第3話「その名はレグルス」
「フフッ。金品ばかり大事にしている貴族なんて、最低だね。一番大切なものが何なのか忘れてしまっているなんて・・・そんな両親、大切にする必要なんてないんだよ。」
その男性はそう言い、スピカに一歩近付いた。
「!」
スピカは驚いてしまって言葉も出ない。ただこの美形の男性が怖くて、必死に視線を逸らすことしか出来なかった。
だがこの男性の放つ魅力は独特で、何か逆らえない部分があるのも事実だった。
「フフッ、そんなに怖がらなくていいよ。ただ・・・私に着いてきてもらえればね。」
とその男性は微笑を浮かべてそう言った。
「え、あの・・・・あなたは、誰ですか?」
スピカは突然のことで驚きと怖さと戸惑いに包まれながらも、ようやく声を絞り出してそう尋ねた。
「私かい?あぁ、そういえば名前を言ってなかったね。私はレグルスだよ。さ、これで不満はないかい?」
「・・・・・・・・・・・・」
「不満タラタラです。」と精一杯心の中で呟いていたが、もちろん実際には恐ろしくてそんなこと口には出来なかった。
「フフッ。そんなに身をこわばらせてしまって・・怖がらないでって言ってるだろう?」
「ですけどあの・・・・あなたは、警備員さんでは・・ないんですよね?」
と、スピカは何だか知らないけど不用意に自分にジリジリ近付いているレグルスから少しずつ放れようと、後ずさりしていた。
「う〜んそうだね〜。そういうことになってしまうのかな〜?フフッ。まぁ、今日の騒ぎを起こした犯人は、私だからね〜。」
ニンマリと余裕ある微笑を浮かべながらレグルスは答え、なおもスピカに少しずつ近付いていく。
スピカもまた少しずつ後ずさりしていたが、とうとう窓のある壁に寄りかかってしまった。逃げる場所がない。
それより何より、この男・レグルスが家に手紙を送ってきた犯人だと知れた今となっては、スピカはどうしようもなかった。
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