「「みんなの」先生じゃやだ」


いよいよ約束していた放課後の時間!!HRが終わって曽我部先生の所に行ったら、「お掃除終わったら、勉強道具持って職員室においで。それから指導室の方に行こう!」って、ちゃんと言ってくれたよ!!ホンットに嬉しい!!
そう、今週廊下の掃除当番だったんだよね〜、あたしの班・・・でも、それもこれで終わり!!あたしは勉強道具を両手に持って、職員室の方に向かった。うぅ〜ん!!もうちょっとで曽我部先生と一緒にいられるよ〜!!・・・って、勉強しに行くんだけどね・・・・
でもでも、一昨日、先生「お茶しながら」って言ってくれたよね!?先生と2人でお茶飲みながら!!!考えただけで嬉しくなっちゃう!!
あたしがルンルン気分でスキップしながら職員室前に近付いた、その時だった。何だか女の子達が5、6人輪を作ってるんだけど・・・その輪の中央にいるのって・・もしかしなくても、曽我部先生だよね!?うわぁ〜っ、囲まれてるよ〜。ってか、これはもしかして・・・お勉強教えてるのかな?
少し遠くから見てるからよく分かんないけど・・・・先生が本を片手に、何か教えてる感じっぽいのは確か。女の子達ってば、先生にピッタリ寄ってお話聞いてる・・・・ウゥ〜ッ。羨ましいな〜・・・って、自分もその為に曽我部先生の所に来たんだけど・・・・それでも。やっぱり他の生徒にもって考えると、嫉妬しちゃう・・・・
でもでも。本当はこんな風に思う方がおかしいよね!!だって、曽我部先生はこの学校の先生だもん。生徒に勉強教えるなんて、当たり前のことじゃん・・・・それは、分かってる。よく分かってることなのに、割り切ろうと思っても、割り切れなくて・・・・あたしの心の中がズキズキ痛んでる。ウゥッ・・こんな光景見てるからじゃん!!ダメダメ!!これ以上見てたらあたし、おかしくなっちゃう!!
この痛みを解消すべく、あたしは思いきってクルッと背を向けたんだけど、それと同時にあたしの目の真っ先に飛び込んできたのは、あたしとよく似た顔の男子で・・って・・・・!?

「わぁっ!ビ、ビックリした〜・・・・」
「な、何よ〜、それこっちの言葉!!何なのお兄ちゃん!?突然・・・・」
「い、いや・・・和に声かけようと思ったら、いきなりこっちを向いてきて・・・・」

マジですか。何って変なタイミングに・・・・

「そうですか・・・・それで?あたしに何か用?」
「ん・・用ってことの程でもないんだけど、ここにいるってことは、曽我部先生のこと見てたのかなって・・・・」

ギックゥーーーン!!だから何でお兄ちゃんはあたしのしてることに敏感に気が付くのよ〜・・・って、双子だから無理もないんだけど・・・・

「見てるよ、見てますよ〜!!でもあんなんじゃあ、先生に声かけれなくて・・・・」
「そうだね・・・・俺も1つだけ分からない所があって、先生に聞こうと思って来たんだけど・・・・」
「お兄ちゃん。」
「ん?・・・あぁ、ごめん。もちろん急ぎの用じゃないけど・・・・和、嫉妬してるでしょ?」

・・・さすがお兄ちゃんです。あたしは驚くことなく、何も言わずにコクンと頷いた。ここえら辺はもう双子の暗黙の了解ってヤツだね。

「俺にまで嫉妬する和って、何か可笑しい・・・・プッ。」
「お、お兄ちゃん!?笑わないでよ〜!!何なのさ〜、何が悪いのさ〜!!」
「別に、悪いなんて言ってないよ。ただ、和らしいなって思って・・・・」
「何それ〜!!どーゆー意味〜!?」
「おうおう〜、さすが双子の兄妹は仲がイイな〜。先生も混ざってよろしい?」

