「先生の家」 2

いよいよ待ちに待っていた土曜日!!曽我部先生と約束していた日だ。も〜う、先生の家に遊びに行けるのがマジで楽しみなんだけど!!一応お勉強道具も持ってるけど、真の目的は先生と一緒にゆっくり過ごすことだとあたしは思ってる。

既に用意を終えたあたしは、あらかじめお兄ちゃんに「行ってきます!」と宣言してから玄関前をうろついて、先生が迎えに来てくれるのを待っていた。約束の時間までまだ少しあるけど・・・先生は、必ず約束した時間より前に来てくれる人なんだよね〜。だから、そろそろ来てくれてもいいと思うんだけど・・・・
と、私が思ったその時だった。ドアベルが鳴って、あたしは無条件ですぐに玄関のドアを開けた。今の時間に来るのは曽我部先生だって分かってたから。

「せんせぇ〜!!こ〜んにっちは〜!!」

あたしは嬉しくて、すぐに先生に抱き着いた。そうして先生を見ると、先生は優しい笑顔であたしの頭を軽くなでてくれた。

「やぁやぁ、Ms.ふーせーく〜ん!これは嬉しいお出迎えだね〜!!」
「はい!先生が来るのを待ってました!」
「そうか!フフフフ〜、嬉しいものだね!それじゃ、早速行こうか!」
「はい!!」

そうしてあたしの家の前に止まってる先生の車にお邪魔する。いつでも先生の車は奇麗に整っていて、いい匂いがするんだよね〜。先生の車とっても好き!もちろん曽我部先生も大好き!

「実はね〜、ふーせーく〜ん。私の家は、ここからそう遠くないんだよ〜。君とのドライブは楽しいけれど、そろそろ君を家に招待してあげたいと思ってね!」
「はい!あたし、嬉しいですよ!せんせっ!先生と一緒なら、あたしどこでもOKですから!」
「ありがとう、ふーせー君!!君は本当にいい子だね!そういえば、君は今日も朝は部活だったんでしょ?私でさえ学校を休んでいるというのに、君は本当に偉いよ。」

先生はそう言いながら、車を走らせた。こうして普段見慣れた所でも流れ行く景色を見るのがあたしは大好き!曽我部先生と一緒だから、余計にそう感じるのかな〜?

「そんなことないですよ〜!ただ体を動かすのが大好きなだけですもん!」
「そうか!その後突き指の方も良くなったようだけど、無理だけは禁物だよ?ふーせー君。大事な君の身に何かあったらと思うと、心配で心配で・・・・」
「大丈夫ですよ〜、先生っ!怪我しても、先生の手当ては超一流じゃないですか〜!」
「ワハハ・・・ふーせー君。それは素直に喜べない発言だね〜・・・・」

アハハハ、先生苦笑してる。うぅ〜ん、じゃあこう言えばいいのかな〜?

「分かりました!じゃあ、怪我しないように頑張ります!・・これでいいですか?」
「ウム、大変よろしい!!ふーせー君!!」

そうして先生と楽しくお喋りしてたら、あっという間に到着したらしい。あっ、このマンション知ってる!!ここえら辺にしてはおっきいマンションだから・・・まさか先生がこのマンションに住んでると思わなかった〜!!確かここって最新設備が充実してるから、入居者募集したら3日で完売したとか何とかゆー噂を聞いたんだけど・・・・さすが先生、お金持ち〜。
駐車場に車を止めて、あたしと先生は車を降りた。マンションの中に入ったあたし達は、エレベーターに乗って曽我部先生の家を目指す。

「先生、ここ知ってます!さすが、奇麗なマンションですね〜!」
「ウム!まだ建って3年経ってないからね〜。」
「ってことは、先生はここにお引っ越ししたんですか?」
「その通り!!元々は本家の方にいたんだけど、ここ数年前からいづらくなってしまってね〜、1人になる機会を窺っていたのだよ〜。」

えっ?それってどーゆーコト?あたしが驚いた目で曽我部先生を見ると、先生はすぐにあたしの視線の驚きに気付いてくれて付け足してくれた。

「いやぁ〜、本家の皆は既に結婚していてね〜。甥や姪の面倒を見るのは好きなんだけど、同時に寂しさを感じていたのだよ・・・・」
「えぇっ!?でも先生、超モテモテじゃないですか〜。いくらでも女の人と結婚出来そうなのに・・・・」
「・・ふーせー君。君は、今自分の置かれてる立場を理解しているかい?」

えっ?あたしの今の立場?それって、今のあたしの状態を言えってこと?

