第46話「明かされる謎・後編」
スピカは驚いてしまって言葉が出なかった。何となくお金持ちそうで、自分と同じ位の身分の人達かとばかり思っていたら・・・・王族ではないか!!
だがおかしい。スピカは大体の王国貴族の名前なら分かっているのだ。現にラグリアの名前は聞いたことはあった。だが・・・レグルスのことも、アルビレオのことも知らない。これは一体どういうことなのだろうか?
「あ〜、でもね〜、スピカちゅわ〜ん。勘違いしないで欲しいんだ〜。あたしとレグルスって〜、ちょ〜っとこの王国では肩身狭くてね〜。一応そーゆーコトでラグリアはあたしにとってもレグルスにとっても「兄上様」ってなコトにはなるんだけどさ〜、あの人とあたし達って〜、半分しか血が同じじゃないのよ〜。」
「えっ!?と、言うことは・・・・・」
「ん〜、つまり正統な王族の血筋はあいつだけなのよ♪だからあたしとレグルスは、妾の子供よ♪まぁ最も・・・・あたしやレグルスが生まれる前に、母上様は男の子産んだんだけどね・・・生まれて間もない時に・・病気で亡くなっちゃってさ。だから・・あたしの母上様、精神的にちょっとヤバくなっちゃって。正妻の座を奪い取られて・・・妾に格下げ。で愛人だった人が義兄上様を生んで・・・一気に正妻になっちゃってさ。それからあたしが生まれたんだけど・・・・あたしが男の子だったら・・・もう少し父上様も、考えてくれたのかもね〜・・・・だから、女に生まれてきたのが・・ちょっと恨めしい。」
「・・・アルビレオさん・・・・・」
確かにレグルスは半分血のつながっていない兄がいると言っていた。それがまさか、ラグリアのことだったとは・・・・・
しかし言われてみれば、レグルス、アルビレオ、ラグリア、この3人は確かに似ている気がする。そもそもレグルスとアルビレオは本当の姉弟なのだから似ていて当然なのだが・・・・特にレグルスとラグリアは似ている気がする。目元がよく似ているとスピカは今頃になって気が付く。
レグルスとラグリアでは放っている雰囲気が違うし、そこにアルビレオが混ざれば尚更のことなのだが・・・・・血縁とは本当に不思議なものである。
「あたしがもし男に生まれてきて、ラグリアより後1年早く生まれてれば・・・・母上様はまた正妻になれたかもしれないのにね・・・・だから一応、王子・王女っては言っても身分は低い方なのよ。だから、あたしやレグルスが城下町に出てても、国民達は特に反応示さなかったでしょ?あれはね、昔からあたしやレグルスが外に出てたからなのよ。どーせ妾の子だし、大事にされたのは義兄上様だけだったからね〜。」
「・・は、はい・・・・・」
「特にレグルスの反抗はスゴかったわよ〜。あいつ結構行動派だからさ〜、自分が嫌だって思ったモノはとことん全部否定して、ついには父上様に勘当された位だから。」
「えっ?ええぇぇ〜〜っ!?」
「んだから、あいつはもう完全に「王子」ってゆー位剥奪されちゃったのよね〜。あ〜それでも、国民には義兄上様より人気あって、未だに「王子様」として慕う人多いんだから、わっかんないよね〜。まぁ確かにアイツ女の子には優しいし・・・・女性層には特に支持されてるわね。」
「あ・・・そ、そうだったのですか・・・・」
スピカがレグルスを知らない理由が何となく分かった気がする。王子という身分をレグルスは失ってしまったのなら、スピカの耳に王子としてのレグルスの名前が入ってくることはないのだ。
だがそうなるとアルビレオの名前を知らない説明にはつながらない。少しはこのレグルスの件がつながっているような気がしないでもないのだが・・・・
「ついでに父上様も、レグルスが末っ子だから甘くてさ〜。一旦勘当したってのに、その後あっさり許しちゃってさ〜。短気なんだよね〜、父上様もさ〜。」
「あ、は、はぁ・・・・あの、アルビレオさんは・・・・」
「ん?な〜に〜?」
「・・・アルビレオさんは・・・お城でずっと生活されてたんですか・・・・?」
