第41話「困惑」

今日も晴れた昼下がり。スピカは自分の部屋の窓から景色を眺めていた。
外を見ているとあの時の仮面の男性を探したくなる。と同時に・・・・ラグリアに会いたくなってしまうのだ。
レグルスにラグリアのことを言うと彼は嫌がるが、スピカは何となくラグリアに会いたかった。「また来てもいい」と言ってくれたことが嬉しかったし、子猫のミャウとももう1回会いたかったし・・・・
ここ何日か我慢して言わなかったのだが、もう限界だった。

「レグルスさんにまた怒られても・・・やっぱり私・・ラグリア様や、ミャウさんにお会いしたいです・・・・」

とスピカは呟き、心の中で決めた。レグルスに何を言われてもいい。自分はラグリアに会いに行くと決めたのだと。
スピカはレグルスの部屋に行ったのだった。




コンコン

「あぁ、開いてるよ。」

と言われてスピカは「お邪魔します。」と言ってドアを開けた。レグルスは優雅にコーヒーを飲んでいた。

「あ、あの、レグルスさん。今、いいですか?」
「あぁ、いいよ。あぁ、おまえもコーヒーを飲むかい?」
「あ、その、いいです・・・・あの、レグルスさん。私・・・ラグリア様の所に、行きたいんです。」

とスピカはレグルスを見てはっきりとそう言った。レグルスは途端に複雑な表情をした。

「スピカ・・・・私という男がいながら・・・浮気かい?」
「ち、ちち、違います!!その・・・ミャウさんにお会いしたいのもあるんです!」
「ミャウって・・・あぁ、ラグリアが飼ってる子猫か。そういえば、仲良くなってきたとか言ってたっけ?」
「はい!なので・・・その、お願いします、レグルスさん。また・・城門前まででいいので、一緒に行っていただけますか?」
「う〜ん・・・・そうだね〜。それじゃあお駄賃代わりに、キスしてもらえるかな?」
「えっ・・?ええぇ〜っ!?」
「フフッ。当然だろう?スピカ。さ、ほら。私の胸に飛び込んでおいで。そして熱いキスをくれると、嬉しいんだけどね〜。」

とレグルスは言い、ウインクして両腕を大きく広げるものだからスピカは困ってしまった。
何だかとても恥ずかしくてそんなこと出来ないと思ったのだが、この際恥を捨てなければと思い直し、思いきってレグルスの胸の中に飛び込んだ。
それからすぐにキスもした。レグルスの唇に、自分の唇を重ねて。少しだけ舌を絡めてキスを終える。お互いに見つめあった時、スピカは最高潮に恥ずかしくなってしまった。一度捨てた恥が一気に自分の中に戻った感じで、顔が真っ赤になっていた。
レグルスはそんなスピカを見て笑い出した。

「アハハハッ、おまえは本当に可愛いね。そんなに顔を真っ赤にしてしまって・・・恥ずかしいのかな?」
「あ、は、はい・・・は、恥ずかしい・・です・・・・」
「フフッ、そうかい?誰もいないのに・・・」
「そ、そういう問題じゃないです〜・・・・こ、こんな・・こんな、こと・・・・」
「フフッ、まぁいいよ。それじゃあ行こうか。用意はそれでいいのかい?」
「えっ?あ、は、はい!ちょっとだけお化粧を・・・」

と言ってスピカはレグルスから離れ、パタパタと走って自分の部屋の方に行ってしまった。レグルスはそんなスピカを見送りながら複雑な想いにとらわれるのだった・・・・・・




何事もなくお城に着いたスピカは、前と同様レグルスと城門前の公園で待ち合わせる約束をし、お城の中へと入って行った。
どのお城でもそうだが、やはり豪華さは格別である。スピカは緊張しながらラグリアのいる方へ向かった。
階段を上がり終えると、そこには確かにラグリアがいた。階段の前で待っていた兵士がスピカに声をかける。

「スピカ様ですね?」
「えっ?あっ、は、はい!!」
「ラグリア様がお待ちでございました。どうぞ。」

と言われ、スピカはラグリアのいる方に通された。ラグリアはスピカを見て立ち上がり、スピカの方に歩いてやって来た。
まさかラグリアが自分の所に来てくれるとは思わず、スピカは慌ててお辞儀をする。

