「先生の誕生日」 1


夏休みも今日が最後!!明日からはいよいよ学校が始まる。
今年の夏休みも、大半は部活とテストの補習で過ぎてった気がするなぁ〜。ウチの学校、珍しいことに夏休みは宿題出ないからその点はホント助かってたし、英語の補習では大好きな曽我部先生を見たりお話出来たことが嬉しかったと言えばそうなんだけど・・・・何だかな〜。充実してるんだかしてないんだか・・・・
今日の部活が終わってそんなことを考えながら、何気なく職員室の近くを通りかかった、その時だった。

「Mr.ソガベ〜!!ハッピーバースデー!!」
「おぉっ!?ありがとう!ありがとう!!」
「先生、あたしが夜通し作ったプレゼント、受け取って下さい!!」
「私はMr.ソガベの為に1年の愛をたっぷり込めて、このガラス玉を作りました!」
『キャーーーーーーーーッッッ!!!』

き、黄色い歓声が、耳に痛いです・・・・何かガヤガヤ騒がしいと思ったら、これが原因だったのか〜。
ってゆーか、ちょっと待って。女の子達しか見えてないからよく分かんなかったんだけど、曽我部先生この女の子達の輪の中にいるんだよね!?ついでに女の子達、何って言ってた?「ハッピーバースデー」って、確かにそう言ってたよね!?
・・・ウソでしょ〜!?あたし、曽我部先生の誕生日なんて全然知らなかった!!どうしよう、どうしよう・・・・あたしは少し考えてから、ポンと手を打った。

「あげないよりはマシ。取り敢えず作るだけ作ってみよう!!」

そうしてあたしはバタバタと学校から出て家に向かった。
そうそう、あたしんちってね、学校からそんなに離れてないんだ〜。歩いて20分位の所にあるから・・・このまま全力ダッシュすれば、10分位で家に着く筈。

「お兄ちゃん、ただいまーーー!!」

あたしは少し息を切らしながら何とか家に着いて、開口一番叫ぶ感じでそう言った。いや〜、あたしんちって無駄に広いし、大抵お兄ちゃんは2階の自分の部屋にいるから、この位デカい声じゃないと聞こえないんだよね〜。
あたしは玄関に荷物を置くだけ置いて、台所に駆け込んで手を念入りに洗ってから冷蔵庫の中を物色した。うぅ〜ん、確か材料はある筈なんだけどな〜・・・・もう、どうしてこう急いでる時に限ってすぐに目的の物が出てこないかな〜。あぁ〜、早くしないと曽我部先生帰っちゃうかもしれないじゃ〜ん!!!ただでさえ夏休み期間中なんだし・・・・
・・・ってことで探すに探してみた結果、何とか目的の物が作れそうな感じだった。実はお菓子作りってあたしの趣味なんだよね〜♪それと一緒に、あたしの気持ちを曽我部先生に届けよう!!頑張るぞ〜!!
そうしてあたしがお菓子作りを始めたその時、トントンとお兄ちゃんが階段を下りてあたしの所にやって来た。

「・・和、おかえり・・・何してるの?」
「見ての通りだよ〜。」
「うん・・・それにしても、突然だね。あっ、分かった。曽我部先生の誕生日プレゼント作り?」

ギャアーーーーーーッッ!!!ちょっと・・ちょっと待って!!!いくらあたしとお兄ちゃんが双子だとは言え、どうしてそこまでお兄ちゃんにバレバレなワケ〜!?

「あのさ〜。お兄ちゃんって、エスパー?」
「・・・和、それ死語だと思う・・・・」
「変な所で突っ込まなくてイイから!!ってゆーか、何であたしがしようと思ってるコトをそう簡単に言い当てちゃうかな〜?お兄ちゃん。」
「いや・・・確か、曽我部先生が「8月30日は誕生日だから、祝ってね。」って言ってた記憶があって・・・」

あ、そゆコトですか。ウゥッ・・あたしには何も言ってくれないのに、先生・・・・
お兄ちゃんは本当にズルい・・・あたしも、化学部に入ればイイのかな〜?あぁ〜、でも化学なんて全然分かんないからダメダメ!!そもそも体を動かさない部活なんて考えられないし!!

