第35話「複雑な想い」
それからアルビレオの言っていた通り、すぐにレグルスが帰ってきた。
「あ〜、おっか〜えり〜、レグルス〜。食べてたよ〜。」
「あぁ、ただいま。フフッ、スピカ。おはよう。」
「あっ・・お、おはようございます、レグルスさん・・・・」
スピカはレグルスを見て驚いてしまった。というのも、普段レグルスが着ている服とは明らかに違う服を着ていたからである。
普段は襟元を開けたブラウスと革ズボンをはいているレグルスが、今は襟元をきっちり閉めたブラウスにブレザー、ネクタイ、黒いズボン・・・という出で立ちだったからだ。
普段のワイルドなレグルスでもカッコイイと思っていたが、このような服を着せても似合ってしまうのだなぁとスピカは思い知らされる。しかし実家に帰るのにわざわざこんな服装する必要があるのだろうか?レグルスの家はよほど金持ちの家であるに違いない。
それを考えてみればアルビレオの方も、服は常に質の良いものを着ている気がする。今日のアルビレオはリボンとレースがたくさんあるふわふわ系のワンピースである。
以前レグルスがアルビレオのその感性について誉めていたことがあったが・・・この姉弟は本当に何もかもが普通の人とは違う魅力とセンスを持っているのだなぁと改めて思ったスピカであった。
「ん〜で?どーだったワケよ〜。何か言われてきたワケ〜?」
「う〜ん・・・まぁ特にはね。いつも通りかな?」
「あっそ。ったく・・・親心配させてんじゃないわよ〜、毎度のコトながらさ・・・常にウチの両親、あんたのコト心配してんだからさ〜。一番の末っ子だから、どーしても愛情度が高くなっちゃうのよね〜。」
「アハハハッ、まぁそうだね〜。その点私は本当に恵まれてしまっているね。」
「んで?アイツからは何か言われたワケ?」
「う〜ん・・・まぁ、相変わらずかな?私を怒って罵っていたよ。」
「あんた・・・・随分また客観的な物言いで・・・・」
「いつものことだからね〜、慣れてしまったよ。あぁそれより・・・おまえを見ていると、とても癒されるよスピカ。」
とレグルスは言い、突然スピカの頬に手を置く。
スピカは驚いてしまって一気に顔を赤くしてしまっていた。アルビレオの目つきも途端に陰険なものになる。
「あんた・・何ドサクサに紛れてスピカちゃんの顔に手ぇ〜置いちゃってるのよ!?スピカちゃん食事中なんだから離れなさいっての!」
「フフッ、そうは言ってもね〜、姉さ〜ん。私にとってはスピカと離れることが、何よりも悲しいことなんだよ・・・・?」
「はいはい。まぁ〜あんたがスピカちゃんのコト好きなのは誰でも分かってますって。あ〜それよりさ〜、さっきスピカちゃんと話してたんだけど〜・・明日スピカちゃんをラグリアの元に連れてってくれないかな〜?」
とアルビレオが言ったことに対し、レグルスは目を見開いて驚いてしまっていた。
「へぇっ!?私がかい?」
「そうよ〜。あんた以外に誰がスピカちゃんを城まで連れてくのよ!?」
「また突然な話だね〜・・・・そんなにラグリアに興味があるのかい?スピカ。」
と、レグルスが複雑な表情をしてスピカに尋ねてきた。
レグルスが国王ラグリアのことを嫌っていることは分かっていたスピカであったが、昨日ラグリアを見て、また会えるなら是非会いたいと思っていた。だからスピカは言った。
「私・・やっぱり、ラグリア様のこと、とても素敵な方だと思ってますし・・・もしかしたら、私が探していた方だと思うんです・・・・なので、その・・・お願いします!」
スピカは頭を下げてレグルスにお願いをした。レグルスは、スピカがまさかお辞儀までしてくるとは思わなかったもので驚いてしまった。
