第23話「幸せを感じる時」
そう、そこに余裕ある微笑を浮かべて立っていたのはレグルスだった。銀髪が暗い夜に相反してよく目立っている。
「す、すいません!!レグルス様ぁ〜!!」
「お、俺ら、レグルス様の大切な方だと露知らずに!!」
「どうぞお許し下さい!!」
「おねげぇします!!この通りです!!」
「どうかレグルス様!!俺らにご慈悲を!!」
男達は皆すごい勢いでレグルスに謝っている。レグルスはその男達を冷ややかな瞳で見下していたが、すぐに口を開いた。
「まぁいいよ。私は心が広いから、特別に許してあげるよ。その代わり・・今すぐにここから立ち去ってね。さもないと・・・刑を課してしまうよ?」
『うわあああぁぁぁーーーーーーっっ!!!』
男達は一気に絶叫して、その場から皆すぐにいなくなってしまった。
スピカは突然のことに驚いてしまって何が何だかよく分かっていなかったが、取り敢えずレグルスがスゴい人なのだと改めて思ってしまった。
レグルスは「フゥ〜ッ。」とため息をついてからスピカの傍にやってきた。スピカは怖さと自分が犯した罪とで、レグルスを見ることが出来ずに俯いた。
「スピカ・・・・?どうしたんだい?私のことを・・見てはくれないのかな?」
「・・レグルスさん・・・・・」
レグルスはスピカの顎に手を添えて顔を上げさせた。自然と2人は見つめ合う。
「・・・良かったよ・・・・後一歩遅かったら、完全にあの男達におまえをとられていたからね・・・」
とレグルスは言って、スピカを優しく抱き締めた。
レグルスのその暖かさが身にしみたのと、今までの怖さと自分がしたこと・・色々重なり合って、スピカは涙をこぼした。
「レグルスさん・・・・・!ごめんなさい・・・・!ごめん、なさい・・・・・!!」
「・・・スピカ・・・いいんだよ。私こそごめんね。助けるのが遅れてしまったね。」
「そんな・・そんなことありません・・・・!私・・私・・・・!」
「・・・・姉さんから事情は聞いてるよ。」
「えっ・・・・・?」
「フフッ。まぁ・・おまえの気持ちも分かるよ。いつでも怖がらせてしまって、おまえが私に対して完全に心を開いていないことは・・分かっていたからね・・・・」
「・・・・レグルスさん・・・・・!」
スピカは涙が止まらなかった。レグルスが本気で自分のことを心配してくれていることが分かったから。
「・・そんなに泣かないで、スピカ。言っただろう?私は女性の涙に弱いんだよ・・・・特におまえの涙ともなると・・ね。」
「レグルスさん・・・・・」
「・・おまじないをかけてあげようか?」
「えっ・・・・?」
レグルスはそう言ったかと思うと、スピカの唇に自分の唇を重ねた。そうだった。1週間と何日か前に、レグルスはそう言って自分にキスしてくれたことを思い出していた。
2人の舌が触れ合う。それはとても優しく、温かいキスだった。
「・・レグルスさん・・・・」
レグルスの温かさと優しさにスピカは完全に溺れてしまっていた。今は何もいらなかった。ただこうしてレグルスといることが出来れば。これがスピカにとって最高の幸せの時だった。
「・・・スピカ・・・・それじゃあ、私から逃げたい気持ちを抑えてもらって、家に戻ろうか?」
「・・はい・・・・」
「おっと、その服じゃあまずいよね・・・・う〜ん。取り敢えずこれを羽織ってごらん。」
と言ってレグルスは自分の着ていたブラウスをあっさりと脱いでしまった。レグルスの温かく柔らかい、適度に鍛えられた肉体がそこにあった。
「えっ!?あ、あの、ですけど・・寒くないんですか!?」
スピカは驚いてしまったが、ありがたく羽織らせてもらうことにした。長いレグルスのブラウスは、スピカの下半身もおさめてくれた。
「構わないよ。別に男が上だけ裸なのはそれほど変ではないだろう?」
「そ、それは・・そうですけど・・・・」
「それより、おまえの方が寒そうだよ?まぁ・・普段からそれ位露出してくれても、私はいっこうに構わないけどね。」
「レ、レグルスさん〜・・・・・!?」
「アハハハッ。それより、すっかり泣き止んでくれたみたいで良かったよ。」
「あ・・・・・・・」
そう、気づけばスピカはあのキスをしてから自然と涙が止まっていた。そしてまた思うのだ。レグルスに勝てることなんてないと。
スピカは悪あがきした自分を本当にバカだと思った。逃げてこのように危険なことに陥るのなら、レグルスと一緒にいた方がスピカにとっては断然良かったし、幸せだと思えた。だからこれを機に、2度とレグルスから逃げないと密かに心に誓った。
「それじゃあ行こうか。さ、立てるかい?」
「あ、は、はい。」
レグルスに手を借りてスピカは起き上がったが、完全に疲れていてちょっと歩くことは出来なさそうだった。
「す、すみません、レグルスさん、私・・・ちょっと足がガクガクしてしまって・・・」
「おや?フフッ。慣れない国で慣れないことをして疲れてしまったかな?いいよ、抱えてあげるから。」
「えっ!?」
レグルスはそう言ってスピカをヒョイッと抱き上げる。お姫様だっこ状態だった。
「・・あ、レ、レグルスさん?」
「ん?どうしたんだい?スピカ。照れてしまって。」
「そ、その・・・・私、重いですから・・・・・」
「おやおや、何を言い出すかと思えばそんなことかい?全然重くないよ。家までなんて余裕だよ。」
「そ、そんな・・・・・」
「まぁ気にしないで、私につかまっててね。」
と言ってレグルスは歩き出した。スピカはレグルスの首の後ろに腕を回した。レグルスに申し訳ないと思いながら、足が動かないのは本当に事実だったので正直とても助かっていた。
レグルスに抱えられながら移動するその光景はまた新鮮なものだった。それに夜スピカは出歩いたことがないので、このネオンの輝きは初めて見るものだった。素直に奇麗だと思った。
今スピカは、レグルスとこうしていることに無上の喜びを感じているのだった。
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