「ん?ン〜そーね〜。一応そーだけど・・・・あんま楽な生活じゃなかったわよ?このフェラールの人達位しかあたしのコト王女だってゆーの知らない筈だし。」
「えぇっ!?」
「何ってゆーのかな〜?やっぱ妾の子だからさ、他外国とかには公表したくないジャン?正統な血を受け継ぐ義兄上様だけをどんどん押し出してったのよ。」
「あ・・・なるほど・・・・」
スピカは一人っ子だからよく分からないが、どうやらレグルスとアルビレオの生活は昔から大変だったみたいである。
普通王子、王女と聞けば明らかに優雅な暮らしを想像してしまうのだが・・・・・もしかしてレグルスがやたら料理が上手だったりするのはそのような境遇に原因があるのだろうか。
「ンフフフ〜ッ。スピカちゃんは多分義兄上様のことは知ってたんじゃな〜い?それなりに有名だもんね〜。」
「あ、はい。ですけど・・・お名前とお顔が、一致してませんでした・・・・恥ずかしいのですが・・・私、あまり・・そのようなことを覚えるのが・・得意ではなくて・・・」
「あ〜そーなんだ〜、ンフフフフ〜ッ!あ、ところでさ〜、スピカちゃんは〜・・中流貴族の家柄なんだって〜?」
「あ、は、はい・・・・」
「もったいないよね〜。スピカちゃんのご両親ももっと精進しなきゃね!」
「あ、い、いえ、そんな・・・・」
「んでもさ〜、スピカちゃんってプロポーズ話絶えなかったんだって〜?すごすぎな〜い?超絶モテモテじゃ〜ん、スピカちゃ〜ん。んでもスピカちゃんって結婚してないわよね〜?」
「あ、は、はい・・・・その・・私はずっと、断り続けてたんです・・・・あの仮面パーティーの方が・・・いつか来てくれると信じていましたから・・・・」
とスピカは言って、キュッと手を握った。この決意だけは絶対にスピカの中で揺るぐことはないのだ。
「あ〜そっかそっか〜。ン〜そーだよね〜。仮面パーティー、か☆あ〜っ!!それよりすっかり話し込んじゃったわね〜。あ、あいつ多分帰って来ないと思うからさ、明日はあたしと一緒にお城行こうね!スピカちゅわん!」
「えっ?あ・・は、はい・・・・」
「ン、それじゃあもう夜遅いし、落ち着いたらゆっくり寝るんだよ〜?・・と待った。最後にスピカちゃんに言っておこっかな〜?あのさ〜、レグルスのこと好き〜?」
「!!・・・え、えっと・・・それは、どういう意味で・・・?」
「ンフフ〜ッ、言葉通りの意味なんだけどな〜?まぁ一番の仮面男は置いとくとしてさ☆その次位に・・あいつのこと、気に入ってくれてるのかなって思ってさ!」
それを言われると、確かにその通りだった。現にスピカはレグルスに言ったのだ。「世界で2番目に大好き」と・・・・・
レグルスのことはとても好きだった。最初は犯罪者で嫌いだったのに・・・あのレグルスの独特な魅力と優しさを、いつの間にかスピカは好きになってしまっていた。
おかしな話だと思う。でも・・・・それ位レグルスは魅力ある男性なのだ。
「その・・・・は、はい・・・・」
スピカは顔を赤くして返事をした。アルビレオはそんなスピカを見てニッコリと笑顔を浮かべ、ポンッとスピカの肩に手を置いて言った。
「それならさ、明日義兄上様やスピカちゃんのご両親の前で、思いっきり言ってごらん?「レグルスのこと、助けてあげて下さい。」って・・・」
「え・・・・・?」
「何せ被害者はスピカちゃんなんだからさ〜。嫌なら嫌って言えばイイんだし、レグルスのこと悪くないと思ってんなら素直にそう言ってくれて構わないのよ?ついでにあたしもちょ〜っと疑問に思ってるコトがあるし・・・・万事うまくいけば、もしかしたら、だけどね・・・・レグルス、助かると思うんだ〜。」
「!・・・・」
「ンフフ〜ッ。ついでにね、スピカちゃんにとっての楽しみが、そこでもっと広がるかもしれないのよ〜!!だから頑張るのよ〜?あたしは最後まで、スピカちゃんの味方よ☆だからね、どんな不思議な、信じられないコトがあったとしても・・・・あたしのこと、信じて欲しいな〜。OK?」
アルビレオの言動にはいつも圧倒されてばかりだったが、今回はまたいつもとは違う雰囲気でスピカは圧倒されていた気がした。
