第51話「時が過ぎても変わらぬもの」
1ヶ月の謹慎生活を終えたレグルスは、ただちにスピカとの結婚式を執り行うべく準備を進め、間もなく2人の結婚式が華やかに、国をあげて行われた。
レグルスには事実上王子という身分はないが、それでも国民の支持は厚かったことと、レグルス、ラグリア、アルビレオの父親である前王の計らいにより、こうして大々的に行われたのである。
2人の結婚を恨めしく思う女性も多かったが、それでも皆この結婚を祝福してくれたのだった。
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あれから、もう5年の歳月が流れた。
レグルスとスピカは、フェラール王国から小さな田舎の村に移り住み、そこで極普通の質素な生活を展開させていた。
「王子」という身分がない以上フェラールにいても意味がないと判断し、また結婚生活を例え身内でも邪魔されたくない思いもあってのレグルスの決断であった。
レグルスは生活資金を一切送ってくるなと言ったのだが、レグルスの父はやはり自分の息子のことが何かと心配で、結果生活費が毎月送られてきていたので生活に困ることはなく、スピカとレグルスは余ったお金を貧しい子供達に分け与えながら毎日を楽しく幸せに過ごしていた。そんな穏やかな日の一幕・・・・・
5年経ったスピカとレグルスの間には、2人の子供が儲けられていた。上が女の子で4歳のリーア、下が男の子で1歳のユレウスである。今スピカはその下の男の子・ユレウスに母乳をあげていた。
元来から子供好きだったスピカは、上の女の子・リーアを産んだ時から母親としての自覚をしっかり持った良き母親となっていた。常に夫のレグルスを立てて、自分は目立たないようにして・・・・でもしっかり2人の子供の面倒を見て世話をして。村では有名な若い美男・美女で、なおかつボランティア活動にも篤いおしどり夫婦と絶賛されている。
「フフッ、ただいま母さん。今日の晩御飯は、これで決定だね。」
それまで出かけていたレグルスは食料の買出しを終え、家に戻ってきた。
「あ、おかえりなさい、お父さん。あの、それは・・・・」
「見て分かる通り、グラタンだよ?おまえが大好きだろう?」
「あ・・は、はい。そうですね・・・・ありがとうございます。」
「フフッ、どういたしまして。それより・・・ユレウスが憎いね〜。私も、おまえのミルクが飲みたいよ。」
「えっ?ええぇぇ〜〜っ!?ち、ちょっと・・お父さん!?」
レグルスはユレウスに母乳をあげているスピカを見てスピカの隣に座り込んだかと思うと、ユレウスが飲んでいないもう片方の乳首の方に顔を近づける。
ユレウスは何が起こっているのか全く分かっておらず、そのままスピカの母乳を気持ち良さそうに飲んでいる。
スピカはユレウスを抱いてしまっているし母乳をあげているので近付いてくるレグルスをよけることも出来ず、あわや本当にレグルスがスピカの乳首を口にしようとした時だった。
「あ〜っ!!お父さんったらお母さんのオッパイのミルク飲もうとしてる〜!!!」
「!!ゲッ・・・・・」
「あ・・・・・!」
「ウフフフフ〜ッ。リーア見ちゃったんだも〜ん!!今度隣のおばちゃんやおじちゃんに言うんだも〜〜ん!!」
そう、そこにやって来たのはレグルスと共に買出しに行った娘のリーアだった。とても活発な育ち盛りの女の子で、スピカとレグルスの顔を程よくMIXした愛らしい顔立ちをしている。
レグルスはすぐにスピカから離れて、少し複雑な表情をしながらリーアの前に行き、そしてリーアを抱き上げた。
「はい。たかい、たかーい。」
完全に棒読みのレグルスだったが、リーアがこうして高く抱き上げてもらうのが何よりも大好きなことを分かっていての行動だった。さすがにこんなことを隣の家族に知られてはたまったものではない。
その前にもこのリーアには色んな所を見られてしまい、近所の家族に告げ口されてしまっているのだ。これ以上自分の醜態をさらすことは出来ない。となるとこの抱き上げ戦法でリーアに口封じしてもらうしかなかった。
「キャハハハッ!!ウフフフフッ!お父さん大好き!!!リーアはね、お父さんと結婚するの!!」
「フフッ、そうだね〜。」
「あ、でも・・・お父さんは、お母さんと結婚してるんでしょ?隣のおばちゃんから聞いたの!だからね、お父さんとリーアは結婚出来ないんだって!だからね、リーア決めたんだ〜!お父さんみたいなカッコイイ人と絶対一緒になるの〜!!」
「ウフフッ。」
スピカはそんなリーアを見て優しく微笑する。その姿は本当に母親そのものだった。一方のレグルスも父親の眼差しでリーアをだっこして見つめ、口を開いた。
「フフッ。父さんみたいな完璧な男は、そうそんなにはいないよ?」
「そうなの?」
「ねぇ、母さん?」
「ウフフッ・・そうですね。でも・・リーアちゃん。きっと、お父さんみたいないい人、見つかるからね。」
「ホント!?お母さん!」
「えぇ、もちろんよ。」
「ウフフッ!お母さん大好き!!お父さんも大好き!!」
「あぁ。それじゃあ、その大好きな父さんの頼み・・聞いてくれないかな〜?」
「うん、なぁ〜に?」
「さっきのこと・・・くれぐれも隣のおじさんおばさんに言わないように。」
「ええぇぇーーーーっっ!?なんでーーーっっ!?」
「何でって・・・リーア。これは父さんと母さんの秘密なんだよ。」
と言ってレグルスはウインクする。父親になってもこの独特な魅力と色気は衰えるどころか、更に磨きがかかっていた。
「えぇっ!?そうなの〜〜!?お母さんのオッパイのミルク飲むのってお父さんも・・・!!」
「シーーーーッ!!あまり大きい声で言っては駄目だよ?リーア。それこそ隣に聞こえてしまったら・・・・」
「ウフフフフッ、お父さんったら。ね?ユレウスちゃん?」
「ダーーッ!!キャッキャッ!」
皆、明るい笑顔を浮かべていた。それは・・・・・小さな村での、小さな家族の幸せ。でも世界でどこよりも・・・・一番幸せな家族。
レグルスにさらわれたスピカだったが、その前にスピカがレグルスの心をさらっていた、そんな2人の一生は・・・・・少し他人とは違った経緯があっても・・いや、だからこそ幸せを掴んだことは何よりも大きかった。
2人はいつまでも愛し合い、世のため、人のためへの協力を惜しむことはなかった。2人の生活は、絶対の信頼と愛情で、いつまでも固く結ばれていたのだった・・・・・・・・・。
END.
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