「先生が好き」 2

それからあたしは、どれ位先生の胸の中で泣いてたんだろう。時間感覚が完全に麻痺してて分かんないけど・・・・泣くだけ泣いてようやく落ち着いたあたしは、先生から離れた。泣いた顔を見られたくなくて、顔は下を向いたままだけど・・・・

「・・・先生・・・すみませんでした。」
「謝ることはないよ、ふーせー君!それより、大丈夫?沢山泣いて、疲れてないかい?」

先生・・・敢えて、あたしが泣いた理由は聞かないんだね。それも先生の優しさなんだなって思うと、胸が痛くなってしまった。

「・・・大丈夫、です・・・・あの。長時間お引止めしてしまって、本当にすみませんでした!!」

あたしはもう謝ることしか出来なかった。だって曽我部先生は、ずっとあたしの傍にいて頭をなでてくれたから・・・・

「・・ふーせー君、そんなに謝らないで。私のことなら心配しなくていいよ!」
「はい・・・あの、先生。保健室は、やっぱり閉まってますよね?」

今頃になって、突き指した人差し指の痛さを思い出した。ウゥッ、このまま骨が固まっちゃいそうで怖いんだよね〜・・・・

「えっ?あぁ、養護の先生はお帰りになってしまって、閉まっているけど・・・まさかふーせー君、怪我したのかい!?」
「はい。突き指しちゃって・・・・」
「何だって〜!?君はどうしてそんな重要なことを先に言わないんだい!?・・・少し、ここで待っていなさい。保健室の鍵借りてくるから。」

先生はそう言って、職員室に入ってしまった。え・・・そんな、保健室の鍵借りたって、どうするの?曽我部先生、養護の先生じゃないのに・・・・
思わずあたしはそれまで下げていた顔をようやく上げた。今まで廊下の鉛色しか見えてなかったあたしに、パッと学校の景色が戻ってきて・・・保健室と職員室の間にいたんだな〜って実感。
それからすぐに曽我部先生が来てくれた。ゲゲッ、泣いた顔見られちゃったよ〜、どうしよう〜!!と思ったけど、曽我部先生はあまりあたしのことを見ずに、いつになく険しい表情をしながら鍵を回して保健室の扉を開けていた。
・・・先生のこんな表情、あたし初めて見た。いつでも曽我部先生は明るくて、笑顔の優しい先生なのに・・・・何だか、怒ってる感じ・・・どうしてだろ?あたしがあまりにも落ちこぼれ生徒すぎるから?
・・そうだよね〜。しかも先生に迷惑かけまくりだし、いきなり泣き出すし・・・先生が怒るのも無理ない。ますます曽我部先生に「悪い生徒」の目で見られたんだろうな〜、あたし・・・・

「ふーせー君!!早く来なさい!!」

ヒャアッ!!先生、マジで怒ってる!?あたしは慌てて「はいっ!」って返事をして、保健室に入って扉を閉めた。

「失礼しま〜す。」
「ウム、ふーせー君。そこに座って。手当てしてあげるからね!」

先生はすっかり養護の先生の座っている所にいて、色々用意をしていた。しかも先生って白衣着てるから、妙にここと馴染んでるのがすごい・・・・
取り敢えずあたしも、先生と向かい合う形で座ったんだけど・・・・ちょっと緊張。だって鍵がかかってないとは言え、ここにはあたしと先生の2人しかいないんだよ〜!?お、おいしいシチュエーションすぎるって!!先生は本当にカッコ良いし、ドキドキがどんどん速くなってるのが自分でも分かる。

「えぇっ!?先生、そんなっ。無理ですよ!!」
「ふーせーく〜ん、私をなめてないかい?私たち教師は、基本的な介護実習は学んでいるよ?それにね、私は元々養護教諭を目指したいと思っていて・・・・」
「ええぇぇっ!?本当ですか〜!?」

意外すぎーーーー!!!ホントに驚いちゃったよ〜、あたし〜。もう泣いた顔を曽我部先生に見せちゃってるのはこの際どうでも良くなっちゃって、あたしはただ曽我部先生を見ることしか出来なかった。曽我部先生はようやくいつもの優しい笑顔を浮かべてくれた。

「本当さ!!英語の教師になったのは泣く泣くなんだぞ〜?それに、養護教諭は圧倒的に女性の先生が多いよね。その点、男の私は不利だったから化学の道を目指したんだけど、見事に落ちるし・・・・」

そうなんだ〜。確かに養護の先生って、色んな薬扱ったりしてるけど・・・それと化学って関係あるのかな?まぁ、関係がない訳じゃないだろうけど・・・・あぁ〜、ダメだ。その手のコトは考えただけて頭痛くなる・・・・