いつもはアルビレオの奇異な食べっぷりを見たり飲みっぷりを見たりして圧倒されていたのだが、今は違う。完全にアルビレオの放つちょっと気さくながら真面目な雰囲気と、喋る言葉に圧倒されているのである。
アルビレオは毎回どこか鋭いことを突いて言うのだが、特に今の言葉は信じ込ませる何かがあるように感じた。どこか陽気な中に必死さを感じて、スピカはコクンと頷いて返事をした。
「分かりました。私、アルビレオさんのこと、信じます!」
「スピカちゃん・・・ありがとー!!あたしスピカちゃんのコト大好きよ〜!!だから・・・あたしもスピカちゃんを信じてる。あいつが助かるか助からないかは・・・正直言ってあたし、スピカちゃんにかかってると思うのよ。だから・・・お願い。あいつを救ってやって。」
「アルビレオさん・・・・」
「確かにスピカちゃんのコト誘拐したとことん悪い弟で、許してはいけないんだけどさ・・・・あいつがもしも死んだりしたら・・・やっぱあたしも・・・姉として、悲しいからさ・・・・」
「・・・アルビレオさん・・・・」
アルビレオの暗い顔を見たのは始めてだった。何だかんだ言って罵り合っていたレグルスとアルビレオだが、姉弟の絆は本当に厚いようである。
スピカには兄弟がいないからよく分からないが、こういう時に兄弟というのは素晴らしい存在なのだと思ってしまった。お互いに信頼しあっている家族は、やっぱりいいものだとスピカは思った。
「ゴメン、話余計に長くしちゃったね。んじゃ、そーゆーワケでよろしくね〜!!あ〜っ!!!何か喋りまくったら眠くなってきちゃったわ〜。そんじゃ、あたし先に寝るね〜。お休み〜!スピカちゅわ〜ん!イイ夢見てね!」
「あ、は、はい!お休みなさい!アルビレオさん!」
そうしてアルビレオは2階の方に上がってしまった。スピカはずっとずっと謎だったことが解けて、何だかかなり満足感があった。
レグルスとアルビレオが、まさか王子・王女だったとは・・・・・だがその過去は意外につらかったようである。元々正統な血筋だった筈が、その地位を取られてしまって・・・・更にレグルスも王子としての位はないとアルビレオは言っていた。
何だか色々考えてみると、アルビレオやレグルスは確かに王子・王女っぽかった気がする。普通の人とは何か放つ雰囲気が違ったし、お金の話をすれば全く苦労していなかったし・・・・・
と色々考えて、スピカは急にレグルスがどうしているのか気になってしまった。アルビレオは1人でお城に行ったと言っていたが・・・何だか心配になってしまった。まさかいきなり処罰されてたりしてないだろうか?レグルスの身にもしも何かあったら・・・・・
「いけない、こんなこと考えちゃ・・・悪い方に考えちゃダメ・・・・それに、アルビレオさん、仰ってました・・・うまくいけば、レグルスさんが助かるかもしれないって・・・・お願いです、神様・・・・!どうか、レグルスさんを助けて下さい・・・・・!」
スピカは神に、空に祈りを捧げた。涙が自然とこぼれ落ちる。レグルスが今どうしているか考えると気が気じゃなかった。
それからスピカは自分の部屋のベッドに横になったはいいものの、レグルスのことやら、アルビレオに教えてもらったことやら色々頭に浮かんできて、全く寝ることが出来ないでいた。
それにスピカに月経がおとずれていなければ、スピカとレグルスは毎日肌を重ねていたのだ。今スピカは月経中ではなかったし・・・・レグルスと一緒に生活して以来、何もない日に1人で寝るのは初めてのことで、余計に寂しさが募る。
何だか知らないが、無性にレグルスと一緒にいたかった。抱き締めて欲しくて・・・優しくキスして欲しかった。
「レグルスさん・・・・!」
いなくなって初めて分かるその存在の重さ。スピカは泣いていたが、その後自然と眠りについたのだった・・・・・・・・・・・
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