「はい!先生と一緒にエレベーター乗ってますよ?」
「・・・・ふーせー君。ウム、そうだね、その通りだ!!!ワハハハハハッ!!あぁ、丁度着いたね!行こうか、ふーせー君!!手を貸してごらん。」
「はい!」

エレベーターのドアが開いて、先生に言われた通り手を差し出すと、すぐに先生があたしの手を握って歩き出した。そのことであたしはドキッとしたけど、大好きな曽我部先生とならもちろん嬉しい♪
先生に手を引かれて着いて行って間もなく、先生は1つのドアの前に立ち止まった。あっ、ここが先生の家なんだ〜。番号を見ると、「1005」と書いてある。うぅ〜ん・・・10階の5番目の部屋ってことだよね!きっと。
先生がドアの鍵を開けて、「さ、どうぞ!ふーせー君!!」と言って、あたしを通してくれた。わぁっ・・車と同様、先生の家って奇麗!!!化学ヲタクな先生のことだから、もっと実験器具とかゴロゴロ転がってるんじゃないかと思ったけど全然そんなことはなかった。
廊下はツルツルピカピカだし、玄関に置かれてる小物とか、壁にかけてある絵とかがカッコ良くて・・・先生って、センス良いんだな〜。

「おっじゃまっしま〜す!」
「ウム!上がって、上がって!!Livingで寛ごう!こっちだよ!」

そうして曽我部先生に案内されてリビングに行ったんだけど・・・・うわ〜っ、マジ広っ!!20畳位?1人でこのリビングの大きさなら余裕で寛げそうだよね〜。
しかも余分なものが何1つ置いてないよ!?埃1つ落ちてないし・・・・曽我部先生って、想像してる以上に奇麗好きなのかも。

「さ、そのソファに座って、ふーせー君!何が飲みたいかな?」
「えっ!?先生。そんな、お構いなく・・・・」
「何を言う!!遠慮することはないよ!何がいいかな?」
「えっと・・・あるんでしたら、ポカリがいいです。」
「おぉっ、さすがふーせー君だね!ウム、ポカリならあるよ〜。今入れるから、ちょっと待っててね〜!」

そうして先生はキッチンの方に行ったんだけど・・・このあたしの座ってる所からキッチンはすぐそこで、用意してくれてるカッコ良い先生を見ながらあたしはドキドキしていた。
先生がカッコ良いのはいつものことなんだけど、私服なんてこういうデートの時じゃないと見ることがないから、ホントに新鮮〜!!いつもネクタイに白衣の曽我部先生もカッコ良いけど、私服は私服でカッコ良いんだよね〜!!変に着崩したりせずに、黒いトレーナーに濃い青のGパン。しかも先生ってば背が高い上に足が細くて長いから、Gパンがまた異様に似合ってる。どこかのモデルさんみたい・・・・
そうして先生に見とれてることしばし。先生が2つのコップを持ってあたしの方に来てくれたんだけど・・・・あたしってば先生に完全に見とれちゃってたから、視点が定まってなかったみたい。先生が少し驚いてあたしのことを見てた。

「どうしたの?ふーせー君。具合でも悪いの?」
「あっ、違います!!その・・曽我部先生、とってもカッコ良いなぁ、って思って・・・・」
「ふーせー君・・・いや〜、君にそう言ってもらえて嬉しいよ!!ありがとう。君もとても可愛いよ・・・」

先生はそう言って、あたしの座ってる所にポカリを置いてくれた。それから先生の分の飲み物・・・多分コーヒーだよね?それをテーブルに置いてからあたしのすぐ隣に座ってそう言ってくれた。

