第50話「世界で一番の愛」
「!!!あ、あの・・その・・・レグルス、さん・・・・」
スピカは全身が震えていて、声も震えてしまった。
信じられなかった。なぜレグルスがこのことを知っているのか。
「フフッ。私との約束を覚えて下さっていて・・・大変光栄ですよ、姫君。」
「!!!は、はい・・・・・!」
「どうしましたか?そんなに体を震わせて・・・・私と会えたことに・・感動して下さってるのですか?」
とレグルスは言い、スピカを椅子から立たせたかと思うと、そのままスピカを抱き締めた。
スピカは訳が分からなかったが、レグルスの温かさが身にしみて、そのままレグルスに身を預けて「はい・・・」と返事をすることしか出来なかった。
「そうですか・・・ありがとうございます。私も、ずっとあなたにお会いしたいと思っていました・・・・やっと、叶いましたよ・・姫君・・・・」
「あ・・は、はい・・・・!そ、その・・・・」
「・・・あなたに、話さなければならないことがあります・・・・私の話を、聞いていただけますか?」
「!は、はい・・・・!」
お互いに抱き合って見つめ合った。レグルスはいつもの余裕ある微笑とは違う、優しい微笑を浮かべて口を開いた。
「・・あなたはダンスを終えてから・・・喉が渇いたと仰いました・・・・私は、あなたのことを未成年者だと気付かず、バルコニーに連れて行って・・・あなたにカクテルを飲ませてしまったんです・・・・」
「えっ・・・・?」
「迂闊でした・・・・あなたはカクテルを飲んだ瞬間に、気絶して倒れてしまって・・・・慌てて私が抱き留めた時に、あなたの仮面がはがれ落ちて・・・私は、あなたの素顔を見てしまいました・・・・」
「!・・・・」
「月の光に照らされ、目を閉じて眠っていたあなたは本当に美しくて・・・・本気であなたに惚れてしまいました。ですがその時・・・・運悪く、あなたのご両親・・いえ、偽ご両親ですか。あの方々に、この光景を見られてしまったんです。」
「!!・・・」
「偽ご両親は、あなたが気絶して倒れてしまった光景を見て、私のせいだと罵り、散々非難しました・・・・確かにあなたにカクテルを飲ませてしまったのは私の落ち度ですが・・・・その罪は重いとし、すぐにあなたは・・・偽ご両親によって連れて行かれてしまい、家に帰られてしまったのです・・・・」
「!・・は、はい・・・・・」
知らなかった。そんなことがあったなんて本当に知らなかった。そんなこと、あの偽両親は一言だって言ってくれなかった。
それにスピカは成人した今でもアルコール類は全然飲めなかった。それを未成年の時に飲んだとなれば気絶し、記憶がゴッソリ抜け落ちてしまっているのも納得がいった。
「ですが私は・・あなたのことを、忘れることなんて出来ませんでした・・・・あなたとの約束通り、私はもう1度あなたに会いたくて・・あなたの家に行きました。」
「!・・・う、うそ・・・・!?」
「フフッ、本当ですよ。ですがあなたの偽ご両親は・・・私の顔を見た途端に、「あの時大事な一人娘にカクテルを飲ませた悪者だ。」と罵倒し、私の存在を完全に否定して・・・・あなたに会わせて下さいませんでした・・・・」
「!・・・・・・」
「それでも私は、あなたのことを諦めることなんて出来ませんでした・・・何度も何度も、馬鹿にされて、文句を言われても・・・・私は訴え続けました。「娘さんに会わせて下さい。結婚させて下さい。」と・・・・ですがあなたの偽ご両親は、常に「駄目だ。」の一点張りで・・・次第には私の言葉に耳を傾けることさえして下さいませんでした・・・・」
「!!・・・・は、はい・・・」
「そうして時が過ぎていきました・・・1年、2年・・・今年で3年ですか・・・早いものですね・・・・私はそれでも、努力を惜しみませんでした。いつかはあなたの偽ご両親も分かって下さる、そう信じていましたが・・・・無理でしたね。そもそも・・あなたのご両親が偽のご両親だった時点で、このお話は成立することなんてないのだと・・今になって気付きましたよ。」
「!は、はい・・・・・」
「だから私は・・・あなたを誘拐しました。」
「!!」
「もう1度、何としてでもあなたに会いたかったんです・・・・この気持ちが我慢出来なくて・・・どんな卑怯な手を使ってでも、自分のものにしたかった・・・・!」
「!・・・・・」
レグルスのスピカを抱き締める力が強くなった。スピカも思わず反応して、身を固くしてしまう。
「あなたともう1度、最初からやり直してみたい思いもありました・・・・あなたの反応を、見てみたかったんです・・・・」
「・・・レグルス、さん・・・・!」
「フフッ。あなたと過ごす日々は、本当に楽しかったですよ。思わず、犯罪者でいたことを忘れていた位です。あなたと毎日一緒にいること、あなたを毎日抱けることが・・私にとってどれ程嬉しかったことか・・・・!」
「・・レグルス、さん・・・・!」
それから2人はしばらく黙って抱き締めあった。そしてスピカは今頃になって気付く。
初めてレグルスを見た時、妙に普通の男性とは違う魅力を持っている人だと思った。それなのに、どうしてあの時の仮面の男性と結び付けられなかったのだろうと。今言われてみれば、確かにあの時の仮面の男性はレグルスで・・・・自分はずっと、大好きな人と暮らしていたことになって・・・・・
