第24話「雷の日」
スピカはこの逃走事件をきっかけに、レグルスのことを少しだけ信頼し、慕うようになっていた。
元々非常に美形であることと、普通の男性とは明らかに違う魅力を兼ね備えてはいたが、それにプラスして料理は上手だし、自分にとても優しくしてくれるし・・・・・急に自分をさらってきたことだとか、少しエッチな所はまだ嫌気が指すものの、明らかにスピカはレグルスのことを好きになっていた。あれだけ嫌がっていたレグルスとのセックスも、今では素直に受け入れるようになっていた。
そんな自分をスピカは少しおかしいと思いながら、レグルスに対する微妙な想いを感じずにはいられなかった。だがやはり、一番はあの3年前の仮面パーティーの男性であることに変わりはなかった。
さて、この逃走事件の翌日のことだった。
その日は朝から雨がしきりに降っていたのだが、夜になってからゴロゴロと遠雷が聞こえていた。
「雨の日って・・憂鬱ですよね・・・・」
スピカは自分の部屋の窓から景色を眺め、そう呟いた。既に夜だったから辺りは真っ暗で、少し明かりがチラホラ見える程度である。
真っ暗な中雨が静かに降っている。夕食を食べ終えてから1人でいたことや、昨日の出来事のことなど色々あったので、スピカは完全に気分が憂鬱になってしまっていた。とその瞬間、雲間から鋭い光が見えた。それから何十秒後に聞こえる雷の音。スピカは思わず目を閉じ、耳を手で塞いでいた。
「怖い・・・・・!」
スピカは雷が苦手だった。小さい頃は雷が鳴った日は両親の下に走っていったものだった。
それからまた空が光った気がした。スピカは怖いと思いながらまた目を閉じ、耳を塞いだ。
本当に怖かった。両親はいないし・・・・だがそういえば、この家には別に1人で住んでいる訳ではないではないか。
「・・・・レグルスさんの所に・・・行ってみましょうか・・・・」
コンコン
「あぁ、開いてるよ。」
レグルスの声が聞こえて、スピカはカチャッと隣のレグルスの部屋のドアを開けた。
「!・・・」
スピカが見た光景は意外なものだった。そこにはレグルスが確かに座っているのだが・・・・眼鏡をかけていて、何やらぶ厚い本を読んでいるのである。
頬杖をつき、足を組んで本を読んでいるレグルス・・・・レグルスにはまた眼鏡がよく似合っていた。何をやらせてもサマになってしまうレグルスにスピカは驚かずにはいられず、本気でレグルスに一瞬見惚れてしまっていた。
「ん?おや、どうしたんだい?そこに立っていないで、入っておいで。何か用があるんだろう?」
と、レグルスはパタンと本を閉じてスピカの方に向き直ってそう言った。スピカはまさか、本を読んでいたレグルスに驚いて、一瞬だけでも見惚れていた、とは言えずに「お邪魔します。」と一言小さく言ってパタンとドアを閉じてレグルスの部屋の中に入った。
「フフッ、どうしたのかな?わざわざ私の部屋におまえが来るなんて珍しいね。やることもなくて暇だったのかな?それとも、夜這いのお誘いかな?」
「ち、違います!!それより・・・レグルスさん。今何してたんですか?」
「ん?あぁ、読書だよ。」
「ど、読書・・ですか?」
「そう。読書は私の趣味でね〜。」
「ええぇぇっ!?」
思わずスピカは驚いて声を上げてしまった。レグルスは心外だと言わんばかりの表情で眼鏡をゆっくりと外して口を開いた。
「おやおや、失礼だね〜スピカ〜。私と本は結び付けられなかったかい?」
「え、あ、あの・・・レグルスさんって、常に女の人のことしか頭にないのだと思ってました・・・」
「ふ〜ん・・・まぁ、確かにそれはそうかもしれないけどね。でもね、女性を口説き落とすには色々テクが必要なんだよ。そのための知識を養うには、本は欠かせないね。」
「あの・・・・女の人を口説き落とすために、読書なさってるんですか?」
「あぁ、もちろんそれだけではないけど・・最近の女性の目は厳しくてね〜、知識や教養のない男はすぐにポイッ、だよ。まぁ、私は元から天才だけどね。」
「・・・・・・・・・・・」
「自分で言う人ほど天才ではないのではないか。」とスピカは心の中に密かに突っ込みを入れていたが、このレグルスに関してはそれが通用しそうにないから怖い。
実際レグルスの多才ぶりにスピカは驚くばかりである。それを考えればレグルスのこの「読書」という趣味はある意味当然なのかもしれないし、天才かもしれないとスピカは思いなおしていた。
「もちろん、今はおまえを口説き落とすのに苦労していてね・・・・そんなの本を読んでも載っている訳ではないから、散々困っている所だよ。」
とレグルスは言って、スピカを自分の所に抱き寄せた。スピカは少し驚きながらも、レグルスの傍にいることが嬉しかったので抵抗することはなかった。
「は、はぁ・・・・」
「・・・おまえはいつになったら・・・私のものになってくれるんだろうね・・・・」
「・・レグルスさん・・・・」
見つめ合っていた2人だったが、その時空が光りだした。スピカは咄嗟にレグルスに抱き着いた。
「?」
レグルスはなぜスピカが自分に抱き着いてきたのかがよく分からなかったが、その次の瞬間雷の音を聞いて理解した。
スピカはその音が聞こえた時には、完全にレグルスの胸の中で縮こまってしまっていた。だが誰か人の傍にいることは怖さを十分に紛らわしてくれた。
「フフッ、スピカ。ベッドに移動しようか?」
「えっ?」
突然のレグルスの申し出にスピカは驚いてしまった。
「雷が怖いんだろう?いいよ、傍にいてあげるから。恐らく、この雷は今日一日中続くだろうからね・・・・だから、そのまま一緒に寝た方がいいだろう?」
「あの・・レグルスさん。それって・・つまり・・・・」
「フフッ、そんなに顔を赤くしてしまって。別に今すぐ抱くなんて言ってないよ?」
「レ、レグルスさん!!」
「アハハハッ、まぁ怒らないでスピカ。いいよ、添い寝ならいくらでも喜んでしてあげるから。」
「・・・・・・・・・・・・・・」
何となくレグルスの言っていることを半分信じ切れてないスピカであった。
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