第48話「判決の時」
『!?』
被害者のスピカのこの発言には皆驚いてしまっていた。アルビレオとラグリアを除いては。
スピカは更に続けた。
「私は確かに・・・・第三者の方から見れば、犯罪に巻き込まれた被害者なのだと思います!ですけど・・・・私は、ひどいことは何もされてません!!レグルスさんや、アルビレオさんと過ごした日々は・・とても、とても楽しくて・・・・私に、色んなことを、教えて下さいました・・・・ですから、無罪にして・・釈放させて下さい!!お願いします!!!」
スピカは深くお辞儀をしてラグリアにそう言った。アルビレオは少し笑顔になり、ラグリアは冷静にスピカの発言を聞いていたが、他のその場にいた者は、全員驚いていた。レグルスも驚いていた1人だった。
「ス・・スピカ!?何を言っている!?おまえ・・騙されたのではないか!?こいつらに!」
「そうよ!!スピカ、正直に言いなさい。何かされたんでしょう!?」
「・・お父様、お母様・・・・私、本当に・・何もされてません・・・・」
「!・・・スピカ・・・・」
スピカの両親は驚いてしまって、開いた口が塞がらない。
「本当に私は、何もされてないんです!!むしろ・・私はレグルスさんやアルビレオさんにご迷惑をかけてばかりでした・・・・お願いです、どうか・・レグルスさんやアルビレオさんを・・助けてあげて下さい!!」
スピカのこの訴えを、ラグリアは目を閉じて静かに聞いていた。
レグルスは驚くばかりで、ただスピカのことを見つめることしか出来なかった。
「・・・被告人よ・・・・そなたがなぜこのスピカを誘拐したのか・・・そのことを教えて欲しい。」
「・・愛していて・・・自分のものにしたかったからです。」
『!!』
そのレグルスの言葉を聞いて、スピカの両親は大いに反応した。
「スピカ!!!見ろ!あんなことを言っているぞ!!おまえやっぱりあいつに犯されたんだろう!?違うのか!?」
「スピカ、目を開けなさい!!騙されないで!!あなたは被害者なのよ!?」
「お父様、お母様、やめて下さい!!違うんです!!」
スピカが珍しく叫んだので、両親は驚いて静かになってしまった。
「その・・確かに初めてレグルスさんに連れて来られた時は、そう思いましたけど・・・・ですけど、私・・・・!そのことに、次第に喜びを感じていました・・・!ですから私は・・・それが犯罪だと思ってません・・・・!どうか・・どうかお願いです!ラグリア様!!レグルスさんとアルビレオさんは、義理とはいえご兄弟なのですよね!?ですからどうか・・・助けてあげて下さい・・・・!!私は・・レグルスさんやアルビレオさんを・・犯罪者だと思ったのは・・最初だけなんです・・・・!!今の私にとっては・・・大事な・・大事な方たちなんです・・・・!!」
スピカはもう我慢出来なくて、涙を流してラグリアにそう訴えた。ラグリアはそんなスピカを見て、考えているようである。
場が静かになった。だが再び、スピカの両親は反抗した。
「スピカ・・・・!!おまえは・・そんなに犯されてしまったのだな・・・・!?ラグリア様、やはり許しておけません!!極刑にすべきです!!」
「そうですわラグリア様!!何を迷っていらっしゃるのです!?一刻も早く極刑に・・・・・!」
「黙れ。そなた達の意見は聞いておらぬ。」
と、ラグリアは鬼のような怖い形相でスピカの両親の方に顔を向けた。「ヒッ!」とスピカの母親は仰天し、父親に抱きつく。
はたから見ているスピカでも、今のラグリアの表情は本当に怖かった。自分があんな風に見られたら、絶対に身をすくませていただろう。
「・・被告人よ。何か言うことはないか?」
ラグリアはレグルスとアルビレオの方を振り返ってそう尋ねた。
レグルスは驚愕にプラスして傷心しきっていて口を開こうとしなかったが、代わりにアルビレオが口を開いた。
「は〜い。あのね、このスピカちゃんのご両親達〜・・・見ていてアヤしいと思ってたのね〜。」
と言うアルビレオに、スピカの両親は食ってかかった。
「何を言うのだ!?私たちの何が怪しいと言うのだ!?」
「そうよそうよ!!何よ!どうせこの国でしかあなたは偉くないクセに!!」
「そーゆーコトゆーから墓穴掘ってんだっつーの。分かってないバカってイヤよね〜。」
「なっ・・・・・!」
「ラグリア様!!やっぱり間違っています!!極刑にすべきですわ!!」
「黙れ、虫けらよ。」
「!!・・・・」
ラグリアがスピカの両親に対して「虫けら」発言してしまったことにスピカは驚いてしまった。だがどうしてだろう。そんなラグリアに「私の両親にそんなことを言わないで下さい!!」という反抗心は湧かなかった。むしろそのような気がしたからだ。
スピカは先ほどからラグリアに訴える両親を見て、何か違和感を感じていた。自分の両親は、こんなだったのだろうかと。
それは確かに自分の娘が犯罪に巻き込まれたとなれば必死になるのは当然なのだが・・・・自分の言い分をちゃんと聞いてくれず、こうして「極刑だ!!」としか叫ばないような・・・・そんな心の狭い親だっただろうか?