スピカは沈黙を押し破って口を開いた。
「あの・・・レグルスさん。1つだけ、質問があります。」
「ん・・・・?何、かな?」
レグルスはいつもの口調に戻した。表情も優しい微笑ではなく、いつもの余裕ある微笑に戻っていた。
「あの・・・・ずっと、私のこと・・分かってて下さったんですよね?どうして・・あの時の仮面の方だってこと・・教えて下さらなかったんですか?」
「そうだね〜・・・・おまえが本当に私のことを覚えてくれていたかどうか、自信がなかったんだよ。」
「えっ・・・・・?」
「確かに私はあの時おまえと再び会って一緒になる約束をしたけど・・・・おまえにプロポーズする男は本当に多かっただろう?現に私が尋ねに行った時も、「今別の男性がきておりますのでお待ち下さい。」なんて待たされた日が多かったからね〜。おまえとはたかが仮面パーティーで一緒に踊っただけだったし・・・・それが1点だね。」
「は、はい・・・・」
「もう1点は・・・・いきなりおまえをさらった訳分からない男が、「私があの時仮面パーティーで一緒に踊った男だよ。」と言って・・・おまえは信じるかい?」
「あ・・・え、っと・・・・」
「信じないだろう?だから、私から言い出すことは出来なかった訳で・・・・おまえがあの時秘密にしてくれなければ・・・もっと早くおまえと分かり合えてただろうにね〜。フフッ、おまえを恨んでしまおうかな?スピカ。」
「えっ?ええぇぇ〜〜っ!?ですけどそれなら・・・レグルスさんだって私に秘密ばっかりでしたし・・・・秘密にしたかったんです。」
とスピカは少し唇を尖らせてレグルスにそう言った。
「アハハッ。どちらにしろ、やはり全ての原因は私なのかな?これは参ったね〜。」
「・・ですけど・・・・私、嬉しいです。まさか・・まさかレグルスさんが、あの時の方で・・・・私のこと、ちゃんと覚えてて下さってたなんて・・・・」
「フフッ、もちろん覚えているよ。おまえは本当に印象的だったからね〜。何せ、仮面パーティーであんなにフラ付いている女性なんて・・今まで見たことなかったからね〜。」
「えっ!?そうなんですか!?」
「フフッ。大体の女性は慣れていてね・・・毎年退屈な建国祭パーティーだと思っていたけど・・・・あの時おまえに会えて・・・本当に私の人生は・・変わってしまったよ・・・・」
「あ・・は、はい・・・・」
「・・紆余曲折あったけどね・・・何にせよ、おまえとこうして分かり合えたことは・・私にとって、本当に喜ばしいことだよ。あぁ、それで確認したいんだけど・・・・私のことは、世界で何番目に好きかな?」
「えっ?」
レグルスに余裕ある微笑で尋ねられてしまい、スピカは面食らってしまった。
そうだった。レグルスと一旦別れてしまう前に、スピカは「世界で2番目に大好き。」などとレグルスに言ったことを思い出す。スピカは一気に恥ずかしさがこみ上げてきて、顔を真っ赤にしてしまった。
「そ、その・・・・」
「フフッ、どうしたんだい?そんなに顔を真っ赤にしてしまって・・・・」
「だ、だって・・その・・・・」
「・・はっきり言ってごらん?私が・・一番欲しい言葉を。」
「あ・・・その・・・・・・世界で、誰よりも一番・・好きです!!大好きです!!」
スピカは覚悟し、顔を真っ赤に染めてそう言い切った。レグルスは笑顔を浮かべ、スピカを強く抱き締めた。
「フフッ、ありがとう。最高に幸せだよ。私も・・おまえを誰よりも愛しているよ。世界で一番、愛しているよ・・・」
「は、はい・・はい・・・!レグルスさん・・・・!」
「・・・私と・・結婚してくれるかい?スピカ・・・・」
「!!・・・・」
「私はこの通り、今は謹慎中の身だけど・・・・これが終われば、おまえのおかげで晴れて自由の身だし・・・おまえとずっと一緒にいたいよ。誰にも・・おまえを渡したくないしね・・・・」
「!・・は、はい・・・・・」
「・・・スピカ。その返事は・・・肯定として受け取っていいのかな・・・・?」
とレグルスは言ってスピカを見つめた。スピカは顔を真っ赤にしながら、コクンと頷いた。
「私で・・私でよろしければ・・・・ずっと、一緒にいさせて下さい・・・・!私の・・夢だったんです・・・・!あの時の方と・・・レグルスさんと、こうして一緒になって、お嫁さんに行くこと・・・・!何も、出来ない私ですけど・・・・よろしく、お願いします・・・・」
「スピカ・・・・フフッ。いいんだよ、おまえは私の傍にいてくれるだけでいいんだよ・・・・それだけで私は、十分幸せだから・・・・必ず、おまえを幸せにしてみせるよ・・・・ずっと・・ずっと、一緒だからね、スピカ・・・・・」
「はい・・・はい・・!レグルスさん・・・・!」
そうして2人の唇が自然と重なった。それから2人はベッドに倒れ込み、お互いの体を求め合った。
2人を支配していたのは、世界で一番の愛。それだけだった・・・・・・・・・・
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