「そうだったんですか〜。初めて知りました・・・・」
「ワハハハハッ!そうだろうね。このことは化学部員数名にしか話してないし・・・・あぁ、それより。君はどこを突き指してしまったのかな?」
「はい。右手人差し指です。」

あたしはそう言って、先生に右手を差し出した。その次の瞬間、先生の大きくて暖かい手があたしの右手に触れてきた。
ウッ、緊張する〜!!も、もう、今すごい勢いで心臓バクバクいってるよ〜、あたし〜!!そりゃ〜、先生が介抱する為にあたしの手をとってるのは分かるんだけど、それでもドキドキしちゃうよ〜!!

「そうか〜。それはまた、一番大事な所を突き指してしまったね〜。どれどれ・・・・」

先生はそう言いながら、あたしの指を念入りによく見ていた。アウ、先生に見られてるってだけでこんなに緊張してる。あたしのドキドキ、先生に聞こえてないかな〜って心配だよ〜。

「・・・ごめんね、すぐに君の突き指に気付いてあげれなくて・・・・だから私が声をかけた時、君は水で指を冷やしていたんだね。」
「はい。ですけど、突き指したのは久しぶりだったので、少しパニックになっちゃいました・・・・」
「そうか。でも偉いね!突き指は冷やすことが大事だからね〜。」

先生はそう言いながら、まずは湿布を張ってくれた。うわっ、つめたっ!!

「ウッ・・・」
「あぁ、痛いかな?ふーせー君。でも、我慢してね〜。」
「はい・・・・!イタタタ・・・」

うわ〜っ、湿布がしみるよ〜!!痛くて冷たくてどうしようって感じ。ここの所本当に突き指なんてしてなかったから、久々に味わう痛みだった。

「ウム、痛いだろうね〜、これは。でも、我慢だよ?ふーせー君!」

先生は優しくそう言いながら、あたしの突き指した右手人差し指に添え木をあてて、包帯で強く固定してくれたんだけど・・・・
先生、何ってゆーか・・手付きが慣れてる感じがする。絶対に痛くしたりしないし、扱いがとっても優しい上に、無駄な動きがないし・・・・先生が養護の先生目指してたって言ってたの、身を持って実感した。
先生の応急処置は完璧!!元々養護の先生目指してたのはどうやら本当みたいだし、下手したら養護の先生よりうまいかも・・・・

「こんな所かな〜。今日1日つらいだろうけど、明日は病院に行ってしっかり見てもらうんだよ?よろしい?」
「はい、先生。本当にありがとうございました!!」

あたしは椅子から立ち上がって、しっかり先生にお辞儀してそう言った。ハァ〜、今日は先生に迷惑かけまくっちゃったな〜。本当にごめんなさい、先生・・・・

「いやいや、礼には及ばないよ!当然のことをしたまでさ!!ところでふーせー君。もう7時になろうとしてるんだけど、1人で帰って大丈夫?私の車で良ければ乗せていくよ?」
「えっ?先生、いいんですか!?」
「ウム、もちろんさ!!ババンと乗っていきなさい!!」
「わぁ〜っ。先生、ありがとうございます!!それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます!」

そうしてあたしと曽我部先生は保健室を出た。先生が最後に電気を消して、扉を閉めて鍵をかけて完了!「少しここで待っててね〜。」と曽我部先生が言って、職員室に行ったんだけど・・・・先生を待ってる間がとにかく楽しくて、嬉しくて仕方なかった。先生の車乗るの初めてだよ〜!?ワクワクしちゃう!
それからすぐに曽我部先生が来てくれたんだけど〜・・・わぁっ、白衣じゃない!!!って当たり前か、これから帰るんだもんね。でもでも、スーツ姿の曽我部先生もカッコ良いよ〜!!

「さ、行こうか!ふーせー君!!」
「はい!」

もうこの時間だと、通常の昇降口はとっくに鍵がかかってる。だからいつも部活で残ってるあたし達は、毎日この職員玄関から帰ってるから、このことには慣れてたりするんだ〜。それでも曽我部先生と一緒にこの職員玄関利用するのって新鮮な気分かも。
外に出ると、一気に冷たい空気があたしと曽我部先生を支配した。そういえばもうじき冬だもんな〜、寒くもなるワケだよね〜。

「ふーせー君、大丈夫?寒くない?」
「はい!大丈夫です、先生!」
「そうか!若いってイイね〜。」
「・・先生、オヤジクサッ!!」
「ウッ!!そ、そうだね!今のは失言だったよ、ワハハハハッ!!」