「えぇっ!?せ、先生!あたし、可愛くなんかないですってば!!」
「そうかい?いや、君は間違いなく可愛いよ!」
「せんせぇ・・・・」

先生があたしを見つめてそう言ってくれた。嬉しいなぁ〜、こんなあたしのこと「可愛い」って言ってくれるなんて・・・・そのまま先生はあたしの腰を抱き締めてきたかと思うと、もう片方の手があたしの顎に添えられた。そのまま先生の顔が近付いてきて、ゆっくりあたしと先生の唇が重なる。
いつでもキスされた瞬間って、最高にドキドキするよね〜。取り分け大好きな先生のキスなら尚更で・・・・先生とキスするの、あたし大好き。
唇が離れて、先生と見つめ合う。あぁ〜、もう!!先生ってばどうしてそんなにカッコ良いのさ〜!!あたし、ホントにドキドキしっぱなしだよ・・・・

「可愛いよ、ふーせー君。キスした後、私だけに見せてくれるその表情が何より可愛い・・・」
「せっ、先生!!そそっ、そんな恥ずかしいこと言わないで下さいよ〜!」
「ワハハハハッ!!真っ赤だね、ふーせー君!よしよし。」

先生は余裕で笑いながらそう言ってあたしの頭をなでてくれた。ウゥッ・・今あたし、最高に照れてます・・・・でも、先生に頭なでられるの大好き。先生の手、大きくて暖かいから・・・・

「せんせ・・大好きです・・・・」
「ウム。私も君が大好きだよ!ふーせー君!!あぁっ、それより!そのポカリ飲んでね?おかわりはいくらでもあるから!」
「はい!それじゃあ、いただきます!」

そうして先生と一緒に飲み物を飲んだ。あたしはポカリで、先生はコーヒーで・・・・
うぅ〜ん!!ポカリ大好きだからいつも飲んでるけど、先生と一緒に飲むポカリはまた違うおいしさがあって不思議な感じ。
それからしばらく先生とお菓子食べたりポカリ飲んだりしながら色んなお話して過ごしてたんだけど・・・1時間位してから、先生がポンと手を打って言った。

「そうそう!!勉強道具は持ってきたかな?ふーせー君!!少しだけ、お勉強しよう!」
「はい!一応、持ってきてます!英語だけですけど、OKですよね?」
「ウム、もちろんさ!でね、ふーせー君。君は文法が苦手みたいだから、今日はそれを中心に見てあげようと思ってたんだけど。よろしい?」
「はい。よろしくお願いします!」

そうして先生は自分で持ってる参考書をあたしに見せて教科書と照らし合わせながら、普段の授業以上に丁寧に教えてくれた。お兄ちゃんじゃないけど、あたしだけの特別授業って感じで嬉しい♪
練習問題も、先生のおかげで信じられない位スルスルと解けていく。ちょっと自分が天才だと感じちゃう瞬間・・なんちゃって。
こうして、今日は最高に楽しい1日が過ごせると思ってた。でも、それは打ち砕かれたんだ・・・・
先生に英語を教えてもらってから、30分位経った時だった。ピンポーンってドアベルが鳴って、「おやや〜?誰だろ。ちょっと見てくるね〜。」と言って先生があたしの傍を離れてから、一気にあたしは寂しい気持ちに包まれた。
いや。ただの郵便配達とか、宅配便とかなら良かったんだけど・・・・そんな気がしなかった。そして聞こえてくる先生の声と来客の人の声に、あたしの心は一気に震え上がった。

「何と、有観さんじゃないの!!!いや〜、元気でしたか〜!!」
「こんにちは、学さん。今日は時間が空いたから、遊びに来ちゃった。」
「大歓迎ですよ〜!!いや〜、まさか有観さんに会えるとは!!私の心が嬉しいと叫んでますよ〜!!」
「ウフフッ、学さんったら。相変わらず動きが激しいのね〜。」

な、何、誰なの・・・・!?明らかに来た人って、女の人だよね!?しかも「有観さん」と「学さん」って呼び合ってるよ!?まさか・・まさか、実は先生お付き合いしてる人がいるの・・・・!?
いやな冷たい汗が、握ってたシャーペンのまわりの手に感じる。それから談笑してこっちに近付いてくる足音・・・・いやだ、いやだ!!!見たくない・・・来ないで!!!
でも、どんなにあたしが心の中で強く願ってもダメだった。先生が有観さんって呼んだ女の人を引き連れてリビングに来たから・・・・