あたしがお兄ちゃんに食って掛かろうとしたその時だった。先生が、こっちに来てくれてる!?
あたしは驚いちゃって、思わずお兄ちゃんに手を出そうとしたのを急遽やめた。お兄ちゃんもまさか先生が来るとは思ってなかったみたいで驚いてるみたい。

「あ・・あの、先生。こんにちは。」
「やぁやぁ〜、Mr.ふーせーく〜ん!!部活出来ないのって悲しいとおもわな〜い?先生ね〜、この間の実験研究まだ途中なのだよ〜。今度ふーせー君も手伝ってくれるよね?」
「はい。俺に出来ることがあれば、お手伝いします。」

ムッ・・お兄ちゃんったら、さりげに先生に挨拶してるし〜、お話してるし〜!!何かズルいの・・・・
そういえばお兄ちゃんって、曽我部先生顧問の化学部部員なんだよね〜・・・・実験研究って、すっごくアヤしそうなんですけど・・・・一体何やってんだろう。自分のお兄ちゃんながら、怖くて部活内容聞いたコトないんだよね〜・・・・

「ウム!!さすがだ!ふーせー君!!あぁ〜、それより英語の教科書片手にどうしたの?もしかして私に質問?」
「あ・・はい。お時間大丈夫でしたか?先生。」
「フフフフ〜、もちろんさ!!ふーせー君!で、どこどこ?」
「はい。今回の試験範囲のことなんですけど・・・・」

そうしてお兄ちゃんは、英語の教科書をパラパラ広げて曽我部先生に質問してる。ウゥッ・・何かあたしにはよく分からない系統の質問してるな〜。お兄ちゃんの頭の中ってどうなってんだろ・・・・同じ双子なのに、あたしとお兄ちゃんってば全然違うんだもん。不思議・・・・
すぐにお兄ちゃんの疑問は解決したみたいで、程なくして教科書を閉じて先生にお辞儀をしていた。

「ありがとうございました、曽我部先生。」
「フフフフ〜、何のこれしき〜。あっ、それよりふーせー君!!これからMs.ふーせー君と一緒に指導室でお勉強会しようと思うんだけど、どお?ふーせー君も来ない?」

ええぇぇっ!?せっ、先生!!どうしてお兄ちゃんに声かけるのさ〜!!!
もう・・もう限界。それまであたしの我慢していた嫉妬の気持ちが自然と表に出てしまった。さっきの女の子達や、お兄ちゃんへの嫉妬の気持ちが・・・・

「やだ・・そんなのやだ!!!」
「?ふーせー君?」
「!和・・・・」
「「みんなの」先生じゃやだ!!!あたし・・絶対にやだもん!!!」

あたしは半分我を忘れてそう叫んで、そのままどこへともなく走ることしか出来なかった。お兄ちゃんの呼ぶ声や、曽我部先生があたしを呼んでくれた気もしたけど・・・・ごめんなさい。今は、お兄ちゃんの顔も、曽我部先生の顔も見れないよ・・・・!!!
あたしの視界が、次第に霞んで見えなくなる。目が熱くて・・・涙、止まらないよ・・・・!でも、今は走んなきゃ!お兄ちゃんと、曽我部先生から離れなきゃいけないから・・・・!!

 

アイタタタ・・・これは、やってしまったね・・・Mr.ふーせー君を誘っちゃいけなかったか〜。

「あの・・先生、すみません。妹が・・・・」
「・・構わんよ、ふーせー君。私がいけなかったんだろうから・・・・ほら〜。君たちは双子だし、実際とても仲が良いだろう?だから一緒に勉強した方が、きっと能率が上がるんじゃないかと思ったんだけど・・・逆効果だったようだね。」
「・・・はい・・その、本当にすみませんでした。妹に代わって、謝ります。」

ふーせー君は本当に律儀で頭の良いお兄さんだね。君のせいじゃないのに・・・・もちろん、Ms.ふーせー君のせいでもないさ。若いってイイね〜・・・私の忘れていた情熱を、呼び覚ましてくれるよ。

「いいんだよ、ふーせー君。君も、Ms.ふーせー君も何も悪くないさ。はぁ・・しかし残念だね〜。せっかくMs.ふーせー君とデート出来ると思ったのに・・・・」
「・・・デート、ですか?」

おっと、いかん!!つい本音が口を滑って出てしまったよ!!ふーせー君が驚いているじゃないか!!ここは教師としてのメンツを保たなければだよね!ウム!!