「あぁ、顔を上げるが良い。堅苦しいことをする気はない。」

とラグリアは言った。スピカは「は、はい。」と返事をし、顔を上げた。すぐ目の前にラグリアがいる。いつでも高貴な雰囲気で、放っているオーラが常人とはまるで違う。

「丁度良い。そなたに話したいことがあったのだ。こちらに来るが良い。」

とラグリアは言い、歩き出した。スピカは慌ててラグリアに着いて歩いた。
謁見の広間を抜けると大きい廊下が広がっている。ラグリアは少し歩いた先の一室のドアを開け、スピカを招き入れた。

「お、お邪魔します・・・」

とスピカが言って中に入った途端

「ミャ〜ッ!!」
「キャッ!!あ・・・ミャウ・・さん・・・?」

そう、いきなりスピカにジャンプして抱きついてきたのは子猫のミャウであった。

「ミャ〜、ミャ〜、ミャ〜ッ!」

ミャウはスピカに会えたことが余程嬉しいのか、しっぽをパタパタ振って何度も鳴く。

「ウフフッ。ミャウさん、こんにちは。」

とスピカは言ってミャウを撫でた。ミャウは更に嬉しそうに鳴いたりしっぽを振ったりする。

「・・ミャウは本当にそなたを気に入っている。可愛がってやって欲しい。」
「あ、は、はい。」
「あぁ、そこに座るが良い。今侍女に茶を運ばせている。」
「あ、す、すみません。」

とスピカは言い、椅子に座る。ラグリアはスピカの向かい側に座り、穏やかな眼差しでスピカを見ていた。
あまり怖さは感じられなかった。スピカは思わず胸がドキッとしてしまう。

「よく来たな。またそなたに会えたことを、私は嬉しく思う。」
「あ・・は、はい。こちらこそ。突然ですみません。」
「構わぬ。いずれ来ると・・思っていたのでな・・・・」

とラグリアが言った所で、侍女がお茶を運んでやってきた。それから少しのクッキーと。お茶とクッキーのいい匂いが部屋の中を支配する。
侍女は仕事を手早く済ませて、静かに部屋を出て行った。

「遠慮せずに飲んでいくがいい。あぁ、そこのクッキーも遠慮せず食べていくと良い。」
「あ、は、はい。いただきます・・・」

スピカはありがたくお茶とクッキーをいただくことにした。ラグリアもお茶を飲みながら口を開く。

「・・悪いとは思ったのだが・・・ミャウがそなたのことを気にしていたのでな。そなたに関して調査をさせてもらった。」
「えっ?」
「そなたは・・ヴァルロ王国の者なのだろう?そなたの両親が・・・・安否を心配していた。」
「!?」

あまりに突然すぎる話にスピカは半分着いていけなかった。まさかラグリアからヴァルロのことや両親のことを話されると思っていなかったスピカは本当に驚いてしまった。

「・・・ラグリア、様・・・・私の両親に・・会ったのですか!?」
「いや、使者をそなたの両親にもとに行かせた。その者から私は話を聞いただけだが・・・・そなたは、何者かに誘拐されたらしいな?」
「!!・・あ・・・そ、それは・・・・」
「だがそなたに外傷があるようには見えぬ。外へ出る自由があると言うのか?・・・分からぬな。そなた自身の口から真実を聞かせて欲しい・・・そなたを誘拐した犯人のことを。」
「・・・あ・・・は、はぁ・・・・」

あまりに突然のことすぎてスピカは訳が分からなかったが、何だか今までのスピカの状況が確実に暴かれているだろうことは間違いなかった。
言われてみれば確かにレグルスはスピカを誘拐した犯人だ。だがスピカはレグルスのことを犯人扱いなんてしていなかった。むしろレグルスと一緒に住むことに楽しさを見出していた。
スピカは今、あまりの驚きと緊張と複雑な気持ちに駆られて、迷い、困ってしまうのだった。


  

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