「いや〜、ふーせーく〜ん。悪いね〜!少しだけ、ここで自習してもらってていいかな〜?すぐに戻るからね〜!」
「あら・・生徒さんがいらっしゃってたの?学さん。ごめんなさい、私気が付かなくて・・・・」
「だ〜いじょうぶですって!!それじゃ、ふーせー君!ちょっとだけ待っててね〜!」

そうして先生は笑顔で手を振って、リビングの隣の部屋に有観さんって女の人を案内してた。その有観さんはあたしに丁寧にお辞儀してから曽我部先生の方に着いて行ったんだけど・・・・何?何なの〜!?超奇麗な人なんですけど〜!!!
一体何者!?あの有観さんって人!!!先生にお似合いで超奇麗な人で・・・・こんなんじゃ、勉強なんてしてられる筈ないじゃん!!あたしはすぐに持ってたシャーペンを放り投げて、隣の部屋の壁に近付いて様子を窺うことにした。

「良かったの?学さん。突然遊びに来ちゃったのに、ごめんなさい。」
「フフフフ〜、構いませんよ!有観さんが来てくれたのなら、話は別ですからね〜!」

・・・先生、有観さんって人が好きなのかな?あたしより有観さんって人を優先してるし、実際嬉しそうにそう話してる。
間違いない、あの有観さんって人は先生がお付き合いしてる人だ・・・・!!だってあんなに奇麗な人だし、お互いに名前で呼び合ってるし・・・・
でも、普通こんなに堂々と浮気してることバラすもの!?・・・もう少しだけ盗み聞きしようっと。

「ウフフッ、ありがとう。学さん・・・・お元気そうで良かったわ。」
「有観さんも、お元気そうで何よりですよ!それに相変わらず美しい!!」
「ヤダ〜、学さんったら。今日は手土産ないですよ?」
「ワハハハハッ!!またまた〜、有観さんったら〜!!それより。私のあげたお金は、役立ててくれてますか?」

はぁっ!?「あげたお金」〜!?先生、有観さんに貢いでるの〜!?
・・・もう、もう限界だった。これ以上先生と有観さんのお話聞いてたら、あたし間違いなく変になる・・・・!!どうすればいい?先生にお付き合いしてる人がいると分かった以上、あたしがここにいる意味がないよね?・・・・そう考えると、あたしはすぐに行動に移った。
勉強道具を全部片付けて、取り敢えず自分が飲んでたポカリだけのコップをしっかり洗って片付けさせてもらった。先生のはまだコーヒー入ってるし・・・・
それから談笑してる先生と有観さんって人に気付かれないように、あたしは荷物を持って玄関に行った。靴をはいて、ゆっくりドアを開ける。カチャッという音がしたけど、そのまま先生と有観さんは談笑してるみたいだから気付いてないっぽい。
よし、このままドアを閉めれば大丈夫だよね・・・・そうして静かにドアを閉めてから、あたしはエレベーターには乗らずに一気に階段を下りた。だって、走ってないと落ち着かないんだもん・・・・!!
涙が一杯あふれて、あたしの視界を遮る。ウッ・・だってあたし、本当に曽我部先生のこと好きなのに!!ただの生徒のママゴトだと思われてたのかな?
先生がキスしてくれたことも、全部本気だって信じてた。でも、違ったんだね・・・・先生には、有観さんっていうあんな奇麗な女の人がいて・・・・あぁっ、もうダメ。何も考えたくない・・・・!!
あたしはもうそれ以上何も考えずに、ただがむしゃらに走った。マンションを出てからも、最初はどこに行くあてもなく走ってたんだけど・・・・そうだ。こういう挫けた日や、悲しいことがあった日・・・・お兄ちゃんと一緒に行く秘密の場所があったんだった・・・・!!
あたしはそのことを思い出してから、その場所の方に駆け出した。そして忘れよう。曽我部先生のことを・・・・・


  

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