「えっ?んじゃあ、お兄ちゃんはもう先生に何かプレゼントあげたってこと〜?」
「いや。明後日学校に行って、先生に会ったら言おうと思ってた。」
「そっか・・・そういえばお兄ちゃん。曽我部先生って何歳になったの?」

あたしは作業の手を休めずにお兄ちゃんにそう聞いた。あたし・・曽我部先生のことが誰よりも好きだし、1年の時から曽我部先生に年齢のこと聞いてるんだけど、いつもイイ具合に逃げられちゃうんだよね〜・・・・

「えっ・・和。知らなかったの?」

お兄ちゃんは驚いてそう言った。ウゥッ、どうせ知りませんよ〜!!

「知らないよ〜!!だって、いっつもイイタイミングで曽我部先生に逃げられちゃうんだも〜ん。」
「・・そうなんだ。意外・・・・」
「えぇっ!?何?ってことは、お兄ちゃんは普通に先生の歳知ってるの〜!?」
「うん。化学部に入った時に、自己紹介だって言って・・・・」

ウソ〜ッ!?あり得な〜い、それ〜!!どうしてあたしが知らない曽我部先生の秘密を、お兄ちゃんはそんなに一杯知ってるワケ〜!?ムゥ〜ッ・・・・あたし、やっぱり曽我部先生に嫌われてるのかな〜。
でも、無理ないか・・・・成績悪いし、落ちこぼれだし、いっつも補習で迷惑かけまくってるし、取り柄といえばスポーツだけだし・・・・ウゥッ。そう思うと、我ながら悲しくなってきた・・・・自分のあまりの出来の悪さに。

「・・イイな〜、お兄ちゃん。曽我部先生に信頼されてるっぽいし、ホントに羨ましい・・・・」

思わず悲しくて、それまで動かしてた手が自然と動かなくなっちゃった。自分がこうしていることも、バカらしくなってきて・・・・あたし、本当にダメな生徒なんだね。曽我部先生・・・・

「和・・・そんなことないよ。俺はたまたま、化学部に入ってるだけの話だから・・・・」
「そんなことないもん!!お兄ちゃんは頭イイし、いつもお兄ちゃんと部活の話する曽我部先生は楽しそうだし・・・・!あたし、あたし・・・!!」
「・・和。それは、思いつめすぎだよ?そんな悲観的になってたら、楽しいことも楽しくなくなっちゃう。」
「!お兄ちゃん・・・・」

お兄ちゃんは、あたしの目をまっすぐ見つめてそう言ってくれた。それからお兄ちゃんは照れながら話を続けてくれた。

「・・俺は、和の恋を応援してるから。曽我部先生になら、和のこと任せられるし・・・・」
「なっ・・・!!ちょ、ちょっとお兄ちゃん!!何あり得ないコト言ってんのよ!?」
「あり得ないだなんて、そんなこと、誰がいつ決めたの?」

ウッ・・絶句。何か今日のお兄ちゃん、いつになく強気だな〜・・・・あたしが泣きそうになってたから、励ましてくれたのかな?

「え、えっと。あたしが勝手にそう決めました。」
「・・その考え、頭の中から追い出した方がいいと思う。」
「な、何で?」
「その方が、和にとっても、俺にとっても良いことだから・・・・あっ、ごめん。話しかけて、作業の邪魔しちゃって・・・」

お兄ちゃんはそう言うと、1、2歩下がってあたしから少し離れた。
ウゥッ・・お兄ちゃんには、本当に迷惑ばっかりかけちゃってるな〜。でもでも、お兄ちゃんはいざっていう時にこんな風に励ましてくれるから・・・お兄ちゃんは、あたしにとってなくてはならない大切なお兄ちゃんだなって思う。
ただでさえ両親がいないのに、それに加えてお兄ちゃんがいなかったらって思うと・・・・多分あたし、まともに生活出来てないだろうな〜・・・

「イイよ、お兄ちゃん。それより・・・ありがと。」
「いや・・和が元気になってくれれば、俺はそれでいいから・・・ところで。それ作り終えたら、また学校行くんだろう?気を付けて。」
「ン、分かってる♪」

そうしてお兄ちゃんと軽く手で挨拶すると、お兄ちゃんはコクンと頷いて台所を出て行った。それからトントンと音がしたから、自分の部屋に戻ったんだと思う。さぁ〜って〜?あたしどこまで作業進めたっけ〜?


  

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