・・・でも、曽我部先生ってオヤジの1歩手前だよねってあたしは密かに思ってる。だって29歳・・だったよね?曽我部先生って。

「ですけど、先生は限りなくオヤジにちか・・・・」
「あぁ〜っ!!!ふーせー君、それは言わないで。お願いだよ!!」

わぁっ!!先生いきなりすごい勢いであたしに言ってきたから、ビックリしちゃったよ〜。

「は、はい。分かりました・・・・」
「ごめんね、ふーせー君。驚かせてしまったかな?ワハハハハッ!!・・っとと、これが私の車だよ。さ、ふーせー君。どうぞ!」

先生はそう言って、助手席のドアを開けてくれた。うわぁ〜っ、何かお姫様みたい!!あたしはありがたく先生の行為に甘えて先に乗らせてもらった。先生、さっすが〜!!
それより!!先生の車だよ〜、わぁ〜っ!!もうすっかり暗いからよく見えないけど、奇麗に整ってて、すっごくイイ香りがする。もう超絶幸せ〜!!今は突き指したことに感謝すらしちゃうよ〜。
それから曽我部先生が運転席に乗ってきた。先生、足長くて細いからカッコ良いな〜。椅子の位置がかなり後ろの方だけど、それでも長くて細い足を持て余してる感じがする。

「さすがに寒いね〜。待っててね、すぐに暖房付けるから!」

そうして曽我部先生はエンジンを入れて、暖房を付けてくれた。あっ、少しだけ暖かいかも〜。あたしは暖房の出ている所に左手のみ近付けた。突き指してる右手は暖めるの厳禁だからね〜。

「先生、本当にありがとうございます!あたしの家、分かりますか?」
「ウム、もちろんさ!!たまにMr.ふーせー君を送り届けているから、よく分かっているよ!」

ウソッ!?お兄ちゃんが!?聞いたことないってば!!

「そうなんですか!?すみません!!お兄ちゃんが、そんなこと・・・・」
「おやや〜?知らなかったかい?だがしか〜し!最後にMr.ふーせー君を乗せたのは今年入ってすぐだったから・・・かれこれ半年以上はMr.ふーせー君を乗せてないね〜。それどころか、こうして生徒を乗せるのも久しぶりだよ!」

・・・お兄ちゃん以外にも、先生の車に乗った生徒いるんだ・・・・イイなぁ〜。あたしは嫉妬を覚えながらも、先生に平静を装って聞いてみた。

「そうなんですか〜。今までお兄ちゃん以外には、誰が乗ったんですか?」
「ウム、女子生徒諸君が多いね!一番最後に乗せたのは、チアリーディング部の部長君だったかな?」

チアリーディング部の部長!?マジで!?あたしにとっては先輩だけど・・・・スポーツやる上で応援は欠かせないから、チアリーディング部の大体の人は知ってる。取り分け部長さんともなれば、尚更で・・・・
チアリーディング部の人って、ただでさえ可愛い子や美人な子が多いのに・・・・ウゥ〜ッ、やっぱりあたしじゃ曽我部先生には釣り合わないよね・・・・つい、嫉妬の勢いに任せて聞いちゃったけど、ショック受けちゃった。どうしよう・・・・でも、いつも通りに振る舞わなきゃ!前みたいにはっちゃけるのは良くないから・・・・

「そうなんですか〜。チアリーディング部の部長さんって、とっても奇麗ですよね〜。」
「うぅ〜ん、そうかい?確かに見た目で言えばそうなんだろうけど・・・・」

あれ?あたしとしては先生が普通に頷いてくれるモノだとばかり思ってたから、ビックリしちゃった。

「・・先生って、理想高いんですか?」
「いやいや!そんなことはないさ!!多分・・ね。」
「多分なんですか。」
「ウム・・・っとと、イカンよ!!つい本音を語ってしまう所だった!!さ、エンジンも温まった所でいざ行かん!!ふーせー君の家へ!!」

ウッ、もうちょっとだったのに〜。でも意外だなぁ〜、あのチアリーディング部の部長さんのルックス「イマイチ」って思ってるんだったら、あたしなんてもっと見れない部類の顔とか思われてるよね〜?そりゃ人間、顔だけが全てじゃないけどさ・・・・曽我部先生がこれだけカッコ良い人だから、やっぱり自分に釣り合う位の美人さんじゃないとダメなのかも。
そう、間違いなくあたしの恋は失恋そのもの。先生への気持ちが叶うワケなんてない・・・・でも今は先生とこうしているだけで嬉しいから、笑顔でいるよ!


  

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