「あぁ、分かったから顔を上げて、スピカ。フゥ〜ッ、仕方ないね・・・国王様のお膝元にはあまり行きたくないんだけど・・・・城門前までなら、連れて行ってもいいよ。」
「本当ですか!?ありがとうございます!レグルスさん!大好きです!」
とスピカは言って、レグルスに抱き着いた。レグルスは苦笑しながらスピカを抱き締める。
「全く、おまえはおねだりの仕方がうまくなったね・・・・」
「・・レグルスさんがそうさせたんですよ?」
「フフッ、そうなのかな?まぁ・・いずれにせよ、話は分かったよ。で、姉さんは?」
「ン〜、あたしは昼食平らげたら帰りますよ〜?あ、明日?明日はそーね〜・・・ま、一応様子見位はしとくわよ。」
「フフッ、頼んだよ姉さん。」
「ラッジャー☆あ、それじゃあとっとと昼食食べて逃げるわ。ハグハグハグハグ・・・」
アルビレオはそう言い、スゴい勢いでサンドイッチを食している。相変わらずの食べっぷりにスピカとレグルスは苦笑してしまっていた。
「あ、それでは私も・・残りの分、いただきます・・・」
と言ってスピカはレグルスから離れ、椅子に座って同じくサンドイッチをいただく。
レグルスは何やら考え込みながら2階の方に上がっていってしまった。それを横目で見ていたアルビレオがボソッと言った。
「あいつ、思ってたよりダメージ受けてるわね・・・・こりゃちょっとマズいかも・・・・」
「?・・アルビレオさん?どうかなさいましたか?」
「ん?あぁちょっとね〜。アイツ、ちょっと精神的にヤヴァイかなって思っただけ☆」
「「あいつ」って・・・レグルスさんですか?」
「そうよ〜。ほら〜、あいつどーしてもスピカちゃんのコトが大好きだからさ♪他の男に興味持ってるスピカちゃん見て、嫉妬しないワケがないでしょ♪それがあげく、アイツがよりによって嫌ってるラグリアだから尚更ね〜。それこそラグリアとスピカちゃんが仲良くなったりとかしたら、あいつマジでちょっとヤヴァくなるかもよ?」
「あの・・・・「やばくなる」とは・・どういうことでしょうか?」
「ン〜?そーね〜。自暴自棄になってひたっっすら前以上に女の子キラーになるとか。」
「えっ?」
「ってこれだとよく分かんないか・・・・う〜んつまりね。あいつスピカちゃんのこと愛しすぎちゃってるから・・・ただでさえ犯罪者なんだからさ〜、アイツ・・・・今度はさらう位のコトでは済まされないよーな犯罪やっちゃいそうってコトよ。」
「・・・・え〜っと・・・それって・・つまり・・・・まずい・・ですよね〜?」
アルビレオの言っていることが今一よく理解出来ていないスピカだが、明らかに危険になりそうなことは分かった。
「ン、そ☆でもまぁ・・・最終的にどの男がイイのか決めるのはスピカちゃんなんだし〜?あたしは一応レグルスの応援でこーしてきてるワケだけどさ☆スピカちゃんが誰を好きになるかなんて、誰にも分からないんだよ。スピカちゃん自身もね!」
「あ・・はい・・・・」
「んだから今後どーなっちゃうのか・・・あたしは見守らせてもらうだけだけどさ♪どーなんだろ・・・・ラグリアかレグルスか、それとも2人して奈落の底に行くのか・・・・ンフフフ〜。」
「・・・・・・・・・・・・」
そんなことをアルビレオに言われてしまうと、スピカも少し考え込んでしまった。そして自分は本当に気が多い人間なのだな〜と思ってしまう。
決してレグルスのことを嫌いな訳ではない。むしろ好きなのにその愛情に応えず、例の仮面パーティーの時の男性や、その時の男性らしいラグリアのことを気にしてしまって仕方がない。
いずれはっきりと決めなければならないことは分かっていたのだが・・・・・スピカは今、悩まされていたのだった。
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