「先生の家」 1

あたしと曽我部先生のお付き合いが始まって、1ヶ月と少し過ぎた。

あの後1週間位して突き指も直ったし、部活や練習試合で変なミスすることもなくなった上に、先生との交際も順調となれば今のあたしは鬼に金棒♪怖いものなしの状態だった。
普段学校にいる間は「仲の良い教師と生徒」って感じで、他の生徒や先生に付き合ってることがバレない程度に接してるんだけど、土・日の午後に先生のお仕事が入ってない時はドライブデートしてるんだ〜、エヘヘヘヘッ。
この通り、小さい頃から両親がいなかったあたしにとって、車に乗れること自体貴重な体験だったりする。だから今まで知らなかった色んな景色を先生と一緒に見れることが何より幸せなんだ〜!!先生と一緒に、これからももっと一杯、色んな景色を見て思い出を増やしたいな〜。
そういえば!!昨日帰る時に、先生が「今週の土・日は特に仕事がないから、私の家に遊びに来る?ついでにお勉強見てあげるよ!」って言ってくれたんだった!!あたし迷うことなくOKしたのに、お兄ちゃんに言うことすっかり忘れてた!!しかも今日って金曜日じゃん!!更にとどめとして、お兄ちゃんと夕食食べてる時にこんなこと思い出すあたし・・・超遅すぎだから〜!!
あたしは慌ててご飯をかんで飲み込んで、お兄ちゃんに話しかける準備をした。もちろん、お兄ちゃんには先生とお付き合いしていることは報告済みだよ♪先生に告白して、はれて先生の恋人になったあの日、帰ってから先生と一緒にお兄ちゃんにそのこと言ったから!
あの時のお兄ちゃん、驚いてたけどとっても喜んでくれてたな〜。まぁ・・先生とお兄ちゃんは仲が良いし、実際お兄ちゃんは曽我部先生のこと信頼してて好きな先生だって言ってたし、無理もないか。

「お兄ちゃん!今思い出したんだけど・・・・あたし、明日は曽我部先生のお家に行くことになったんだ〜♪」
「えっ・・・?先生の家に?」
「うん!!遊びに行きがてら勉強見てもらうの〜。イイでしょ〜?」
「・・・そうだね。先生の特別授業は、和だけが受けれるものだから。遅くなるようだったら、電話してね?」
「うん、分かってる!」

よぉ〜っし!!これでお兄ちゃんの許可も取ったし、明日は曽我部先生のお家に行ける〜!!も〜う、超嬉しいんだけど〜!!
・・・・そういえば。あたしより前に先生の車に乗ったことのあるお兄ちゃんなんだから、実は先生の家にも行ったコトがあったりして。1度そう思うと気になって、あたしはテレビニュースを見ながら黙々とご飯を食べているお兄ちゃんに聞いてみた。

「ねぇねぇ、おにいちゃ〜ん。実はお兄ちゃんって、先生の家に行ったことあったりする〜?」
「えっ?どうして?」
「いや。お兄ちゃんと先生は仲イイからさ!」

あたしがそう言うと、お兄ちゃんは少しだけ何か考えてから話した。

「・・先生の家は行ったことないけど、マンションの10階に住んでるって話は聞いた。3LDKで1人暮らしだから、部屋を持て余してるって・・・・」
「ふぅ〜ん・・・・ねぇ、お兄ちゃんってさ〜、そーゆー先生のプライベートな話、どうしてそんなに沢山知ってるの〜?」

先生の家がマンションの10階で、1人暮らしの3LDKってゆーのはあたしも聞いたんだけど・・・お兄ちゃんも知ってるっていうのが何だかな〜。あたしと曽我部先生だけの秘密みたいなのがなくてつまんない・・・・

「・・どうして、って言われても。部活の時、先生がよく話してくれるから、としか・・・・」
「そうなの!?・・先生ってひたすら秘密主義っぽいのに、部活になると途端にちがくなるんだね。」
「・・・化学部は、部員が男2人だけだから。俺ももう1人の人も先生の話をネタにばら撒くタイプじゃないし、俺もその人も先生にはかなりプライベートなこと明かしてる。お互い様って感じじゃないかな。」

そうなんだ〜、なるほどね〜・・・・って、ちょっと待って。お兄ちゃんが先生にプライベートなこと話してるの!?

