『異説 封神演義』いかがでした?
さすがフジリュー、と溜息をついた人はたくさんいるでしょう。
少なくとも、亭主は感嘆。
本説(?)封神演義を損なわず、かつ、完全に纏まった『異説』というひとつの世界。
あまりに纏まっていて、望ちゃんの和やかさとは別に、作品全体に静謐を感じました。
ぞくっとしましたね。
少年ジャンプを読んでいてぞくっとすることなどまずはない。
ジャンプはにぎやかで、元気で燃えてて楽しいものだから。
そこに違和感なく納まっていながら、私にこんな感情をもたらした藤崎先生を、心から尊敬します。
さてそこで。
『異説』は、完成度の高い(よく纏まっている)短編小説には必要のない(あるいは薄い)登場人物が一人たりとも居てはいけない、という見本のような作品でした。
もちろんほんとはこれは長編でも一緒ですけど・・
(途中から忘れ去られた人物のファンはさみしいよね)
まあともかく、「纏まり」の代償として「好きなキャラが出てこなかった・・」と涙をのんだ人がやっぱりたくさんいるでしょう。
亭主もちょっとは、ナタクや天化が出てこなかった、と寂しく思いますもの。
その気持ちが「ちょっとは」で治まっているのは、『異説』がよかったから。
そして『異説』の中に、彼らを出す余地がないことを痛いほど感じるから。
さらには天化なんて出した日にゃあ、本説『封神演義』の方も壊れちゃう。
寂しく思った次の瞬間、さらにもう一度心の奥を覗くなら、そして『異説』を味わうならば、ナタクや天化が出てこなかったと寂しく思うことが恥ずかしいほどに
現に『異説』に出ている人以外の誰をもそこに出す余地はない。
そのように考えさせるほどの出来であること自体がまたすごい。
結局フジリュー先生には脱帽です。
そしていわゆる『外伝』でなかったこと、つまりは本編の世界についてもう加筆する必要がない、という先生のそのスタンスは心底嬉しい。
そう、ナタクや天化が出てこなかったことは寂しいと同時に限りなく嬉しいことです。
武王や楊ゼンが別人だ、と嘆く場合にも、それはやはり寂しいと同時に嬉しいことなのです。
本編で描くべきことは本編で描いた、ということ。
プロだよなあ・・。
ここから先は、亭主の完全な妄想です。
封神演義で読みきりを一作、という話が出たときに、フジリュー先生の中には「外伝ではないものを」というお考えが最初にあったに違いない。全23巻の封神演義はあれで完結、完成させ、世に問うたものに後から付け足しや変更をすることは意地でもしたくないと思われたろう。それは作品が完全でなかったことを意味するのだから。そして全23巻の封神演義は確かにあれで完成していて、付け足しや変更は作品を壊しこそすれ膨らませはしないから。
あの『封神演義』の世界はもう触れない。けれど読みきりを、となれば全く別の『封神演義』を一世界、丸々構築するしかない。いや、それがいい。そうしたい。
まあったく関係ない読みきりも考えた。けれどそれは、ジャンプ編集部が許すかどうか分からない。いやそんなことより、フジリュー先生には『封神演義』の世界でやってみたいことがまだあった。まだ、と言うよりは、ひとつめの『封神演義』の世界を構築したからこそ、そうではない『封神演義』の世界を作りたくなった。
ひとつの世界を完全に作り上げるということは、いろいろなものを足したり削ったりして、一本の道を選ぶことだから。今自分が立っているところから進み出すことをしなければ、道は自分の前に無限にある。進めば進むほど、たくさんの脇道を捨てて、一本の道だけを選ぶ。進めば進むほど、選んだ道がはっきりとした形を取るのと同じように、たくさんの脇道もその姿をはっきりあらわしてくるのに。
けれど選んだもの以外は捨てるしかない。そして捨ててきた。そしてひとつの世界を完成させた。
歴史にIfは、許されない。
けれどこれは物語。
もう一度はじめから、ひとつ違ったIfを選んで、砂のお城を作ろうか。
そう、これは物語。ひとつを完成させた今ならば、ほかをたどることが許される。
ほかの道を辿りたい。しかも出来得る限り、前とは違う道を。なるべく違う世界を、組み立てたい。
それではあっても、あくまでも『封神演義』である世界を。
ほかの道が辿れるはずだ。標は、なくなったのだから。(・・ん?)
違った世界を、完成させたい。
違った世界。長いの反対は、短い。大勢の反対は、少数。男の反対は、女、ふとっちょの反対は、がりがり。
そして「完成」を求めた結果、登場人物があれだけとなったのは、必然。
また、あのような人たちになったのも、必然。
あれ以外のものは、「完成」を邪魔するだけ。
そして溜息の出るような、よくよく纏まった世界の出来上がり。
フジリュー先生の、ファンでよかった。
前回の感想の終わりに、次はTVアニメについてと書いたのに、嘘ばっかり。
TVアニメについて、はついに書き上げられませんでした。
もう1回『異説』の感想があるかな?ないかな?次回は全く先が見えず。