「スピカのことを調べたついでに、そなた達のことも調べさせた・・・・・そなた達こそ犯罪者として罰せられるべきではないのか?」
『えっ!?』
このラグリアの発言に皆一様に驚いた。ラグリアは更に続ける。
「そなた達は・・・スピカの両親だと偽り、本当の両親を生き埋めにしたな・・・・?」
『!!!・・・・・』
「過去の調査で分かった・・・・そなた達は、スピカに寄ってたかってくる男共を利用し、金稼ぎを目論み・・・・金持ちの男とスピカを無理矢理結婚させようとしたのではないか?偽装結婚までさせようとした記録も残っていた。」
「あ・・あ・・・・っ・・・!!」
「スピカに昔の記憶を忘れさせる薬を闇ルートで手に入れ、飲ませ・・・・・両親として5年もの間、接してきた・・・詐欺罪、麻薬違法、殺人罪・・・様々な罪が考えられる・・・・・」
「ひぃっ!!」
「ど、どどど、どうかお助けを!!この通りです!ラグリア様!!」
スピカの両親・・いや、もはやそれはスピカの両親ではないただの男と女は、泣いて土下座してラグリアに頼み込んだ。だがラグリアはそれを冷たい瞳で見て、兵士達に命じた。
「この者達を捕らえ、牢屋に連れて行け。1週間後に死刑とする。」
「なっ・・・!!そんな!!」
「いやーーーーーーーっっっ!!!」
兵士達に手錠をかけられたこの男女は、最後まで断末魔の叫びを上げていた。
あの男女達の姿が見えなくなってから、途端に謁見の広間は静かになった。この全く予想だにしていなかった展開に、誰も口を開こうとしなかった。いや、むしろ驚きすぎて口が開けなかったのだ。
スピカはこの結末がもちろん信じられなかった。今までずっと信頼し、両親だと思っていた人達こそが真の犯罪者だったとは。あまりにも意外すぎて驚いてしまったが、先ほどから感じていたこの両親の不審さを考えれば、ある意味納得出来た。
と同時にスピカにとって本物の両親がいないということは・・・・スピカは一人ぼっちではないか。スピカは泣き出してしまった。
「・・・レグルスとアルビレオの手錠を解け。」
沈黙の中、泣いてしまったスピカを見たラグリアは、静かに兵士達にそう命じた。それまでレグルスとアルビレオを捕らえていた兵士達はその手錠を解き、レグルスとアルビレオは自由の身になった。
「ン〜、義兄上様ってばナイス〜!!あたし今回ちょっとだけあんたのコト見直したわ〜。サーンキュ☆」
「・・・いや・・・そなたに言われなければ、気付かなかったことだ・・・・そなたは相変わらず鋭いな、アルビレオよ・・・」
「ンフフフ〜ッ。ま〜ぁ?本物の犯罪者ですから〜?アハハハハ〜ッ!!」
「・・フン・・・・だが、多少の罪はそなた達にも背負ってもらう。義兄弟だからと言って甘くはせぬ。」
「・・構わないよ、義兄さん・・・・むしろ、私は極刑にしてもらって構わない。」
と言ったレグルスの言葉を聞いて、スピカはハッとしてレグルスの方を見た。そんなこと・・嫌だったから。
「・・レグルス・・・・確かに私はそなたを極刑にしたい。それだけの罪をそなたは犯した・・・・だが、スピカが・・それを許さぬだろう・・・・レグルス。そなたの為に、あの者は泣いてくれているのだ・・・・被害者自身の言葉を無下にすることも出来ぬ・・・・そなた達の処遇は・・いずれ考える・・・・」
「・・・義兄さん・・・・・すまないね・・・・」
「それよりアンタ・・早くスピカちゃんとこ行ってあげなよ〜。また何日間かは手錠生活になるんだろーからさ〜、今自由な内に、スピカちゃんと一緒にいなよ?」
「・・あぁ・・・・そう、だね・・・・・」
レグルスはそう言って、ゆっくりスピカの方に近付いていった。スピカは泣きながらレグルスが近くに来てくれるのを待った。
レグルスがそこにいる・・それだけでスピカは嬉しくて。スピカが抱きつくのと、レグルスが抱き締めたのは同時だった。
2人は強く強く抱き合った。もう何もいらなかった。ただこうして抱き合っていれば、それだけで良かった・・・・・・・・・・・・・
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