「ワハハハハハッ!!!デートという名の勉強会・・いやいや。一昨日Ms.ふーせー君と約束したことだからね〜、デートに似ていると思わないかい!?ふーせー君!!」
「・・はい。そうですね。」

おぉっ!!ふーせー君、さすが君は物分りが良くて先生は助かるよ!!

「あぁ、ありがとう!ふーせー君!!君がそのことを理解してくれただけで、先生はとっても嬉しいよ!!あぁ〜、それより。Ms.ふーせー君を探した方がよろしい?逃げられたら先生かなわないんだけど・・・・」
「あ・・先生。妹は、たまたまカッと熱くなっただけだと思うんです。それに・・妹は、自分の泣き顔を見られることを、ひどく嫌ってて・・・・その。今日1日家でゆっくりすれば、明日は冷静になっていると思いますから・・・・本当にすみません、先生。今日は、妹がこれ以上曽我部先生を見たら、完全に自我をなくしちゃうと思うので・・・」
「そうか、そうか・・・・いや、こちらこそすまないね。ふーせー君・・・・」

ふーせー君の言っていることは、間違いなく正しいだろう。何と言っても双子のお兄さんだからね〜・・・・それでも。私の中で何か納得出来ていないんだよ・・・そう、それは大切なものを失くしてしまった感覚に似ているね。このままいたら、Ms.ふーせー君と2度とお話出来ないんじゃないか、とか・・顔も合わせてくれないんじゃないか。しまいには学校にすら来なくなるんじゃないかと考えただけで、心が締め付けられてしまって・・・何も、手に付かない感じだよ・・・・

「いえ。わがままを言ってしまいました・・・・」
「何を言う!!ふーせー君。私はね、君のことをとても信頼しているよ。それに、君は常に先々のことを考えた上で発言するよね!!先生も見習いたいよ。」
「あ・・そ、そんな。ありがとうございます、曽我部先生・・・・」

ふーせー君は本当に真面目でイイ子だね。Ms.ふーせー君も然りだ!!だからこそ私は、君たち双子の兄妹から・・・・取り分け、バレーに熱心なMs.ふーせー君から目が離せないんだろうね・・・・

「フフフフ〜。それじゃ、迷惑かけたね、ふーせー君。明日からの試験!!頑張ってね〜。」
「はい。さようなら、曽我部先生。」
「ウム!!またね、ふーせー君!!」

そうして私は、ふーせー君の後ろ姿を見守ったんだけど・・・・Ms.ふーせー君はどうしただろうか。本当なら、後を追いかけるべきなんだろうけど・・・・恥ずかしいことに、私は彼女ほど速く走れる訳じゃないからね〜、追いかけても追いつけないのがオチなんだよ・・・・
それに、Mr.ふーせー君は私とMs.ふーせー君が今は会ってはいけないと、そう言っていたよね・・・・うん、それは分かるんだよ。でもね・・・泣いているだろうMs.ふーせー君の傍にいてあげられないのは、正直言ってつらいね〜。
・・・今すぐMs.ふーせー君に会えることなら、この手に抱き締めてしまいたいよ・・・・教師なんてことは、忘れてね・・・・
そう、あの時Ms.ふーせー君は言っていたね。「「みんなの」先生じゃ嫌だ」と・・・・君の為に、君だけの先生になってあげようか?フフフフ・・・出来ることなら、だけどね。
あぁ、いけないね。こんなことばかり考えてしまっては、Ms.ふーせー君のことだけしか見えなくなってしまう。君だけの先生になりたい所だけど、私はこの学校の教師だからね〜・・・・今はまだ、この学校の為に教師をする私を許してね?Ms.ふーせー君・・・・

 

END.


  

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