに何を求めているのかスピカには分かってしまった。逃げなければと思いながら、怖さと疲れでスピカは動きたくても動けなかった。
「ヘッヘッヘ。お嬢さん金持ちか?絹なんて付けちゃってよ〜。そんなの破いちゃえ〜!」
「キャッ!!」
スピカは怖くて目を閉じた。と同時にビリビリビリッ!!と着ている服が破れる嫌な感触と音がした。スピカの上半身が部分的に露になっていて、ブラジャーが少し見えてしまっている。スピカは慌てておさえた。
「ほらほら嬢ちゃん。こっちはいいのかい!?」
と、別の男が今度はスピカのはいていたスカートを無理矢理引きちぎる。
「いやあっ!!」
下半身がほぼむき出しになってしまっていた。後は薄い下着一枚だけが覆っているのみ。当然男達の目が更にギラギラと嫌な輝きを帯びだす。辺りはもう完全に暗くなっていたが、満月と街灯が明るい。
スピカは完全に窮地に立たされていた。レグルスにさらわれる直前より驚きと助けて欲しい気持ちが広がっていて、自然とスピカは涙目になっていた。誰でもいいから助けて欲しかった。もうスピカには抵抗する力も逃げる力もなかった。
「ヘッヘッヘ〜。ネーチャン肌白いな〜。ヘヘヘヘヘヘッ・・・・」
スピカは完全に触られるだろうと思い、怖くて目を閉じた。もう逃げれない、助からない。そう思った時だった。
「ふ〜ん、彼女に触る気かい?そしたらどうしよう。死刑にしてしまおうかな?」
『!!!』
スピカに乱暴しようとしていた男達が一斉に声の主を振り返る。
スピカは怖さと絶望で何が起こったのかよく分からなかったが、場の雰囲気が一気に張り詰めていることに気づき、そっと目を開けた。
そうしたら男達が地に頭をつけて土下座している。そして土下座されている人物を見てみれば、そこにいたのは・・・・・・・
「やぁ、スピカ。ごめんね、迎えが遅れてしまったね。」
「・・・・レグ、ルス・・さん・・・・・・!」
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