「お兄ちゃん!!その「プライベートなこと」って何よ!?まさかあたしのことも話したりしてない!?」
「うん・・・結構色々話したかも。」

ギャーーーーーーッ!!!マジですか〜!!!な、何か、とてつもなく聞いてはいけないことを聞いてしまった気がする・・・・

「何!?どんな話曽我部先生にしたのよ!!あたし、恥ずかしいじゃない!!」
「別に、そんな変なこと言ってないよ。昔からスポーツ好きだったとか、小さい時から常に一緒に行動してたとか、そんな感じのことだから。」
「アハハッ。そういえば小さい時って、あたしとお兄ちゃんって逆に思われてたよね!お兄ちゃんはお人形さん遊びばっかりしてたし、あたしは外で遊びまくってたし!」
「・・・そうだったね。俺も今思い出した。」

そうしてお兄ちゃんとあたしは、小さく笑い合った。そんなあたしとお兄ちゃんも、もう高校2年生か〜。あれから年月が経って、気付いたら高校生になってたって感じ。しかも今のあたしには曽我部先生という超カッコ良くて頼りになる優しい彼氏もいる。少しだけ大人になったんだな〜って実感♪

「あのね、あたし・・・未だにお兄ちゃんの方が、あたしより可愛いって思える時がある・・・・」
「えぇっ?何それ・・・・あんまり嬉しくないかも。」
「その今の表情とか!!あたしより可愛いんじゃないかな〜、とか思うと悲しくなるんだけど・・・・」
「そんなことないよ。和は女の子なんだよ?十分可愛いから、そんなこと心配する必要ないと思う。」

ウゥ〜ッ、そうかな〜。お兄ちゃんでも「可愛い」って言ってくれるのは嬉しいんだけど、それでも複雑・・・・

「・・でもお兄ちゃん。あたし、この性格だしこのルックスだよ?ホントに可愛いとか思ってる?お兄ちゃん。」
「うん、思う。だって高校に入りたての時の和と、今の和・・奇麗さが違うから。」

はい〜!?お兄ちゃん、どうしたの!?何があったの!?そっ、そんなこと言われると、お兄ちゃんでもドキドキしちゃうじゃん!!

「お、お兄ちゃん!?そんな、褒めたって何にも出ないよ?」
「・・褒めてないよ?俺は、事実を言ってるだけだから。」

それって余計にどうよって話なんですけど〜!!!

「いや。そんな・・事実とか、あり得ないから!!」
「・・・そっか。和は、分かってないんだね?・・・きっと和は、これからもっと奇麗になると思う。だから、自信を持って。自信のなさが、和の欠点かな?」

・・・お兄ちゃんの言ってること、いつにも増して信憑性が薄いな〜。
でもそれまでお兄ちゃんとずっと一緒に生活していたあたしは分かってる。お兄ちゃんは、決してウソは言わない人だってことを・・・・

「・・うん、そうだね。自信はいつでもないかも・・・・」
「曽我部先生とお付き合いしてるのに?」
「そのことは、あたしにとって良い意味の自信になったけど!でも・・まだまだだよ。もっともっと奇麗になりたいな〜。そしたら曽我部先生と一緒に並んでも、見栄えがイイだろうから・・・」
「・・・和・・・あせることはないよ。見栄えを気にする前に、先生と一緒にいるんだってことを一番に感じていることの方が、大事だと思うから。」

・・お兄ちゃん、やっぱりイイこと言うな〜。あたしや曽我部先生のことを本当によく理解してて、常に言って欲しいことや、気付いてなかったことをズバリと言ってくれる。だからお兄ちゃんはやっぱり、あたしにとってなくてはならない人だな〜って思う。ホント、お兄ちゃんがいなかったらって考えるだけでゾッとするもん・・・・

「・・うん、お兄ちゃん。ありがと!!少しだけ、自信持った。」
「そっか・・・良かった。ご馳走様・・・・」

お兄ちゃんはそう言って、自分の食べた食器を台所に持ってって洗い出した。自分が食べた食器を自分で片付けることは小さい頃からしていることだけど、お兄ちゃんって文句1つ言わずにやる所がすごいんだよね〜。家事位、女のあたしに全部任せてくれてもイイような感じだけど・・・・やっぱりそーゆー点とか、お兄ちゃんのこと見習いたいな〜って思う。
それからあたしも食べ終えて、お兄ちゃんと一緒に食器の後片付けをした。それからお兄ちゃんは「お休み。」って言ってトントンと階段を上がって2階に行ったんだけど・・・・いつもお兄ちゃんは勉強と読書に明け暮れてて、よく飽きないな〜って思う。だからこのリビングにある大きいテレビはいつもあたしが占領してるんだよね〜。まぁ、おかげで流行に着いていけるからありがたいんだけど。
あぁっ!!そういえば、今日は気になってたドラマの最終回じゃん!!見なきゃだよ〜!!絶対にヒーローとヒロインは幸せになってもらわなきゃ困るのよ!ってコトで、あたしはチャンネルをニュースからドラマの入る番組に切り替えて、いつも通り過ごしたのだった。


  

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